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魔獣と滅びゆく世界の戦記 ※章立てにより改題(2017.8.04) 作者:椋鳥

序章 不毛な世界でただ一人、光輝なる墓標を打ち立てる

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7 闘う理由

7 闘う理由

 とある魔族がいた。

 その魔族の生家は貧しかった。貧しいながらもたくさんの弟や妹がいたので、その魔族は生活のため休みなく必死に働いた。愛する弟や妹から慕われることを幸福に思い、日々を過ごしていた。だが、その魔族が名立たる星術器具と肉体的に好相性であると判明し、生家は全てを投げ打ってその魔族の手術に漕ぎ着けた。既に成人間近であったその魔族は、成長期に眼球を交換させられたことで体が拒絶反応を起こし、酷い後遺症に悩まされた。そうして、その魔族は固有の星術アーティファクトを手に入れた。

 その魔族は気付いた。愛すべき弟や妹たちの姿が見えないことに。そう、生家は手術費用を工面するため、その魔族より年少の家族全てを人買いに売り払っていた。その魔族は体調が優れぬ中、後遺症を隠す為の仮面だけを手にとり、着の身着のままで生家を飛び出した。そして、当てもなく弟や妹を捜し回った。

 その頃、世界は魔獣ベスティアとの対決姿勢を鮮明にしていた。超大国レキエルが音頭をとり、神獣を一掃するという夢が喧伝された。その魔族にとって不幸なことに、対神獣を目的とした強力な星術アーティファクトの起動に、生命力アニマや肉体的耐久性に優れた魔族の身体を素材として組み込む秘術が極一部の地域で流行していた。それ故、東域全般で魔族狩りと称する人攫いが横行していた。その魔族の弟や妹たちの身柄もそうした売買ネットワークに流通してしまい、どことも知れぬ地へと送られていた。

 三年近くを費やして、その魔族は妹一人の所在を突き止めることに成功した。彼女は人間の高名な星術士アーティフィサーに匿われており、その魔族が発見した時には四肢を切断され、星術器具の一部として無理矢理生かされているような状況であった。その魔族は慟哭し、星術士アーティフィサーを八つ裂きにして妹を弔った。

 その一年後、その魔族はもう一人の妹がこれも実験の道具にされ、亜獣と星術的に混合させられていることを知った。凶暴化した亜獣が暴れているという通報の元、闘士スレイヤーたちが討伐のため招集された。そこに志願したその魔族は、惨たらしい姿に変貌した妹を認め、嗚咽を漏らした。討伐隊の中に、高名な闘士スレイヤーであるエルフ族の姫がいた。彼女はその魔族を叱咤し、亜獣を拘束するや、彼女の出来得る限りの星術アーティファクトでその魔族の妹を分離させるよう努めた。結果的に命こそ失われたが、妹が元の姿に近い形で戻ってきたため、その魔族はエルフ族の姫に対し、涙を流して感謝を告げた。

 エルフ族の姫はその魔族から事情を聞き、特殊な星術アーティファクトと彼女の豊富な人脈を辿って、その魔族の弟の一人を捜し当てた。弟はこれもやはり星術実験の結果亡くなっていたが、その魔族は弔いが出来たことに満足し、エルフの姫に礼を言った。

 エルフ族の姫はその高い実力から、各地で魔獣ベスティアを討伐して回っていた。その魔族は、弟や妹にされた仕打ちからとりわけ人間を嫌っていたものの、彼女の役に立とうと決心した。その魔族には、エルフ族の姫と肩を並べて戦えるような戦闘能力があるわけでもなく、また素顔は手術の影響で醜く変貌していたため、常時仮面を装着しながら辛い修行の日々を送った。

 後年、その魔族は誰よりも竜を美麗に操る竜騎士ドラゴンナイトとして、世界を代表する戦力と呼ばれるまでに成長した。そして、大恩あるエルフ族の姫と戦場を共にするまでに至った。手術痕は整形により除去したものだが、その魔族は敢えて正体を明かそうともせず、仮面を被り続けた。出会った当時と異なる仮面を付けて活躍していたため、エルフ族の姫に既知であると認識はされなかったが、その魔族にとっては些事であった。ただエルフ族の姫が戦場から生還できるよう、その魔族は魔獣ベスティアを相手に技の限りを振るった。

 順風満帆に見えた闘争の日々はしかし、<不毛のデッドバレー>で悲劇的な終わりを迎えた。その魔族が出した窮余の指令によって、エルフ族の姫は神獣に呑み込まれた。そして、その魔族は大なる負傷によって、長期の療養を余儀なくされた。身動きが取れるようになった後、その魔族はエルフ族の姫と共にある神獣を追跡した。そして、かつての同志が再度<不毛のデッドバレー>にて神獣との決戦に臨んだと聞きつけ、詳細を調べ尽くした。だが、生存者はかつての同志以外になく、その上彼の行方が頑として知れなかったので、神獣の手掛かりは失われた。

 その魔族は国を流れ、ついに路銀も尽きたので、レーゲンドルフという中規模の国家に雇われた。その魔族はそこにおいても神獣を追うことを諦めてはおらず、エルフ族の姫を奪還するために生命力アニマの全てを費やすのだと決めていた。その魔族は、長く続いた魔獣ベスティアとの戦いの経験から、霊獣がテリトリーと決めた地を攻略せんとすれば、いずれ上位の魔獣ベスティアが降臨すると承知していた。つまり、魔獣ベスティアを駆逐し続ければ何れは神獣が姿を見せる理屈で、その神獣を通じてエルフ族の姫を奪った件の神獣の居場所を突き止めるつもりでいた。

 その魔族は辛抱強く、新たな霊獣の出現を待った。世界に現存する霊獣のテリトリーには大量の魔獣ベスティアが潜伏しており、無理を押してレーゲンドルフの戦力で戦闘に及ぶことは無謀であると考えられた。

 そうしている内に、ウルランド辺境の村を霊獣が襲撃したという報を入手した。その魔族は驚喜した。これぞ神獣への足掛かりになると、レーゲンドルフ中に張り巡らせた人脈を最大限に活用し、ウルランドへと介入を試みた。そこで偶然にも、その魔族はかつての同志と再会した。彼に対して恨みはなかったが、その魔族が記憶している限り、エルフ族の姫は彼と一番に親しくしていた。エルフ族の姫を救出できたとして、そこに彼がいたのでは、自分に対する感謝の念がその分だけ薄れるかもしれないとその魔族は考えた。その魔族ははじめて見返りを求めてしまった。本来の筋であれば、かつての同志に助けを求め、正々堂々神獣を追うことを選択すれば良かった。だが、埒もない嫉妬に駆られ、その魔族はかつての同志と対立する道を選んだ。

 その魔族が抱いた夢は、エルフ族の姫を無事に助け、彼女の心を独り占めすることであった。その魔族はただの一回、下らぬ嫉妬心から道を誤らされ、それによって自分が唾棄する人間たちと同じように外道を行く羽目に陥った。その魔族は心の内で、愛して止まなかった弟や妹たちに向けて謝罪していた。自分が天上へと旅立った後、弟や妹たちに誇れるような生き方を貫けなかったことに対して、罪の意識を強くしていた。

 そうした悔恨の果てに、その魔族はかつての同志を助けるという奇手を打った。その魔族は自分が何故に一方的に妬み憎んだ相手の窮地を救ったものか、自身の心が理解できなかった。だが、寝息を立てているかつての同志を眺めている内に、自然と合点が行った。その魔族は、エルフ族の姫と共に魔獣ベスティアと戦っていた折り、彼女以外の同志たちに対しても、言い知れぬ親近感を覚えていたのだ。自らが助けたかつての同志のことも、年若い後輩として心の底から可愛がっていたのだと気付かされた。

 その魔族は、もはや引き返せぬところまで来ていた。それでも、エルフ族の姫を取り戻すことだけは絶対に成し遂げると決めていたし、それを諦めては自分が自分でいられなくなると分かっていた。その魔族は星術アーティファクトを行使して竜に跨がると、一切の迷いもなく神獣の下へ向かった。

 そういう筋書きであった。


***


 緋色の甲冑はところどころが砕け、義手の間接はぎしぎしと悲鳴を上げていた。システィナの振るう銀の槍が一匹の石魔ストーニーを砕いたことによって、傷ついた市民がまた一人、瓦礫の下から這い出て逃げ出すことに成功した。システィナがほっとしたのも束の間、次から次へと亜獣が敵意を振り撒いて向かって来た。

 イドリース侯爵国に続いてグラジオラスへと侵攻した<黄昏宮トワイライトメナス>と魔獣ベスティアの大群は、グラジオラスの少ない防衛戦力を早々に蹴散らすや、王城の周辺で激しく暴れ回った。若き国王ロイド九世は非常事態を宣言し、国民に国外への脱出を説いた。

 メネからこちら敗戦続きの北域戦力はもはや集団の機能を維持できておらず、システィナ率いる三十余名の闘士スレイヤーが最後の砦となって魔獣ベスティアに抵抗していた。

「システィナ様、ここはもう駄目です!新たな霊獣が湧いて出てきたので、王城に近付くどころではありません!撤退しましょう!」

 傷だらけのリージンフロイツが声を張り上げ、一方で細剣を器用に操って、蛙猿種エイプを一突きで葬った。遊撃に出ているシャマスと朧月夜は連戦による生命力疲労の限界が近く、満足な戦果を挙げられないでいた。

 システィナはグラジオラスの敗北がイコール北域そのものの失陥であると認識しており、リージンフロイツの呼び掛けに応じるべきか苦悩した。システィナは自身も槍を振るい前線に止まっていたため、戦況が著しく不利な様を肌で実感していた。このまま戦いを続ければ仲間が全滅を迎えるだけのことであるが、そうはいっても彼女も為政者である以上、世界が滅亡にひた走る過程を見過ごすわけにはいかなかった。

「システィナ様!某が突貫します!一か八か、神獣との相打ちを狙いますれば!」

 そう叫ぶド・ゴールも満身創痍には違いなかった。ひび割れた棍棒でどうにか亜獣を叩き潰してはいたものの、全盛の力は望むべくもないようシスティナには思われた。

 緑色の光線が市街地を一閃し、建物を軒並み薙ぎ払った。破壊音と共に地面が激しく揺れ、<黄昏宮トワイライトメナス>の容赦ない攻撃を前に、誰も抵抗することなど叶わないのだと、ただ絶望を再認識させられた。

 リージンフロイツは、一向に減らぬ敵の攻勢に、もはや心が折れる寸前であった。

(こんなの・・・・・・どうしようもないじゃない!ラグは、こんな化け物を相手にどうやって立ち向かったというの?)

 リージンフロイツは接近してきた昆虫型の亜獣を横へと跳んでかわし、息でもするよう流麗に生命力アニマ星力レリックへと変換させた。そこから星力レリックを螺旋状に変化させた上で、手早く亜獣へと打ち付け、胴体部を破砕した。ここまでで何十匹の魔獣ベスティアを撃破したか分からず、リージンフロイツは気力と生命力アニマの消耗から地に片膝を付いた。

 グラジオラスの魔獣ベスティアに対する抵抗力が下限に達しようとしたその時、一匹の竜が勇んで戦場へと飛来してきた。その竜の背には白面が跨がっており、勇壮に槍を構えたままで魔獣ベスティアの群へと攻撃を仕掛けた。唖然とするシスティナたちを尻目に、白面は槍を器用に操って次々と亜獣を討ち倒し、竜においては炎を吐いて霊獣を牽制した。白面の技量は高く、ド・ゴールやシャマスから見ても別格の突破力を有しているように思われた。

 白面は、都度竜と共に上昇しては<黄昏宮トワイライトメナス>の光線による攻撃を滑空して避け、降下の勢いそのままに地上の魔獣ベスティアたちへと槍撃を叩き込んだ。地上に降りては、星力レリックを纏わせた槍で正円を描くようにして魔獣ベスティアを薙ぎ払った。

 白面が参戦してから僅かな時間で、<黄昏宮トワイライトメナス>の手足となっていた魔獣ベスティアは一気に数を減らされていた。

「これなら行けるかもしれん!いざ、白面に続くぞ!」

 白面の活躍に押される形でド・ゴールは飛び出し、剛力からの殴打で再び亜獣を蹴散らしに掛かった。システィナはこれを最後の好機と判断し、総員に突撃を命じた。シャマスが、リージンフロイツが、そして朧月夜が持てる力の全てを投入し、グラジオラスを蹂躙した魔獣ベスティアに対する反撃の狼煙とした。

 グラジオラス勢の士気が立ち直ったことを受け、白面は標的を<黄昏宮トワイライトメナス>に絞った。かの神獣の腹部に浮いたエルフの美姫は微動だにせず、近付いて行く白面が放つ星力レリックにも反応を示さなかった。

『特定危険敵性体を確認した。これより排除行動に移る』

 <黄昏宮トワイライトメナス>の頭部、二本角を生やした美女の顔から、白面に対する宣戦の布告は為された。四枚の翼は天を覆わんばかりに大きく開かれ、八本の足がそれぞれ違った駆動をして白面を誘った。中空においては、淡い緑光を伴って複数の星術方陣が一斉に起動した。敵を破壊し尽くさんがため、神獣が秘匿する星術アーティファクトの数々が牙を剥いた。

 白面は、跨りし竜と一体化したかのように見事に空中を旋回し、<黄昏宮トワイライトメナス>より放たれた星術アーティファクトによる連続攻撃を片端から回避して見せた。そうして竜の突進力を利用して近接戦闘を仕掛けると、白面は星力レリックを爆発的に高めた槍の刺突で<黄昏宮トワイライトメナス>を削りに掛かった。

 星力レリック星力レリックの激しいぶつかり合いはしかし、白面が<燎原姫プリンセスオブブレイズを慮って攻撃箇所を限定せざるを得ないことから、徐々に<黄昏宮トワイライトメナス>の優勢に運ばれていった。神獣の腹に居座る<燎原姫プリンセスオブブレイズ>は依然沈黙を続け、やがて白面が<黄昏宮トワイライトメナス>の猛攻に晒されて防戦一方に追い込まれても、激励の一語を紡ぎ出すことすらなかった。

 白面は仮面の一部をずらして術眼アートアイズをも行使していたが、浮沈三獣の一角たる<黄昏宮トワイライトメナス>を直接的に誘うには力が足らず、遂に緑の光線によって腹部に致命傷を負わされた。

「ぐ・・・・・・あッ!」

 追い打ちをかけるように、<黄昏宮トワイライトメナス>の星術アーティファクトが間断無く白面を捉え、爆発や強打の嵐が全身をぼろ雑巾のように痛めつけた。その余波によって竜をも倒され、万策が尽きた白面はただ死を待つのみといった体で地面に転がった。

 柄が半ばで折れた槍を手にしたシスティナと、細剣を杖代わりにしてかろうじて立つリージンフロイツとが、瓦礫に埋もれた王城の跡地に歩みを進めた時には、白面の戦闘は決着していた。ダメージこそ散見されるものの神獣は五体満足であり、救世主宜しく参戦した白面が瀕死の姿を晒している状況を目の当たりにして、二人の抵抗の意思は敢え無く霧散した。

 システィナははらはらと涙を流して槍を落とし、リージンフロイツは呪い殺さんばかりに怨みを込めた目で<黄昏宮トワイライトメナス>を睨んだ。当の<黄昏宮トワイライトメナス>は平然と二つの星術方陣を起ち上げ、葬送の言葉もなしにシスティナとリージンフロイツの命を奪いに掛かった。

 青白く輝く線が、無音で中空を断った。

 それは<黄昏宮トワイライトメナス>が得意とする緑の光線ではなく、爆発を厭わぬ大量の星力レリックが付与された斬線であった。

 <黄昏宮トワイライトメナス>は声にならぬ咆哮を上げて巨体を捩った。断たれた足が二本、豪快に地面を転がった。足の切断面からは星力レリックが煙状となって漏れ出ていた。

「好き放題暴れてくれたようだな、<黄昏宮トワイライトメナス>。七年越しの因縁を今日ここで終わりにしてやる」

 朧月夜とシャマスを両脇に伴い、黒焦げになった剣を手にしたラグリマが颯爽と登場した。多くの犠牲を払い、グラジオラスの死闘は最終局面を迎えようとしていた。


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