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53話「漬物事件」

 

 前回のあらすじ。雑巾がけレースを敢行した俺と一輪は調子に乗って廊下を爆走した。数々の障害物を退け、ゴールを目指す俺たちだったが、最後にあらわれたお邪魔キャラ雲山の妨害に遭う。しかし、俺たちの協力技によって見事、雲山を撃破することに成功した。吹き飛ぶ雲山。だが、その行先には今、まさにトイレから出てこようとドアを開ける白蓮の姿があった。

 

 「ふう、スッキリしまし……」

 

 雲山の巨体が白蓮に迫る。もはや衝突は避けられないのか。白蓮は! 厠のドアを! 勢いよく! 開け放った!

 

 「たァッ!」

 

 パチコーン!

 ドアと壁の間でサンドイッチにされた雲山。それでは、判定映像でもう一度ご覧ください。

 

 「たァッ!」

 

 パチコーン!

 

 カメラワーク:正面(廊下側から)

 

 「たァッ!」

 

 パチコーン!

 

 カメラワーク:右(庭側から)

 

 「たァッ!」

 

 パチコーン!

 

 カメラワーク:左(建物の壁側、挟みこまれる雲山のドアップ)

 

 「たァッ!」

 

 パチコーン!

 

 カメラワーク:上(頭上から)

 以上、判定映像でした。いやー、見事なフィニッシュ。これは高得点だあ。

 

 「あら、葉裏さん、一輪、おはようございます」

 

 白蓮は何事もなかったかのように厠の扉を閉めた。壁にめり込んだ雲山に気づいていないのか、一瞥もしない。呆然と立ち尽くす俺たちの間を、いつもの笑顔で白蓮が通り過ぎていった。

 こうして、俺たちの青春を駆けた熱いレースは、終わった。

 

 「はっ! しまった! つい場の雰囲気に流されて、私は何と言うことを……!」

 

 一輪が我に返る。その動揺を気遣うように、俺は一輪の肩に手を置いた。

 

 「いや、一輪。俺たちは何も悔いることはない。俺たちはただ掃除をしただけのことさ。特大の粗大ゴミの掃除を、な?」

 

 「葉裏……ふふっ、そうだな」

 

 俺は手を差し出した。勝負の後につまらないわだかまりなどない。一輪が俺の握手を受けいれる。すがすがしい朝日の光がまぶしい。その温かな陽光に包まれ、俺たちは笑い合った。こうして、俺と一輪との友情が、またひとつ深まったのであった。

 

 * * *

 

 「葉裏、ちょっと手伝ってくれ」

 

 ある日のこと、俺が妖術符の勉強で脳内CPUをオーバーヒートさせていると、一輪が声をかけてきた。せっかくの休憩中になんだというのだ。

 

 「実はな、漬物を作ろうと思ったのだが、いつも使ってる漬物石がないんだよ」

 

 「漬物だあ?」

 

 一輪が連れてきた場所は台所の裏手だった。大きな木の桶の中には、青々としたみずみずしい夏野菜たちが並んでいる。漬物を作ろうとしているらしいが、桶の上に乗せる重しとなる漬物石がないという。

 

 「石なんてそこらへんに転がってる奴を使えばいいじゃないか」

 

 「あの石がちょうどいい仕上がりになるんだ。絶妙な重さ加減でな。いつもここに置いているんだが、今日はなぜかなくなってるんだ。あんな重いもの、自然には動かないはずだから、だれか持っていったと思うんだが。盗む価値のあるものではないんだけど……」

 

 「それで、俺になにを手伝ってほしいんだよ?」

 

 「漬物石を探してきてくれ」

 

 「はあ? なんで俺が。そういうのはナズーリンの仕事だろ?」

 

 「ナズーリンも星も姐さんの説法に付き合ってて忙しいんだよ。私はお昼ごはんの支度しないといけないし、雲山は呼んでも来ないし」

 

 「俺は今、休憩中……」

 

 「頼んだぞー」

 

 「おい! ちょっと待て!」

 

 一輪はそれだけ言うと台所にもどってしまった。しかたない。探してやるとしますか。

 

 * * *

 

 「つってもよお、俺、漬物石がどんな形でどんな大きさなのか知らんぞ」

 

 とりあえず、寺の敷地を歩き回ってみたが、それらしきものはない。いかに俺が優れた暗殺者といえども、何の手がかりもなしに探し物を見つける才能はない。

 

 「はあっ! ふんっ!」

 

 「おお、雲山。こんなところで何やってんだよ」

 

 「おお、葉裏ではないか。見てわからんか、鍛錬じゃ」

 

 漬物石を探してる途中で雲山に会った。雲山は奇声を発しながら、何かやっている。鍛練らしい。

 

 「ふうっ! このワシのっ! 鍛え上げられた肉体をっ! はあっ! さらに磨き上げるべくっ! こうしてっ! 日々鍛錬をっ! しておるのじゃっ! せいっ!」

 

 雲山は足元に置いた大きめの石に向かって、ひたすら拳を突きつけている。その気合いのこめられたパンチを受け続けた石は、ミシミシと音を立ててヒビが入り、ついには粉々に砕けてしまった。

 

 「へえ、やるじゃん、雲山」

 

 「見たか聞いたか、ワシの鍛え上げられた筋肉の調べを! ふんんん!」

 

 まあ、俺ならデコピンで粉砕できるけどな。そうだ、ちょうどいい。雲山なら漬物石のことを知っているかもしれないし、このままこいつに丸投げしよう。

 

 「なあ、雲山。一輪が漬物石を探してるみたいなんだ。お前も探してくれ」

 

 「ん? 漬物石とな? はっはっは! そのようなこと造作もない。この雲山に任せておけ!」

 

 おお、なんとも頼もしい。はじめてこいつが役に立った気がするぜ。どうせ俺が探したところで見つけられるわけないし、俺は昼食までゆっくり休んでいるとしますか。

 


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