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魔獣と滅びゆく世界の戦記 ※章立てにより改題(2017.8.04) 作者:椋鳥

序章 不毛な世界でただ一人、光輝なる墓標を打ち立てる

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4 在りし日を知る者-3

***


 ヴィシスで神獣を撃退してから二週間が経過していた。偵察部隊からの報告によれば、ヴィシスの魔獣ベスティアは姿を消し、霊獣が近隣に移動したという話も聞かされなかった。ハルキス救世会が武力を失って意気消沈している間に、システィナは騎士団を説得して結束させ、一応は軍事・政治の命令系統を取り戻すことに成功した。それには自らが槍を振るってケマル湖を解放したことや、星術学院や神殿が彼女に一定の支援を提供していると伝わったことが影響しており、ウルランドはひとまず落ち着きを取り戻した。

 ラグリマはというと、急に身辺が騒がしくなった為に、システィナの邸宅を借りて療養していた。ラグリマの素性がかつて勇者の軍団に属していた通称<千刃サウザンズ>と呼ばれし闘士スレイヤーであると知ったマスターは、これはただ事ではないと北西域のあらゆる支部ブランチに早馬を出した。そうしてスレイヤーズギルドの幹部やら物見遊山の闘士スレイヤーやらがわらわらと集まり出し、ウルランド・ブランチは俄に活況を呈した。ひたすら続く質問責めに嫌気の差したラグリマが、静養先にとシスティナを頼ったのは致し方ない流れであった。

「ラグ。お見舞いに来ましたよー」

 朧月夜はもはや勝手知ったるとばかりに、システィナの留守にも関わらず邸宅を訪れた。使用人も素通しするものだから、ラグリマは支度をする間もなくベッドに裸の上半身を起こした姿で出迎えざるを得なかった。

「あらー。私、まだ十六なんですけど」

「何の話だ!いきなりドアを開けるからだ。・・・・・・許せ」

「いいえー。ラグの鍛えられた体を見られて眼福です。なんちゃって」

 相手をせず、ラグリマは洗って畳まれていた黒のシャツを着込んだ。星力疲労は八割方回復を見せており、未だに休養しているのはシスティナから大事をとるよう厳命されていたからであった。

 朧月夜は持参した林檎を籠ごと小机に置くと、ベッド脇の丸椅子にちょこんと腰掛けてラグリマとの距離を詰めた。そうして、念入りに辺りの気配を探った後で囁くようにして話しかけた。

「どうやら、レーゲンドルフ公は神獣の逃走先を掴んでいるようです。シャマスさんの情報とも符合するので、まず間違いないかと」

「そうか。<要塞フォートレス>が白状したように、救世会の闘士スレイヤーを率いていた白面は<雷伯サンダーカウント>を従えるつもりでいた。ともすると、企てた星術アーティファクトは部分的に成功していて、少なからず接触が出来ているのかもしれない。・・・・・・確証はないが」

魅惑チャームは異種族相手にそれほど有効ではないですし、幻惑イリュージョンだと持続して支配下に置くような効果は難しいです。魔獣ベスティアをも隷属させるとなると、魔族の固有星術にある制約リストリクションくらいしか事例が思い浮かびませんが」

「さすがだな、オボロ。正星術士だけのことはある。おれもその線で睨んでいた。竜や鬼を使役したという記録も残っていることだし、果たしてどれほどの強制力があるのか」

 ラグリマは星術アーティファクトの専門家ではなかったので、朧月夜が高いレベルの知識を持ち、それでいて自分と同意見だということに心強さを覚えていた。

 自己申告による騒乱罪で逮捕されたド・ゴールは、白面が神獣を操作するつもりでヴィシスに赴いたのだと証言した。しかし、ウルランドを掌握しようとした一連の動きにレーゲンドルフ公が関与しているという決定的な証拠はなく、また、ド・ゴールは対神獣の抑えに出動を命じられただけで、主の口から直接謀略を聞かされてはいないという。

 システィナはレーゲンドルフの内政干渉に対して異議を申し立てると憤っていたが、何より優先すべきは逃がした神獣の再来を如何に防ぐかという点にあった。それについて、獄中のド・ゴールが「<千刃サウザンズ>は何故に神獣に止めを刺さなかったのか?」といった疑問を声高に叫んでいた。

「・・・・・・勤続疲労がな。このくらいの消耗、昔なら一日寝てれば全快したものだが」

 一旦話題を切り、ラグリマはゆっくり肩を揉みながら弱音を口にした。朧月夜といるとつい甘えてしまう傾向があり、最近になってラグリマは、これは朧月夜の特殊能力に違いないと考えるようにして自分を納得させていた。

「シャマスさんが言ってました。そもそも十本以上の剣にあれだけ膨大な星力レリックを込めて遠隔操作するなんて、無謀にも程があるって。・・・・・・まあ、即席のパーティーである私たちが頼りないからなんでしょうけど」

 朧月夜の指摘は的を射ていた。ラグリマはあの決戦時、一人で決着を付けるつもりでいた。そして、奥義を出したにも関わらずその目論見は失敗に終わった。敵味方共に痛んだあの極限状態において<雷伯サンダーカウント>を退却させるよう誘導したのは、仲間たちの実力を信用していなかったからだと糾弾されて反論の余地は少なかった。

 ラグリマは七年前に最高の仲間たちを失って後、誰に背中を預けたこともなければ、同格として信頼のおけるチームを形成したこともなかった。仇と定めた不沈三獣を水面下で追い、例え強大な壁に阻まれようとも進んで誰かに助けを求めることもしなかった。

「ねえ、ラグ。ここまで来たら、あの神獣は私たちで何とかするんですよね?」

「・・・・・・<雷伯サンダーカウント>は一筋縄ではいかない相手だ。通算で今回が三度目の遭遇になる。過去には英雄とか勇者とか呼ばれた闘士スレイヤーと共同戦線を張って挑んだこともあったが、やはり倒しきれなかった。最後の抵抗が、想像以上に厳しくてな」

「ほえー。ラグは本当に、あのラグリマ・ラウラなんですね。<不毛のデッドバレー>に突貫した世界最強軍団の一人。七年前に、四匹もの神獣をやっつけたんですよね?」

「ああ。それ以前にも、二匹倒してる。・・・・・・おれではなく、相棒が桁外れに優秀だったから」

 ラグリマは遠い目をして、窓外に広がる青空を見上げて言った。朧月夜はラグリマの寂寞とした横顔を見て、相棒というのはきっと女性だろうと確信した。

「そっか。だから戦い方にも詳しいんですね。尚更、ラグの経験を私たちに還元してください。七年前のチームみたいにはいかなくても、勝利の可能性を高めることは出来ます。リズもシャマスさんも、まだまだやる気ですよ」

「オボロ・・・・・・」

「それとも、ウルランドとレーゲンドルフの政争が絡んだから、気乗りはしませんか?」

「そんなことはない。<雷伯サンダーカウント>に制約を試みたと思われる白面。奴は、おれに縁のある何者かかも知れない。ただの勘で、何ら根拠はないが」

「ラグの・・・・・・」

「心配しないでも、今回の始末はきちんとするつもりだ。ただ、そのことに皆が命を賭けるというのは承服できない。やるなら必勝の策をもって当たるべきだ」

 ラグリマは言って、朧月夜に軽い笑みを送った。

「いいですねー。大いに賛成です」

「ところで、リズはどうしてる?ここ数日見ていないが」

 リージンフロイツは<雷伯サンダーカウント>戦の終了時にラグリマへと生命力アニマを分け与えており、それだけの大技をやってのけた割に早々と活動を再開していた。ラグリマが伏せっている間は彼への来客を追い返す防波堤となり、その後はシスティナと連携して彼の静養環境を整えていた。

「リズならレーゲンドルフに行ってますよー。白面の行方を捜すと言って聞かなくて」

「危ない・・・・・・こともないか。神獣に手傷を負わせられる位の女傑だものな。それに樹霊剣ウッドソードさえ手持ちにしていれば、いざとなったら街区を吹き飛ばすくらいの真似はできる」

「物騒な剣ですねー。でもまあ、リズなら加減は弁えてると思います。それで、ラグ。次はどうしますか?」

「そうだな。システィナとマスターには、銀の剣をありったけ調達して貰うとして。おれはレーゲンドルフに向かってリズと合流する。オボロとシャマスには、ひとっ走り偵察を頼みたい」

「偵察、ですか?」

「ああ。ちょうど良いことに近隣からスレイヤーも集まっていることだし、少しは世界平和のために働かせてやろうじゃないか。<雷伯サンダーカウント>の行方だが、おれに一つ心当たりがあってな」

 ラグリマが人差し指を立てて、名案が浮かんだとばかりに朧月夜にアピールした。朧月夜は頭を横に傾けて総髪を揺らし、ラグリマのいう心当たりの開示を待った。

 換気にと開けられていた窓から温い風が吹き込んで、ラグリマの空色の髪をはためかせた。朧月夜から染色を見抜かれたそれは、ラグリマにとり整理のできていない想いの証であり、鏡を見る度神獣への闘志を奮い立たせる戒めの印でもあった。朧月夜はそんな心情をこそ知らずとも、眼前で流される空色の髪を見て、無性に気分がざわつくのを抑えられなかった。

(彼はラグリマ・ラウラ。あの伝説の女闘士スレイヤーと、本当にパーティーを組んでいたんだ。彼女の髪色を真似ている背景にはきっと、深く重い感情が潜んでいるはず)

「オボロ。<不毛のデッドバレー>へ行ってくれ」

「へ?」

 世界で最も危険な地へ行くよう指定された朧月夜は、だらしなく大口を開け、目を真ん丸に見開いた。

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