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聖魔大戦 2nd
作:御陵一茶



ルールブレイカー




変容。

それはまるで白が黒になること。

外的作用など及ぶところではない、内なる世界からずいずい、と波状へと浸食していくように。

見れば眼からその畏怖の“カタチ”が視えてしまう。それが人で認識するのは一瞬だが、もはやそれは人ではない。


(くろ)い氣に包まれたその“カタチ”は神と呼ぶには相応し過ぎた。


顔は漆黒たる刹神竜の仮面。
背中には氣が凝縮した同色の翼が展開、剣にはよりよく闇、触れれば猛毒というのはわかりきったこと。


そう、この時に魔眼の子は堕とされた。
神を殺すため、太陽の性を持ちながらも暗黒竜と称うる存在はここに姿を現わした。


「……………天魔、第三形態、真質貌【ペルソナ】」

真質貌【ペルソナ】

人の個性、すなわち性格を表すもの。
内在した自世界において、本来の質。
あるべき姿であり、同時に隠すべき姿でもある。
天魔はそれを限界まで引き出す、最も単純な一つの性質を。
そのために他の性質を完全にシャットアウトし、そのペルソナによって行動する。
そして、リースの性質は死闘による悦楽。
殺すことに愉しみを感じる刹神竜がそろを現界している。
太陽孕みし刹神竜【クロウ・クルワッハ】


「リース、貴女は陽ながらも陰をもちえた。神殺し、ソラやアイラはそれを畏れ禁忌にしたはずなのに」


「………………」


仮面越しの彼女はどんな顔をしているのか、ディアナには想像もつかない。
ただ、今のあれは悦楽のみで動いている。そうなれば


ふいに、自分の影が増えた。
否、増えたのではない。
背中には招かざる来人がいたのだから。


「ぐっ…………」


躊躇いなどはなかった。
無言のままメガバーストが放たれる。


「―――――あぁぁぁああ!」


直撃する。
それは今までの熱量とは次元が違っている。
焼けるというより、燃える。

焔に被われ、なおその閃光の流れをとめられなかった。


「ぐっ、くあぁぁぁぁぁ!」


全開にして氣を放出。
纏わり付いていた死の焔はすぐに姿を消していく。態勢を立て直す。
自分は不利な立場だと実感し、それでもなお算段をしなければならない。


リースの暴風たる攻撃が始まる。
それは稲妻のように、激しく、疾く、一撃一撃をかわすことは不可。

ひたすらそれらを受けに出る。
受けるたびに身体に衝撃が走り、骨が軋む。

一瞬にしての攻防、周りからは何をしているか解らないだろう。
ただただ高々とした金属音が鳴り響いている。

決してその交響曲は止まない。
ぎぎぎぎぎ、と。
そこで気付く。
あぁ、自分は愚かだと。こんな凄まじくもある剣戟に思考する時間なぞあるわけがない。
殺気がある剣を反射的に受けているだけなんだと。


何十回のうち、ディアナは数回の剣戟を受けざるを得なかった。
だからこそ、それを許容できるダメージにするように甘い剣戟を受ける。

だが、それは予想だにしない。
甘い一撃でも悲惨なダメージである。

身体はほとんど血液を失いつつあり、鉛のようにずしりと重い。

視界はぼんやりとかすみ、気を抜けば意識など飛んでしまうだろう。

本能はすでに敗北の二文字を知らせてくる。

何度目の斬撃だろうか、痛みさえ感じず、防御の態勢さえも忘れかけていた。


『……私も使うしかないの?使えば歯止めは効かない、氣が消えるまで暴走してしまう』


かつて彼は言った。
それは行使するな、必要ないと。
彼を裏切ることはできない。


『っ、何を言っているのかしら。もうすでに私はソラに敵対しているのに』

そうだ、自分は彼を裏切ってしまった。例え彼を想ってのことでも“あれ”は私たちの意思なのだから。


ならばとことん裏切ってやろう。
憎めばいい、私を
彼は私のすべて。憎しみさえも自分に向けてくれるなら幸福以外の何物でもない。


全力を出す。
次の一撃をそれ以上の力で弾き返す。


「………………」


「………………」


想像もしなかった一撃にリースの身体は後退してしまう。
その隙に距離をとる。
瞬時に氣が膨れ上がる。

戦闘狂となった刹神竜も今から起きることに警戒し、そこから動こうとはしない。

「リース。貴女がいけないのよ?だから…………」


ゆっくり手を上げ、顔を覆う。
即座に呪印が顔に収束する。

「真・天魔…………………モデ」


「―――――――――――――――――」


爆風。
その咆哮はディアナを怯ませ、行動を制止させてしまった。


「…しまっ」


言い切る前、竜の口からは巨大な熱量が発せられる。巨大、否、巨大ではなく莫大なのだ。
氣の絶対値がディアナの何倍も上回り、当たれば消滅はまのがれない。


しかしこちらに成す術はないのだ。
咆哮により、何も聞こえず、身体も麻痺してしまっていた。
だからその迫る猛々しい熱さえも聞くことはかなわない。

2秒弱で自分は跡形もなく消えるだろう。
原子さえも焼尽する爆閃はディアナの存在など許しはしない。


「………私の負けか」


これが自分の末路なら受け入れるしかない。
ふと、彼の顔が脳裏をよぎる。愛しすぎた男。
死ぬなら彼の傍がよかったなどと今更ながら馬鹿なことを思ってしまう。


眼をつぶる。
恐怖はない、あとは消滅するのを待つだけだ。


















何もなかった。

眼を開ける、そしてすぐさま疑う。
自分は死んだはずなのに確かに現界にいる。

あの爆閃が消えるわけはない。

しかし、しかしだ。
ディアナはリースを見ることはできていなかった。

そこに、眼前に人が立っているから。


「………………え」


「無事でしたか?なによりです」


気遣う言葉だが、そこに感情などは含まれていない。
驚いた。
彼女の容姿だ。
余りにも眩し過ぎる、リースの闇が強いにも関わらず、あたりは少なくても彼女の周りは照り続けている。

「貴女は?」


「申し訳ありません。しばしお待ちを」


「――――――――――――――――」


怒りの咆哮が上がった。
先程よりも強い、激しい咆哮。
また身体が強張ってしまう。


「……少しは静かにしてほしい」


声からするに女性。
彼女はそれを微塵にも気にしていない。
まるで犬の遠吠えのように聞いている。


次の瞬間、またも爆閃が生じた。
今度こそ間違いなく消滅させんと


「……………懲りない」


彼女の手が爆閃に向けられた。

小声で何か呪文をささやく。

消えた。
彼女ではない。爆閃が、だ。
激しいほどの轟音はふっ、と何もないように消え去っていた。


「…………仮面、割らせてもらいます」


彼女の身体はリースの懐に入っていた。
ディアナもリースもそれに気付くことはない。


ただ静かに


仮面は砕けていった。

「……………う、そ」


砕かれたリースは意識を失っている。
それを彼女は介抱し、ゆっくりと地に下りた。


「…………もし、支障がないならば手を貸してくれると嬉しいのですが」


呆気に取られていたディアナもはっと気付いたように彼女の傍に行く。


「…リース」


氣が消耗しきっている。
これでは何日間も動くことはできないだろう。
それはディアナも同じなのだが。


「貴女は誰?」


「それは黙秘します。私は貴殿らを止めに来たのです」


目の前の彼女は仮面をしていた。
真鍮の髪には不釣り合いな

「忠告します。十傑の開放してはいけません」


「………それはできないことよ」


「事態を理解しておいでか?貴殿も彼らの力量をお知りでしょう」


仮面越しの朱い眼がじっと当てられる。
美しい、綺麗だと素直に思う。


「知っているわ。だからどうしたのかしら?」


「成る程、言ってもわからないと」


殺る気か、と咄嗟に構える。


「構えないでください。貴殿と争うつもりはありません。こちらは貴殿らの戦闘を止めればいいだけです」

「どういうことかしら?」

「申し訳ありません。それも黙秘です」

勝ち目などわかりきっている。
彼女の実力はディアナとは次元の違うものだ。
おそらくソラをも凌駕している。


「それほどの力があれば、貴女だけで十傑を倒せるのではない?」


「…………肯定です」


彼女は何の気無しに答えた。さも当たり前だと言わんばかりに


「…………」


「失礼しました。私自ら十傑に干渉することを禁止されています」


溜息一つ。


「――――――」


またしても小声でなにかを囁いた。


「………………んっ」


信じられない光景。
有り得ない事象、景色が変わった。
否、変わったのではなく、戻ったのだ。
元のままに


それは何も大地だけではない。
ディアナの傷もリースの消耗しきった氣までも


「貴女は…………」


これはもはや魔法ではない。フォースの領域も遥かに超えている。
ルールブレイカーなのだ。

リースの意識が回復していた。
そして信じられないという顔で彼女を凝視している。

「それではお二方共に話があります。これは貴殿らにしか知らせられない、すべて真実のことです」












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