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聖魔大戦 2nd
作:御陵一茶



怒り狂う雨





目の前には見慣れた魔法陣が現れている。


ソレイユからタクノマライヤまで座標空間を把握し、一時的な四次元、時間を無視した空間を繋げる。

故に転移に時間などかからない。


時間を超える魔法だからこそ扱える者は指で数えるくらい。


「正確にかつ迅速に錬成はしたけど、繋ぐ時間はちょっとだけだから早くね」


「…………」


次にはレインの足が魔法陣に着いていた。

姿も気配が消える。





















辺り一面は何もない平原、起伏も侵食もない、綺麗な地平線を描く平原。

だれもが今からここで起きる惨劇を知ろうか。


人影が見える。


影は三つ。それらの影を辿ると三人の少年少女の姿。

彼らは何を見ているのか、その視線には重いものを背負った者の眼。


視線の先には


5つの剣。サイラスに付き、氷帝と呼ばれる女王を守る鋼の如き制裁の剣。


そう、かつてレインと同じ志を持ち、互いを信頼しあった戦友たち。


人魔七騎士。


「…………………」


「………レイン」


口を閉ざしていたのはレインだけではなかった。

七騎士の後方、確かにいる。
死人となったイヴの大切な人たちが。

自ら対峙している、昔みたいな優しい眼差しはない。射るような殺気。


「フィオ……エド、ナイルス……みんな」


悲しみ、困惑、落胆、絶望、そんな負の感情が噴き出してきている。

レインにとってもそれは同じことなのだ。


「ちょ、どういうこと?相手は15人近くいるわよ!」

正確には七騎士、5人。
パリバート、8人。
さらに後ろに2人、黒いローブを纏い、顔は窺えない。

この人数なら十分にエルフを滅ぼせるだろう。

彼らはまさに一騎当千の精鋭たちなのだから。


「……パリバートまで」


レインの怒りはすでに爆発寸前だった。七騎士とパリバートが手を組むということは、セリアと月詠、いわば六神と十傑の協同戦争。
義母が十傑と、そう考えるだけで十分に怒りを募らせられた。


もはや言葉などない。
あるのは衝動、彼らに対する負の感情をぶつける。

アルとイヴを無視したままレインは

「天魔」


そこに彼はいない、レインの優しい瞳は燈赤、傷んだ赤そのものだった。


内包された氣は外へ放たれる。

負の感情を大きく含んだまがまがしい氣が


「…………レイン?」


今まで閉じこもっていたイヴでさえ、その狂氣に現実へ引き戻される。


誰しもが気付く、今のレインは狂氣に満たされていると


それが意味するのは


「絶対的な力か………」


大きく距離を取っている七騎士にもそれはひしひしと伝わっていた。


「………ベルセルクか」


そして、今一度狂氣にかられた友を見つめる。
その視線の先にレインはいない。


「「「!!」」」


気付けば、エドワードとヘルメスは数メートル先にまで吹き飛ぶ。


慣れてき目が捉えた。微笑みながらも次々と自分たちに襲い掛かるベルセルクの姿が。


不意に目が合う。


「………」


「………」


一秒にも満たない時間、互いの動きは止まったように、それでも互いの意思を汲み取ることができる。


(そうか、俺が許せないか、レイン)


放たれた剣閃がルキの首をはねようとする。

油断していた。ルキにとって僅かな思考だったはずが、大きな隙となっていたから。

「……………」


ドカッ、
鈍い音がはねられる前に聞こえ、みるみるレインの剣が離れていく。


「貴様ッ!何を呆けている!」


オルガだ。自分を助けてくれたのだろう。

あのレインを吹き飛ばすことが可能なのか彼しかいない。


そのレインはというと


「…………」


敵を切り替え、クロス、フィオと交えている。


恐ろしい剣さばきだった。右からの一撃を防がれたが、何故かレインは柄を放していた。


「……えっ?」


困惑したフィオとクロスだったが、すぐにその理由がわかった。


勢いを利用した廻し蹴りがクロスの鳩尾に食らい込み、放していた剣を再度拾うと、一回転で加速されたスピードによる剣撃。


「ぐぅぅ…………ぁぁぁあ」


防御するも虚しく宙に飛ばされ、そこを

「天翔鳳炎」


不死鳥が空を舞いながらもフィオ、そして、その後ろにいるルキとオルガまでも喰らう勢い。


当然ながらも宙に浮いたフィオにはなすすべなどない。

他の者もこれに動くことが出来ないでいた。


















レインが目の前から消え、ハイスピードで移動してるのはすぐにわかった。


僕から見れば今のレインは異常だ。

怒りに身を任せ、破壊衝動にかられた狂戦士<ベルセルク>でしかないよ。

凄まじい力をもった。


彼は躊躇いなくエドやフィオに攻撃している。


おかしいよ。なんでそんなことができるの?

敵だから?死人だから?付き合いが短いから?

ううん、違うよね。
君は行き場のない怒りをただぶつけているだけだよ。

「………アル」


「…なに?」


「援護して」


既に剣を強く握り、眼は紅く染まっている。
静かな、それでいてこの強い氣が揺るぎのないもの。

「…任せて!」


お互いに微笑み合い、二人は颯爽と地平線に走っていく。


誰かが宙を舞い、こちらの方向に飛んできていた。

次にはレインの剣から不死鳥がその翼を広げている。
とどめを刺すつもりだ。

「フィオ!!」


見えた。確かに狙われたのはパリバートの親友。


身体が意思から外れていく。まるで第三者にでもなったような感覚。


自分の身体は不死鳥へと向かっていた。














不死鳥とフィオとの距離が狭まり、あと数秒も経たないうちに燃え尽きるだろう。


(まず、一人)


呟き、次の獲物を決めにかかる。

もうすぐ消え去る敵に背中を向け、剣を構え直した時、


音が消えた。


「………何?」


振り返る。消え去る敵は今地面にたたき付けられる。
不死鳥が消え、そこにいたであろう場所にはイヴ。


「……………」


「……レイン、今の君はおかしいよ!さっき何しようとしてたの!」


「………今は敵だ」


自分の知るレインから絶対に言わないであろう台詞だった。


「敵だから、敵なら殺すってこと!」


「あぁ、敵は敵でしかない」


火の着いた感情はみるみる燃え上がる。
負の感情ではない、純粋な想いが怒りに似た形へと変わっている。


氣が一気に上昇した。
それは周囲にいる者すべてを圧倒し、彼らの動きを止める。


「訂正して!」


「何を?」


「わかっているでしょ!」

その刹那、イヴの後ろから殺気と共に空を切る音が聞こえた。


「!!」


反射神経のみで無理矢理膝の間接を外し、前屈みになるように体勢を変えると、頭のあった位置に横一閃。

すぐに間接をはめなおし殺気の先に振り返ると


「……フィ、ォ」


「イヴ、死んでください」

斬りかかる、反応が少し遅れてしまう。


「…くっ」


かわした時にはすでに腹部に切れ目が入っていた。


更にエドワード、ナイルスまでもイヴの前に立つ。


「み、みんな!僕はみんなと戦うつもりなんてないんだよ!」


ナイルスの呪文で自分の影から爪が現れる。


「待ってよ!僕は!」


左右からの攻撃が入る。フィオの剣撃を自らの剣で防ぎ、エドワードの拳をぎりぎりで当たらない体勢をとる。が、


「ブラッククロウ」


「!!ぐぅぅ……」


ナイルスの魔法はイヴの右脇腹に突き刺さる。

すかさずフィオとエドワードの間髪入れずの攻撃。


「くっ、ぐ」


ガキィ、キィィ、ガッ。
痛みを耐えながらの防戦。

「はぁ…はぁ、なんで!どうしたんだよ!」


二人の攻撃を防御と回避をしながらナイルスへの注意を怠らない、相当な集中力を要している。


先程からずっと話し掛けているが、彼らが応えることはなかった。
むしろ、人形のようにただただ戦うだけのようにも見える。


「僕は、戦いたくないんだよ!」


ギィィィィ!
フィオを弾き返し、エドワードの拳を掴むと思いきりナイルスめがけて投げつける。


詠唱中のナイルスには避けるすべなく身体で受ける形でそのまま数メートル程、吹き飛ぶ。



「はっ、すー…はぁ……レインは!あっ、アルも!」

迂闊だった、アルの事を忘れていたのだから。

視線をさまよえると少ししてから、アルの姿を見つけることができたのだが


「…!!アル!」




















エルフの少女は完全に防戦一方の戦いをしていた。


相手はパリバートの21位ザッハと16位ウル。
そして、七騎士ヘルメス。
ザッハはフレイルを使い、ウルは双剣使い。
ヘルメスは変わった武器で巨大な爪を手の甲に装着し、三者は恐ろしい程の攻撃を連発していた。


アルは戦闘能力はかなり低い。エルフであるから当然なのだが、ではなぜこの場にいるのか。理由は簡単だった。


「ちょっとちょっと!危ないじゃない!」


アルの周りには透明な壁が展開されている。
高い硬度を持つであろう、その障壁は先程からの三者の攻撃をものともせずでいた。


結界魔法は元々は防御専門の魔法。
治癒や空間転位などはただのおまけにすがないのだから。
それがただ護りの型をとれば、その防御力は抜きん出る。


「はぁ、どうしよう?」


文字通り、防戦一方。
ただただこの状態のままでしかない、彼女は攻撃魔法を覚えていないから。

だからこそ、彼女は援護としての位置なのだが、レインの先駆けで自分まで前線に来てしまったのだ。


「攻撃魔法なんて使えないし、かと言ってこのままじゃいずれ結界は破壊されるし…………あぁ!どうしたらいいの!レインの馬鹿!」


おもいっきり悪態をつく。


「アル!」


「えっ、イヴ?」


気付けばイヴの剣が自分を狙う三人と交わっていた。さすがにイヴでも三人相手は厳しいと思ったアルは


「イヴ!こっちへ!」


「えっ?」


手招かれ、じりじりと近づいていくと


「解除!展開!」


一瞬の出来事、ほんの僅か結界が解かれ、イヴが倒れ込むように入るのを確認し、結界を再度展開。


「…………ふぅ」


「アル、今のは?」


「それは置いといていいんじゃないの?」


はっ、と自分の用件を見え透いたように突かれる。


「あっ、そうだ!アル、このままじゃ僕たち」


「負けるわね」


「………うん。僕には彼らを倒すことはできないよ」

あぁ、この少女は優し過ぎる。今まで自分の手を汚したことなど皆無なのだろう。

いや、確かにわかる気がする。この少女は澄み切っているのだから。この深い慈愛に満ちている眼はすべてを背負える器にも見える。

間違いなくこの少女は強くなる、恐ろしい程に。


「…………イヴ、聞いて。これからあたしが言うことを」


「えっ、うん!わかった!」















右から三回、左から二回、斜め後ろから三回。

身体をぎりぎりまで屈め、右からの剣閃を自分の剣で止め、屈めた体勢で左の手首を掴み、斜め後ろからの攻撃は空を切っていた。


「……………かっ!」


氣が一気に爆発する。その衝撃で右と斜め後ろは吹き飛ばし、掴まれた左は身動きが取れないまま上空に投げられた。


「三天鳳!」


燃え上がる剣から三匹の不死鳥がそれぞれに強襲する。


直撃した三人を無視したまま次の相手に斬りかかる。

次の相手はオルガとクロス。


「……………オルガ、クロス」


先程のパリバート達とは別格の強さだった。

オルガの拳はかなりの速度で連発される。それをかわし、なおかつクロスのフェンシングとの組み合わせは受けき相当至難の技になる。


「風魔障壁」


風がレインの身体を包み込む。
次のオルガの拳は確実にレインの鳩尾に命中。するはずだった。


「……なに?」


オルガの拳はレインの脇に突いていた。クロスも何度も突きをしていたが、すべて脇を通っている。


「そんな攻撃が当たるかぁ!三連衝」


巨大な衝撃波が二人にぶつかる。一撃は防御、二撃は防御を崩す、三撃は直撃する。

びゅん!


どこから飛んできたのか、驚異的な速さでレインの身体を貫こうとする槍が飛んできた。

槍は身体に触れる前に強烈な風に軌道が強制的に変えられ、少し離れた場所に突き刺さる。


「前より更に風圧が強くなったな」


「……………ルキ」


ゆっくりと歩いてくるルキ。レインは刺さった槍を抜き取り、主へと投げ返す。


「おっ、サンキュー」


「……ルキ、いくぞ」


「あぁ、来いよ。誰にも邪魔なんかさせねぇ、リベンジといこうじゃないか!」

風が吹く。その時にはお互いの距離が一気に縮まっていた。












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