21.和葉の赤い・・・
今は期待よりも不安の方が、占めていた。
和葉を待つ時間が経つにつれ、不安が全部を埋め尽くしていく。
携帯での和葉の反応が、そうさせていた。
期待していた答えなんか返ってこないかもしれない。
でも、どんな答えでも和葉への想いは変わらない。
約束よりも早く来るのが和葉だった。
だけど、今日は珍しく遅れて来た。
来ないのかと一瞬思ったが、今は静香の手伝いをしている。
1階から和葉と静香の声が、所々聞こえてきた。
夕食の後、話を聞くと言った。
それを了解したのは自分。
あの日から、自分も和葉にも変化があった。
自分の変化は、自らのことだから理解できる。
でも、和葉のことはわからなかった。
痛みを感じたり、絶望したり、期待したり、でもまた不安になる。
どれが答えなのかわからなかった。
和葉の言葉しか、真実は知ることはできない。
夕食の間も、静香と楽しそうに話していた。
そして、変わらず平次にも話を振ってきて、静香と同じく楽しそうだった。
その雰囲気のままの和葉と、自室へと上がっていった。
「それで、話って何なん?」
和葉が彼氏ができたと報告してきた時は、布団に隠れていたけど、今日はもう一つの小さな机に向かい合う。
「・・・オマエ、公園におった時、なんで泣いてたんや?」
答えは怖かったが、聞きたかったことを切り出す。
和葉の表情を一つも逃さぬように、目をそらさずにいた。
「・・・・・あたし、泣いてた?」
キョトンとして、目線を向こうへと向けて、自分が泣いていたのか思い出そうとしていた。
予想していなかった返事に、どう話を進めていけばいいのかわからなくなる。
「・・・その・・・俺が、先輩と」
「あ!!そう言うたら平次、先輩とキスしたんやね!!」
今度は、思い出したことを嬉しそうに、ポンッと手を叩いた。
その反応に、また不安になる。
「・・・・そん時や。・・・オマエ、泣いてたやろ?なんでなんか・・・教えてほしいんや。」
しばらく間があって、
「・・・・・なにが?・・・」
「自分のことやろ?わからんのか!?」
「・・・そやかて・・・泣いてへんよ?・・」
記憶喪失にでもなっているのかと思ってしまう。
「オマエ、記憶無いんか?」
「そんなわけないやん!!なんでそんなことにならんとあかんの!」
先輩に聞いても、あれは泣いてたに違いないんやで?
すぐにでも答えを知ることになると思っていたのに、肝心の和葉が認めない。
「なんで、あたしが泣いてたと思うてんの?」
「・・・そやから、それは・・・・」
自信が0になって、泣いていた理由を聞いて何がしたかったのか忘れそうになる。
「それより、先輩は今日はもう帰ったん?」
「・・・あの後、先輩と別れてきたんや。」
「なんで!?せっかく先輩と付き合うことになったのに!あかんやん!!諦めたらあかんよ!!」
(・・・和葉のこと・・・諦めんために、そうしたんやけどな・・・。)
「なにしてんの!?早く追いかけな!!」
「俺は他に好きなヤツがおるから、そうしたんや。先輩もわかってくれたんや。」
「他に好きな人おったん?そうやったんや・・・。」
「・・・・そうや。・・・・和葉、あん時先輩が最後に言うてたこと聞こえたやろ?」
「何を?聞こえんかったよ。」
は?
それなら、あの顔はなんやったんや?
「そんなわけないやろ!?聞こえるに決まってるやろ!?それに絶対に泣いてたで!?」
「・・・・・そやかて、先輩が何言うてたか知らへんよ?しかも泣いてないし。」
あんなに叫んでいたのに、聞こえていなかった?
今は不安とか期待とかそんなものじゃなく、ただ意味がわからなかった。
どう見ても、何度見ても、泣いていた。
聞いているのに、答える和葉も訳がわからなくて、二人して混乱していた。
でも、本当に和葉の言った通りだとしても、和葉を諦めることなんてできない。
泣いていた理由よりも、もっと大切なことを聞かなければいけない。
「・・・俺がほんまに好きなんは・・・・誰か・・・わかるか?・・・・」
また、キョトンとしている。
言ってないのだから、当然なのだが。
「・・・・・わからへんよ、そんなん。誰なん?」
例え返事がNOでも、誰なのか聞けば、
もしかしたら・・・
「・・・・・・俺が」
やっと伝えられると思ったのに
和葉の目を見続けていたけど、和葉がわからないと首を傾げたその首下に
何かあるのに気づいた。
目に入ったのは
赤い痣だった。
何があっても好きな人の幸せを祈ると気づいたのに、そんなことなんかできないと思った。
葵は強くて、自分は弱いと思った。
この現実をどう処理すればいいのかわからない。
どこまで許しているのか聞きたくもないけど、赤い印をつけた和葉の隣りに、本当に行ける可能性なんてあるのかと更にどん底に突き落とされる。
固まったままの平次に和葉が気づいて、何か言っていたがそれに答える力なんて無かった。
平次の頭の中で凍りつく映像が流れていることは、和葉が気づいているわけはない。
「なぁ、平次!なんなん?どないしたん?・・・・あ、永治から電話や。」
「平次?もう終わりなん?電話鳴ってるんやけど、出るよ?」
返事が無い平次に、和葉は電話に出てもいいのだと解釈した。
和葉が部屋を出ていったのも気づかずに、平次は暗闇の深い底で動けずにいた。
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