挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
魔獣と滅びゆく世界の戦記 ※章立てにより改題(2017.8.04) 作者:椋鳥

序章 不毛な世界でただ一人、光輝なる墓標を打ち立てる

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

15/62

4 在りし日を知る者-2(回想)

***


 七年前の某日、某所。

 遠く山向こうの空に十字の光が浮かび上がった。それは星力レリックの発現に違いなく、遠方であるこの地まで伝わってくる震動に、ラグリマは威力の程を推測して感嘆の声を発した。

「あんなの・・・・・・一体どんな技を使ったら・・・・・・」

「あのいけ好かない神官パルチザンの仕業でしょ?神殿の奥義か何かよ、どうせ。私ならもっとスマートに星力レリックを集束してぶつけてやるのに。あいつの気障ったらしい性格と同じ。見た目だけ派手で、効率が悪いったらないわ」

 空色の髪の少女がそう断じて、仲間であるところの不死の神官パルチザンをこき下ろした。一行は登山の途中にあって、少女もラグリマも大きな荷を背負っての行軍であった。

「でも。人間の身であの規模の星術アーティファクトを制御できるのは凄いよ。おれなら一発でガス欠になって、動くこともできなくなりそう・・・・・・」

「あんたって、本当に御目出度いわね。あんな技を使ったら誰だって体が持たないわよ。何であいつが<不死アンデッド>だなんて呼ばれているか、知らないわけ?」

「あらゆる死地より生還してるから、じゃないの?」

 ラグリマが通り一遍な答えを用意したので、空色の髪の少女は呆れたという素振りで額に手をやった。どうやら採点に値しなかったようだと理解したラグリマは、自分に全ての荷を預けて隣を身軽に歩いているエルフの姫へと話を振ってみた。

「間違ってたかな?」

「ふむ。ラグはほとんど共闘の経験がないのであったな。あれは東部では以前から名を馳せていた。必然的に魔獣ベスティア相手で一緒になることも多く、私は頻繁に背を預けた。・・・・・・あれは敵に寄生して星力レリックの供給を受ける。つまり、宿主たる敵がいる限りは無限に戦い続けられる道理だ」

 <燎原姫プリンセスオブブレイズ>は言って、不快を表明するかのように眉根を寄せた。

「敵に・・・・・・ということは、魔獣ベスティア星力レリックを盗み取っている?そんなことが可能だって?」

「実際に出来ているからな。前提だが、あれは魔族だ」

「えっ?」

 ラグリマはあんぐりと口を開けた。

「魔族は見た目、我らエルフやそなたら人間とさして変わらない。肌が少々浅黒いのと、大多数が黒髪黒瞳で生まれてくる程度しか外見的特徴が見られない。そのくらいは知っているな?」

「え、ええ・・・・・・」

「魔族は血族ごとに特有の星術アーティファクトを有している。私が知っている限りでは、肉体の超回復であったり炎撃の強化であったり。あれの場合、たまたま星力レリックの吸引がそれに当たったのであろうが・・・・・・正直、気味が悪くて好かぬ」

 言って、エルフの姫は大股に先を急いだ。空色の髪の少女はラグリマの横につけ、「そういうこと」と囁いて<燎原姫プリンセスオブブレイズ>の正答を証明した。

星力レリックを現地調達できるようになれば、戦闘時間はいくらでも引き延ばせる。・・・・・・凄い能力だ。教えて貰えないかな?」

「・・・・・・止めておけ」

 二人の後ろを歩く仮面の竜騎士ドラゴンナイトが言った。彼には騎乗すべき竜がいるのだが、何を考えてか徒歩行軍に付き合っていた。仲間であるところの大剣豪や妖精族の始祖女王からは、「常に仮面を被っていて取っ付きにくい」と敬遠されており、結果的にラグリマは彼と作戦行動を共にすることが多かった。同じくラグリマとチームを組むことの多い空色の髪の少女などは、「実は私のファンなんじゃないの?・・・・・・だとしても、素顔が不細工かもしれないから全然嬉しくはないけど」といった陰口を叩いていた。

「やっぱり無理ですかね?おれ、全然器用じゃないし」

 ラグリマは振り返り、背後で歩を進める仮面の竜騎士ドラゴンナイトへと苦笑いを返した。

「君のような天才ならば、習得は難しくない。あの男は、元より凡才だからな」

「えっ?もしかして、お二人は付き合いが長かったりするんですか?」

 ラグリマの問いに、空色の髪の少女は素知らぬ振りをしつつ、興味深げに答えを待った。しかし、仮面の竜騎士ドラゴンナイトは自分と不死の神官パルチザンの関係値については言及せず、<不死アンデッド>のからくりについて説明を始めた。

「固有能力の体得に際しては、必要条件がある。自らの臓器や感覚器官を星術器具と入れ替えるのだ。魔族は人間やエルフより少しだけ耐久力に優れるので、その分だけ外科手術で生き延びる確率も高い。得られる能力は星術器具の特性や入れ替えた部位によって、極僅かではあるが作為も可能だ。この技術や知識は血族間で絶対の秘奥とされ、一子相伝の技として継承されている」

「・・・・・・要するに、どこぞの魔族をふん縛って技術や知識を得て、手術に成功すれば能力が手に入るってわけね?」

 空色の髪の少女が割り込んで訊ねた。

「それで半分だ。後天的に超常の星力レリックなり星術アーティファクトなりを扱うものだから、生命力アニマに掛かる負荷が尋常ではない。そうだな。さきほどの十字の光。あれほどの星力レリックを放出したからには、急いで補給を実行した筈だ。あの男も相当に消耗したことだろう。一年といったところか」

「何の期間です?」

 ラグリマが純粋な疑問としてぶつけた。

「寿命だよ。威力から適当に推量しただけだが。失った分の星力レリックの吸引という強力な技を行使した代償として、あの男は今日だけで一年相当の寿命を削ったということだ」

 仮面の竜騎士ドラゴンナイトは表情が隠れており、声色に特段の変化も認められない為、ラグリマははじめ真剣な話だとは思わなかった。しかし、彼の言葉をよくよく噛み砕いてみるに、随分と不穏な発言内容であると心胆寒からしめられた。空色の髪の少女ですら、軽口を控えて押し黙った。何故なら、不死の神官パルチザンはここ数年で目覚ましい活躍を見せており、その度に寿命を献上していたのであれば、彼の収支が現在どれほどのものであるか、想像するだに恐ろしかったからである。

 三者は黙々と歩みを進め、それぞれ三様の思いを巡らせていたものだが、空気の重さを感じ取ってか<燎原姫プリンセスオブブレイズ>が歩速を緩めて再び合流した。彼女には体重という概念が存在しないものか、靴音を立てることはおろか砂利の一つも転がせることなくステップを踏んでいた。

「こら。あまり若人を脅かさない。魔族の生命力アニマや耐久性と、人間のそれとをごっちゃにして論じても無意味な話よ。ラグも近視眼的に物事を捉えないで、もっと地に足をつけて修練を積んでいればいいの。わかった?」

「はあ。・・・・・・その、おれの継戦能力がもう少し向上すれば、それだけみんなに楽をさせてやれるのに、と思って。痛いッ?」

 例に漏れず、空色の髪の少女がラグリマの後頭部をぽかりと殴った。

「あんた如きが戦況を左右するだなんて、思い上がりもいいところよ!持ち歩ける剣の数なんてたかが知れてるんだから、いくら星力レリックを賄えたってスコアが二、三匹増えるだけの話だわ」

「そういうこと。自分だけ焦ったって仕方ないでしょう?呉越同舟になったからには、皆がもう一心同体なのだと思いなさい。自分にないものは誰かが補う。チーム戦はそれでいいの」

 <燎原姫プリンセスオブブレイズ>は言い切り、白く細い指でラグリマの黒髪を軽く梳いた。空色の髪の少女は横目でその様子を窺っているが、口にしたのは別の男の話であった。

「そにしても、私はあいつとは組みたくない。魔族云々はどうでもいいけど、空かした態度がどうにも気に食わないわ」

 空色の髪の少女は遠くの稜線を眺め、山向こうで別働隊として戦っている不死の神官パルチザンの仕草を思い返すと、うんざりという表情を作った。<燎原姫プリンセスオブブレイズ>も「同感。直ぐに閨に誘ってくるあたり、あれには軽薄な印象しか持てない」と酷評した。

 居たたまれなくなったラグリマは後ろを振り返り、仮面の竜騎士ドラゴンナイトに少しの擁護を期待した。心なしか、仮面の竜騎士ドラゴンナイトの位置取りがエルフの姫に近過ぎるようにも思われたが、ラグリマは敢えて指摘しなかった。

「案ずるな。あの男はああ見えて仲間思いだ。おまえ達が死に瀕するような事態を迎えた時、魔獣ベスティア生命力アニマを奪ってでも分け与えるだろう」

「それ、最悪の例えよ」

魔獣ベスティア生命力アニマですって?おええ・・・・・・絶対いらないわ、あたし」

 エルフの姫と空色の髪の少女はげんなりし、足早に竜騎士ドラゴンナイトと距離をとった。ラグリマは吹き出しかけたが、仮面の竜騎士ドラゴンナイトがどのような心理状態にあるかも分からなかったので、笑いを必死に我慢した。

 登り道の前方から、小さな爆発音と共に土煙が上がった。先行している闘士スレイヤーたちが魔獣ベスティアと遭遇した模様で、全員が引き締まった表情を見せた。仮面の竜騎士ドラゴンナイトはどういった技か竜を呼び寄せたようで、中型の飛竜が空から勢いよく降下してきた。<燎原姫プリンセスオブブレイズ>は斜面を小走りに駆けて行き、空色の髪の少女はラグリマへと溌溂に声を掛けた。

「行くよ!魔獣ベスティアなんかの生命力アニマを付与されたくなかったら、死ぬんじゃないわよ!」

「了解だ!」

 二人は山道の地面を強く蹴り、エルフの姫に続いた。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ