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魔獣と滅びゆく世界の戦記 ※章立てにより改題(2017.8.04) 作者:椋鳥

序章 不毛な世界でただ一人、光輝なる墓標を打ち立てる

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1 空色の髪の闘士-2

***


 アスタリスと出会ってから一週間が過ぎたが、ラグと名乗った男は未だにスレイヤーズギルドの支部ブランチで一日の大半をだらだらと過ごしていた。彼がカウンターの端に座ると、マスターが何も言わずに葡萄酒を差し出す有り様であった。

 五日ほど前、討伐部隊はウルランドを出発していた。最終的に騎士団からは十五騎が出陣したらしく、闘士スレイヤーと併せた総勢は三十にも達していたという。システィナは闘士スレイヤーたちへ約したように、彼女の領分において相当の努力を重ねたらしい。ラグはそんなことを少しだけ思ったものだが、口にしては誰にも心中を明かさなかった。

 まだ日が落ちきっておらず、夕暮れ時にラグの話し相手をする者はマスター以外になかった。といっても、マスターが一方的に話してラグはただ頷いているか無視しているだけのことであった。カウンターから離れたボックス席に一人、フードをすっぽりと被った風変わりな客があったが、マスターもラグも近寄ろうとはしなかったので、そこに会話は成立をみなかった。

 扉が勢いよく開かれ、壁や床が軋んだ音を立てた。

 現れたシスティナは顔面から足先まで全身に包帯を巻き付けており、あろうことか左腕は二の腕から先が無くなっていた。包帯は何処も彼処も血が滲んで痛々しく、眼帯よろしく左目も覆われて散々な見た目であった。マスターが生唾を飲み込んだ後、一人きりで来訪したウルランドの領主へと声を掛けた。

「お嬢様・・・・・・そのお姿は、一体・・・・・・?」

「討伐隊は、壊滅しました。そこの御仁が仰った通りでした。霊獣は、三度来襲したのです」

 システィナが語ったのは、次のような顛末であった。討伐隊はヴィシス村につくなり、速やかに亜獣の群を撃滅した。そうして一匹の霊獣と対峙し、苦戦こそしたもののアスタリスの活躍もあって見事に勝利を収めた。その後、村の惨状を検分していたところ、新たな霊獣が現出した。それも撃破すると、また違った霊獣が現れた。ほぼ全ての力を使い切ってそれをも討ち果たして見せたのだが、第三の霊獣に襲われて、アスタリスは落命した。結局、システィナを除いた全員が帰らぬ者となった。

 システィナは残っていた馬に飛び乗って、どうにかウルランドまで逃げ帰った。騎士団庁舎で出血を止める最低限の手当を受けるや、いの一番にこの支部ブランチへと駆けつけたのだという。

「あれを・・・・・・霊獣を追い払う手立ては、何かないのですか?」

 立っているのもやっとというような衰弱具合であったが、システィナは気丈にも座らずにラグへと問いを発した。マスターが慌てて入り口まで駆け寄り、青白い顔をしたシスティナに肩を貸した。

「おれに、聞いているんだな?なら手段は一つだ。倒して、次が来て。倒して、また次が来て。倒して、倒して、倒し尽くす。そうすれば、霊獣は、いつか来なくなる」

「・・・・・・霊獣は?」

「そう。最後に来るのは神獣さ。だから、一々相手をしても仕方がない。最大戦力をもって魔獣ベスティアの占領地を攻めるというなら兎も角、不意に奴らに侵入された土地は放棄する以外に道がない。先日も言ったが、基本的に霊獣は本拠を移動しないんだ。放っておけば、これ以上の実害はない」

「神獣・・・・・・ですって?神獣?そんな、ことって・・・・・・」

 魔獣ベスティアと総称されている世界の敵は、外見上統一性を欠いており、種類が多岐にわたっていた。また、魔獣ベスティアがどのように発生したものか、何を目的としているのか、どうやって生殖しているか等の一切合切は不明であった。数少ない有益な情報として、極北の<不毛のデッドバレー>より新手が湧いて出ることだけが判明していた。

 人間や亜人種族はこの魔獣ベスティアに対する呼称を、戦闘面での脅威度合いによって区別していた。曰く、雑兵扱いの亜獣。これらは肉食動物の獰猛さが極度に増した程度の脅威に当たり、数の暴力にさえ気をつければ、一般の闘士スレイヤー騎士ナイトでも十分に対処できた。次に、防衛種と目される霊獣。一般に戦場を移らないとされるが、戦闘力は亜獣と比べて格段に高く、高度な戦闘訓練を受けた闘士スレイヤー騎士ナイトが複数人のチームを組んではじめて戦えるレベルと言えた。中には高い知性を誇り、人間や亜人と交信すら可能なタイプも存在した。

 そして、神獣。その名に恥じぬ凶悪な戦闘力を保持し、それは一国の軍事力をも圧倒すると伝わっている。今に至るまで六十六匹の個体が確認されており、歴史上世界が討伐に成功したのは約半数とされていた。そこに至る犠牲は大きく、十一年前に超大国レキエルが神獣五匹と同時に交戦し、相打ちの形で亡び去った。そして七年前、浮沈三獣と恐れられし神獣の王が住まうとされる<不毛のデッドバレー>へと、世界各地より招集された勇者たちが鋭意乗り込み、そこで神獣四匹もの息の根を止めて見せた。代わりに、勇者たちが帰ることはなかった。三年前にも再び<不毛のデッドバレー>で一匹の神獣が仕留められたとされているが、こちらは真偽が定かではない。

 最後に幻獣という種が区分されているが、これは戦闘力でいうと神獣と霊獣の中間に位置し、何故だか基本的に人間や亜人種族と敵対しない、どうにも変わり種な魔獣であった。知能は極めて高く、また幻獣と友好関係を築けたという国家や個人が幾例も記録に残っていた。

 システィナが神獣という名に過剰に反応したのは無理もなく、遭遇して生き残る術のない、絶望を体現した超絶の敵こそが神獣であった。

 マスターが血相を変えて、ラグへと質した。

「ちょっと待て。ウルランドに神獣の相手をしろって言うのか?」

「言ったろ?霊獣を倒し続ければ、何れその先に出てくるものだと。ウルランドの総力が神獣に勝ると思うなら、ヴィシスに掛かり切るのも結構だ。・・・・・・賢いやり方とは思えないが」

 ラグは鼻で笑い、他に言うことはないとばかりにカウンターに向き直った。マスターは今にも倒れそうなシスティナを放ってはおけず、近くの官舎まで連れて行くことにした。

「そこのフードの。そう、あんただ。お嬢様を運ぶから、ちょっと手伝ってくれ」

 フードの客は外套を羽織ったまま立ち上がると、言葉を発することなくマスターの言に素直に従った。その背には大仰な鞘に収まった剣が認められ、ラグの両眼はそこに焦点を絞っていた。

(あの剣。鞘に見覚えはないが、どこかで・・・・・・)

 フードを被った客がシスティナらと共に店を出るなり、ラグはすぐに興味を失い、空色の髪を掻き上げて小さく息を吐いた。グラスを傾けると、空色の髪の闘士スレイヤーを好いていたという、感じの良い男の顔が思い出された。この絶望の時代、闘士スレイヤーは所詮消耗品のようなもので、魔獣ベスティアを相手にしていれば人死になど日常茶飯事であった。それでもラグの記憶にアスタリスの印象が鮮明に銘記されていたのは、髪色の話が彼にとっても大事だという一点に因っていた。

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