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聖魔大戦 2nd
作:御陵一茶



決意




時間にしては20分程度だろうか、ひどく長く思えた。

このまま永遠と泣き続けるかもしれない、とにかく感覚では永く永い時間が経った。


「………落ち着いたか」


「はい。泣き疲れたみたいです」


困惑しながらもレインはブラックゼルに促され渋々姫君を背負う。

背中に恥ずかしながらも感触があるが、意識を違う場所に集中させる。


「いずれにしても非常事態なのかもしれん。急いだ方がよさそうだな」


そう言ったブラックゼルは詠唱に取り掛かっている。

「えっ……」


驚く程の速読だった。魔法陣が段々と出来上がっていく。


「一時的な空間転移だ。長くは持たない、急げ!」


言うが前にブラックゼルは魔法陣の中に入り、消えていく。


一時的な、その意味がすぐに現れた。


魔法陣が消えかかっていた。


「くっ」


魔法陣の中に身を投げるように入ると、いつぞやかの感覚を思い出す。

次の瞬間、前の景色が消えると共にレインの意識も消えていった。

















ここはどこだろう。

意識が戻る。天井が見えた。ひどく高い気がする。


ゆっくりと体を起こし、周囲を見回し、状況を確認する。

「…………そうだ!ここは!」


思い出した。空間転移の際に意識が失くなって


「あぁ!レインの意識が戻ってる!」


「……………」


覚えのある声だった。


「ねぇ、大丈夫!?」


「なぁ、イヴ。もう少し静かにしてくれ。頭に響く」

「それどころじゃないんだよ!早く来て!」


イヴはすぐにレインを叩き起こした上に引きずるように部屋を出た。

途中、抗議などしたが、聞く耳持たず、ずかずかと進んでいく。


「着いた!入るよ」


「おい!ちょっ」


目の前の大層なドアを開けると、そこには三人の姿をとらえた。


「ようこそ、ソレイユへ。歓迎しようレインくん」


一言でいうなら自分が聞いたエルフそのものだった。
長い耳、緑を現す髪、碧い眼。高い鼻。端正な唇。丸みを帯びながらも小さな顔。

そこには各パーツが完璧と言っていいほどの芸術があった。

いや、いるのだ。


「あなたがエルフの長ペルティ殿でしょうか?」


「えぇ、はじめましてと言えばいいかね?」


悪戯な微笑みはもはや妖しくも美しい。


「本来ならば歓迎したいのだが、生憎事態が最悪なだけに」


「はい、わかっています」

「緊張しなくてもいい。しかし、似ているなあの二人に」


意味深な言葉、レインにはそう思わざるえなかった。

「二人?………あ、あなたは自分の両親をご存知なのですか?」


「えぇ、よく知っている」

やっと自分の親を知る人に会えた。
緊張よりも歓喜が数段も上だ。
顔に出てしまう。


「しかし、今は話せない。許してくれ。状況が状況なためにな」


申し訳ない顔をしながらも一瞬で、隣にいたブラックゼルを見た。


「黒貴よ、先程も話した通り手を貸してほしい。これはトライアイランド全土の問題だ!すでにハーフエルフの民はソレイユに流れ込んでいる」


「…………現状を詳細に」

雰囲気でわかる。彼らのいう状況はかなり深刻と見える。


そっとイヴが耳打ちする。


「………サイラスが攻めてきたんだって」


「なんだって!」


失敗だ。この場にいるもの全員が聞こえる程、大声を出してしまったのだ。
それでもボリュームは落ちずに


「サイラスが攻めたって、どういうことだよ!」


「それはこちらが聞きたいものだ。七騎士レイン・スカイコートよ」


はっと低いトーンで口を開いたペルティを見る。

鋭い眼差し。それにたじろいでしまう。


「……すまない。君は七騎士を抜けたそうだな。簡潔に言おう。先日氷帝が来訪、交渉をしにだ。我は断った、すると奴は武力でと抜かしてな。七騎士と軍を送って来た」


「そんな………」

ショックがデカすぎる。体が理解してくれない。どこかで否定してきた。七騎士や義母さんはそんなことをしないと、そう思っていたのだ。


「七騎士などなら我一人で対処できるのだが、ダークマターも動いている」


「ダークマター……聖魔十傑の」


ペルティはなおも続ける。

「狙いは我だ。それがわかっているからこそ対処に向かえない。来るべき場所でないと被害が甚大になってしまうからだ……………そこで、だ!レインくん、イヴさん。君たちに折り入って頼みたいことがある」


二人はもう何が頼み事かわかっていた。
いやすでに自らの意志で決めていたのだ。


二人は無言で頷く。


「済まない、助かる。アル、お前も行きなさい。少しは君らの助けになるだろう」

「あ、あたし!?」


成り行きを黙って見ていたアルだったが、ペルティのその一言で表情を大きく変える。
あたし、知らないから勝手にやっててが→え、なんであたしが?

端からそう見えるほどその顔は物語っている。


「こちらの申し出で、二人に押し付けるの差し出がましい。といっても我らがエルフは微力なものだ。戦闘に向くエルフなど数える程だ」


「………はーい、わかりました」


口を尖らせながらの返答。

「では頼んだ」


その刹那、不動の扉が勢いよく開いた。

音と同時に全員が何事かと振り返り、特にブラックゼルに至ってはいつの間にか魔法陣の錬成準備までしている。

だが、すぐにそれがエルフだとペルティは気付き


「待て!」



「大変です!長ペルティ!」

制すると同時にエルフの声。

その声色から凶報だというのがわかった。


「何事だ!」


「まずは無礼をお許しください!」


「よい、早く本題を申せ」

聞くが早く、顔を強ばらせて


「はっ、先程タクノマライヤにてサイラスの軍艦と思わしきものが侵入してきました!」


「そうか………ご苦労、下がれ」


「失礼します」


扉の閉まる音だけが異様に耳に響く。

嫌な音。



「もはや事態は由々しきことだ。タクノマライヤはおそらく………」


ドォォォン!


「「!!」」

強烈な衝撃音が響く。
と同時に僅かだが、微震な揺れが生じた。


そのさきを見れば、レインが怒りをあらわにし壁を叩いた姿。
鼻息をたて、壁(エルフの魔法によって加工された特殊物質で、鉄よりも高い硬度を持つ)は円を書いたように歪んでいる。


「レイン……」


「………はぁはぁ………すぅ…」


取り乱す自分を抑えるために深呼吸。
幾分か落ち着きを取り戻し、今度は落胆の表情に変わっていた。


「俺が行ってあいつらを止めます」


「………すまない。頼んだ」


ペルティはわかっていた。今のレインの気持が、痛いほど。

そして、迷いがあることも。


「アル」

「あっ、はい!」

呆然と成り行きを傍観していたアルもペルティのその一言で何が言いたいかを理解していた。


「アルの空間転位ならすぐにでもタクノマライヤに向かえるだろう。ご武運を」















「待ってよ!レイン」


「そうよ!待ちなさい!」

右にはイヴ、左にはアル。
どちらもやや小走り状態で走っている。

その先には無言で歩くレイン。


「どこに行くんだよ!」


「タクノマライヤ」


「それならあたしの空間転位で一瞬で到着よ」


そんなことはどうでもよかった。

今の自分にはこうしていないとまた負の感情に飲み込まれそうだから。


許せなかった。七騎士もセリアもクリフも、そして、母国であるサイラスさえも。


「ちょっと!」


前に回り込み、仁王立ちのまま立ち塞がるが、レインはそれを左に避けそのまま歩を進める。


二人の声など耳には入らない。
入るのはかつての仲間たちの思い出。












「え?」


「だから、お前は何の為に戦っているんだよ!」


唐突な質問。
それぞれの任務を終え、報告のためにサイラスに帰還していた七騎士。


7人が会議室で次の任務や、治安の話を終えた後だった。


「何って、サイラスのためだろ!」


べし。


「………おい、殴ったな?」

爽やかな顔をしながらルキは知らないふりをし、口笛を吹いていた。
白々しい。

「あぁ、俺のマイケルが動いちまった。悪ぃな」


ぶち。


「………おい、あれはなんだ!」

「なにぃ?おい、どこだ!」


(隙あり!)


咄嗟にルキの脇腹めがけて渾身の一撃。「ぬぉぉぉぉ……ぐはっ」

「おおっと、悪い!ジャンヌはじゃじゃ馬だからな」

張本人は右手をなだめる様子を見せる。


「ちっ、おい、後ろ!」


「ん?」


くるりと後ろを見る、フリだけ。


当然、ルキは右手を振り上げていたが、うまくだませたと隙だらけの格好になってたから、レインは


「よっ、と」


あっさりとかわしてしまう。


「……………」


「……………」

無言で見つめ合う二人。


「…………ふっふっふ」


「…………はっはっは」

ついには笑い出してしまう始末。


周りから見れば目を背けたくなる光景だが、例外は常に存在する。

「貴様らぁ!何をふざけている!」


その例外が凄まじい形相で近寄ってくるのだから、たいていは二人は静かになるのだが


「…………ふっふ、やるなぁレインくん。まさか避けられるとはな」


「…………はっはっは、ルキくんこそ冗談が下手だなぁ、あんな冗談は笑えないよ」


眉が少し上に上がる。


「「………わはっはっはっ」」


ごっちん!


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁあ」


鈍い音と共にルキの悲痛な叫び声が響いていた。

頭に拳一つ分のたんこぶ。

「いい加減にしろぉ!」


どうやら怒り心頭のオルガのアイアンナックルが犯人みたいだ。


ということは!

レインはそこであることを思い付き、すぐさま行動にかかる。


まず、近くにいる誰かを捕まえます。


「えっ?」


次に、その人を自分の元に引き寄せる。


「えっ?」


「最後にそいつを軸に180度回ると」


ごちぃぃぃん!


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあー」


「あっという間に犠牲ができる」


思った通りオルガはレインを狙ってきた。のだが、


「…………ぐぃ………レイン!てめぇぇぇ」


「まぁ落ち着け!」


「落ち着いていられるか!」














「悪かったよ、お前にしては真面目だったしさ」


「……まぁ、かまわん」


それでもルキは拗ねていた。


「おい、ルキ!お前はそんなこと言うキャラじゃねぇから仕方ないだろ」


そこには三人いた空間にプラス4人増えている。


「あら、いいじゃない♪ルキはいいことを言ってるわ」


「そうですよ。レイン、ヘルメス、ルキが可哀相ですよ」


大概七騎士の内、レインとヘルメスはルキをからかう側で円とクロスはかばう側に位置する。

残る二人はというと


「ふん、貴様はもっと正当な人間になれば真摯な態度でいられるのだがな」


「ルキは確かにちょっとネジが緩んでますからね」


非難派だった。

4対2なのだから当然ルキは


「くっ………どうせ俺の頭はコルクがねぇよ」


「能力:いじける」


「いじけてねぇよ!」

そんな騒がしさが当たり前だった日常。

信じられるからこそ、絆が深いからこそ互いに言い合い、感情をぶつけ合える。
そして笑って、またルキをけなして、一日が終わる。

任務は少なくないが、それでも自由な時間は十分といえるほど。

何もかもが満たされ、この日常は文字通り、常にあると思っていた。















「俺は世界のために七騎士に入団した。もちろん、自国であるサイラスを守ることも同じだ」


「俺は世界中の人が安全に穏やかに暮らせるようにしたい」


知っている。ルキがこの手の話をする時は決まって真剣になるのだから。


「ルキはロマンチストなのですね」


「そんなんじゃないな、言っちまえばただのエゴだ」

「…………」


わかっているのだろう、世界中の人を救うことなどは到底無理な話だということが。
そして、ルキは自分にはそんな力はないがね、と言ってしめるのだから。


だが、今日だけは違っていた。


「だけど、俺はこの国をサイラスを………セリア様を裏切るなんて出来やしない」


「無論だ、貴様が裏切るようなら俺が貴様の首を取る」

「いや、オルガ。あんたマジで怖いよ」


拳を握り、ルキを睨みつけるオルガを少し必死なヘルメスが止めている。


「ルキ、どうしたの?突然そんなこと言い出して」


「隊長、俺はサイラスを守る7本の剣の1本です。だから、きっと今の俺は世界よりもサイラスをとらざるを得ない。それが義務であり、当然のことなんだ」


いつもと態度が違うと誰もが気付き、それでもルキのその中にある意思が読み取れた。


世界中の人を幸せにしたい。


叶わないと諦めているが、捨て切れない想いが。


「俺は間違っているのかもしれないけどな」


そんな隣にいたレインでさえも耳をすませなければ聞き取れない、悲痛な叫び声にも似ていた。


これ以上は思い出せない。何か重要なことがあったはずだ。


















「ルキ、お前が世界に剣を向けるなら…………俺がお前を………斬る」












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