禁呪と仮説
―――――――
――――――ラ
―――――セラ!
真っ白な空間、セラはそこにいた。
その白い景色に視覚を失う幻覚に陥る。
いや、五感全てが停止した気分だ。
それは虚無のみ。何もない存在していない。
だけど確かに聞こえる。聞こえる、否。直接伝わってくる。
あ――かった――ねが――彼と――して―だ―
えっ、どういう…彼って……誰です…
ご――なさい。私の――――なたに―い思い―させ――まっ―。本当にごめんなさい―
先程よりは僅かに聞こえるようになった。
彼女は謝罪しているのだ。自分に。
私は罪深い者。だから償いたい。19年前に犯した過ち、ゼラを生み出してしまった。ゼラ―悲しみ、憎しみ、怒り、怨み。ありとあらゆる負なる感情が具現化した思念体。
それは一体?
私たちはゼラを恐れた。その驚異的な戦闘能力は十傑を凌いでいたから。
だから封印したの。
でも封印は解けつつある。セラ―願―、決――ゼロ―エリシオン―――――――――――――――お願い。
待って!
「待って!」
目に見えたのはいつもの部屋。
夢から現実に戻されたセラはしばし朦朧な意識を保っていた。
「ゼラ、ゼロ、エリシオン…………」
夢に出た女性が語った名前を繰り返す。
それらはセラの記憶をよぎる。
懐かしい感覚。その名前に覚えがあったが、思い出せなかった。
「あっ」
頬に冷たい感触がする。
泣いている。哀しいわけではない。
「何故私は泣いて……ひっ…ひぐ…う……」
声を押し殺して鳴咽をこぼす。
もう泣くことなどないと思っていた。
突然な悲哀が満ちてる。
「……うっ……イン…………レイン」
かつて惹かれあった少年。彼を愛し、慈しむ気持ちが跳ね返り淋しさになる。
ただ彼の名前をこぼすだけしか出来なかった。
「………………くそっ!」
ドア越しに気配を消したジルはぎゅっと手を握る。じんわりとそこから血が滲む。
「………………」
身を翻しすっと部屋から離れていく。
ただ彼の目には決意が表れていた。
「レイン!」
「レイン!」
「ソフィアか、お帰り」
ソフィアはレインの姿を確認し、駆け出した。
がばっ!
「なんともありませんでしたか?」
「………あぁ、心配性だな」
抱き着かれたレインは優しげに微笑みソフィアの長い髪を撫でる。
「どうやら揃ったみたいだな」
後から来たソラ、それにリース、シャム、コウヤが続いて部屋に入る。
さすがに恥ずかしいか、レインはそっとソフィアを離す。
終始ソフィアは名残惜しそうな顔をしていた。
「ふぅ、イヴはまだ起きないの?」
「…………起きている」
クライドが呟くとイヴはつまらなそうに起き上がり、クライドを睨み付ける。
「もぅ!せっかくみんなを騙そうとしたのに」
「ふふっ、イヴさんは相変わらずですね」
「ぶぅ、僕だって大人に近づいているんだよ!ソフィアこそ……………大人に…なった…ね」
改めてソフィアを見たイヴはこの世の終わりのような表情だった。
自分は一年でかなり成長したと自負していた。
だけど、だけどだ。
上には上がいるということを知る。
ソフィアの容姿は以前にも増し聡明さがあり、心なしか見取れてしまったのだった。
結っていた髪は下ろし、高価なカチューシャを付け、綺麗なリボンをサイドでくくり、王女のような雰囲気を出していた。
これが自分と同じ歳、それにひどく落胆してしまった。
「…いいんだ。所詮、僕は思い上がってただけなんだ……」
床に座り、のの字を書き始める。
「大丈夫ですよぅ、イヴさん」
「………シャム?」
「はぁい?」
シャムは…………まったく変わっていなかった。かわいらしい服装になっていただけ。
よく見ればコウヤもあまり変わっていない。
「…………で、話って?」
「うふ、面白い子。ソラ、話はあたしからでいいかな?」
「あぁ、頼むよ」
了解とリースは頷き、視線をイヴに向ける。
「そうね、どこから話していいのかな?……う〜ん、先ずはパリバートからにするね」
それぞれを見回すと、ふぅと溜息をついてから
「推測だったものが確信へと変わった。パリバートは10ヵ月前に滅ぼされた」
「「!!」」
「質問は最後にして、原因は恐らくダークマターと月詠ね。一から話す」
リースとソラの推測はこうだった。
パリバートは何らかしらの攻撃を受けた。
しかし、そんな不祥事が起きたなら間違いなく知れ渡る。
だがそんな噂は立たなかったし、情報もなかった。
ならば何故。
そこで一つ仮設を立てた。
パリバートに巨大な魔法陣を作り、発動する。
その場合、当て嵌まる魔法は『黒き死の夢』今では詠唱されていない禁呪。
黒き死の夢――一定範囲の生命ある者の命を吸い上げる。そして、彼らを死人【アンデッド】にする闇魔法。
それが可能なのは魔導始祖、月詠。
これならば何も無かったように事を運べる。
もちろん、確証はなかった。だからこそイヴをわざと向かわせた。
予想通りイヴは彼らの不変に気付いた。
そして、ソフィア達にはあることを調べてもらった。
結果はクロ。
その調査とはパリバートの近辺で起きた奇妙な事件。
10ヵ月前、このマリス、西にあるカータル。そこにいた当時の村人はパリバートから黒い光を目撃したらしい。
また、10ヵ月前から現在までパリバートに出稼ぎなどに行った人々は消息不明となっていた。
これらによりこの仮説は一気に高い信憑性を示す。
もちろん仮説であるには変わらない。
「ただの推理に近いわ。それでもこれだとつじつまが合うの。不変のパリバートの証明が」
一同は茫然としていた。
完全に話を飲み込めない。それが真実ならパリバートの人々は死んだということになる。
有り得ないと思いつつ、心のどこかでは必死に否定しているだけにも感じた。
「それでもまだ詳しくはわかっていない。あくまでもこれは一般論」 |