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水の森

作者:kud
リャンは喋る犬であると同時に秘密の犬である。俺がリャンと出会ったのは湿りに満ちた奥深い山の中、悪名高き水の拘束地だった。鬱蒼とした森の木々からしわりしわり滴り落つる幾万もの雫に、燃え光る偉大な火の鳥が捉えられていた。リャンは番犬として、残り火のような鳥に寄り添っていた。

しとどに流れ、切れることのない水に、大いなる火の鳥は余すところなく濡れそぼつ。かつて何万光年先まで光が届くほど燃えさかっていた雄々しき鳥は今にも朽ちようとしている。これこそが俺がこの忌むべき拘束地へ足を運んだ理由だ。俺は偉大な死の現場を目撃するだろう。

敬虔な信者のように火の鳥を見守っていた犬が、何の前触れもなく突然話しかけてきた。私の名はリャン。私が人語を解せるのはここ一番の秘密。なればこそ、貴方に売りたい。この秘密を持ち帰り広めて欲しい。貴方はきっと富を得るから、と。リャンの囁きに、俺は腰が抜け指が震えるほど驚いた。しかし、なんとか気を取り直しなるべく冷静を装う。俺はもうすぐ消えゆくだろう火の鳥を見つめながら聞いた。なんのために?

この鳥はもうダメでしょうから、せめて最後はたくさんの人に看取って貰いたい。孤独を抱えて冥府に旅立つのはあまりに侘しいと思いませんか。リャンの綺麗な理由に心打たれた訳ではない。大いなる火の鳥が死ぬ様子は最高のショーになる。何せ俺もそれが見たくて陰気な森まで来たのだから。俺は秘密を土産にした。

水の森に拘束されている火の鳥のことは誰もが知っているが、やむことのない雫とぬかるんだ地面、何より鬱陶しい空気に近寄るものはいなかった。俺は市場で騒がしいくらい喋る犬リャンのことを吹聴した。当然嘘つきのレッテルを貼られたが、好奇心の強い奴が数人、真偽を確かめに足を運びまさしく死に際の火の鳥を見たところ、いよいよ死ぬぞ! と、捲したてた。
誰もが煙がる水の拘束地が、かつてない人で賑わうようになった。今日死ぬか明日死ぬか皆の関心が注がれ、俺は観光銭や賭博銭を巻き上げ大変に儲けた。しかし誰かの呟きに、皆の注目が一気に俺へと集まった。
「瀕死の火の鳥の番犬が喋るのを誰か聞いたか?」

睨みつける俺にリャンはただ涼しげな顔で沈黙を守っている。騙されことを察した俺は力の限りリャンを殴り蹴り上げ、ありとあらゆる暴力を振るった。しかしリャンはギャンキャンと犬らしく悲鳴を上げるばかり。殴り続けるさなか、ふとリャンの思惑を悟り愕然としながら森を見渡した。水を滴らせていた木々が、人々の熱と靴に踏み荒らされすっかり乾燥している。

水の拘束地は酷く荒らされ見るも無残な干からびた森に変貌していた。これでは火の鳥は生き長らえるだろう。興をそがれた人々の怒りは全て俺へむけられ、裁きという名の手ひどい暴力で命を落とした。
「私の秘密のお代金、貴方の命と尊い火の鳥の解放として確かに頂戴しました」
リャンが薄く囁くのと同時に、残り火が揺れ少しずつ大きくなるのを見た。

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