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魔獣と滅びゆく世界の戦記 ※章立てにより改題(2017.8.04) 作者:椋鳥

序章 不毛な世界でただ一人、光輝なる墓標を打ち立てる

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3 神の名を冠した獣-3

***


 リージンフロイツの剣技は秀逸で、ステップを踏む度に位置を変えては蛙猿種エイプを翻弄し、よく体重が乗った鋭い斬撃で着実に亜獣の命を奪っていった。朝早い内から蛙猿種エイプ幽霊種ファントムの亜獣混合勢に遭遇し、それでもラグリマは冷静に味方を動かして見せた。

 朧月夜とシャマスには星術アーティファクト幽霊種ファントムを迎撃するよう命じ、二人はそれに応えて敵を圧倒した。リージンフロイツは切り込み役を全うし、討ちこぼしの蛙猿種エイプはシスティナの槍の餌食となった。亜獣五匹を早々と制圧した一行は自信を付け、その後も会敵する度蛙猿種エイプなり幽霊種ファントムなりを難なく退けた。

 亜獣討伐二日目にして、一同はラグリマが自分たちにどのような役割を割り振ったものかよく理解できた。戦闘巧者なリージンフロイツは前陣に置かれ、速攻を任される。遠近どちらの戦闘にも柔軟に対応可能なシャマスは前・中陣に配され、多くの星術アーティファクトに通じた朧月夜は後陣へ固定。修めた技こそ確かなものの、義肢に一抹の不安を抱えるシスティナは、中位置より前陣・後陣双方の支援に回る。

 適正配置だけでなく、ラグリマが個別に攻撃を指示するタイミングにこそ妙があった。これは彼が魔獣ベスティアと戦い続けてきた証であり、蛙猿種エイプにせよ幽霊種ファントムにせよ、動きの癖を完璧に把握していなければ出来ない芸当と言えた。怪我の一つもなく討伐を続けられていることを、シャマスなどは「奇怪なれど、幸甚なり」と評した。

 湖を周回し、ダムや水路の無事を確認していた一行は、湖畔でまたも亜獣の群に接触した。蛙猿種エイプ幽霊種ファントムがぞろぞろと集まり出していた。

「そろそろ二十は片付けた筈よね。想定以上の数が侵入していた、というところかしら?」

 言って、リージンフロイツは樹霊剣ウッドソードを鞘から抜いた。ラグリマの助言により本来の力は使用が控えられ、樹霊剣ウッドソードはただの剣として扱われていた。

「四の五の六の・・・・・・八匹ですねー。ラグ、吹き飛ばすので合図をください」

 朧月夜は顔に似合わず眼光を鋭くさせて言ったが、ラグリマは「無駄に体力を消耗させる必要はない」と返し、リージンフロイツとシャマスに突撃を命じた。その二者であれば、剣に星術アーティファクトを巡らせてファントムを切り払うに不足はなく、下手に突出さえしなければ不覚をとる心配もなかった。

 追加でシスティナを動かしたものか迷っていたラグリマの耳に、聞き慣れぬ微かな馬蹄の響きが飛び込んできた。

(騎馬隊?騎士団は機能不全に陥っているんじゃなかったか・・・・・・)

「待て!集合してくれ」

 ラグリマは戦闘の中止を決断し、戦闘態勢に移行していた仲間たちを近くに招き寄せた。それを傍観する亜獣ではなく、ラグリマたちの事情などお構いなしにバラバラと向かってきた。

「ラグ殿。どうしました?敵が迫ってきましたが・・・・・・」

 切迫したシスティナの声はしかし、どんどん大きくなる騎馬行軍の足音にかき消された。リージンフロイツは前方の亜獣に対してだけでなく、直に正体を現すであろう謎の部隊にも注意を向けた。

 ついに、重甲冑で武装をした闘士スレイヤーの先導する騎馬部隊が、亜獣とラグリマたちの間に割り込む形で颯爽と到着した。数は十騎。皆がバラバラの重武装であることから、正規の騎士団などではないと一目見ただけで分かった。

 そんな新手に遠慮などなく、無粋にも亜獣たちはそのまま襲い掛かった。朧月夜は急展開にも落ち着いた素振りで、ラグリマの装束の端をつまんでくいくいと催促するように引いた。

「待機だ。奴等が突破されたら、各個に迎撃する」

 それだけ言って、ラグリマは戦場を睨みつけた。

 まず動いたのは、明らかに重量過多の、赤銅色の全身甲冑に身を包んだ巨漢の闘士スレイヤーであった。騎馬部隊を率いていたその闘士スレイヤーは、手にした金属製の巨大な棍棒を、予備動作なしで大きく振り抜いた。重さと速度とを兼ね備えたその一撃は、蛙を模した蛙猿種エイプの頭部を瞬時に粉砕した。返すもう一振りがさらなる蛙猿種エイプを擦り潰した。騎乗した他の闘士スレイヤーたちも各々が武器を振るって寄せてきた亜獣と対決し、危なげなく敵を殲滅して見せた。

(練度は十分なようだ。あのでかいのは、名が知れた闘士スレイヤーだろう。動きのレベルが一段違う)

 亜獣を返り討ちにした騎馬の部隊は、緊張状態を維持したまま、ラグリマたちに近寄ってきた。ラグリマはここではじめて自分が先頭に立ち、四人を背後に庇う態勢とした。相手の先頭はやはり赤銅色をした重甲冑の闘士スレイヤーで、近くまで来ると兜の下に覗く意外な素顔が明らかになった。迫力あるシルエットに比して目鼻立ちに愛嬌があり、申し訳程度に生やされた口髭がなければ穏やかな中年紳士と見えないこともなかった。

「貴殿らは、ウルランドの闘士スレイヤーであるか?」

「そうだ。領主であるシスティナ様より依頼を受けて、ギルドから派遣されて来た。お前たちは何者だ?」

 ラグリマは眼前に聳えるようにして立つ巨体を前にしても、平常心を乱すことなく問いを返した。重甲冑の闘士スレイヤーはその態度を見るなりにやりと笑みを浮かべた。

「某は、ド・ゴール・ゼンダイン。今はレーゲンドルフ公の世話になっている。所謂食客という奴だ。こやつらは公の私兵たる重装兵団。主命により、ウルランドの救援に駆けつけた次第」

 ド・ゴールの名乗りを受け、ラグリマ以下の全員が反応を示した。中でもリージンフロイツは声に出し、今一度彼の発言を問うた。

「ド・ゴール・ゼンダインですって?元レイフィギュア連邦の<要塞フォートレス>?あなたが?」

「如何にも。代表者は・・・・・・貴殿ということで良いのか?話がしたい」

 ド・ゴールはリージンフロイツではなく、ラグリマを見下ろして言った。その様子から一触即発の事態にはなりにくかろうと、シャマスは一先ず迎撃の構えを解いた。システィナなどは<要塞フォートレス>の名を聞いて固まっており、それも無理なからぬ話で、当代における北西域最強の豪傑として、彼の武威は世界に鳴り響いていた。

 レイフィギュアは複数の小国が寄り集まった連邦国家で、軍国主義に傾倒した結果西方では覇を唱えていた。その中心にいたのがド・ゴールであり、周辺諸国にとって彼の武力は脅威であった。だが三年前、中核国家が神獣との戦に敗れたことをきっかけにして連帯は脆くも崩れ去り、レイフィギュア連邦は解散に至っていた。

 ラグリマは怯む影すら見せず、ド・ゴールに面と向かって応じた。

「言ってみろ」

「ヴィシス村に向かう道中、この地に亜獣の大群が出現したと聞いて駆けつけてみた。だがどうしたことか、着いてみれば亜獣はあらかた倒されていた。そして貴殿らを見かけたというわけだ。辺りの亜獣を征伐したのは、貴殿らで間違いないか?」

「ああ。ヴィシスに何の用があったかは知らないが、もうお引き取りいただいて結構だ。あとはウルランドの人間で片を付ける」

「某も人に仕える身。そうもいかんのだ。この地より魔獣ベスティアが払われたことは誠に愉快な話であるが、本命はヴィシスに存在している」

「<要塞フォートレス>よ。ヴィシスの霊獣のことを言っているなら余計な世話だ。倒せば倒すだけ、ウルランドの危機は増大する」

「それは神獣の到来を指して言っているのか?だったら見当違いであるな。某やこやつらは、寧ろ神獣の暴走を止める目的でやって来たのだから」

 ド・ゴールはラグリマの機先を制して言った。その眼には一点の曇りもなく、システィナや朧月夜の目には<要塞フォートレス>の揺らがぬ自信が鮮明に映った。 

「神獣を、止めるだと?」

 ラグリマは険しい表情を見せて鸚鵡返しに訊いた。

「ああ。何も不思議な話ではないぞ。某は生涯で六度、神獣と相見えている。奴等は確かに強い。だが、別に絶対無敵の存在というわけではないのだ」

 ド・ゴールの語ったところは真実であった。彼はレイフィギュア連邦にいた時代から率先して神獣との戦闘に参加しており、討伐こそ達成していないものの、今なおこうして生存していた。

「救世会とやらが神獣を召還して何をするつもりか、正直なところ知らん。しかれども、霊獣を狩った先に現れるという神獣が敵意を剥き出しにするだけなら、某らが抑止して見せよう」

「それだけを聞くと共闘の芽もあるように思えるがな。おれたちは神獣を呼び込むこと自体を黙認しない。ここを発ったら、真っ直ぐにヴィシスへと向かう」

「そうか。取り繕っても仕方あるまい。次に会う時は敵同士やもしれんな。さらばだ、ウルランドの闘士スレイヤーたちよ」

 そう告げるとド・ゴールは馬首を回らし、麾下の重装兵団を率いてラグリマたちの前から立ち去った。予期せぬ強者の登場に、システィナ以下は毒気を抜かれてしまったかのように息を潜めていた。

 ラグリマは辺りに亜獣の気配がないことを確認し、朧月夜に星術アーティファクトの協業を頼んだ。

「少し広範囲を索敵しよう。魔獣ベスティアの影が無いようなら、こちらもヴィシスへ移る」

「了解ー。ラグは、あのおじさんを怖がってないみたいです。普通に反抗的でしたし」

「やり合う空気じゃなかったからな。それにいざ神獣との戦いが避けられない事態に陥ったら、ああいう輩はそれなりに役に立つ。怖がるどころか、有り難い話さ」

「ふうん。凄く冷静です。大人ー」

 朧月夜は軽口を叩き、ラグが発動するのに揃える形で偵察用の星術アーティファクトを展開させた。シャマスは術を起動させている二人を守るべく、黙々と周囲の湿地を警戒した。システィナとリージンフロイツは<要塞フォートレス>に対した重圧から長らく解放されず、めっきり口数を減らしていた。

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