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第十八話 『蛇』と『魔王』と『幼な妻』

前後編って言いながら、三部構成になってしまいました。説明が多いですが一つ宜しくです。


「……さあ、コータ。どないする?」

 ニヤニヤ、と。

 本当に面白そうに見やるカルロス一世の視線に、浩太の表情も知らず知らずの内に険しくなる。

「……『蛇』め」

 基本、浩太は温厚な人間である。なんせ、『試してみたら出来ちゃいました』という召喚をされても怒らない程の、所謂『お人好し』だ。

「……『仮面』が剥がれたんやないか? エエで、その顔」

 その浩太が、珍しく感情を露わにしてカルロス一世を睨みつける。『普段』の浩太を知らないカルロス一世ですら思わず背筋が震える、人を射殺せそうな視線を向ける浩太。


 ソルバニア証書のテラでの流通。


 例外もあるが本来、通貨自体は一国につき一つである。アメリカならばドル、日本なら円、欧州経済圏ではユーロ、といった風に。ちなみにセントや銭といった通貨単位もあるが、これは補助通貨単位である。

 この紙幣は『法定貨幣』と言って、納税や賃金の支払いを受ける場合はこれを持って行う事が定められている貨幣の事だ。ドルで消費税を払う事は出来ないのである。

「ソルバニアの証書がテラで出回る事はありません」

「何でや?」

「テラが、ソルバニア引渡証書の流通を禁止するからです」

「はん。出来るもんならやってみぃや? テラの商人、皆どっか行くで?」

 現状、テラでは白金貨と引渡証書の両建てで取引が行われている。行われているが、引渡証書は『法定貨幣』だから使われている訳では無い。単に便利だから使われているだけ、そこに法的根拠は何もないのである。なんせ『引き渡すための証書』だ。精々『使ってね』といったお願いレベル。民間が勝手に流通に乗せているだけの話なのだ。裏を返せば、ソルバニアの引渡証書を勝手に商人が使ったとしても、商人同士が合意しているのであれば、テラにはそれを止める力は無い。商人に出て行かれて困るのはテラの方である。

「出来る訳、無いやんな? 自分で言うてたもんな? 『テラは貧弱な領地です』言うて。そんな貧弱な領地が『世界に冠たる』ソルバニア王国で流通する引渡証書の流通を差し止める?」

「ですが、テラにも魅力があります」

「せやな。ほな、その魅力もパクらせて貰おうか?」

「――っ! それは!」

「ああ、冗談やで? そないにマジにならんといてや?」

 まあ、しようと思えばやってやれん事は無いけどな、と。

「……」 

ソルバニアの引渡証書がテラの流通ルートに乗る事にデメリットは少ない様に思える。ソルバニア白金貨とフレイム白金貨、同一価値のその二つの白金貨を担保にした、同一レートで発行される証書だ。『流通』をメインに考えた場合、それが回る以上はテラの引渡証書だろうがソルバニアの引渡証書だろうが白金貨だろうがデザインが違うだけ、それだけの事である。

「……それでも、差し止めます」

 カルロス一世の言葉に、ぐっと浩太は唇を噛みしめる。

 同一価値を持つモノを担保にした貨幣制度を『本位制』と呼ぶ。金本位制や銀本位制など色々あるが、担保になるモノの価値を皆が認めればそれで良い。

「ソルバニア引渡証書が流通に乗り、テラがそれを認めれば恐らくテラの領地中でソルバニアの引渡証書が出回るでしょう」

 要は利便性の問題である。

「ですが、そうなればテラの引渡証書の価値は弱くなる。だってそうでしょう? 精々、テラでしか使えない引渡証書とソルバニアでも使える引渡証書、私だってソルバニアの証書を選びます」

「せやろうな」

 本位制を採用する以上、担保になるモノ以上の『紙幣』を発行する事は基本的には出来ない……というか、やるべきではない。テラで出回っている引渡証書は結局、テラに貯蔵される白金貨以上の量を上回ってはいないのである。全員が引渡証書を持ってきて返済を迫った場合、返せなくなるからだ。

「……テラは今、それでも回っています。なんせ『貧弱な領地』ですから」

 テラに貯蔵される白金貨は莫大な量では決して無い。何と言っても『貧弱な領地』であるから。が、それでも良いのだ。皮肉な事だが、貧弱な経済基盤でしか無いテラでは、今の引渡証書の流通量のみで十二分に需要を満たせるのである。

「……だから、何や?」

 なぶり殺し。浩太の頭にその言葉が浮かぶ。

「……テラは今後とも発展をして行きたいと考えています。その為には白金貨は……白金貨を担保とする証書の流通は必須です。ですが、ソルバニアの引渡証書が出回ってしまえばテラの引渡証書に価値は無くなる」

 その状態で、白金貨が集まるか。より正確には、白金貨を預けてテラの引渡証書に変えようと思うか、それともソルバニアの引渡証書に変えようと思うか?

「……そんな事、認める訳に行きません」

 昨日まで一個百円だった消しゴムが、翌日には一個二百円になる。これを、インフレと呼ぶ。モノの価値があがり、お金の価値が下がる事だ。反対がデフレで、モノの価値が下がり、お金の価値が上がる事だ。

 インフレやデフレは、結局人がどれだけ『欲しい』と思うかに寄る所が大きい。一個二百円でも消しゴムが欲しい人がいれば二百円で売れるだろうし、もっと高くても欲しい人がいれば三百円にもなるだろう。とどのつまり、それは『お金が余っている』からに他ならない。そしてこの『お金が余る』事、つまりインフレによって例えば土地を購入したり、例えば建物を増設したりする人が増えるのだ。増えれば土地を売った地主や、建物を建てる大工は儲かる。儲かった分に税金をかけるテラでは、経済がこの過程でぐるぐる回る事によって初めて旨みが生まれるのだ。テラ経済はインフレが支えていると言っても過言では無い。最も、インフレが加速すると大変な事になるが。

「……テラは、他国の通貨に蹂躙される事を是としません」

 各国の中央銀行は金融政策の名のもとに通貨を一定の量に調整しようとする。もしお金が余っているのなら、それを吸収し、逆にお金が足りないのであれば放出する。そうする事によって、物価の安定を図り、経済の混乱を避けるのだ。これを通貨主権と呼ぶ。他国の通貨が流通するという事は、通貨主権を奪われるという事であり、ソルバニア経済にテラ経済は引き摺り回されるという事だ。ソルバニアの一方的な都合によって、である。

 余談ではあるが、テラで大ブームになっている支店大増設計画や減税などは『財政政策』と呼ばれる政策になり、政府のお仕事だ。政府が中央銀行をやっているのか、中央銀行が政府をやっているのか微妙な所だが、テラではその両方を領主とそのブレーンが……つまり、エリカと浩太、エミリでやっているのである。中央銀行の独立性、なんてあったもんじゃない。

「考えが甘いんや、コータ。コータが是としようがしまいが、ソルバニアの引渡証書はテラで出回る。それを唯一回避できる方法は一個」



 さあ、俺に頭を下げて頼めや、と。



「……分かりました」


 どれくらいの、時間が、経ったか。


「……引渡証書の流通を、認めます」

 そう言って、浩太は頭を垂れる。

「……なんや。えらい物分かりがええやんか。てっきり『お願いですから証書を作らないで下さい』っていうんか思うたわ」

「そんな事をお願いしても作るんでしょう?」

「まあな」

「……手詰まり何ですよ、正直」

 下げても下げなくても、実際に流通するのだ。これはもう、どうしようもない。ならばさっさっと頭を下げておくに限る。下げるのはタダだ。

「……但し、テラの引渡証書も同様に流通させます。そして、テラの引渡証書での取引を推奨する政策は打ちますが、宜しいですか?」

「好きにしたらええやん」

「更に、ソルバニアの引渡証書とテラの引渡証書、これを同一の価値と認めても宜しいでしょうか?」

「ええよ。っていうか、普通そうやろ? ソルバニア白金貨とフレイムの白金貨は同一の価値なんやで? ほな、同一に決まってるやん」

「ええ、そうですね。では、その様に布告します」

「……なんや? 何、考えてるんや?」

「いいえ、何も」

「……」

「……」

「……仮面、やな」

「……さあ、どうでしょう?」

 腹の探り合い。そんな時間が、先ほど同様、どれくらい経っただろうか。


「……ええよ。そういう風にしたらええやん」


 そう言って、溜息一つ。カルロス一世が折れる。


「……そうですか。それでは、そのよ――」



「あら? 随分面白い話をされていますのね?」



 不意に、浩太の後ろから声が響く。



「……ソニア! お客さん、来てはるんやで? 勝手に入ってきたらあかんやろ!」

「申し訳ございません。とても面白そうな話をされておりましたので、つい」

「聞き耳立て取ったんかいな!」

「とんでもない。たまたま通りがかっただけですわ」


『きつい』ではなく、『意志の強い』


 振りかえった浩太の眼に飛び込んで来たのは、印象的なその瞳であった。次に、ツンと高い鼻と小さな唇。顔のパーツの全てが理想的な位置に配置され、緩いウェーブのかかった金髪を肩まで伸ばし、その瞳同様に『燃える様な』赤いドレスを身に纏ったその姿は良く似合う。

「……こちらの方は?」

「……ソニア。自己紹介、しとき」

「初めまして、コータ・マツシロ様。わたくし、ソルバニア国王カルロスの第十一子、ソニアと申します。以後、お見知りおきを」

 そう言って、赤いドレスの端をちょこんと摘まんで優雅に一礼。その姿に、思わず浩太も居住まいを正す。

「……ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私はヤメートの商人で、今はロンド・デ・テラにご厄介になっております、コータ・マツシロと申します」

「ええ、存じ上げております。巷で噂の『魔王』様、ですね?」

「魔王なんて人聞きが悪いですよ。私はただの凡人です」

「あら! 凡人だなんて良く仰いますわ。父を手玉に取っていたじゃありませんか」

「……手玉どころか、随分苛められていますが?」

 ちらりと視線をカルロス一世に飛ばす。

「……すまん、コータ。この子はなんや、こう……お転婆ちゅうか……いっつも大人の話に口を突っ込みたがるんや。おい、ソニア! 今大事な話してるんや。さっさっと部屋をでんかい!」

 苦り切った表情を浮かべるカルロス一世に、少しだけ浩太も表情を緩める。『蛇』も娘には弱いのだろう、その叱り方も何だか迫力にかける。

「あら? わたくしも聞きたいですわ」

「アホか! お前な? 今は大事な話してるんやで? 女子供が口を挟むんや無い!」

「もう! お父様はいっつもそう言って! わたくしも聞きたいです!」

「お前な!」

 そう言って頬を膨らますソニアに、浩太の相好を尚も崩しかけて。




「だって……お父様が手玉に取られる所なんて、滅多に見られるものではありませんもの!」




 その表情のまま、固まる。


「……どういう意味や?」

「ねえ、コータ様?」

「……何が、でしょうか?」

 見惚れる様な、笑みを浮かべて。

「テラの引渡証書は、フレイム白金貨を担保にしていますわ。対してソルバニアの引渡証書はソルバニア白金貨を担保にする予定。ですわよね?」

「……ええ」

「わたくし、フレイムの白金貨が好きですわ。建国帝アレックスの刻まれた凛々しいデザインは英雄詩の一場面を見ている様で、とても胸が躍りますもの」

「……そうですか」

「でも、それ以上にソルバニアの白金貨が好きですわ。海上帝国、ソルバニアですもの。海上に浮かぶ船、素晴らしいと思いません?」

「……何が仰りたいのですか?」

「ああ、失礼しました。ですから、わたくしは……大好きなソルバニアの白金貨が余所に流出しないか心配なのですよ」


 綺麗な、綺麗な笑顔。邪気の無い、無垢な、そんな笑顔と共に。


「確かに、一時的にはソルバニアに『富』が集まるでしょう。しかし、その『富』は再分配をしなければいけない、限られた『富』です」

本位制、というのは各国が保有する担保によって成り立つ。金本位制であれば、金、白金貨本位制であれば白金貨。一国に、つまりソルバニアに白金貨が集まり続ければどうなるか? テラには白金貨がなくなり、証書は発行できなくなる。つまり、『欲しい』と思う人に十分に証書が行き渡らない、『デフレ』に突入するのだ。これはテラ経済に大きなマイナスとなる。

「そうですわね、コータ様?」

 ソルバニアはどうか。テラにデフレを強いたソルバニアは、その白金貨の保有量に応じて証書を作り続け白金貨を放出しなければ、つまり、インフレを引き起こさなければならなくなる。そうしないと、白金貨本位制は維持できなくなるからだ。

「本位制を維持できなくなれば、結局白金貨との取引を停止しなければなりません。それでもソルバニアは何とかやっていけるでしょう。なんと言っても『世界に冠たる』ソルバニア王国ですもの」

 でも……テラは? と。

「テラはもう、無理ですわよね? 白金貨と取引が出来ないテラの証書。紙屑ですわよね? 『今のまま』なら」

 どうですか? と問うソニアに、溜息一つ。

「……参りましたね」

 ふーっと、大きく息を吐き浩太はソニアを見つめる。

「……ご明察です」

 ソルバニアの引渡証書とリンクするテラの引渡証書。最悪、テラの引渡証書が白金貨との取引を停止しても『ソルバニア白金貨と交換できるソルバニア引渡証書』とリンクしていれば、保険にはなる。その時に、ソルバニアが飲むかどうかはまた別の問題ではあるが。

「あら、正解かしら?」

「ええ。ご慧眼に感服します」

「まあ、嬉しいですわ! お父様、お聞きになられまして?」

 天使の微笑みでカルロス一世に笑みかけるソニア。視線の先には、先ほどよりも苦い顔をしたカルロス一世。

「……最初散々渋い顔しとったの、演技かいな?」

「いえ。正真正銘、足掻きましたよ」

「ソニアの話やと、テラばっかり得しとる気がするけどな?」

「いいえ。結局、大きなソルバニアの景気に小さなテラは左右される事になる。これはかなりの痛手だ。喉元に匕首を突き付けられたのと何ら変わりないです。無いですが……何時かはこうなると思っていました。テラだけで商売の流れを完結できる訳はないですから。ただ」

 もう少し、時間が欲しかったのが本音。今の経済格差では、テラはソルバニアに飲みこまれてしまう。せめて、後三年ほど。もっとテラが地力をつけ、ソルバニアと対等……までは行かなくとも、半分ぐらいの規模にまで経済格差が縮まっていればまた違った交渉が出来たのだろうが。

「……まあ、無いモノねだりをしても仕方ありません。これが出た目であるなら、それに従います」

「目が出るまで粘った、ちゅうことかいな?」

「そんな所ですね。今、ソルバニアに証書を流通して欲しく無かったのは本音です。経済規模、商人の量、国土、どれをとってもテラよりも格段に大きい。陛下の仰った通り、『対等』ではないですから、私達は」

「そうやな」

「それに……」

 言葉を切って。


「……個人的に、貴方に負けたくなかったのもあります。テラが……何より、私が」


「……は」

 その、浩太の言葉に顔を綻ばして。

「はーっはは! 自分、やっぱ面白いわ! 俺、一応王様やで?」

「陛下が仰ったんですよ? 『仮面とは話したくない』と」

「そやな! そっちの方がええわ。ほいでも……なんや? これだけ差があっても、テラはソルバニアに噛みつくつもりかいな?」

「当たり前です。テラの領地の利益を最優先しますよ、私は。今は、ソルバニアの後塵を拝しますが……」

 何時か、この『お返し』はさせて頂きます、と。

「なんや、コータ。つれへんな~。これから仲良くやっていこうや~」

「……どの口が言いますか、それを」

「いや、ほんまやで? 商売っちゅうのは信用が第一や。何時寝首をかかれるか分からへん相手とはよう商売できんもん」

「……騙し騙されが商売の基本では?」

「そこから信頼関係を築くのがホントの商いやで? それは木っ端のやる事や」

 そう言って。

「やから、コータ。俺を信用してくれや?」

「……本気で仰られてますか?」

 偽造証書、魔法の粉、通貨。一体どれを信用しろと言うのだろうか。あと一本折れれば満貫だ。

「本気も本気やで?」

「……」

「と、言うよりや。そんな面倒くさい駆け引きしとうないねん」

「……どういう意味でしょうか?」



「コータ、お前俺ん所に来い」



 ディナーのメニューを決める様に、簡単に。

「……引き抜き、ですか?」

もう、一本。バンバンで満貫達成だ。

「ああ、そうや。流石『魔王』、敵に回したら厄介やけど、味方にしたらこれ以上無いくらい、心強いわ。個人的にお気に入りにもなったし、一緒にソルバニアを発展させる、その手伝いをしてくれへんか?」

「……」

「給金はテラの倍以上出すわ。要る、言うんやったら爵位も領地もやってもエエ。ソルバニアも喧しい老害どもが腐る程おるけど、俺がそんなもんから全部守ったる」

「……買い被り過ぎですよ。そんな大層なモノではありませんよ、私は」

「コータの自己評価やこ、どないでもエエねん。俺がそう思ったんや。領地や爵位、金で『魔王』が買えるなら……眼の届く所に置いておけるんなら、それが一番エエって」

「……」

「逆に、ソルバニアにおってくれんのなら今の内に殺しておこうかとも思うわ」

「……ご冗談を」

「冗談やない。それぐらいにヤバいんや、『魔王』は」

 そう言って、蛇は魔王を睨む。

「もう一遍、こんな機会が回ってくるかどうかも分からへん。折角巣に飛び込んで来た獲物、ココで仕留めておきたいんや」


 例え、テラと戦争になっても、と。


「……ほいでも、個人的には俺はお前を生かしたい。凝り固まったオルケナのこの経済制度を壊す、そんな人間の行く末を見守っていたいとも、そうも思うんや。今ココでお前を殺すんはソルバニアの為にはなっても、オルケナの為にはならん気もするし。せやから」

 なあ、コータ。頼むから、俺の所にこいや、と。

「……有り難いお話ですが、お断りします」

「……冗談で生きる死ぬ、言うてる訳や無いで?」

「それでもです」

「ヤメートの商人が、か? 何でテラに義理だてするんや?」

「……色々事情があるんですよ。そもそも陛下。引き抜きの前にまず、ご自分の行いを思い返されては如何ですか?」

 流石に勇者云々を喋る訳には行かない。それを除いても、散々脅されて、すかされて、宥められた相手だ。そんな簡単に信用できるモノでもなかろう。

「……」

「……」

「……分かった」

「……」

「流石に、お前に死ね言うのは勿体ない。せやけど、お前がテラに帰ってソルバニア相手にちょこまか動くのも不安でしゃーない。やから……」

 そう言って、ソニアの方に視線をやって、口を――




「ソニア! お前、コータの所に嫁に行け!」




 ――開いて、とんでも無い事を言いだした。


「………………は?」

「そもそも、俺の事が信用出来へんのやろ? ほな、ソニアをやる。まあ嫁言うても、体のええ人質や。可愛い娘がおる国……やないけど、領地や。俺も鬼やないし、無茶はせーへん! それにコータ、それやったら少しは手加減もしてくれるやろ? なんせ義理とはいえ、おとんの治める国やしな!」

 経済同盟。そして、それをより強固にする為の政略結婚。なるほど、道理ではある。道理ではあるが。

「ちょ、ちょっと待って下さい!」 

 浩太、大慌て。そりゃそうだろう。満貫どころの話ではない。いきなり役満級の話だ。

「なんや?」

「なんやって! いや、ちょっと、陛下?」

「ソニアかて王族や。自分が政略結婚の道具になる事ぐらい、覚悟しとるわ」

「いや、私も王族に人権云々を言うつもりは無いですが! そうじゃなくて――」

「あら? わたくしはコータ様の所に嫁ぐ事、別に不満ではありませんよ?」

「――もっと問題……って、はい?」

「あのお父様を手玉に取るんですもの。何処かの頼り無い王子様の元へ行くより、全然楽しそうですわ」

「ほうか! 良かったやないか、コータ」

「いや、そうじゃなくて!」

「なんや? 身分の差、とか言いだすつもりか? それ、俺は別に気にせーへんで?」

「それも気になりますけど! いや、それでも無くてですね!」

「……まさか自分、ソニアの事、気に喰わへん言うつもりか?」

「……そうなのですか、コータ様?」

「いや、気に食わないとか以前に今日初対面なんですけど!」

「……ホイならコータ、婚約者言う事でええわ。ホイで気に入ったら結婚し。これならエエやろ? 言うとくけど結構な譲歩やで、これは? ソルバニアの姫様をキープにするんやから」

「……わたくし、コータ様に気に入って頂ける奥様になりますわ!」

「だから! そうでもなくて!」

「……何やねん。何が不満やねん? ええやん、ソニア。可愛いやろ?」

 もの凄く嫌そうな顔を見せる、カルロス一世に。

「それは認めます。認めますが!」


 一息。



「ソニア様、一体お幾つ何ですか!」



 浩太の言葉に、きょとんとした顔を浮かべた後、先ほど同様に見惚れる笑みを浮かべ。左右の手を……その『小さな手』でうんしょ、うんしょと指で折り。





「……今年で、十歳になりました!」





 満面の笑みのまま、両手を『パー』の形で……年齢相応、『可愛らしい笑み』を浮かべるソニアに。



「……私、二十六歳なんですが!」



 手を額につき、浩太は天を仰いだ。幼すぎだろう、流石に。



経済マメ知識⑫

金の足枷

金本位制とは、採用する国家同士での紙幣価値を一定に保つ事の出来る、一種の固定相場となる。制度上、保有する金以上の紙幣をすれないから、持ってる国は一杯、持って無い国は少ししか発行できない。こうなると、金の無い国は需要を満たすだけの紙幣の供給が出来ずデフレになり、デフレになるともっと金が集まらなくなるばかりか、ドンドン金が流出していきます。なんで、持ってる国はじゃんじゃんお金をするなりなんなりして金を放出していかないと、余所の国が困ると……金本位制自体が結構強力な拘束性のある引き締め政策だと、まあそんな感じ。

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