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聖魔大戦 2nd
作:御陵一茶



待ち人と付き人


境界村ヤム


ほんの15年前まではエルフ、ダークエルフ、ハーフエルフの領域を隔てた村であった。

そして三つのどこにも属すことなどはなかったのだ。

ヤムはシルターニャで最も澄みきった空気を持ち、精霊が住むとまで言われ、すべてのエルフ族から崇められていた。


元々は村というより自然公園のような在りかで、誰にも干渉されずひっそりとその自然を維持し続けていた。


誰かが住めば汚れを運び、精霊が立ち去るかもしれない、それがシルターニャのタブーとされていたからだ。

18年前までは必然的、当然と言われる程までだった。

エルフ族の長ペルティがヤムの地を踏み込んだのだ。
その情報は波紋のように広がり、数日も経たずしてトライアイランド全土を覆った。


均衡が破られた。


エルフが裏切った、奴らはヤムを自国の領土にする、汚れてしまう、ダークエルフは憤慨をあらわにしてソレイユに押しかけた。

もちろん戦争を持ち掛けるわけではなかった。

だが、怒りは抑えきれずに当時ダークエルフの長ブラックゼルはペルティに抗議をした。


ペルティは事情を話すことはなかった。

それがいらだたしく、エルフは今後一切ヤムには踏み込まない。
その一点張りだった。


ならば、ヤムを我々の領土にしろ、ブラックゼルは理不尽にそうこじつけてきた。


いいだろう


意外にもペルティは承認した。


ただし条件がある。



なんだ?



訝しい表情を見せ、聞くだけ聞いてやろうと付け加えると、エルフの長はにぃと悪戯な笑みを浮かべ



なぁに、ちょっとしたことだ。ヤムを領土にするのは好きにしろ。だが、住むことは許さない。名義上ダークエルフの物にするだけだ。


ふざけるな、と悪態をつき、ペルティを睨み付ける。それでは何も変わらないということだった。

この話はそれから三年も続き、結局はヤムに五人のダークエルフと一人のエルフを監視役として配置することで締結した。

以降15もの歳月が過ぎる。
エルフにとってはたかだか15年だ。
その微少な年月でヤムに瘴気が吹きでた。
だからこそブラックゼルは疑惑を感じた。



夜光の都ダーナ


建築物は人口的に作られたものだが、どうやらエルフは丈夫さよりも見栄えに偏るものだと見られる。


ダーナはシルターニャの北側に位置し、海洋の気候で気温の年較差は小さい。

闇の森と言えば聞こえは悪い。誰が聞いても枯れているというイメージを持つ。

百聞は一見に如ず


闇の森に棲息する樹々は特殊な光合成を行う。

月の光で光合成を行うのだ。そして、樹々は育ち、空気を澄みやかにしてくれる。

故にこの行為を“月光成”と名付けられた。


ダークエルフはエルフよりも筋力が発達し、肌の色が黒い。
何故かはダークエルフも知らない。ただこの肌のせいで自分達はダークエルフと呼ばれている、と自覚している。

やはり武器に精通していて、魔法学も心得ている。

違うというなら性格にある。

エルフ、ダークエルフ、ハーフエルフに戦争という命題を与えたなら、彼らはこう言った。


「戦わねば殺される、ならば殺すべき」


「我々は平和を愛する種族、争うことを忌み嫌う。ならば大人しく殺されようではないか」


「………………わからない」



順にエルフ、ダークエルフ、ハーフエルフである。


彼らは戦いを疎みはしない。好戦的に近いのであるから。



ダーナの中心部には巨大な樹が立ち、その中には限られた者しか入れない。

中は見た目から掛け離れていて、機械的になっていた。

奥へ進めば会話が聞こえる。


「ヤムの瘴気はどうなっている?」


「はっ!それが…………」

「ん、どうした!早く申せ!」


どうやら上下関係があるらしい。
煮え切らせているのが立場が下なのだ。それに対し苛立ちを表しているのが上。

「現在瘴気はヤムから拡がりつつあり、三国の国境に渡るほどに………」


「なんだと!!」


「もはや瘴気は拡大する一方で対処しようがありません。ブラックゼル様、いかがいたしますか?」



ダークエルフの長は長い間沈黙を続けていたが、ようやく


「ソレイユに使者を送れ。ペルティなら何が起きているかわかるはずだ。その間、国境を越えた兵たちには待機命令を出せ。もはや一刻の猶予もないらしい」



はっ、と敬礼をしてその場を後にする部下を一瞥し、扉がしまり静けさが辺りを包み込む。


「ちっ、これはハーフエルフの仕業ではなかったのか?情報が少な過ぎた。誤ったかもしれん…………かくなる上は」


そこでブラックゼルは立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。



「この眼で確かめなければなるまいな」















トライアイランドから少し離れた町クリエタ。


あの朝からすでに数日が経過した。


レインは単身でシルターニャに向かう途中だった。

ここ数日彼はほとんど睡眠を取らずに移動を繰り返していた。馬車に乗るよりもレインのスピードの方が速く、最短距離で行ける。


レインは焦っていたのだ。彼女の声を聞いてからというもの、一刻も早く一刻も早くと彼を駆り立てていた。


そして、現在に至る。

トライアイランドに入るには船が必要なのだ。
だからこそここで船を待たなければならなかった。
今のレインにとってそれは苦痛以外の何物でもない。こうしている間にも、ということが頭に浮かび、ついつい貧乏ゆすりをしてしまう。


次の船は今から5時間後。拷問が5時間続くということを聞けば誰しもそれだけでびびるだろう。

時に予告というのは恐怖や焦りを最大限に高めるということなのだとレインは知ることになる。


船に乗ってもそこから二日もかかるという事実は今のレインには知ってはいけないことでもあった。

「ちっ、早く来いよぉ」


「まだかよぉ」


「もう来るだろ」


先程からレインはこの三個のワードを機械的に話す人形のようだ。

しかも定期的に。


「早く来いよぉ」


「まだ来ないってば」


咄嗟に肩を強張らせる。素で驚いたのだ。

そうだ、すっかり忘れていた。

自分は単身ではなかった。お邪魔んぼが付いてきたのを隅っこに置き去りにして、ドアを鎖でがんじがらめにしていたのだから、それが開いたのに大きな衝撃を受けたのだった。



「むぅ、なんだか僕が付いてきちゃ迷惑なんだよって顔をしている」

あたり


「………」


口には出さないでおこう。

「何を口には出さないでおくんだよ!」


失敗だった。二言めは漏れてしまっていた。


「ねぇ、何を言わないんだよ!」


「別に何でもない。早く来いよぉ。もう来るだろ」


人形に戻る。こうしていたほうが電池の消耗も少ないから。


「お客さま、あと286分でございます。少々ですのでお待ちください」


何かを真似するように作り笑いをして、右手を上げる。


「……………」


「お客さま、体調が優れないのですか?」


「大変です!舟を漕ぎ始めました!」


「……………」


正直、しんどかった。
だから答えないのが一番だったし、それが最善だと思った自分は甘かった。


これから船が来るまでの285分、暴走したイヴに付き纏われ、船が着いてからレインはすぐ様眠りにつき、悪夢を見たらしい。












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