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33話「ゆうかりんといっしょ」

 

 「そういうわけで、俺の体は悪のマッドサイエンティスト、ドクター・エーリンの手によって改造されてしまった。俺は復讐を胸に誓い、復活の時を待って深い眠りについた。しかし、俺が目覚めた時、すでに途方もない年月が経過し、エーリンの消息もわからなくなった。俺は絶望し、この地に根を下ろし、ただ死を待つのみの運命をたどるはずだった……しかーし! そこに現れた偉大なる花の精霊ゆうかりんの力によって、俺は再び目覚めることができたのだった」

 

 「そ、そうだったんですか!」

 

 「そして、物語は急展開を迎える。ドクター・エーリンの行方を知る唯一の人物、プリンセス・カグヤ。彼女がこの時代にいることがわかった。彼女の話によれば、次の満月の夜、エーリンは人間の都に現れるという。はたして、俺は復讐をなしとげることができるのか、エーリンの真の目的とは一体何なのか、カグヤの過去に秘められた衝撃の真実……次回、最終回『放て! 闇を切り裂く拳! 死闘の終焉を越えて』。こうご期待!」

 

 「おおお! 続きが気になります!」

 

 幽香は俺の言うことをあっさり信じた。これなら月云々のことを正直に話しても信じてもらえたかもしれん。一応、俺の過去に関する話であることに違いはないので、他言無用だと言っておいた。幽香は誰にも言わないと約束してくれた。

 

 「しかし、ゆうかりんのおかげで俺はこうして正気でいられる。本当に感謝してるんだ。ありがとな」

 

 「い、いえ! 私の力は『花を操る程度の能力』です。こんなことでしかお役に立てませんが……」

 

 幽香がこの森で俺を見つけたとき、俺は全身から呪いを噴き出し、枯れる寸前まで病気が進行していたという。彼女の力はあくまで『花を操る程度の能力』。樹木である俺にも多少の応用は聞くとは言っても、専門外であることにはかわりない。だというのに、ここに住みこんで俺のために献身的な看護をしてくれたのだ。頭が下がる思いである。

 

 「でも、病気か……呪いが噴き出してたんだよな?」

 

 それについては心当たりがない。俺の負の感情が呪いとして現実化したということなのか?

 

 「今も、うっすらとですが、葉裏さんの体から呪いの気を感じます」

 

 「え? そうなの?」

 

 そういえば、なんだか目が覚めてから頭痛がするし、喉が痛いし、鼻が詰まるし、咳が出るし、風邪気味だなあと思っていたのだ。俺は病に冒されているのか?

 自分の健康不調の原因がなんなのか、調べてみる。意識を内面に向けて、病巣を探る。妖怪はよっぽどのことがない限り病気になどかからないものだ。かかるとすれば、妖怪の命の源たる妖力に原因があるはず。自身の妖力を探れば何かわかると思う。

 そして、その考えは正しかった。俺の妖力の中に異質なモノが混ざっている。ヘドロのように粘着質の沈殿物が、俺の妖力のプールの底にへばりついていた。これはなんだ。尋常でない呪いの瘴気を放っている。これだけ濃い呪いを体の中から食らっていれば、そりゃ体調も悪くなるわけだ。だが、この瘴気、なんだか見覚えがあるぞ。

 

 「そうか! これはデスフロッグの……!」

 

 月でデスフロッグの大群が人間の要塞にしかけた戦い。そこで戦死したカエルたちの屍からあふれ出した瘴気と同じものだ。しかも、あのとき見たものより断然濃度が高い。今の俺の状態は、人間にしてみれば液状の硫化水素を丸飲みしたようなものだ。よく風邪の諸症状程度で済んでいるな。

 おそらく、この瘴気は肉体よりも精神に影響する性質がある。狂気に長年耐え続けた俺だからこそ、平気でいられるのだろう。つまり、俺はウサ耳の怪電波とデスフロッグの呪い瘴気の二重苦を味あわされていることになる。なんというバッドステータス地獄。

 さらに原因を探ると、この瘴気の出どころは俺の甲羅の中にあった。要塞の内部で拾ったデスフロッグの卵である。こいつが腐ってドロドロに溶けだし、瘴気を発していた。激辛蜜柑も腐ってカビが生えたし、同じナマモノの卵もこれだけ放置すれば腐りもするだろう。しかも、最悪なことに甲羅の優秀な密閉性によって、卵に蓄えられていた妖力を逃さず閉じ込めていたのだ。そのせいで、半ば癒着する形で腐った卵が俺の体と融合してしまっていた。

 

 「あー、なんかさあ、妖怪の卵を拾い食いしたんだけど、それが傷んでたみたいで、中っちゃったみたいなんだよね」

 

 「ええ!? それで呪われたんですか!?」

 

 幽香によると、自分と比べて妖力が高すぎる相手を食った場合、呪われることがあるらしい。妖怪各々が個人でもつ妖力には、千差万別の性質が宿る。俺の持つ妖力と幽香の持つ妖力も一緒のようで違いがあるのだ。妖力は妖怪にとってのエネルギーなわけだが、自分の持つ性質と異なる妖力を体に取り込んでも、それを100%自分のものにできるわけではない。それをいったん消化して、自分の性質と馴染ませた分だけ取り込むことができる。その消化によるロスは大きい。食事によって得られる妖力はそれほど高いわけではない。

 そうして、消化しきれなかった分の妖力はもったいないが、体外に排出することになる。自分と異なる性質の妖力は異質なモノであり、それをいつまでも体内にとどめておくと害をもたらす。それゆえに、自分よりも巨大な妖力を持つ相手を食うようなとき(普通、そんなことは滅多にないが)、取り込んだ妖力の消化処理が間に合わず、異質な妖力に体を冒されて中毒を起こすのだという。それがここでいう呪いだ。

 ちなみに、食われる側が自分から妖力を譲り渡したときは、この拒絶反応はあらわれないようだ。そんなことを進んでする妖怪なんているとは思えないが。

 以上、ゆうかりんの妖怪講座でした。へぇー。

 

 「ということは、だ」

 

 それを踏まえて考察するに、次のような仮説を立てた。

 俺が最初に他の妖怪から妖力を得た機会は、六島苞との出会いだ。最終的に、あいつは俺の体を乗っ取ろうとして、自分の妖力をすべてそこに集めたが、結局そのもくろみは失敗する。さらに長年肉体同士を融合し続けた結果、俺と六島苞の妖力は同質性を持ち、拒絶反応を起こさなくなっていたのではないだろうか。そういうわけで、奇跡的に妖力の譲渡が問題なく成立した。これは極めて稀なケースだろう。

 次に、デスフロッグの卵に含まれていた妖力は膨大だった。しかし、俺がもともと持っていた妖力に比べれば小さい。よって、普通に拾ったときに食べていたなら、こんな中毒を起こす結果になはならなかったはずだ。そのときは、俺が消化しきれなかった分の妖力は体の外に捨てていただろう。

 だが、俺はあのとき甲羅の中に卵を入れ、それを放置した。この点が曲者だ。俺の甲羅の中の空間は、一応、俺の体内と定義づけられるようである。その劣悪な環境(?)の中で、卵は死に、腐敗した。だが、その腐った妖力は甲羅の密閉性により外に漏れ出さず、ずっと甲羅の中にとどまった。その結果、卵だったモノが甲羅の中で俺の体と癒着。腐敗した妖力を消化処理もせず、丸ごと腹の中にため込んだ状態になってしまった。

 生まれてもいない卵に意思があったのか、定かではないが、こいつは俺のことを拒絶している。徹底的に俺の妖力と馴染もうとしない。にもかかわらず、俺と無理やり合体してしまったために、俺から離れることができないでいる。A型の血液の人間に、B型の血液を輸血してしまったようなものだ。

 俺は立ち上がり、息を深く吸い込む。

 

 「すううーー……げっほん、げっほん、げっほんほん!」

 

 思いっきり咳をしてみた。喉の奥から黒い霧状の瘴気があふれ出す。瘴気はいくらでも俺の体から湧き出してくるが、その瘴気を生み出している肝心の腐った妖力は、俺の中にへばりついて出てこようとしない。これを取り出すことは今の俺にはできそうにない。血の中に混じった毒が体を巡っているようなものである。どうやってそれを抽出するというのだ。妖力の人工透析のしかたなんて俺は知らない。

 さらに、腐った妖力は億年もの間、俺と一緒に狂気の電波を浴び続けた影響か、そこから発する瘴気はすさまじい“ニオイ”をさせていた。歯が溶けそうなくらい甘ったるい匂いだ。意識して嗅ごうとするだけで、頭がクラクラして何も考えられなくなる。もともとデスフロッグが持っていた妖力の性質である“呪毒”に狂気が組み合わさったもの、名づけて“狂呪毒”! 試しに、幽香に息を吹きかけてみた。

 

 「ふうーっ!」

 

 「……ふにゃあ~!」

 

 一発で目を回して倒れ込んだ。

 これは俺自身、気分が悪くなるので使いたくない技だが、何かの役に立ちそうだ。うえっ、胸やけがひどい。

 


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