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魔法使いと風精霊  作者: 田中23号
第三章
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第二十八話「魔法使いと帝国の内情」

「しかしあなたの精霊は本当に規格外も甚だしいですね」


「俺もそう思う。ま、とりあえず、いろいろ話してもらおうか、帝国のスパイさん?」


月明かりが照らす塔の上で、クリスとその腕からするりと抜け出したハイドラが対峙する。


「そうですねぇ、何が聞きたいですか?」


「なんだ、素直だな。それじゃあ質問だが、帝国もルドを狙っているのか?」


クリスはハイドラが少しでも逃げる素振りを見せれば、すぐに捕まえられるように構えている。


対するハイドラは、自然体で立ってクリスの目を見ている。


「悲しいことに、半分当たっています」


「半分?」


訝しげにハイドラを見つめ返すクリス。


「なに、簡単なことです。帝国にも彼らのように、愚かな考えをする人間がいるというだけです」


ハイドラは静かになってきた宿のほうに目を向け、嘆かわしげに首を振る。


「つまり、お前は違うと?」


「もちろんです、私はどちらかと言えば、あなたたちの護衛ですよ、帝国の名を騙る愚かな人間が襲撃したとき限定の、ですけどね」


ハイドラは、面白くもなさそうに自分の任務を暴露する。


「なるほどな」


「まったく、私はこんな無意味な仕事は嫌だったんですよ。やっと怪我も治ったところでだったんですよ?それが、何が悲しくて、道具まで使って本気で気配を消している私に気づくような人間と精霊が護衛をしている獣人を、影から見守らないといけないのですか。上の人間は、何も分かっていない」


ハイドラの最後の言葉は、まるで独り言のように小さく呟かれた。


「さてそれじゃあ、次の質問だが」


「久しぶりにあったので、こちらにも積もる話もあるのですが、すみません。立て込んでますので、また今度の機会にでも」


クリスの発言の途中でハイドラが逃げようとするわけでもなく、普通にその場を後にしようとする。


「おいおい、逃すとで・・・!?」


「ふふ、拘束魔法です。さて、すみませんが、ここでお別れですね」


その行動に一瞬気を取られたクリスの足に、光の紐のようなものが絡みつく。


その紐は、塔の屋上の床に小さく彫られた魔法陣から伸びている。


ハイドラが万が一のため、事前に用意していたのだ。


「ちっ、フィリス!!」


「おっと、そっちの精霊がいたのですか。しかし対策はしていますよ」


ハイドラはそう言うと、左手をフィリスに向ける。


クリスに呼ばれ出てきたフィリスが炎を放とうとするが、ハイドラの左手の指輪から出てきた光に飲まれ身動きが制限されてしまう。


「これはあなたの風精霊用の特別仕様の精霊封じでしてね。そのペンダントでも抜け出すことは容易ではないですよ」


「フィリス、やれっ!」


ハイドラが自慢げに指輪の解説をしていたところに、クリスの声が響く。


フィリスはその声に反応して、腰からぶら下がっている豪奢な短剣を何とか引き抜くと、目の前の見えない壁向かって振り下ろす。


すると、精霊封じの光はまるで短剣に吸収されるように消えていく。


そしてフィリスは、そのままハイドラに向かおうとする。


しかし既にハイドラは、空中へと飛び上がっていた。


「毎回あなたと、その精霊には驚かされますね。まさか、この精霊封じすら壊されてしまうとは。次はもっと上質なものを用意しておきましょう」


「けっ、次は逃さねぇぞ」


クリスの言葉を聞き届けると、どこか嬉しそうな笑みを浮かべながら、ハイドラは彼方へと飛んでいく。


追いすがろうとしたフィリスだが、その差はどんどん開き、すぐにハイドラの姿は見えなくなっていった。


「おとうさん、ごめんなさい」


「おおう、俺のほうこそ何も仕事してないからな、すまん」


戻ってきたフィリスが悲しそうに謝るのを見て、クリスは自分がただ捕まっただけだということを思い出す。


クリスを拘束していた光の紐は段々と消えていき、同時にクリスにも自由が戻っている。


「これも、われちゃった」


「おおう、ぱっきりいったな。けどおかげで助かったぞ。それもちゃんと直すから、な」


フィリスがクリスから貰った、折れてしまった無駄に豪奢な短剣を差し出す。


自分が悪いわけでもない、むしろ主を助けたのに泣きそうな顔をする精霊を見て、クリスは申し訳ないやら、その人間臭さに嬉しいやらで、とりあえずフィリスの頭を撫で回す。


「わふ」


「ふはは、次はもっと豪華にしよう!ドラゴンの牙がまだ残っていたからな!あとは何を使うかなぁ」


フィリスは頭を乱暴に撫でられながら、自分の主であり父を見る。


その嬉しそうに自分へのプレゼントを考える姿に、フィリスも嬉しくなり自然と笑顔になるのであった。




「なにやら楽しそうですね、主、フィリス」


「お、フウリ、そっちはうまくいったか?」


襲撃者たちを吊るし終えたフウリが、主の気配を辿って合流する。


「ええ、バールとソドも頑張ってくれしましたからね」


「おおう、よかったよかった。そんでだな、こっちは、あぁー」


言い難そうにする主を見てフウリが察する。


「仕方ありません、隠れるのと逃げるのは得意そうな相手ですからね。それより主は、フィリスと何を話していたのですか」


「いや、フィリスの短剣が壊れちゃったから、次はもっと豪華で頑丈なのを造らないとなぁって話」


「うん」


フィリスから受け取った壊れた短剣を、クリスはフウリに見せる。


「これはこれは、綺麗に折れましたね。しかし、主の錬金では再生できないのですか?」


「いや、くっつけたいのは山々なんだけど、これ実は使うと魔力を消費するんですよね」


ほとんどガス欠に近いクリスが情けない顔をする。


「なるほど。それでは錬金する前に、私のほうでも材料になりそうなものを探してきましょう。折角です、性能がいいものを造りましょう」


「燃えてきたな!なんか帝国もいろいろ造ってるみたいだし、次は度肝を抜いてやる」


親馬鹿二人が、娘のためにやばい代物を作ることが決定した瞬間である。


「ところで、帝国の動きは何か分かりましたか?」


「うーん、どうやら帝国も一枚岩じゃないみたいだな。あいつは、どっちかというとルドの暗殺阻止で動いてるみたいだ。どこまで信じられるか分からんが」


クリスは、先ほどのハイドラとの会話を思い出して、フウリに報告する。


「なるほど。こうなってくると、いよいよ帝国も複雑ですね」


「そうだな、後少しで目的地だけど、気を抜かないようにしないとな」


帝国の襲撃も考えて、気合を入れなおすように自分の頬を叩くクリス。


それを真似するフィリス。


「よし、とりあえず戻るか」


「そうですね、膝枕もまだしてませんからね」


「あれ、本当にしてくれるの」


クリスが、思わぬフウリの発言に目を瞬かせる。


「いや、ですか?」


フウリが上目遣いをして、不安に揺れる瞳でクリスを見る。


そのあまりに普段とは違う行動と雰囲気に、クリスが一瞬意識を飛ばしかける。


「いやいや、いやなんてことないです、はい」


「ふふ、よかったです」


本当に嬉しそうに笑うフウリに、クリスはただ見惚れる。


クリスの体は言い様のない緊張と危機を感じていたが、心はまったく逆であった。


「しかし考えたら今日は遅いので、膝枕はまた明日ですね。その代わり一緒に寝ましょう、フィリスも一緒に寝ましょうね」


「うん!」


フィリスは嬉しそうにフウリに抱きつく。


クリスは、未だにトリップ先から精神が帰ってこない。


「どうしたのですか?主」


「どうしたの?」


様子がおかしいクリスの顔を、フウリとフィリスが心配そうに覗きこむ。


「な、なんでもないぜ!」


フウリとフィリスに見つめられ、やっと帰ってきたクリスは慌てて手を振り、なんでもないことをアピールする。


クリスは尚も自分の心臓がばくばく言っていることを無視して、帰りの道を歩き出す。


そんなクリスの様子に、フウリとフィリスは暫く顔を見合わせると、すぐにその後を追う。



こうして襲撃の夜は終わり、月が夜道を照らす中、魔法使いとその精霊たちは手を繋ぎ安宿へと帰るのであった。

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