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第十四話 テラ的休日

何かお気に入り件数とかがとんでも無い事に……壊れてないんですよね、コレ? ドッキリとか? どっきりでも良いです。多謝!

さて、今回は幕間みたいなお話です。まあ箸休め程度に読んで頂ければ。


「紅茶が入りました。どうぞ、マリア様」

「ん? おおきに~」

 エミリさんが入れてくれはった紅茶と、エミリさんお手製のクッキー。それらを口に放りこみ、ウチは表情を蕩けさせる。ほんま、エミリさんのクッキー美味しいわ~。

「……マリアは本当に幸せそうに食べるわね。出し甲斐があるわ」

「だってホンマに美味しいんやもん。ええな、エリカ様。こないな美味しいクッキーを毎日食べ放題やなんて。な、ウチもエリカ様の所の子になってええ?」

「こんな大きな子供はお断りだわ」

 そう言って呆れた様に、でも優しく微笑みながらエリカ様が紅茶に口をつけた。『あら、美味しい』なんて優雅に微笑む姿は正に貴族のソレや。

「……ほいでも、ホンマにエエんかいな?」

「何がかしら?」

「ウチみたいな一商人が貴族様の御屋敷の、しかも私室でこない優雅に紅茶やこ飲んでて」

そう。ココはエリカ様の御屋敷……の中の最奥部、エリカ様の私室や。ウチみたいな木っ端商人がおいそれと入ってエエところやない。

「あら、今更ね? 大体貴方、私の私室に来るの何度目よ?」

「いや、そう何やけど」

 テラに来てからこっち、一週間に一遍はエリカ様の御屋敷を訪ねて紅茶をお呼ばれするのが習慣になってる。

 ……いや、な? そらウチかて『貰えるもんはゴミでも貰う』とか『タダより安いモンはない。だってタダやもん』と言われるカト商人の端くれや。ご馳走してくれる言うんやったら有り難く頂くんやけど、ほいでも最初は断ったんやで? だって、貴族様の御屋敷やし……そんなモン、簡単に『ハイ、そうですか』言うて行かれへんわ。気後れもするし。

『ええっと……申し出はありがたいんやけど、ウチ、そんな堅苦しい所はちょっと……』

『いいじゃない。私は気にしないわ』

 この一言やった。まあ、言うてもこの街の実権者やし? お近づきになっておいても損は無い思うて、下心込みでエリカ様の御屋敷の門をくぐった訳何やけど……

「……大体貴方、そんだけ寛いでおいて何言ってんのよ?」

 ……そやねん。この御屋敷、めっちゃ居心地ええねん。紅茶は美味いし、出されるクッキーも絶品。しかも見目麗しいお姉ちゃんが二人もおるんやで? ウチのお父ちゃんが『酒は美味いし姉ちゃんは綺麗や。カトの花街はオルケナ一!』言うてたけどその気持ち、ようわかるわ。

 ……まあ、後でお母ちゃんにしばかれてたけど。

「……貴方ね。考え方がお年寄り臭いわよ? 後、私にそちらの趣味は無いから」

「ウチかて女の子よりは男の子の方が好きや。ほいでも、『可愛い』とか『綺麗』は正義やで?」

「……容姿を褒めてくれているのでしょうけど……素直に喜べないのは何故かしら?」

 喜んどいてや、そこは。

「……全く」

 そう言って溜息をつくエリカ様に、私は笑顔を返す……ちょっと! 溜息が深くなるってどういう意味やねん!

「……ま、それにしてもホンマにココは居心地ええな~」

「そう?」

「せや。だってエリカ様、正真正銘の貴族様やろ? しかも、今のフレイムの王様のお姉さんや。普通やったら雲の上の人、ウチなんか緊張で喋られへん様になるのが普通やけど……」

「貴方、緊張何かしないじゃない」

「するわ! ウチの事なんや思うてんねん!」

 手が震えててんで、最初は!

「……まあええわ。とにかく、エリカ様は全然そんな風に思えへん。あ、勿論エエ意味やで? なんや、親しみやすい言うか、庶民的いうか……」

 ……褒めて無いんやろうか、これ。貴族に向かって『庶民的』って、よう考えたらめっちゃ失礼やないやろか……?

「別に気にしていないわ。貴族として、人の上に立つ者として『高貴』であろうとは思うけど……だからといって、ただ胸を張ってふんぞり返っていれば良いという訳でも無いでしょ?」

 確かに。

「……そういう所が、エエ街にしたんやろな」

「何が?」

「テラの事や」

 普通、店を一つだそうと思ったら莫大なお金がかかる。税金もそうやけど、出店費用、店で雇う人間の給金、仕入れかてかかるし、細々した棚やら何やら揃えとったら一財産が吹っ飛ぶぐらいは、や。

「店を出すのに税金は取らへんし、取る税金は儲けた分だけや。その税金かてテラの人間雇ったらまけてくれる。土地も店も用意してくれるし、かかるのは預ける白金貨一万枚と棚と商品ぐらいのモンや」

 そら、皆店出したい思うで。白金貨一万枚あれば、だが。

「それはありがとう。でも、知ってるでしょ? この考えは決して私の案では無いわ。コータが考え、コータが動き、コータが成し遂げたの。少しぐらいは交渉事もしたけど……精々、私がやった事はそれぐらいよ?」

 何でも無い様に紅茶を口に含むエリカ様。この人……分かってるんやろうか?

「……それが一番凄いねん」

「……何が?」

「これはウチのお兄ちゃんが昔から言うてたんやけど……『使えるモンは親の仇でも使え』言うてな?」

「へえ。いいじゃない、商人らしくて」

「この言葉には続きがあってな? 『使う側の人間は、親の仇でも使える度量を持て』言うんや」



『ええか、マリア? 人間、成功すると急に偉くなった気になんねん。どえらい優秀な人間になった気がして、何でもかんでも自分で出来る様になった気がすんねんけど……間違いやで、それは。俺ら商人は精々金儲けが人様より巧い、凡人や。自分より良く出来る人間には、頭を垂れて教えを乞いや。ホレ、親の仇でも使える様な、親の仇でも頼れる様な人間になってみ? 何の恨みも無い人間に、頭一つ下げるぐらいどうでも無いやん』



 何時も眠そうで……ホイでも、商談の時にだけはやたら凛々しくなるお兄ちゃんの顔が脳裏に浮かぶ。お兄ちゃん、元気してはるかな?


「……含蓄のある言葉ね」

「人の上に立つって結構難しいみたいやから。特にコータはん、ヤメートから来た縁も所縁もない人間やん? そんな人間の言う事、普通は素直に聞けれへんで?」

「他に方法が無かったからよ。テラの財政は崖っぷちだったし、この現状を打破してくるなら何でも、誰でも良かった」

「そやから、見ず知らずのコータはんに教えを乞うた、言う事?」

「貴方のお兄さんの言葉を借りるなら、私の頭ぐらい、幾らでも下げるわ」

 それでこの街が少しでも良くなるならね、と。

「……敵わへんな~」

「そう? 例えば、私は紅茶もクッキーも上手には作れないわ。なら、私よりも美味しく作れる人にお願いした方がいいし、美味しく作ってくれた人にはお礼をするわよ」

 何でも無い様にそういうエリカ様に両手をあげて降参の意を示す。ほんま凄いわ、この貴族様。エエか悪いかは別として……人間として好感が持てる。

「……ほいで、エリカ様」

 せやから。

「なに?」


 もうちょっとだけ……仲良くなって見ようか?


「コータはんの事、好きなん?」

 ぶーっと、紅茶を噴きだすエリカ様。いや、エリカ様? アンタ、貴族やろ? 紅茶噴き出すってどうなん?

「……エリカ様、ハンカチです」

「けほ……あ、ありがとう、エミリ。マリア!」

 心持、頬を赤くしてこちらを睨むエリカ様。口元に紅茶のハッパがついてはいるが……まあ、そんな所も愛らしく見える。そう言ったら不敬やろうか?

「貴方ね! 急に何を言い出すのよ!」

「え? ウチ、変な事言うた?」

「あ、当たり前でしょ! そ、その、私がこ、コータを、その……し、慕ってるって! 変な事言わないでよ!」

「そうかいな? だってエリカ様、めっちゃ困ってたんやろ? テラの財政がしっちゃかめっちゃになって、藁にもすがる思いやったんやろ?」

「そうよ!」

「そんな困ったエリカ様を、颯爽と現れてコータはんが救いはってんで? なんや英雄詩みたいやん。惚れてもおかしくはないで?」

 まあ救い方が財政の立て直しって、随分現実的な騎士様やとは思うけど。

「って、エリカ様? 何やその苦虫を噛みつぶした様な顔」

「いえ……『颯爽』、ね……どちらかと言えば捨て犬みたいだったけど」

「捨て犬?」

「……何でも無いわ」

 そう言って、コホンと咳払い一つ。

「……確かに、コータは凄いと思うし、感謝もしてる。尊敬すらしてると言ってもいいわ。でも、それが慕うとか慕わないとかの話には直結しないわよ」

「そうなん? 何? 顔?」

「顔じゃないわよ、失礼ね……ちなみにマリア。参考までに聞くけど貴方、コータの容姿についてはどう思うの?」

「コータはんの容姿? そんなに悪くは無いと思うで? 中の中の中の下、くらいやろうか?」

「普通以下って事かしら?」

「限りなく普通に近い、って事や。それにコータはんには顔以上に魅力があるやろ」

 それはこのテラの発展を見れば分かる話や。

「……愚問だったわ。そうね……マリアの言う通り、コータはとても魅力的よ」

「ほな、なんで? もしや、もういい人がいてるとか? もしくは……許嫁とか」

 現国王の姉であるエリカ様の事や。政略結婚とかあっても可笑しくはない。

「アンジェリカ様……国母様から御厚情を賜っているの。領地と爵位、それに『エリカには自分が本当に愛した人と結婚して欲しい』と仰って下さっているの。だから、政略結婚には最適な材料であるにも関わらず、私にはそう言った浮いた話は一つも無いわ」

「結婚御免の免状、言う事かいな。ほいでも……なら、何で?」

 今の話やったら結婚には何の障害もない。コータはんの事は魅力的だとは思っている。まあ結婚はいきなりやけど……お付き合いぐらいはしてもええんちゃうやろうか?

「大丈夫や。黙っておけ、言われたらきちんと黙っておくで?」

 乙女の口は堅いんや。

「信用できない……いえ、そうじゃなくて……その、勘違いしないでね? コータには感謝してるし、凄いとも思ってる。尊敬だってしてるの。してるんだけど」

「けど?」

「その……コータって、何考えてるか分からなくない?」

 ……。

 ………。

 …………ああ。

「そりゃ……確かにそうやな」

「でしょ? 皆が思いつかない様な事をしてるとは思うのよ。確かに、私には彼の考えは分からないかもしれない。でも、私には何の話もしてくれないし、何も相談してくれない。頼めば教えてくれるし、結果も教えてはくれるけど……」

 それじゃ、パートナーとしては失格でしょ? と。

「……そやな~。それはちょっと辛いかもしれへんな」

 可愛いだけのお嫁さん、言うのはウチも好かんけど、エリカ様もそうみたいやな。まあ、なんやかんやでテラを一人で切り盛りしてたんやから、そりゃそうなんやろうけど……

「ほな逆に、コータはんが色々エリカ様に相談したり、泣き言いったり……甘えてきたりしたら、どうなん?」

「……」

「……」

「……う」

「う?」

「……う、嬉しいかな~、とは……思うわ」

「……」

「に、にやにやしないでよ! だって、あのコータよ? 何でもかんでも一人で淡々とこなしてるコータが、その……私にだけ甘えるなんて、ちょっと可愛いと思うでしょ!」

「そうやな~。そら、かわいいな~」

「マリア!」

 はいはい、もう言わへんよ。

「あまりエリカ様をからかわないで頂けますか、マリア様」

「エミリさん」

 別にからかってる訳や無いけど……なんや、偉い可愛いんやもん。

「それがからかっているというのですよ」

「……エミリ。庇ってくれるのは嬉しいけど、仮にも主を『からかわないで下さい』ってどうなの?」

「……コータ様の故郷では紅茶にレモンを浮かべる『レモンティー』というモノがあるそうです。宜しければ如何ですか?」

「エミリ!」

 えらい雑な誤魔化し方をしながら、エミリさんがスライスされたレモンをこちらに見せてくる。いや、エミリさん? ウチが言うのは何やけど、ええの?

「……構いません」

「エミリ!」

 ……主はめっちゃ構ってはると思うんやけど――

 

 ――ん?


「……エミリさん?」

「はい?」

「エミリさんって、前からコータはんの事『コータ様』って言うてたかな? ウチの記憶が正しければ、確か『松代様』言うてなかった?」

「そうですね」

「……なに? 心境の変化でもあったん?」

 ウチの質問に、見惚れる様な笑顔で返す。なんや、その顔。惚れてまうで?

「……それは、秘密にしておきましょう」

「なんでよ? おしえてーや」

「御遠慮願います」

 一転、良い女には秘密が多いと申しますでしょう? と、先ほどまでの笑顔を茶目っ気たっぷりの笑顔に変え、こちらに微笑むエミリさん。

「……そうなの、エミリ?」

「……エリカ様?」

「その……コータを慕ってるの?」

「何や、エリカ様。嫉妬かいな?」

「違うわよ!」

 そうではなくて、と。

「どちらかと言えばエミリ。貴方はコータの事を嫌っていたのかと思ってたの。いえ、その心境の変化は嬉しいだけど……その……」

 そう言って、少しだけバツの悪そうな顔を見せるエリカ様……しゃーないな~。

「ほな、エミリさん。好きとか嫌いとか、直接的な事はきかへん。ほいでも、コータはんの事、どう思ってるか。これぐらいは聞かせてや」

 この辺りが落とし所やろうか? エリカ様やて……まあ、嫉妬云々だけではなく、純粋に興味としてエミリさんの色恋に興味はあるんやろうけど、言いたく無いモノ無理矢理聞きだすんも悪いしな。

「コータ様の事、ですか……」

 そう言って、しばし考え込む様に中空を見つめて。

「レモン、でしょうか?」

 シルバーの上に置いてあった、スライスしていないレモンを一個手に持って見せてくる。

「……レモン?」

「外側の皮が厚く、切って見ないと中が分からない」

 ……成程。言い得て妙、やろうか?

「本心を表す事をされないので冷たく映ることもありますし、御自分で色々されてしまわれるので秘密主義の様に見えて難しい人ですが……」


 それでも、その分厚い皮の内側には柔らかい果肉が詰まってる。


「……お優しい方ですよ、コータ様は」

「……そうかいな」

 ……なんや、その顔! それ、絶対惚れてる時の顔やん!

「……ほいでも、エミリさん。レモンって酸っぱいやん?」

「そうですね」

「ほな、コータはんは酸っぱい、中身を食べた時に苦い顔になる人間や言う事?」


 からかってみようと、少しだけ意地悪く聞いたウチに。


「確かにレモンは酸っぱい。ですが、その酸っぱさを『辛い』と感じるか『快い』と感じるかは……人それぞれだとは思いませんか?」

「……エミリさんは快く感じる言う事?」

 まるで何でも無い様に、先ほどよりも綺麗な、蕩ける様な笑顔を見せて。


「それこそ……乙女の、秘密です」


 ……あー、もう! 可愛いな、こんちくしょー!


経済マメ知識⑧

レモンの原理

ミクロ経済学で言われる『情報の非対称性』の事。中古車市場でレモン(欠陥車)かピーチ(優良車)かは見た目で想像がつかないという事。レモンの皮が厚くて中身が見えないからこの言葉ついたとか……ツンデレは表面ツンで中身はデレでしょ? 仲良くなってみないとツンツンかツンデレかは分からないと、まあそう言う事……かな?

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