挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
魔獣と滅びゆく世界の戦記 ※章立てにより改題(2017.8.04) 作者:椋鳥

序章 不毛な世界でただ一人、光輝なる墓標を打ち立てる

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

13/62

3 神の名を冠した獣-4

***


 白面に率いられたハルキス救世会派のスレイヤーたちは、ヴィシスに到着するなり数の力で霊獣を打ち倒した。そこにラグリマが遭遇した幻獣の姿はなく、リージンフロイツやラグリマがそうしたように、霊獣が現れては駆除して、という消耗戦が繰り返された。

 白面は百に届かんとする戦力をよく統率し、一戦交える度に三分の一の闘士スレイヤーに休息を取らせ、交代制でもって継戦能力の保持を図った。土魔神アースデビルと呼ばれる土塊の巨人といった外見をした霊獣が地団駄を踏んで暴れると、白面は手下たちに距離を取らせて包囲し、槍の投擲なり弓なり星術アーティファクトなり中距離攻撃での殲滅を命じた。

 闘士スレイヤーたちの猛攻に耐えきれず、土魔神アースデビルはただ力任せの突進で抗った。そして闘士スレイヤー二人を全身崩壊の巻き添えにして倒れた。

「負傷者とチーム・ドライは下がりなさい。基地ベースに戻ったら、急いでチーム・アインスをこちらへと寄越すように」

 蒼い長衣の袖を振り、白面は次の戦闘への備えを指示した。五匹の霊獣を撃退しているも、味方の被害は二桁を超えていた。負傷者も捨て置けない水準に達し、根比べの様相を呈し始めていた。

 ちょうどそこにレーゲンドルフからの援軍が到着した。白面は徒歩で近付いて来る十一人を一瞥し、仁王立ちのままで待った。

「待たせた。湖に寄り道をしてな。即時戦闘状況に突入するとみて、馬は基地に繋いできた。たいそう派手にやっているようだな」

 獲物たる金属製の棍棒を手にし、いつでも戦闘に参加できる構えのド・ゴールが、白面へと親しげに声を掛けた。

「神獣が出て来るかどうかは賭です。出て来さえすれば、私の術で言うことを聞かせましょう。その為に、面白くもない戦闘指揮に専念しているのですから」

「・・・・・うむ。だが、そう簡単に事が運ぶとは思っていない。何といっても、奴等の力は人智を超えているのだからな」

「それ故の備えが貴公でしょう、<要塞フォートレス>殿?」

「その通りである」

「それで、寄り道をして何か収穫はありましたか?」

「ウルランドの領主が遣わした闘士スレイヤーたちが、亜獣の群を討伐していた。亜獣ではあったが、相当数をさばいた手際を見るに、腕は立つ。間もなくここを訪れよう」

「左様ですか。危急の際には対処をお願いします」

「うむ」

 レーゲンドルフ公国で幹部待遇にある闘士スレイヤーの二人は短いやりとりで意思の疎通を終え、それぞれが魔獣ベスティアに対するべく持ち場についた。通例であれば間を置かずに新たな霊獣が姿を見せるはずで、その点白面やド・ゴールに油断はなかった。

 白昼に、耳をつんざく轟音が鳴り響いた。一本の稲妻が天を走り、ヴィシスへと落ちた。

 すわ何者かによる襲撃かと、闘士スレイヤーたちは色めき立った。白面は星術を展開して様子を探り、ド・ゴールは重装兵団に周りを警戒するよう発破をかけた。そして、見た目に獰猛な四足歩行の獣が村の中央に忽然と現れた。

『不遜ナリ。不遜ナル者共ニ、我ガ神雷ニヨル裁キヲ下ス』

 全身が黄金色の体毛に覆われていて、獅子や虎を思わせる野性的な顔面に露出している肌は漆黒であった。猛禽類を思わせる威圧的な目に鋭い牙や爪。竜を連想させる巨躯は敵を探すかのように滑らかに捩られ、居合わせた闘士スレイヤーたちに恐慌を起こさせるに十分なプレッシャーを発していた。

 神獣の来襲であった。

 そうして、閃光と共に近隣一帯が雷撃の嵐に見舞われた。その場に詰めていた闘士スレイヤー十八名が、ただの一発で黒焦げとなった。

「出たぞ!雷撃に備え、各自星力レリックで防御を堅めつつ進め!」

 ド・ゴールは部下である重装兵団十人と、手近な闘士スレイヤーたちに指示を下した。その間に白面は村内を疾走し、神獣の下へと急行した。闘士スレイヤーたちの統制は早くも失われつつあり、それもそのはず神獣と正面から戦うような戦術など始めから用意されていなかった。

 一度雷撃で身の回りを薙ぎ払って後、神獣は目立って動きを見せなかった。それは近付いてくる複数の人影を認識しており、悠々待ち受けているからに他ならなかった。

「神獣よ、私の目を見なさい!こちらに戦う意思はありません!あなたと、話がしたい」

 白面は倒壊した家屋の屋根を伝って神獣の側へとたどり着いていた。そうして雄々しき神獣の頭を見上げて呼び掛けた。あろうことか、白面の隣には幻獣・白獅子ホワイトライオンが寄り添うようにして付き従っていた。

 神獣は茶色がかった黒い瞳で同胞をじろりと眺めた後、面の半分が外されて覗く白面の表情を観察した。白面の左目は星力レリックの顕現として鈍い赤光を灯していた。

『我ガ眷属ヲ隷属サセルトハ。成ル程、ソノ目ハ奇貨デアルナ。不遜ナリ、人間』

「竜族や鬼族をも虜とする術眼アートアイズです。相性にもよりますが、同族以外にはよく効くので重宝しています。・・・・・・が、流石に抵抗しますか」

 白面は額に汗して目を細め、自身の秘技が神獣を操るに至っていない現実に落胆を露わにした。それでも無効化まではされていない感触を得ており、ぎりぎりのところで踏み止まっていた。

 遅れて到着したド・ゴールたちは、神獣と相対している白面の苦戦を目の当たりにした。百戦錬磨の重装兵団は気圧されこそすれ取り乱したりはせず、上司たるド・ゴールの命令を待った。ド・ゴールは白面の能力の一端を聞かされていたので、白獅子ホワイトライオンを帯同させていることや、無形の力で神獣と対決している状況をあっさりと受け入れた。

(均衡の崩れた時が出番であるな。勿論、このまま神獣をコントロールできるならそれが良し。・・・・・・そんなことにはならぬであろうが)

 白面と神獣との睨み合いは続いた。五体満足なハルキス派の闘士スレイヤーも神獣を遠巻きにして集まり、ヴィシスの戦闘員たちがこの場に集結を見た。

 いきなり、白面の体がぐらりと揺れた。そのまま気を失ったように仰向けに倒れるが、そこへ白獅子ホワイトライオンが滑り込んで、自らの背をクッションとして無防備な白面を受け止めた。

「総員、攻撃を開始せよ!」

 ド・ゴールが声を張り上げるのと、神獣が雷を発生させる素振りを見せたのは同時であった。ヴィシス村の中央一帯はまたも白光に包まれ、激しい雷撃が戦場を埋め尽くした。星術アーティファクトで障壁を構築ないしは耐性を強化した者とて、雷撃を相殺しきれずに打たれて沈むケースが頻出していた。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

 雷撃を軽傷で過ごしたド・ゴールは、単身神獣へと突っ込んだ。そして、星力レリックを存分に乗せた棍棒を思い切り叩きつけた。

「なにッ?」

 神獣は身軽に跳躍してそれをかわすと、今度はド・ゴールを狙って光線を放出した。咄嗟に大盾で直撃を避けたド・ゴールであったが、圧力までは殺せず遠くに弾き飛ばされた。

 神獣は攻撃の手を止めず、自身を中心として中距離にわたって大きな星術方陣を描いた。それは瞬時に効果を発揮し、まずは地面の至る所から石造りと思しき亜獣が湧出した。石製の小鬼に石製の烏、石製の猪など、様々な形態を持つ石魔ストーニーと呼ばれる亜獣であった。さらに、廃材からは枯れ木の化け物といった面相の亜獣、樹魔ドライアドが誕生していた。

 神獣は四足を開いて地面に踏ん張り、咆哮を上げて星力レリックを高め始めた。それは雷撃の予備動作に他ならず、起き上がったド・ゴールが血相を変えて叫んだ。

「次の雷撃が来るぞッ!」

 眩い閃光。そして天を割らんばかりの轟音。三度広範囲を襲った強雷に、スレイヤーたちは為す術なく倒れていった。それに加えて、生き残った少数の闘士スレイヤーへと数十匹もの亜獣が攻撃を開始した。

 そんな悪夢ような光景を前にしても、ド・ゴールは一人戦意を高揚させたまま棍棒を振るった。よく練られた星力レリックを全身と武器に行き渡らせ、飛び掛かってきた石魔ストーニーを一撃の下に破砕する。樹魔ドライアドが伸ばしてきた先端の尖った枝を盾で押し返し、接近しては本体を踏み潰す。

「まだだ!重装兵団たちよ、意地を見せよ!ここで神獣に好き勝手やらせたら、某たちは単なるテロリストとして歴史に悪名を残しかねんぞ!」

 ド・ゴールが渇を入れたことで、残る七人の重装備をした闘士スレイヤーたちは星力レリックを燃やして動き始めた。元々実力的に上位の闘士スレイヤーであり、ハルキス派の一般の闘士スレイヤーとは積み重ねてきた鍛錬も覚悟の質も違っていた。

 ド・ゴールは亜獣の相手を重装兵団の面々に任せ、自身は神獣を標的と定めて走った。雷による全体攻撃を何とかしなければじり貧で、接近戦で神獣の手数を封じる必要に迫られていた。

(奴は・・・・・・動けんのか?)

 ド・ゴールは走りながら横目で白面の状態を確認するが、神獣から距離を置いて控える白獅子ホワイトライオンと背負われている白面には、少しの動きも見られなかった。ド・ゴールからすれば、この苦境下においてかの幻獣一匹が味方として戦闘に加わることは、戦況を大きく左右するように思われた。

 ド・ゴール再度の攻撃はまたも神獣に避けられ、反撃の光線で強かに胸を撃たれた。光線は星力レリックによる防御をも突き破り、赤銅色の甲冑は胸部が弾け飛んだ。重く強烈な衝撃に流石のド・ゴールも立ち眩みを覚え、続く神獣による体当たりをまともに浴びてしまった。

「ぐおッ?」

 吹き飛ばされ、半壊した家屋に叩きつけられたド・ゴールは、さしもの頑丈な肉体といえど全身を襲う激痛に耐えきれず呻き声を上げた。重装兵団の一人が樹魔ドライアドの枝に足を絡め取られ、石魔ストーニーたちに寄ってたかって殴られて壮絶な最期を迎えた。残る六人は必死に抗戦を続けていたが、彼ら以外に動いている闘士スレイヤーの姿はなかった。

 よろよろと立ち上がるド・ゴールであったが、自軍の著しく不利な状況を看過し得ず、己の犠牲だけでどうにか重装兵団だけでも下げられないものかと思案した。

(これだけの兵力で臨んで、こうも簡単に・・・・・・!神獣を抑止するなどと、一体どの口が吐いたものか。恥ずかしい話である!)

『我ガテリトリーヲ執拗ニ侵シテクレタカラニハ、コノ地ヲ治メル汝ラノ主ト、失ワレタ我等ガ眷属ニ千倍スル人間ノ命ヲモッテ、購ッテ貰ウ』

 神獣が不穏な口上を述べ、ド・ゴールは気力と星力レリックを振り絞って前に出た。

「・・・・・・そうはいかんぞ、獣。この村に挑んだはレーゲンドルフの闘士スレイヤーである。責は某にあるのだから、無関係な殺生など絶対に許さん!」

『死ニ行ク汝ニ、ソレヲ咎メ立テサレルイワレハナイ』

「ほざけ!」

 ド・ゴールは棍棒を横に薙ぎ払うも、やはり大振りでは神獣を捉えきれず、三度光線の餌食にならんとした。その時、割り込むようにして氷の散弾が飛来した。

 神獣は光線の発射を中止して、散弾に対する防御障壁を展開した。威力がさほどではなかったため、散弾の全てが光輝く障壁に阻まれて消えた。

 ド・ゴールが振り返るとそこに、星術アーティファクトを仕掛けた朧月夜と彼女に並ぶリージンフロイツの姿が認められた。リージンフロイツの手には樹霊剣ウッドソードが握られており、剣身は淡い翠色に発光して星力レリックを誇示していた。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ