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魔獣と滅びゆく世界の戦記 ※章立てにより改題(2017.8.04) 作者:椋鳥

序章 不毛な世界でただ一人、光輝なる墓標を打ち立てる

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6 沈まぬ獣が呼ぶは動乱-2

***


 北域に林立する諸国は南域などと比べ、統治形態が未成熟で規模的にも小さかった。その代わりと言って良いものか、対魔獣の同盟関係が強固であり、東域や南域で頻発している種族間や国家間の紛争とは無縁であった。<不毛のデッドバレー>が大爆発によって崩れ落ちたことを受け、メネに集った北域諸国の派遣要員たちは直ちに協議に臨んだ。それは事故を起こすきっかけを作ったとされる、ウルランドより訪れた勢力に対する弾劾を確認する場であり、滅びた谷を共同で監視・調査することを約する場となるはずであった。

 ところが、<黄昏宮トワイライトメナス>の来襲が全てを混沌に導いた。崩れた谷より飛来した不沈三獣の一角は、青白に輝く星力レリックの光線でメネを無差別に焼いた。その攻撃は、居合わせた闘士スレイヤー星術アーティファクトによって防げるレベルの威力ではなく、炸裂するなり全ての物体を薙ぎ払った。<不毛のデッドバレー>より一斉に帰還したシスティナたちは、朧月夜やシャマスを中心に闘士スレイヤー騎士ナイトを動かし、まずは住民や諸国の代表を逃がしにかかった。

 <黄昏宮トワイライトメナス>は逃げ惑う人間に興味を示していない様子で、村中の建物という建物を破壊し尽くした。半日とかからずにメネは廃墟へと仕立て上げられ、監視対象であった<不毛のデッドバレー>と共に世界から存在を抹消された。

 村の外れのそのまた先、小高い丘に設営した臨時の本営にて、緋色の鎧を纏ったシスティナは、不穏な煙が立ち上る遠く離れた景色を睨みつけて言った。

「・・・・・・あれが、不沈三獣。こうも簡単に、村一つを破滅に追いやってしまうなんて」

 ラグリマから聞いていた特徴を視認したことで、システィナらはメネを襲った魔獣ベスティアを<黄昏宮トワイライトメナス>と断定していた。竜とも似通った巨体の腹部には美しいエルフが結合させられており、彼女こそがラグリマのいう<燎原姫プリンセスオブブレイズ>に違いないと考えられた。

「というか、何で私たちは生きてるんですかねー。かの<黄昏宮トワイライトメナス>なんかと遭遇しておいて、ですよ?」

 ローブの解れた裾を確かめながら、朧月夜が素朴な疑問を口にした。泥と煤にまみれたシャマスもそれに頷いて見せた。

 システィナが連れてきた騎士ナイトや、ウルランドから呼び寄せた闘士スレイヤーをはじめ、メネが壊滅した割に犠牲者は殆どなかった。結果だけをみれば、<黄昏宮トワイライトメナス>は人間側の戦闘員を相手にしていなかったとも読みとれ、それはシスティナの理解の範疇を超えた話であった。

「ラグしか、眼中になかったのでしょうね」

 傷病人用に建てられた簡易テントから這い出てきたリージンフロイツが、全身火傷の癒えぬままで答えを投じた。

「<雷伯サンダーカウント>は、ラグのことを特定危険敵性体と呼んでいた。文脈と自爆攻撃の流れを見れば一目瞭然ね。神獣は、谷ごと彼を葬ろうとしたのよ」

「・・・・・・なるほど。ラグ殿にそれだけの価値があると、神獣はそう踏んだわけですね」

「事実、あの場でもラグは<雷伯サンダーカウント>を追い込んでいた。七年前に召集された勇者たちの技前は、決して偶像などではなかった。神獣すらも恐れ警戒する程の、正しく世界の希望だったということ。・・・・・・その最後の星が、失われてしまった・・・・・・」

 リージンフロイツは、嗚咽を漏らすようにして最後の台詞を口にした。システィナらは顛末を聞かされていたので、実感は湧かないながらもラグリマが<不毛のデッドバレー>の崩壊に飲まれたことを承知していた。体勢を崩し掛けたリージンフロイツを朧月夜が慌てて支え、シャマスは彼女の悪化した傷口へと癒しの星術アーティファクトを施してやった。

 臨時の本営は情報の錯綜と現状把握で大混乱に陥っており、システィナへの出頭要請はそこかしこから為された。現在一番の兵力を抱えている指導者がシスティナであり、<不毛のデッドバレー>へと進入したのもまた彼女らであったので、その説明を求められることは自体は正当であると思われた。

「で、どうする?ここの全戦力で、<黄昏宮トワイライトメナス>と雌雄を決するのか?」

「シャマスさん、無茶ですよー。ラグが言っていたじゃないですか。<黄昏宮トワイライトメナス>は喰った相手ごと星力レリックを取り込むと。ラグなしで、満足に攻撃が通るものかも知れない現状で挑むというのはどうです?ただ敵にエネルギーを与えるだけに終わる可能性もありますよ」

 朧月夜は努めて冷静に分析した。彼女とてすぐにでも神獣を排除し、ラグリマの消息を確かめたくはあった。しかし相手が不沈三獣では、一国の軍隊を引っ張ってきたところで勝利を収めることが難しいと分かっていた。

「取り敢えず。私は諸国の役人と話してきます。神獣がどう動くか読めない以上、ことは北域全体の安全に関わる話です。速やかに軍隊を集結させることが出来るのであれば、それが一番現実的な対処法でしょうから」

 システィナは北西ウルランドの領主として、今も話し合いがもたれている臨時の本営へと向かった。残された三者は、メネの方角で何事か異変が起きないものかと観察を継続することにした。

 朧月夜がその見知った顔を発見するのに、それほど時間は掛からなかった。

「あれ?おじさん、何でここに居るんですかー?」

「某のことか?」

 重甲冑を着込んだ巨漢の闘士スレイヤーは、上背のない朧月夜を見下ろす形で応じた。元レーゲンドルフの食客、<要塞フォートレス>ことド・ゴール・ゼンダインであった。


星術士アーティフィサーのお嬢ちゃんよ。某はヴィシス村を騒がした罪と、ウルランドへの不法侵入の罪を問われて投獄されていた。この度、<不毛のデッドバレー>で神獣討伐の任に当たることを条件に、システィナ様より特別に仮釈放を認めてもらったのである」

「朧月夜。オボロって呼んでくださいー。なら、おじさんも暫定・仲間ということで。私は星術学院ウルランド・ブランチの所属ですから」

「よろしく頼む。神獣が突っ込んできたなら、盾役くらいは努めてみせる故」

「<黄昏宮トワイライトメナス>に食べられないよう注意してくださいね。おじさんのパワーを吸い取られたら、すっごく回復されちゃいそうなのでー」

 朧月夜は、数奇な運命から共闘することになった歴戦の闘士スレイヤーへと<黄昏宮トワイライトメナス>の特性を講義してやった。七年前と比べて酷く脆弱な陣容で不沈三獣を相手にしているのだから、朧月夜としては北西域の猛者であるド・ゴールの戦力を決して無駄には出来なかった。

 ド・ゴールも二回り近く歳の離れた朧月夜の言葉を素直に受け入れ、ウルランド勢の一員として働く熱意を強く訴えた。

「心得た。某、システィナ様より、レーゲンドルフからの派遣団を追跡し、味方するよう説き伏せる任務を請け負っている。まだこの地の近辺に隠れているかもしれんで、しばし留守にするぞ」

「はいー。単独で神獣に挑んだりはしないでくださいね。絶対に、勝てませんから」

 ド・ゴールはゆっくりした足取りで本営から遠ざかり、残された朧月夜は偵察を再開した。どんな変化も見逃さぬよう、朧月夜は根気強くメネの周囲を洗った。リージンフロイツは谷の跡地を探るよう上申したが、システィナはそれを許可しなかった。諸国によるウルランドへの警句はもはや恫喝に近い温度となっており、システィナの一存でこれ以上世界の危険を増大させるような真似は出来ようもなかった。

 シャマスは手持ち無沙汰を嫌うことなく、神官パルチザンとしての負傷者救済を終えた後は、どっしりと構えていた。そして、かつて闘士スレイヤーをしていた時分、一緒に魔獣ベスティアを退治して回っていた一人の神官パルチザンに思いを馳せていた。

(あの男なら・・・・・・<不死アンデッド>なら、こんな時どうしたものかな。あいつは困難な時も深刻な顔一つせなんだが。<千刃サウザンズ>なしで、さてワシらに光明はあるものやら)


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