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魔法使いと風精霊  作者: 田中23号
第二章
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第十九話「魔法使いと計画の終わり」

王は寄り添って立つ兄妹を見ると、驚いたような顔を見せたあと、諦めた表情をしてその座を息子へと譲り、オーカス王家の所有する田舎の屋敷に隠居することになる。


そうして今、ステインは王子から王へとなり、その顔見せを行うために城のテラスに立とうとしていた。


国民は新しい王の顔を一目見ようとして長蛇の列を作り、開放感からかそこらかしこでお祭り騒ぎを起している。


しかしその騒ぎも、新たな王が城のテラスから顔を出すと自然と静かになっていく。


そうして、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返った王都に、魔法で拡声されたステインの声が響く。


「我がオーカスの国民たちよ!今ここにいる全員は、志を一つにしなければならない!すなわち、国の未来を想え!!」


集まった聴衆たちは、固唾を飲んで王の演説を見守る。


「国を想えず、ただそれを蝕んでいた者たちは消え去った!これからは、真に国を想う者たちの時代である!!」


堪え切れなかった聴衆から歓声が上がり、周りに伝播していく。


やがてその歓声は、大きなうねりとなって王都を包み込む。


それが自然に止むのを待って、ステインが再度口を開く。


「国を想えと、突然言われても分からない者もいるかと思う。ならば、自分と自分の周りの者、家族や友人の将来の幸せを願い行動しろ。諸君らとその周りの者は、我がオーカスの国民であり、国民は国の礎である!その国民が幸せならば、それは真に国を想うことである!さぁ、共に歩もうではないか!!」


ステインが言い切ると、先程の比ではない歓声が起こり、新しい王の名前が響き渡る。


その数分にも満たない王の演説は、それから先の長きに渡るオーカスのあり方を決定づけるものとなったのだった。







そんな若き王の演説を、空中の特等席で見守る影が三つ。


「ステインが王さまか、似合わねぇなぁ」


「主が働くくらいの違和感がありますね」


「おとうさん、むしょく?」


フィリスの言葉に、クリスは形容できないほどの顔をする。


「ちょっと親父に会いに逝って来るわ」


「あまりそっちに行ってはいけませんよ」


ふわふわと上昇するクリスを、フウリが風で押し戻す。


戻ってきたクリスに、フィリスが抱きつく。


「おとうさん、いっちゃだめ」


「あ、はい」


フィリスの言葉を聞いて、さっきまでの暗い雰囲気が霧散し、クリスは嬉しそうにニコニコする。


「しかし、やっと終わったなぁ。みんな無事でよかったよかった」


「そうですね。私はベッドに寝かされた主に、とても驚かされましたが」


「その節は大変御心配をおかけしたようで、すみませんでした」


クリスは空中で頭を下げ、その頭をフウリがぺしぺしと叩く。


「まったく。フィリスが大技一発撃った程度で、魔力が枯渇して倒れて、あまつさえ娘に心配をかけるなんて」


「その後、ちゃんと魔剣が吸った魔力で回復したんだから、大目に見てくれ。あれが無かったら最悪まだ寝てたかもしれん」


「まったく仕方ない主ですね、しかし本当に心配したんですよ」


そう言って、フウリは主の頭から手をどかす。




王都で上がった火の手を全て消して急いで合流したフウリが見たのは、ベッドに寝かされる主の姿だった。


いつもの態度が嘘のように慌てたフウリだったが、フィリスに一気に魔力を持っていかれたために、極度の魔力放出で気を失っているだけだと分かると落ち着きを取り戻した。


それから暫くしてクリスも起きあがり、ステインの執務室へと移動することになった。


王と話をつけてきたステイン、新しい体制について仕事をこなすローア、宮廷魔法院掌握後に不貞貴族捕縛に参加したグゥエン、騎士団の後始末を息子に任せて先に帰ってきたマッシュ、宰相に雇われた冒険者と戦い勝利を納めその後は王都の治安維持に加わったタール、ラストフを打倒した後は王子の護衛に戻ったジョン、それに加えてクリスたちが会議机を囲んでそれぞれの報告を行った。


「そうか、やはり帝国が絡んでいたか」


クリスの報告を聞いたステインは思案顔になる。


「グルーモスと停戦が成って、帝国はドラゴンが使えない、今の時期に計画を実行したのは間違いではなかったでしょう」


ステインの顔を見てローアがフォローを入れる。


「そう、だな」


思案顔のまま、ローアの言葉に頷くステイン。


「しかし、姫が駆け込んできたときには何があったかと思いましたね」


「そうだな、騎士に連れられて来たのには驚いたな」


ローアが暗い雰囲気のステインを気遣い、話題を変更する。


姫は王子同様、城の中では比較的有名人であったために衛兵は半信半疑ながらその訴えをステインの騎士へと連絡したのだ。


そうして城中が騒ぎに沸く中、兄妹の再会は果たされたのだった。


「クリスも無事で良かった」


ステインが、妹との再開の後のことを思いだしてそう言う。


「おかげさまでな」


そう言ってクリスはステインに笑顔を向ける。


「そんなことより、マッシュさんがここにいるのが疑問なんだが」


クリスの言葉によりマッシュに集まった人間の視線が向けられる。


「ふむ、王都が心配でな、一足先に帰ってきたのだ」


「騎士団は大丈夫なのか?」


ステインのもっともな質問に周りが頷き同調する。


「なに、息子に全て任せてきたので大丈夫ですよ」


自信満々に答えるマッシュに、周りは息子の苦労を思い、少しの間沈黙する。


「む、ジョンはどうだったのだ」


自分の発言の直後に空気が重くなったことを感じ、マッシュは息子へと水を向ける。


「え?ああ、こちらは特になにもありませんでしたよ。強いて言えばラストフ・ストロースが元宰相について王都に混乱を持ち込んだので、切り捨てました」


「ふむ、騎士団も再編成しないといかんな」


深刻に呟くマッシュだが、実際はオルカが取り仕切ることになるだろうことをジョンは察して、自分が巻き込まれない形で兄の堪忍袋の緒が切れることを願う。


「再編と言えば、宮廷のほうはどうなっている?」


「こちらは計画前から私が組織図をある程度作っていましたので。それでもかなりの混乱が予想されるでしょう、というか既にですね」


ステインの質問にローアが疲れた表情で答える。


「宮廷魔法院はほとんど被害がでていないから、すぐに後処理も終わるだろう。何か手伝える事があれば言ってくれ」


ローアの疲労困憊な様子を見て、グゥエンが助け舟を出す。


「すまん、助かる」


ローアは言葉少なだが、心から感謝を述べる。


「うむ、協力して事に当たってくれ。あと、軍のほうはどうだ?」


ステインはローアとグゥエンのやり取りに頷き、次いでタールのほうを向き質問する。


「軍は特に混乱も無く王都の政変を受け入れているようです、むしろ歓迎する声が圧倒的らしいですね」


タールはよどみなく、魔法によって知らされた軍隊の様子を答えていく。


「では、タールは引き続き部下と共に王都の治安維持に当たってくれ」


「了解しました」


ステインの言葉に、タールが背筋を伸ばして答える。


「さて、これからが本当の始まりだ。王国貴族の名に恥じない働きを期待する!そして我が親友クリス、妹のこと礼を言う。ありがとう」


「おう、今度上手い飯でもおごってくれればいいぜ!」


「ああ!」


ステインが頭を下げたことに周りが少しざわめくも、クリスが軽く返し、ステインも笑顔で答え、和やかなムードのままその場は解散となった。




こうして、魔法使いの親友の計画はおおむね成功を収めたのだった。


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