気付いたんですよ。
いきなりごめんなさい。
だけど、どうしても伝えたくて、こうやっていきなり手紙を出すことをお許しください。
いつか、貴方が言った言葉を覚えていますか?
私はしっかり覚えています。
あの時の貴方の真っ黒な瞳をはっきりと思い出せるのです。
「多分、お前から言うよな。さよならって」
貴方はそう言ったんですよ。
今想うと、未来はその通りになってしまいましたね。
貴方は勘が鋭い人でしたから、知ってしまったのでしょうか。今を。
東京はどうですか?
少しは都会に慣れました?
最後に電話をしてから、もう二年が経ちますね。
貴方は私の事など、きっと忘れているんでしょうね。
寂しいと思う私は現金な女でしょうか。
住所が変わっていない事を祈ります。
近頃、ふと成長した貴方を想像することがあります。
なんだかきっと貴方は痩せているような気がします。
そして、いくらか都会的になっているのでしょう。
服の好みは変わりましたか?
煙草を吸いすぎていませんか?
私は相変わらずです。
卒業してから始めた、あの医療事務の仕事も、早二年が経ち、すっかり板に付いてきました。
貴方はこの手紙を読んでくれるでしょうか。
少し不安なまま、思いつくままにペンを走らせています。
でも読んでくれなくとも、それはそれでいいかな、とは思います。
この手紙は、私の単なる自己満足を満たすためのものに過ぎないのかもしれません。
自分勝手な私をお許しください。
私は貴方にひどいことをしましたね。
貴方は何も悪くなかったのに。
泣いて謝る貴方の電話を一方的に切り、無視をし続けたのです。
私を恨んでいることでしょう。
それでも、恨まれているなら、まだ救われる気がします。
私を恨んでください。
私の頭の中では、鳴り止まない電話のベルがずっと今でも響いています。
貴方との四年間にも渡る付き合いの中で、私は多分全てを使い果たした気がします。
もうずっと、誰も愛せないのです。
長いこと、誰も好きになれないのです。
言っておきます。
私は貴方と頼を戻したいなんて、そんな身勝手な事は考えておりません。
貴方には貴方の、私には私の、今の生活があります。
もう昔とは全てが変わってしまったのです。
それなら、私は何故このような手紙を書いているのでしょう。
最初に言いましたが、ある発見をしたのです。
私が最近気に入った俳優さんがいます。また、最近気に入ったバンドのボーカルがいます。
それで、ふと気が付いたんです。
笑ってしまいますが、そのどちらも貴方に似ているんですね。
気付いた時には驚きました。
それで、なんだか嬉しくて思わずペンを取りました。
今思い返してみると、私は貴方に甘えてばかりでしたね。
わがままばかり言っていましたね。
あれはまるで、泣いてダダをこねている幼い子供のようでした。
だけど貴方は一度も私を叱ったりしませんでした。
ただ優しく抱き締めてくれましたね。
そんな時、私は貴方を愛しいと思いました。
貴方もそう思ってくれていたのでしょうか。
貴方はこうなる事を少しでも分かっていたのか、そう思うと、貴方が悲しくて仕方ありません。
私のわがままで最後まで貴方を困らせてしまったのですね。
最後の電話の日、貴方はもしかして私を抱き締めたいと思ってくれたのでしょうか。
終わってしまったのは距離のせいだったのだと、考えてしまう私はやっぱり今でもわがままなのですね。
よく二人で考えていましたね。
『林檎』という名前を覚えていますか?
この世に命芽生える事すらなかった私達の子供の名前です。
貴方はいつか、誰か綺麗なお嫁さんをもらって、貴方に似た可愛い子供を作るんですね。
どんな名前にするのでしょう。
貴方が欲しがった女の赤ちゃんだといいですね。
深夜の商店街を、自転車で走った日を思い出します。
貴方の後ろで、私が口ずさんだ歌を覚えていますか?
私は今でもあの歌が大好きです。
押し入の中から昔のカレンダーが出て来ました。
どのページをめくっても、ちゃんと6日に丸印がついていました。
今、私の手帳には仕事の予定ばかりで、まるでつまらないカレンダーです。
何故でしょう。
涙が止まりません。
悲しくて仕方がないのです。
私はこれからも生きていきます。
貴方も生きていきます。
でも私達はもう二度と会えないのですね。
私達は、別々の人と結婚していつか幸せになるのでしょう。
きっと、貴方より好きになれる人が、私にもいつか現れるでしょう。
あまりにも悲しすぎます。
だからしばらく、夢の中に現れて、あの頃の二人に戻って、私を抱き締めてくれませんか? |