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聖魔大戦 2nd
作:御陵一茶



戦女




視つめる。
眼前にいる彼の女王を

自らを引き取り限りない愛情をそそいでくれた人を

そして、覇権主義となった国の頂点を

レインは射殺すように視つめる。


「あら、来ないの?」


遠くてもわかる。
セリアの表情は余裕と
お前ごときが一国の王たる私に勝てようか。
とでも言いたい顔をしている。


「ふふ、そうね。動けないのよね」


真意を突かれた。
そう、様子見をしているわけではない。

動くことさえ恐ろしい。
息をすることもままならない。

それほどまでもセリアの氣量が大きすぎる。


(あの時と同じはずなのに………今の方が大きく感じる)


冷や汗が垂れて、頬を伝う。
対峙することも力を使う。


「貴方が強くなったから、余計に私の氣を強く感じるのよ」


「敵わないな」


出た言葉がこれだ。


「レイン、貴方が戻ってくれるのならば、貴方の命は保証するわ」


貴方“の”の位置に強音が置かれる。
その言葉通りなら


「後ろの二人は」


「もちろん、消させてもらいます」


一瞬、一瞬で血がのぼった。
アルとイヴを消すからではない。そんなことが言える彼女に対して抑えきれない怒りが出たからだ。

だからレインがとった行動は明確

剣を抜き、彼女を斬りかかりに行った。
対してセリアは不動、それどころか自然体のまま、ただ真っ直ぐにレインを見ている。

その間に二人の距離は近づき、レインの間合いに入った。

そして


剣がセリアに
……………
…………
………
届くことはなかった。
いや、それが彼女を傷つけまいと防いだ。


「!!くっ」


すぐさま距離をとり防御態勢に入る。
セリアは氷帝、肩書き通り氷の魔法においては肩を並べる者さえいない。

彼女は空気中の水分を凝縮、空間を指定して、それらを凍結させ相手に放つ。


だがどうだ
氷帝は魔法を唱える素振りを見せていない。
こちらを試すように含み笑いをしている。


「何のつもりだよ、義母さん!」


その行為はレインの怒りをさらに加熱していく。


「3分……ハンデに3分、私は何もしない」


「なっ!」


「はじめ……4、5…どうしたのかしら?もう9秒よ」

そこで爆発した。
もうダメだ、理性もきかない。
すでに彼は天魔第2形態にはいっている。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

間合いを詰めた。
彼女に斬りかかる、が、またしてもそれが彼女へ干渉させまいとする。

一撃が防がれたら次はさらに強く、次が防がれたらその次はさらに強く……

それさえも駄目なら疾く疾く斬る。


「ウォォォォ、天翔鳳ぉぉッ!」


至近距離での奥義。
鳳凰がそれと激突し、爆発が生じる。


離れて構えの態勢を取る。
今の一撃ならなにかしらのダメージはあるはずと、爆煙が消えるのを待つ。


「……………」












アルとイヴは二人の衝突を歯を噛み締めながら見つめていた。

彼女達はすぐにレインの援助に回ろうとしたが、できなかった。

理由はただの一つ。

セリアの氣量が自らのそれとは比較にならない程だったから。

こんなに離れても身体が重い、なら対峙した瞬間は……と思うと動くことは自殺行為と頭が告げている。


「…行かなきゃ」


「何言ってるの、無理よ。さっきの一撃も彼女には効いてないはず」


「そんな!」


アルの口から出た言葉はイヴを絶望させてしまう、それでもイヴは彼を、レインを助けに行こうとしていた。


「無駄死にするの?」


「…じゃあどうするんだよ!このままじゃ」


「そんなのあたしだってわかっているょ!」


その悲鳴にも似た声にイヴははっとした。
アルの唇から流れていく赤い血を。
悔しいがために、なにも為せないために、力がこもり唇を噛みきりそうになるまで
目は必死になにかをこらえようとして
それでも冷静にならなければならないと、理性で命令している。


「…アル………ごめん」


「っ、気にしないで。今はまだなの」














煙が徐々に消え、視界がよくなっていく。

相手から離れた場所で、彼女の様子を見なければ、どうするかはわからない。

ふと、何かが聞こえた。
呟くようで聞き取れないが、それは一定のリズムで聞こえる。


「時計の秒針みたいに」


瞬間、身震いしてしまう。その音に似た声が何か理解してしまったから。


「………く、ななじゅう……81、82」


「あ、あぁ」


「86、もしかしてさっきのが本気なんてないわよね?92、93……だとしたら興ざめ。3分の意味もない…99、100」


氷帝の指が動く。
反射的にレインの身体が強く防御態勢をとってしまう。


「第2形態でもそれだけ。私のオートロック《自動氷河障壁》の“モノ”さえも破れない。レイン、貴方には期待していたのに、とんだ過大評価だったわ……」

大きく溜め息するのがわかる。それは自分の子供がテストで酷い点数だったときのようなもの。


「出来ない子供なんて、要らない」


「!!」


ぎょっとする。
セリアの背後に1メートル程の6本の氷柱が形成され、いまかいまかと血をすする相手を探している。


「氷果連剣」


閃光のようなその速度は数秒でレインの身体へ襲いかかる。

1本、2本…
5本、それだけは弾き壊した。

最後の1本は上に飛んでかわす。


「馬鹿ね」


セリアの人差し指が軽く上がる。
同時にレインの真下の地面から氷柱が突き出、レインにまで及ぶ。


空中での機敏な動きがとれないため、無理に重心をずらしかろうじて避け、さらにその態勢からの


「天翔鳳!」


「…………」


鳳凰が舞い、セリアを包みこもうとする。
しかし、オートロックがそれを許さない。


「ハァァァぁぁ!三天鳳、収束!」


次に舞う鳳凰は3。
左右、正面からの攻撃。


「少しは考えたわね。でもね」


セリアの両手がすっと鳳凰に向けられ、そこに水分が凝縮し出した。


「氷果双剣」


放たれた氷剣は容赦なしに鳳凰を貫く。


追撃として8本の氷剣が展開される。


「今度はさらに多くしたから、頑張りなさい」


発射。
8もの剣がレインを串刺しにしていく。
そして、その身体は炎となって氷剣を溶かす。


「ここだよ、全開、黒天衝ぉ!」


回りこんだ位置は背後、全力解放による強力な一撃を放つ。

不意を突かれたセリア。

反射的に振り向くだけでオートロックの発動範囲を過ぎている。


「…………くすっ」


…………………
………………
…………
………
……



何が起きたのかは理解できない。
ただ事実をつきつけられた。
あの一撃が存在してないように軌跡を残していないこと。

これが驚愕そして


「油断よ」


鼻の先に彼女の姿。
掌はレインの額にあてられ、魔力が込められる。


為忘しわす


「…あっ、が」


身体が停止する。
呼吸はできる。心臓も動く。
思考も可能。
なのに身体が動かない。


「無理よ、貴方はいまどうしたら動くかが理解できない」

「かっ、がが……」


「心配しないで、この魔法は条件が悪いくせに時間も短いから」


だから実戦で使われることはないと、付け加えられる。


「貴方を殺すのは簡単。そしていつでも壊せるの、わかる?」


レインの脳が告げた。
誰だ、この女は。
誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ。

わからない。
セリアという人はこんな冷酷な顔などしない。

見たこともない人だ。


「本当につまらない……そう、ね」


彼女の顔が考え込むようになり、何か思いついたように喜喜たるものになる。

悪戯なその笑みは彼女らに向けられた。


「貴方たちを壊してみようかしら?」


「ぉ…がっ」















殺意。
それは突然、二人に向けられた。
今から貴方たちを殺します、と言わんばかりに伝わってくる。

彼女たちは見ていた。
レインの技が消えた時、彼女がなにをしていたかを。その後にレインの額に手を当て、彼を捕縛したことを。

見ていた。
何をしたかは見ていた。

視てはいない。
何をしたかは識ってはいない。


殺意を感じてから少し。

ほんの一呼吸。
それだけで遠距離が近距離へと変化していた。
対峙。

「っぅ……」


「死んでみなさい」


直後、二人の頭上に12本の大小様々な氷器が具現。
それは斧、剣、槍、鎚、戟などが浮遊したまま主の合図を待ちわびている。


「狂器乱舞」


一気に垂直化する氷器の数々。

あまりにも意表をついた攻撃。
彼女は一瞬で12もの武器を作り出した。
考える暇も与えられれない。


「結界、サンクチュアリ《聖域》」


12の破砕音。
12もの武器がその聖域を通ることはなかった。

言おう、彼女は意表を突かれた。
が、もう一人はどうだろうか。冷静でい続けたエルフの少女はこの事態にも臆することなく防御壁を展開していたのだから。


「……驚いた。間髪入れずの、だったのだけれど………結界魔法を、ね」


セリアの目がゆっくりとエルフの少女アルに向けられる。


「ペルティ以外に結界魔法を会得してるなんて、貴方、後継人ね?」


「そうだけど」


「外見から見てまだ50にも満たない……異例ね。そうなると王族、リイン。そして、後継人に与えられる名称ミラ」


一見だけで、アルの大まかな正体を見破ってしまう。

「……サイラス王、セリアとお見受けします。我が郷に如何用でしょうか?」


「はじめまして、王族の末裔。手短に申します。エルフ族、族長ペルティの命を頂戴に」


淡々と告げられる宣戦布告。
王族としてこれを許してなどはならない。


「お引き取り願います。話になりません」


「なので、強行突破を謀るのですが?」


既にセリアの背後に6本の氷柱が浮遊している。


「………させないっ!」


6もの氷柱が容赦なしに貫きにかかる。
しかし、彼女の聖域はそれらを通してはくれない。


「そう。なら」


両手に集まるのは氷の結晶。
それが次第に3メートルにも及ぶまでになる。


「氷果大双剣」


驚異的なスピードの双剣は聖域に衝突し、膨大な力で突き砕こうとする。

今までの比ではない。
重く重くのしかかるような負担がアルにかかる。

結界魔法は抵抗を上げるほど、多大な魔力を消費する。
ゆえに魔力をさらに流すしか防ぐ手はない。
それでも双剣は砕けはしない。
敵をうがつまで砕けることはないという意思を持って。


「ぐっ、はぁはぁ」


「くすくす、よく御せること。次」


頭上から雨のごとく降り頻る氷器。
何度も何度もその猛攻を防いでいくことで、その魔力が急激に落ちていく。


双剣は半分ほど砕けているが、それでも止まることはない。


「大した魔力量ね、量だけなら大魔導師並」


しきりに受けていく聖域は徐々にその範囲を狭めている。


「あはは、もうすぐレインにかけた捕縛も解けるよ?」


相手に弱気を見せてはいけない。
強がりでいい。
そうしなくれば心が折れ、聖域も解けてしまうから。
それにレインがいる。
自信はない。
それでも彼がもしかしたら……と


「だからあたしは負けない!守りきってやる」


更に8本の氷柱が次々にと聖域に突撃していく。

魔力は残り僅か。
限界に近づいていた。

なお氷の連戟はやまない。
意識が霞み始める。


「…………ぐ、ふぁぁぁッ!」


自らを鼓舞する。
残りの魔力をつぎ込み、最後の聖域を形成。


「まだそんなことが…!」

これには圧巻されるしかない。
尽きた魔力でここまでの聖域を展開することは、下手すれば意識不明にすらなる。

だからだろう。
双剣は完全に砕かれ、既にセリアの氷器が一本もない。


「よもやここまでとは……畏怖する覚えるわね」


「…………」


「ぇ、あ、アル?アル!」

今まで傍観し、庇護されていたイヴはアルの異変に気付いた。

意識がない。
立ったまま、勝ち誇った顔で意識を落としている。


「……あ、あぁぁぁ」


泣きたくなる。
嗚咽をもらしたくなる。
目の前の少女のこの強さに心が震える。

失神するまで自分を守りきった彼女に泣いて謝りたくなる。


「ごめん、ごめんねぇ………ごめ、ごめんなさい」


結界は解けている。
セリアの背後に8本の氷柱。
それでもイヴは謝り続ける。
目にいっぱいの涙を溢れさせて、許してもらうことなど考えてないくらいに謝り続ける。

「二人で死んでいきなさい」


氷柱が二人に襲いかかる。完全に貫けるように余計魔力を込めた。


「……天魔」


…………………
………………
……………
…………
………
……


一振り。
十分だった。たった8本の氷柱など一振りで

氷柱は雪のように粒になって、地に落ちた。


剣を振ったのはレインではない。
そもそも捕縛はまだ解けてない。


「アル、今度は僕が……君を!護るから!」


紅い瞳。
今の彼女を形容するなら。
猛々しく。
オレンジの髪とあいなった瞳が炎を連想させる。
イヴだ。


「…いくよ」


「……!!」


疾い、オートロックが発動し、彼女の一撃を妨げる。

「なっ…」


思わず後退してしまった。
セリアの居た位置はいれば確実に斬られていたから。

「オートロックを一撃で破るなんて……」


炎の攻撃は止まない。
一度火がついたら、あとどんどんどんどん燃えていく。


「くっ」


一撃、一撃、また一撃。
その度に氷壁は砕かれ、剣が目の前に振られる。
一歩、一歩、また一歩。
その度にセリアは後退を余儀なくされる。


「っ、調子に乗らないいで、ジ!」


次の氷壁が二重になる。
つまり、硬度も二倍。
そのはずだった。


自らを護る氷壁が
二倍の氷壁が、またも一撃で砕かれていく。


「は、そん……な馬鹿な」

イヴの顔には呪印が浮いている。
第2形態になったことで、オートロック“ジ”を砕いていた。


今度は大きく距離をとり、牽制として6本の氷柱を投げる。


「ふふ、ふふふ……貴方、レインよりも遥かに強いのね」


初めから自分が勘違いをしていた。
彼女ら二人を甘く見すぎていたのだ。

そして改めて彼女を捉える。その容姿に当てはまるものがあった。
噂に聞いたことはある。
パリバートの黄金期とも言われる中に常に首席であり続けた、無垢な少女がいると。
オレンジの髪に、純粋な瞳。首席でありながらも、まったく鼻にかけずにいた。

「そう、か…貴方がパリバートの戦女ヴァルキリーイヴ・ローゼス」


想像以上。
これなら下手をすれば六神にも並ぶかもしれない。

現に“ジ”が破られたのだから。


「……いいわ、面白い」


セリアの目が閉じ、ゆっくりと開く。
さきほどまでは朱、今の瞳はイヴと同じ紅。


「天魔、第2形態」


右頬から浮かび出す呪印。氣量が膨れ上がり、彼女の手がゆっくりと上がる。


形成された氷柱は12、18……いや、違う。

30以上の氷柱が浮遊している。


「さぁ、始めましょう」













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