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19話「黒幕」

 

 暗い空を染め上げる炎、それは妖力で形作られた幻だ。だが、その威力は本物である。『兎爆石』が起動したのだ。それはすなわち、デスフロッグの襲撃を意味する。

 丘の上で、出撃の時を待つ玉兎の戦士たち。静まり返った戦場に、デスフロッグが現れた。ぼこぼこと土が盛り上がり、醜悪なカエルが姿を見せる。

 

 『今だ! かかれーっ!』

 

 突撃の合図とともに、戦士たちが駆け出した。俺も一緒に走りだすが、戦士たちの速いこと速いこと。ほとんどの戦士が『兎跳』を使っているのだ。俺はかなり出遅れてしまった。

 

 『ガ、ガマアア……!』

 

 地上に現れたデスフロッグは手負いだった。表皮が焼けただれ、苦しそうにうめいている。自慢の毒をまき散らす余裕さえないようだ。自爆作戦は成功していた。犠牲は無駄ではなかったのだ。

 これは俺が手を出すまでもないんじゃないか。戦士たちは獅子奮迅のはたらきで次々に敵を屠っていく。と、そこで俺のすぐ横の土が盛り上がりを見せた。

 

 『おっと』

 

 顔を出す前に妖力弾を連射する。しばらく苦しそうにうごめいていたが、すぐにおとなしくなった。悪いね、同じ妖怪として多少は心が痛むけど、妖怪の世界って強者が勝者だから。

 敵はいないかと周囲を見渡すと、ロバートとジョージの姿が見えた。二人とも近くで戦っている。その傍へと向かった。

 

 『ヨウリ!? 問題はない!?』

 

 『ないよー』

 

 ロバートの実力でも、さすがに瀕死のデスフロッグには引けを取らなかった。的確に急所を狙って仕留めていく。

 

 『……ふんっ!』

 

 その横で、ジョージは無言で剣を振るっていた。剣先がかするようにデスフロッグの鼻先に当たる。はずしたのかと思いきや、ぱっくりとデスフロッグの頭が真ん中から二等分されていた。何をしたんだ?

 

 『あれが達人の『兎狩』だよ。父さんは剣の扱いも一流だからね』

 

 あれはやばいな。まるで不可視の刃だ。甲羅でなら防げるが、生身の部分に当たったら俺でも無事で済みそうにない。玉兎と俺との妖力は雲泥の差だっていうのに、ここまでの脅威になるとは。玉兎三技パネエ。

 

 『なんだよ、玉兎も十分強いじゃん。デスフロッグとか余裕じゃね?』

 

 『そうでもないよ。デスフロッグの毒は強力だからね、僕らは近接戦闘を主体としているから毒に侵される危険が常に伴う。それに奴らは地下を移動するから村を狙われないように色々考えないといけないし』

 

 デスフロッグの毒は俺にとってさほど怖くない。これは妖力に起因する毒性である。デスフロッグよりも圧倒的に保有妖力が高い俺なら、体内で簡単に中和できる。だが、玉兎はそうはいかないのだろう。ちょっと触るだけでも呪いのように体を蝕んでいく。なるほど、確かに厄介だ。

 

 『でも、今回の戦いは楽勝なんじゃないか? もう地面から出てくる数も相当減ったみたいだし』

 

 敵の勢いはもうほとんどなかった。妖力探知で地下を探ってみても、動きのある気配は……あれ? なんだ、この馬鹿でかい妖力反応は?

 そして、もこもこと盛り上がる地面。今までの規模とは比較にならない土が舞い上がり、紫色の巨大な物体が踊りだす。なんとそれはカエルの手だった。ということは、つまり……

 

 『ジーザス』

 

 戦士たちが後ろに下がる。飛び出したのは超ド級のデスフロッグだった。こんな話は聞いてませんが。

 

 『な、なんでクイーンデスフロッグがここにいるんだ!?』

 

 ロバートの反応を見る限り、こいつはクイーン。つまり、デスフロッグの親玉ということか。まさかこんな隠し玉を持ってくるとは。体は傷だらけだが、どうにもピンピンしていらっしゃる。

 クイーンデスフロッグはガパリと口を開いた。その家一軒は丸ごと飲み込めそうな口からピンクのぶにぶにした何かが飛び出す。それが逃げ遅れた戦士たちに襲いかかった。ぺろんっとアイスクリームでも舐めるかのように地面を一舐め。それで付近の地表は一掃されていた。粘液にからめとられた戦士たちは声を上げる間もなく女王カエルの口に消えた。おいおい。

 

 『そんじゃ、俺は行ってくるぜ』

 

 『あ、ヨウリ、待って!』

 

 俺は妖力弾をぶっ放しながら女王カエルに突っ込んでいく。それに気づいた女王カエルがこちらに向けて口を開いた。敵は不用心にも自分の体内に“毒”を取り込むつもりらしい。

 

 『さて、このスペシャルポイズンに、お前は耐えられるかな?』

 

 俺は甲羅に引きこもった。頭と手足を引っ込めて、腹側パーツを収納すれば、綺麗な六角柱のかたちに変形する。いいねえ、イカしてるぜ! その直後、俺は女王カエルの口の中へと導かれる。そして、食道を通って、胃に押し込まれた。

 

 『さあ、ショータイムだ!』

 

 俺は弾幕を盛大にばらまいた。

 

 * * *

 

 クイーンデスフロッグはしぶとかった。10分くらいは俺の内部からの攻撃に耐えたのではなかろうか。ぴょんぴょん飛び回って大変だったらしい。途中俺を吐きだそうと努力していたが、俺はしぶと奴の胃袋に居座り、胃粘膜をズタズタにしてやった。

 ひっくり返ってぴくぴくしているカエルの口から帰還するとロバートが泣き顔で迎えてくれた。俺が食われて死んだと思ったらしい。ジョージは無言だったが、呆れ顔をしていた。

 改めて、獲物を見る。その全長は50メートルはあるだろうか。お尻から巨大な卵がにゅるにゅる出てて、ドン引きした。あの寒天ゼリーみたいなやつね。これがデスフロッグの卵かと思うと鳥肌が立つ。そして、俺は今、女王カエルの仰向けになった白い腹の上を歩いていた。

 

 『なんかおかしいと思ったんだよね』

 

 その腹に突きささる鉄の塊を引っ張りだす。それは、特大の大砲の弾だった。こんな兵器を玉兎が使用したとは考えにくい。ということは、あと残された可能性は一つしかない。

 

 『人間の仕業だ』

 


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