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二千年後の決闘

作者: いなばー

 時を遡る事2000年、この地がヤマトあるいは倭と呼ばれていた頃、我は薄汚い謀りごとによって命を失った。

 そして今、我は再び生を受けた。我の魂が、今の世を生きる和哉という者の中で、にわかに目覚めたのだった。

 17才にもなろうというのに、幼子のようなこやつの魂を取り込むのは、3日もあれば事足りた。

 今の世の事なども和哉の魂から知り得た我は、すぐさま動き始めた。

 忌々しい、アヤツも黄泉返っているのだから。


 我は駅前から歩いて3分のところにある、ゲームセンターの前にいた。

 我が目覚めた場所だ。

 目覚めてすぐは、意識はまとまりを得ずになにも分からなかったが、今なら思い返せる。

 我の黄泉返りは、アヤツとの接触で引き起こされたのだ。

 我がゲームセンターを背に立ちはだかっていると、急に背後から声がした。

「久しいな、ホダチヒコ」

 我が名を知る者は、今の世には一人しかいない。

 我は振り返る。

「ホカヤヒコ、相変わらず我の後ろを取るのだけはうまい」

 忌々しい、我を殺した張本人がそこにいた。

「ふん、跡継ぎ争いに、手立てを選ぶ方がどうかしている」

「なにをぬけぬけと!

 もはや言葉はいらぬ、お主を殺して我の2000年の恨みを晴らさせてもらう」

 我は、事前に買っておいた金属バットを突き出す。

「まぁ待て、ホダチヒコ。今の世を見よ、『平和』というそうだ。今の世にこうして巡り会ったのも何かの、縁。今の世のやり方に従ってはみないか?」

 ホカヤヒコはそう言うと、ゲームセンターの奥へと入っていった。

 そこにはそう、クレーンゲーム機が並んでいた。

 我に取り込まれた和哉の部分が危うく顔を出しかける。和哉の奴はこのゲームが、ことのほか好きだった。

「2000円だ。

 ちょうどここに同じぬいぐるみを取る『マシーン』が2台ある。

 2000円でどちらがより多くを取れるか、それを競おうではないか」

 我は怒りを通り越して呆れかえってしまった。

 しかしその一瞬の隙を突いて、和哉の部分が大きくなった。

「よし、やろう。真剣勝負だ」

 我は知らずに口に出していた。

 もはや仕方がない。口に出した言葉は取り消さない。それが我の心の掟だった。

 今、駅前のゲームセンターで、2000年越しの決戦が行われようとしていた。


 この際やむを得ない。クレーンゲームに関しては和哉の部分に頼るほかない。

 500円玉をマシーンに投入し、1回目のゲームが始まる。

 ぬいぐるみはデフォルメ化されたクマ。頭が大きく、体は小さく薄い。

 まずはぬいぐるみの重心を見極める。頭の中心辺りを狙ってクレーンを操作する。

 クレーンは下降をはじめると、しっかりとクマの頭を掴む。クレーンの力は弱くないようだ。

 クマの頭を掴んだままクレーンは上昇し、無事にゴールへとクマを落とす。

 まずは1個。

 しかしここで油断は禁物なのだ。繊細な動作を要求されるクレーンゲームにおいて、慢心は最大の敵だった。

 そう分かっていながら、和哉の奴は続けざまにぬかりよった。やはりこやつは惰弱である。

 一方のホカヤヒコは既に2個獲得していた。

 我は和哉の部分を締め上げる。我の心に和哉の技。2つがうまく噛み合えば勝機はあった。

 2000年の時を隔てて、分かり合うのは容易いことではなかったが、和哉にも勝負に勝ちたい理由があり、徐々に我らは通じ合った。

 4枚目の500円を投入した時点でクマの数は6個。

 しかし、我らのマシーンにはもう、取れる状態のクマがなかった。

 一方のホカヤヒコのクマは5個。しかしまだ取れる余地が残っていた。

 わずかずつクマを動かし、好機を探る我ら。

 その横でホカヤヒコのクレーンはクマを2つ掴んだまま上昇を始めていた。

 嘘だろ?そう叫んだのは、和哉の部分だった。

 クレーンはゆっくりとゴールへと向かう。しかしクマは少しずつずり落ちている。

 ゴール直前、ついにクマがクレーンから外れる。

 しかし、なんということだ。2つのクマはゴールの縁に落ちると、そのまま中へと落ちていった。

 それと同時に、最後のゲームを空振りで終える我ら。

 途端に我は頭に血が上り、金属バットを振りかぶった。

 そしてホカヤヒコ目掛けて振り下ろす・・・

 はずが、我の腕は振りかぶったまま固まっていた。

 カラン、と空虚な音をして地面に転がる金属バット。

 脆弱なはずの和哉が我を抑え込んだのだ!

「またも我の勝ちというわけだ、ホダチヒコ。また闘おう。『平和』にな」

 そういうと、ホカヤヒコは口の片端を上げて笑った。

 その直後、パチパチと2回瞬きをすると、急に顔の表情が変わった。

「カズヤくん、だったっけ?今日は私の勝ちね。また勝負しよ、ね」

 その黒髪の少女は言い終わると小さく舌を出し、軽い足取りでゲームセンターを出て行った。

 それをだらしなく見送る和哉・・・いや我か・・・もはや分からなくなっていた。

 認めねばならない。

 我自身、その少女を一目見た時から、惚れてしまっていたことを。

     

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、一気に拝読♪  面白いですね、すぐに引きこまれましたよ。 これからも応援しています^^
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