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47話「チャレンジ命蓮寺」

 

 ナズーリンの案内で連れてこられた場所は、寺だった。

 切り立った崖に沿うようにして伸びる道を進むと、崖の上に建つ寺が一つ。この妖怪はどこに連れていく気なのだ。まさか、本当にこの寺に来たのか。この辺りには他にめぼしいところなどない。妖怪が住み着く廃寺かと思ったが、ちゃんと聖域の結界が敷かれている。

 

 「おい、もうそろそろ聖域に入るぞ。やばいだろ」

 

 「大丈夫だよ。いいから黙ってついてきて」

 

 寺とか神社とか、妖怪にとっては鬼門なのだ。聖域に入るだけで退治されても文句は言えない。俺は逃げられる自信があるが、このちびっこネズミはひどいことになること請け合いだ。

 寺についた。尼のようなそうでないような服装の少女が門前の掃除をしている。さっそく人間に見つかったって……

 

 「あるぇー? あの人、妖怪だあ?」

 

 妖力を感じる。なんで妖怪が寺にいるんだよ。

 

 「ナズーリン、急に出かけたそうだが、何かあったのか?」

 

 「い、いや、何でもないよ。それより、お客を連れてきた」

 

 「どもー」

 

 「参拝に来られた方かな」

 

 尼さん風妖怪は俺に会釈する。何がどうなってるんだ。なんで俺が神様仏様を拝まなきゃならない。

 

 「いや、どうも本格的に仏門に入りたいらしくてな」

 

 「はあ!? どゆことそれ!?」

 

 なんで勝手に仏教徒にされてんだ。そんなことを頼んだ覚えはない。

 

 「だって、法力が使えるようになりたいって言ったじゃないか」

 

 「え、それってなんか仏教的な修行しないとダメなの?」

 

 「当然だ。まあ、修行しても妖怪だから法力なんて使えないと思うが」

 

 「おいいい!?」

 

 話が違うじゃん。やっぱり、妖怪に法力なんて使えないのか。あれ、でもナズーリンは法力で人間の姿に化けてたんだよな。なんで妖怪のナズーリンは法力が使えるんだ?

 

 「あれはこの法衣に法力でまじないがかけてあったからだよ」

 

 そんな仕掛けだったのね。がっかりだよ。

 

 「まあいいや。それで、なんで妖怪のあんたらがこんなところにいるんだよ。この寺の住職はどうした? あ、わかった! 乗っ取ったんだな! 寺を丸ごと乗っ取る妖怪一味なんて、大それたことするもんだ。なんてあくどい。でも、そんなお前たちが好き」

 

 「なんだこの無礼極まりない妖怪は?」

 

 「私たちのこと、何も知らないみたいだから許してあげて」

 

 なんだ、さっきから会話がかみ合わないな。他にどう解釈すればいいって言うんだ。

 

 「ここは命蓮寺。人と妖怪を平等に救う寺だ」

 

 「は? 人と妖怪を平等に? なんの冗談?」

 

 「冗談ではない! 私たちがこうしてここにいるのが、何よりの証拠だ!」

 

 ということは、こいつらは仏教徒なわけ? いやいや、ありえないから。妖怪が仏様を信仰してどうするのよ。妖怪は妖力を食らう。妖力は負の感情に集まる。負の感情は主に人間が作り出すものだ。ゆえに、負の感情あるところに妖怪あり。これが妖怪が人の恐怖から生まれるという所以。そんな妖怪が仏にすがるとは何事か。

 

 「頭パープリンなのか?」

 

 「破ッ!」

 

 尼さん風妖怪に竹箒で頭に一撃をくらった。痛い。

 

 「どうにも胡散臭え。そんな話、にわかには信じられんな。そんなトンチンカンな考え方をする住職を見てみたいぜ」

 

 「……いいだろう。姐さんにお会いすればお前の考えも変わるはずだ。ついてこい」

 

 尼さん風妖怪に導かれて、本堂にお邪魔する。だが、その敷居をまたいで板の間に上がろうとしたときに事件は起こった。

 

 ばきっ!

 

 「あ、ご、ごめなさーい」

 

 自分の体重を考えてなかった。甲羅は表におろしてこよう。うわ、尼さん風妖怪の顔すごいな。目からビームでそうなくらいこっち睨みつけてきてるよ。おー、こわ。

 そんなちゃめっけたっぷりのハプニングもありつつ、案内された本堂の中にその人はいた。

 紫の髪は毛先に向けて金色に染まったロングウェーブ。そして、ゴスロリ風のドレスを着た若い女性だった。もう時代を超越してるよ。いや、そのあたりのツッコミ今さらなんだけど。

 しかし、こいつは変も変、超変だ。俺の『百見心眼』が告げている。まず、人間ではない。だが、妖怪かと言われるとそれも違うような気がする。なんだこの力は。ある意味、おぞましい。

 

 「あらあら、そんなにこわい顔をなさって、どうされたのですか?」

 

 その声は、感じ取れた力とは随分違い、ひどくやわらか。やさしく心をつつみこむようなあたたかさがある。なんだろう、このギャップ。

 

 「はじめまして、俺は乙羅葉裏。あんたは?」

 

 「私は聖白蓮と申します。この寺をとりまとめておりますが、大した者ではございません。どうぞ、おくつろぎになってください」

 

 「そんじゃま、遠慮なく」

 

 俺は白蓮の前にあぐらをかいて座る。側にいる尼さん風妖怪が噛みついてきそうな勢いだが、気にしないでおこう。

 

 「しかし、本当にこの寺は滅茶苦茶だな。人間と妖怪を平等に救うなんて、本気で言ってるのか?」

 

 「はい。人も妖怪も神も仏もすべて同じです」

 

 「はあ、そりゃあ大それたことを言うもんだ。その精神はスンバラシイと思うけど。実際問題、無理なんじゃないの? だいたい、信心ある妖怪なんているのか?」

 

 「ええ、この寺には人間に迫害され、肩身の狭い思いをしてる妖怪の方たちがたくさん来てくださいます。皆さん、とても信心深い方ばかりです」

 

 「俺はその弱っちい妖怪たちの方に驚きだよ。人間にやられたからって、仏様に泣きつくなんて、妖怪としての矜持はないのかと言いたいね」

 

 「それは強者の理論です。人も妖怪も等しく弱き者です。あなたの強さも相対的なものでしかありません。死や苦しみを恐れる心をどうして否定できましょうか」

 

 「まあ、そうかもしれないけどさ……俺たちは妖怪だぜ? 仏様や神様が救ってくれると思うのか?」

 

 「仏道は、仏の信心のみによってなるものではありません。煩悩を捨て心を清めることがあらゆる苦しみからの解放へ通じます。実践的な精神の調和を実現する一つの答えです」

 

 そんなことを言われてもよくわからん。というか、俺はこんな問答をしに来たんじゃない。

 


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