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お久しぶりです。
結局またほぼ1ヶ月ぶりの投稿となってしまいました。
交替勤務に入り、夜勤明けの生活リズムガタガタの旅がらすです。
しかも、何故かシフトと資格取得のための講習が見事にダブルブッキングしまくっているせいで、公休の振り替えやら何やらがたくさん発生し、16日までの間、会社に出勤するのがたったの二日間と言うとんでもない状態に……。
わ、私のせいじゃないですよ〜。私は普通にお休みを振り替えただけなのですよ〜。

さて、今回も原作ではあり得ない戦い方が出てきます。自由人の作者です。

それでは、第三十五話。スタートです。
第三十五話 流星を伴いしもの
 火山。
 その環境は、最早常人が呑気に過ごせるものではない。
 一言で言えば、過酷すぎるのだ。
 気温は常に昼間の砂漠よりも高く、更に火柱を上げる噴火口などはそれ以上になることもある。そんな地帯に鎧を纏って入るのだ。熱が鎧の内側と肌の間に籠り、否応なしに体力はゆっくりと蝕まれていく。
 炎天下の日の下、サウナスーツを着せられて歩かされているのを想像すれば良いかもしれない。火山とはまさに、そのような環境なのだ。
 とある調合師が雪山の万年氷から採取される『氷結晶』を、様々な物質の効用を引き上げるという特殊な酵素をもった『にが虫』を混合させて水で溶いた『クーラードリンク』を発見しなければ、おそらく人は火山に入ることすら儘ならなかったであろう。
 しかし、それも一時の気休めでしかない。その効能も、持って二、三時間が限界であろう。
 だからこそ、火山でのクエストでは短時間で攻略しなければならない。クーラードリンクも、ハンターズギルドの規制によって持てる数が限られているのだ。
 ハンターたちの間では、火山はこうも呼ばれていた。

『火山とは、最も過酷であり、最もハンターとしての才を見られる場所である』

 と……。


   ◆


 レラは、集中していた。必要のない情報を自分の内側から消し去る。
 静かに、冷静に。心を乱さず、ただ、己の感覚だけを頼りにするのだ。
「レラ! そっちに行ったぞ!」
 幼なじみの声が、レラの耳を叩いた。続けて聞こえてくる、小さく且つ連続的な地鳴り。こちらに向かって来ていた。
 分かっている。少し静かにしてくれ。
 レラはそう心の中で呟くと、左の腰元に右手をやった。そこには、いつもは背中にぶら提げているはずの相棒がいた。
 自分の真正面に向かって接近してくる音。レラは右に一歩だけずれてそれを往なす。
「…………せいっ!」
 音が自分の横を通り過ぎる数瞬前に、レラは真っ赤な『覇気』を纏わせた『黒刀【弐の型】』を素早く抜いた。そこから再び鞘に収まるまでの時間は、ほんの一瞬。音は自分の真横を通り過ぎ、しばらくして地を滑る音と砂埃を舞い散らせながら止まる。
「やったのか!?」
 続けて、弓を構えているであろう少年の声が聞こえてきた。確かに、『アレ』を初めて見た者ならば、分からないのも無理はない。しかし、レラの手の中には確かな手応えがあった。
 一瞬の間を置いて、『黒鎧竜』グラビモス亜種の左足から、血飛沫が舞った。続けて、グラビモス亜種の口から苦悶の咆哮が轟く。流石に『鎧竜』の二つ名は伊達でなく、いつもと比べて感覚は弱かったが、それでも相手に与えたダメージは少なくなかった。

『居合』

 そう呼ばれる技術がある。居合術、抜合、居相、鞘の内、抜剣などとも呼ばれるが、それは西域の更に西、もしくは極東と呼ばれる、かつて存在した小さな島国で発展した護身用や危機回避のための技術である。
『弥和羅(やわら、柔術)と兵法(剣術)との間今一段剣術有る可しと工夫して、刀を鞘より抜くと打つとの間髪を入れざる事を仕出し、是を居合と号して三尺三寸の刀を以て、敵の九寸五分の小刀にて突く前を切止る修業也』
 間合いを長く取る必要のある長刀を以って、相手が間合いを詰めてきた際にそれを打ち破る動作。それが『居合』である。
 ドンドルマでの修業時代、師と仰いでいた太刀使いのハンターにその技術を教わったレラは、わずか半年でその技術を体得した。
 元々の武器との相性も良かったのであろう。初撃と発剣には速度も伸びも申し分ないものの、片手持ちで放つ動作故に諸手持ちよりも威力の低い『居合』であるが、レラはそれを『覇気』を瞬間的に最高出力で纏わせることにより、解決させた。
 火球や光線を放つ以外は、モンスターの攻撃動作は実に単純だ。自分の体を武器にする以外に術を持たない彼らと対峙するにあたり、レラにとって間合いの調整が難しい太刀の威力を申し分なく発揮する術を持つことは、絶対条件であったのだ。
 師匠に教わり、それを見事体得して以来、『居合』はレラにとって一撃必殺の『やいば』となっていた。

「ナイス、レラ!」
 そう言いながら、『黒刀【弐の型】』を鞘に納めるレラの横を、『バサルシリーズ』を完全装備した青年――アレンが駆け抜けていく。
 アレンはそのまま、背中に背負っていた『フルフルホルン改』を抜き放つと同時に時計回しに振り回した。『フルフルホルン改』はグラビモス亜種の負傷した左足を捕らえると、紫電を走らせながら掬うようにその巨体のバランスを崩させる。
 痛みに悶えたばかりのグラビモスにとって、更なる追撃は辛い。成す術もなくグラビモス亜種はその場に転んでしまった。
 グラビモス亜種の右側頭部に、大きな錨を模した『イカリハンマー改』を両手で構え、思いっきり腰を捻った緑色の青年が待ち構えていた。
「これでも、喰らえぇっ!」
 緑色の鎧『レイアシリーズ』を身に纏った青年――ヒューゴが、ハンマーを横に振るった。それは、溜めに溜めた力を爆発させてグラビモス亜種の顎を捕らえる。
 元より、人並み外れた膂力を持つヒューゴが更に溜めた力を爆発させたのだ。超重量を誇り、全武器中最高の攻撃力を誇るハンマーを使ったヒューゴの一撃は、グラビモス亜種の顎をまるで玩具の振り子のように左右に揺らした。
 脳を狙ったわけではないにも拘らず、グラビモス亜種は何とか立ち上がるものの、その場でふらついている。眩暈を起こしているのだ。

 全ての生物は、『コア』と呼ばれる一本の線を持っている。

 『正中線せいちゅうせん』とも呼ばれる、生物体の前面・背面の中央を頭頂から縦にまっすぐ走るそれは、所謂『急所』の集まりでもある。脳天、額、顎、喉元、頸椎、心臓、エトセトラ……。
 それは、生物の命を司る他、生物のバランスを保つ役割をも担っている。
 試しに、『顎を引き、背筋を伸ばして立った状態』と、『顎を突き上げて後ろに反れた状態』とを比べてみると良い。どちらがバランスを保ち続けていられるか、一目瞭然である。
 更にそこで顎を誰かに軽く押されてみれば、もっと簡単に結果は出る。前者は耐えきることができるが、後者は対応することも儘ならないうちに地に伏せるであろう。
 つまり、ヒューゴはそれを利用したのだ。顎に振動を加えれば、正中線上でその真上に位置する脳も同じように振動が加わる。頭を直接狙うよりも効果や威力は低いが、脳震盪に近い現象を起こすことが可能なのだ。
 怪物モンスターと言えど、根っこの部分は人と同じ生命体でしかない。いくら頑強な甲殻を持っていようとも、内側に伝わる攻撃までは受けきれないのだ。
「レラさん、ヴァンくん!」
「えぇ!」
「分かってる!」
 ヒューゴの声に、レラとヴァンが答える。グラビモスの背後にいたレラは、柄に右手を添えたまま駆け出すと、再び『黒刀【弐の型】』に覇気を纏わせた。グラビモス亜種の尾の真下に立つと、足を開き、腰を落として重心を下にする。
「せいっ!」
 再び『居合』の構えを取ったレラが、上に向かって太刀を振り抜いた。
 甲殻と甲殻の繋ぎ目を狙ったそれは、銀冠サイズに匹敵するであろうグラビモス亜種の尾を、完全とは行かなかったが半分近く抉る。
 いくら『鎧竜』と呼ばれるほどに硬い甲殻を有していようとも、体全体を完全に覆いきってはそれはただのおもりであり、動きを阻害させる原因でしかない。そのために、どうしても甲殻を何枚かに分裂させる必要がある。そしてそれは、唯一ヒトが刃物でその鎧を看破する糸口であった。
 体のバランスを保つために必要な尾を抉られ、グラビモス亜種が苦しげに吼える。次の一撃に備えるため、レラは素早くそこから右側に退避した。
「ほれもういっちょ!」
 続けて、もう一度アレンの『フルフルホルン改』がグラビモスの左足を捕らえた。傷口に『フルフルホルン改』から発せられる紫電がグラビモス亜種の体を突き抜ける。
 外部から神経に電撃を喰らったグラビモス亜種は、一瞬だけ体を硬直させた。電気信号によって筋肉の収縮や肉体の動きの制御を行う神経を損なわれた巨体は、小さな存在の振るった棒きれによって再び左側に倒される。
「そんでもって更にもういっちょっと!」
 そう言いながら、ヴァンが『ワイルドボウ』から矢を放った。ババコンガの丈夫な毛に強靭な筋繊維、更にあの大重量の巨躯を支えていた骨を用いた弓から放たれた矢は、先ほどレラが斬りつけた尾の傷口の中央に深く埋まる。
 続けて、その両脇に二本ずつ、計五本の矢がグラビモス亜種の尾――レラが斬った箇所に沿って見事一直線に埋まった。
「ヒューゴ! ぶっ叩け!」
「了解!」
 そこへ、旋回していたヒューゴが、先ほどまでレラが立っていた場所で止まり、その場で腰を捻って鎚に力を込め始めた。
 最高にまで溜められた膂力は、グラビモス亜種が立ち上がろうとした瞬間、爆発する。
「千切れろぉおっ!」
 斜め下から振り上げられた『イカリハンマー改』は、見事にヴァンが埋め込んだ五本の矢すべてを捉えた。ブチブチブチ。と、筋繊維と肉が引き千切れる音が周囲に響き、尾に埋まっていたはずの矢が空に向かって飛び抜けた。
 それを後ろから見ていたヴァンは、小さくガッツポーズを取った。
「よっしゃ!」
「まだだよ! まだ骨が残ってる!」
 喜ぶヴァンに対し、険しい表情でヒューゴが叫んだ。ヒューゴの言う通り、グラビモス亜種の尾はまだ完全に切断するまでには至っていなかった。外殻とその内側の筋繊維は見事に切れていたが、唯一骨だけがそれをまだグラビモス亜種の身体に繋げていた。
「もう一度……って、あ、あれ?」
 もう一撃。そう思ったヒューゴはハンマーを再び構え、腰を捻ろうとした。しかし、先ほどまでの力はどこに消えたのか、突然ヒューゴはその場にへたりこんでしまった。
「ヒューゴ!」
 ヴァンの中に、焦りが生まれた。急いでポーチから掌サイズの玉を取り出し、グラビモス亜種の鼻先に向かって投げつける。不憫なことに、何度も転がされ、ようやく立ち上がれたグラビモス亜種は、今度は眩い閃光に目を焼かれ、その場で地団駄を踏んだ。
 火山の中腹でグラビモス亜種を発見してから、かれこれ三時間が経過しようとしていた。ヴァンならまだあと半日近くは耐えられるが、ヒューゴは違う。
 ヴァンの記憶違いで無ければ、ヒューゴは今回が初めての火山での狩りだ。普段と同じ加減で力を使ってはすぐに消耗してしまうことを失念していたのだろう。その証拠に、ヒューゴは荒々しく肩を上下させていた。
 咄嗟にヴァンが投げた玉を閃光玉だと気づいていたのだろう。ヴァンよりも先に、アレンとレラがヒューゴの元にたどり着いていた。アレンがヒューゴに肩を貸し、レラは再び『居合』の構えを取る。
「せぇえいっ!」
 レラの放った一閃が、今度こそグラビモス亜種から尾を分断した。しかし、痛みに悶えながらもグラビモス亜種は何とかその場に踏み留まり、そのまま、首を大きく空にもたげる。そこから放たれるのは、『如何なる地形をも無視して貫通する』という、ある意味超無慈悲なまでの威力を秘めた熱線だ。
「ちょ、のわあああっ!」
 幸か不幸か、それはヴァンのすぐ横を突き抜けた。そのまま、熱線は背後にいたアプケロスやランゴスタを文字通り『焼いた』。
「まじかよ……!」
 久しぶりに見たが、相変わらず無茶苦茶な威力だ。あんなものを『バトルシリーズ』などで喰らった日には、二度と立ち上がることなどできないであろう。
「おい、ヴァン! もたもたすんな。一時撤退するぞ!」
 そこへ、アレンの怒号がヴァンの耳を叩いた。見ると、ヒューゴに肩を貸すアレンと『イカリハンマー改』を抱えたレラは、既に頂上へ続く道に向かって駆けていた。
 下山方向には未だ閃光玉による目眩ましから解放されないグラビモス亜種がその場で旋回したり地団駄を踏んだりしている。ヒューゴの体調を考えると下山したい気持ちがあったが、致し方無い。ヴァンは小さく舌打ちをすると、アレンたちを追いかけようと一歩踏み出した。

「……!?」

 瞬間、ヴァンの背中に悪寒が走った。ヴァンの中にある、『生物としての本能』が、何かをヴァンに警告している。しかも、何故かヴァンは、この悪寒を『よく知っている』ような気がした。
(何だ、この感じ……? すごく、ヤな気分だ……)
「ヴァン! 死にてぇのか馬鹿野郎!」
「急いで! グラビが回復しちゃう!」
 二人の声に、ヴァンの意識が元に戻る。後ろでは、ようやく目が回復したグラビモス亜種が、怒りの咆哮を上げながらヴァンたちの方を振り向いた。
「やっば!」
 とりあえず先ほど感じた悪寒を頭の隅に追いやり、ヴァンはその区域から逃げるように駆け出した。


   ◆


「……面目ない」
「謝るくらいなら、早く回復しろ。お前は攻撃の要なんだから」
 ヴァンによってクーラードリンクで携帯食料を無理矢理流し込まれたヒューゴが、済まなそうに項垂れている。それに対しヴァンはいつものように悪態をついた。しかし、そこには親友を気遣う少年の不器用な一面が見てとれる。
「そういえば、ヒューゴは今回がはじめての火山だったんだっけ。ごめん。私たちも全然気遣ってあげれなかったわ」
「だな。はじめてじゃ、力の加減が分かんなくてもムリねぇよ」
 こちらもそろそろ効き目が切れ始めたのか、二本目のクーラードリンクを飲みながらレラとアレンがその場に腰を下ろした。
 レラは先ほどの戦いで血潮を浴びた『黒刀【弐の型】』を砥石で研ぎ、アレンは『フルフルホルン改』を吹いて音の確認をしている。
 『狩猟笛』は、本来は前線タイプではなく、支援を得意とする得物だ。打撃武器としても使えるし、その威力もハンマーと比べても遜色ない。しかし、あまり酷使すると、変形などによって音が出なくなってしまう。なので、狩りの間と言えど、調律チューニングは必須であった。
 辺り一帯に、不気味としか言い様のない音色が響き渡る。洞窟の奥から何かを誘うような、深く、高音なのに暗い音色。ヴァンはフルフルとの攻防を思い出した。
 そこで、ヴァンは自分の身体に起きた変化に気づいた。何かしたつもりでもないのに、身体の内側から力が湧き上がるのを感じる。
「これ、一体……」
「身体が、軽い……?」
 ヒューゴも気づいたらしい。目を丸くしながらその場に立ち上がると、小さく首を傾げている。
 その横で、研ぎ終えた『黒刀【弐の型】』の刃を見ていたレラが、何でもないように答えた。
「あ、ヴァンとヒューゴははじめてだったわね。狩猟笛の旋律効果よ。多分、【強化】と【強走効果】かしら」
「お、当たり。効果は大体三時間くらいだけど、重ね掛けしたからもうちょい持つと思うぜ」
 『フルフルホルン改』から口を離したアレンが、レラの言葉に得意気に頷く。調律ついでに、狩猟笛の本領を発揮してみた。ということだろうか。
 狩猟笛の奏でる旋律は、耳から脳に伝わり、自律神経系の一つである交感神経に働きかけ、アドレナリンの放出を促せる。それにより、普段はヒトが無意識のうちに抑えている制御機構リミッターを無理矢理にこじ開けるのだ。
 筋力を上げるのではなく、元ある力を内側から引き出す。ある意味、催眠に近い作用である。
「でも、あんまり連続で使いすぎると、聞いたヤツの寿命はどんどん縮んでく。当たり前だよな。制御してるイコール危険って意味なんだから」
 だからこそ、解けたときの反動も大きい。
 アレンの言葉の通り、旋律の聞きすぎによるアドレナリンの異常分泌は、身体に支障を来しやすくしてしまう。ある程度の間を置いて、アドレナリンの分泌を抑えなくてはならないのだ。
「ん。でも助かったよ、アレンくん。……また、足手まといになるところだった」
 旋律効果によって、力が戻ったのだろう。ヒューゴがゆっくりと立ち上がった。
「グラビの尻尾は斬った。回転動作と尻尾による薙ぎ払いはもうないよね」
「でも、油断は禁物よ。まだ睡眠ガスと熱線がある」
 『鎧竜』グラビモスの最大の武器は、体内に存在する特殊な器官で生成された、催眠作用を持ったガスの放出。そして、先ほどヴァンを掠めた熱線だ。
 後者の熱線は新陳代謝の一環でもあり、過熱した身体を冷やす働きを持っている。また、同様に熱線を吐いた後で全身から爆炎を噴き出すこともある。
 正に、近遠どちらの距離をも征する能力を持っているのだ。
「救いは、前動作があることだな。いきなりあんなもん放たれたら、避けきれねぇ」
「ヴァンの場合は、突進にも注意すべきだ。動きはレイアなんかに比べると遅いけど、ホーミング能力は高いぜ」
 ヴァンの言葉に、アレンが口を挟む。確かに、あの超重量の巨体でぶつかってこられたら、人間などひとたまりもない。足の大きさだけで、ヴァンを軽く超えるのだ。
「とにかく、向こうも相当に体力を削られているはずよ。次にあったとき、勝負は決まるわ」
 レラの言葉に、三人は頷いた。ヒューゴとアレンの武器によって、既にグラビモス亜種の腹部の甲殻もかなり傷ついて皮下組織が曝け出されているのだ。あの状態では、マグマに潜るだけでかなり辛いはずだ。
 次が、最後の決戦となる確率は高かった。
「……それにしても、酷い雲だね。雷雲かなぁ……」
 そこで、ヒューゴが心配そうに空を仰いだ。確かに、ドーラ火山を包むように、空には暗雲が広がっている。
「ホント。酷い雲ね。一雨来そうな雰囲気だわ」
「にしちゃあ、空気は乾いているけどな。こういう時って、湿度は高いもんじゃねぇのか? まぁ、どっちにしろ、あんまし雨は歓迎できねぇけどな」
 アレンとレラも空を見上げ、不安そうな言葉を漏らした。
 しかし、ヴァンは空を見上げようとはしなかった。脳裏に、十二年前の記憶が甦る。

 ――ねぇ、やっぱりかえろうよぉ……。
 ――バカいうなって! もうすぐちょうじょうなんだよ! 『ひのかみさま』におねがいしなきゃ、おかあさんはしんじゃうんだ!
 ――でも、なんか、こわいんだ……。ぼくらのうしろを、ずっと『なにか』がついてきている……。
 ――えぇ? たしかにすっごいくろいくもでそらはいっぱいだけど、ほかにはなにもいないじゃないか。
 ――それがおかしいんじゃないか。どうして、何も『いない』のさ……。なのに、どうしてこんなものが『みえる』の……?
 ――なんだよ、わけわっかんないなぁ! じゃあおまえだけかえればいいじゃん! ぼくはやだからな!
 ――…………。
 ――な、お、おこったってむだだぞ! たしかにおまえのほうがおこったらこわいけど、でも、ぼくはぜったいにちょうじょうまでいくってきめたんだから!
 ――…………。
 ――おかあさんのびょうきを、なおしてくださいって、むらびとたちが、おかあさんにやさしくしてくれますようにって、そうおねがいするって、きめたんだ……!
 ――……わかった。いこう。ちょうじょうまで……。

 かつて、まだ『二人』だったころの最後の記憶を思い出していたヴァンは、誰に言うでもなく小さく呟いた。
「あのときも……こんな空だった……」
「ねぇちょっと! ヴァン!」
「っ!?」
 突然、視界いっぱいに銀髪の少女が入り込んできた。びっくりして顔を引きつらせると、レラが不思議そうに何度か瞬いているのが見えた。
「やだ。こんなときに何ボケーッとしてるのよ。天気が崩れそうだから、早く追いかけようって言ったの、聞いてた?」
「え?」
 言われて、ヴァンは辺りを見回した。既に、アレンとヒューゴは頂上に続く道で二人が来るのを待っている。どうやら頂上に行く一つ手前の区域エリアで待ち伏せを行うようだ。
 グラビモスは純度の高い鉱石を好む。回復するためにおそらくそこに向かうはずだとヒューゴが提案したのだろう。慌ててヴァンは立ち上がった。
「え、あ、わりぃわりぃ。すぐ行く……」
「もう、しっかりしてよね!」
 レラの憎まれ口を適当に無視しつつ、ヴァンは一歩前に踏み出した。

 その瞬間、ヴァンの体を『恐怖』が走った。

「……!!」
 ビクリと体を大きく震わせたヴァンは、すぐさまに空を見上げた。すぐ前を歩くレラが、ヴァンの異変に気づいて振り向いてくる。
「? どうしたの、ヴァン」
 レラの声も、既にヴァンの耳には届いていなかった。ヴァンの『千里眼』が、グラビモスではない、別の『何か』が空を飛んでこちらに向かってきているのを捕らえる。

 それは、ヴァンがよく『知っている』ものだった。

「そんな……なんで、今……?」
「ヴァン? ねぇ、どうしたのよ、ヴァン」
 レラが近づいてくる。しかし、ヴァンは空を見上げたまま固まっていた。
「おーい! ヴァンくん、レラさん! どうしたのー?」
 ヒューゴが遠くから二人に声をかけてきた。しかし、それでもヴァンは一歩もそこから動かない。
「……お、おい! なんだ、アレ!?」
 そこで、アレンが空を指差した。ヒューゴとレラが、その声に反応して空を見上げる。

 その瞬間、雲から雷鳴が迸った。
 続けて、それに呼応するかのように火山の噴火口から溶岩が飛び散る。

「きゃあっ!」
 噴火口から発せられた溶岩が、レラとヴァンの目の前に落ちてきた。更に、その後ろにあった岩の壁を破壊する。断崖絶壁と呼ぶべき光景が、二人の後ろに広がった。
「レラ! ヴァン!」
 アレンとヒューゴが二人に向かって駆け出した。しかし、四人の間に空から舞い降りてきた『何か』が割って入ってくる。

 『それ』は、灼熱のマグマによく似た『龍』だった。赤と言うより赤黒い甲殻に覆われ、後肢のみで直立姿勢をとる姿は、それまで彼らが見たモンスターとは違い、『異様』そのものだった。
 広げられるのは、あまりに巨大な翼。後肢とともに直立する体を支えるのは、その巨大な胴体に見合うほどに長い尾。下顎が発達したその口からは、幾本もの鋭い牙が垣間見えている。その上――頭部にあるのは、まるで王冠を模したかのような四本の角。

「……何、コレ……。こんな龍、見たことない……」
 『それ』に見下ろされ、レラは呆然と立ちすくんでいた。
 力が入らない。まるで『生気』を目の前にいる龍に吸い取られているようだ。
 その巨体にしてはつぶらな瞳をしていたが、それだけでもすべての生き物を圧倒させる『何か』を『それ』は放っていた。
 レラは、何とか目を動かしてその巨体を見つめた。赤黒い甲殻は、どこか『自然』とは違う何かをそこに孕んでいるようだ。何故かは分からないが、それはレラがよく知っているもののようだった。
「……?」
 そこでレラは、龍の脇腹の辺りの甲殻に『違和感』を覚えた。
(何だろう。よく見えないけど、あれは甲殻じゃない。何か、明るい色の……毛?)
 脇腹の辺りに生えた、一房の毛。どこかで見覚えのあるような……。

 ミカン色の、綺麗な髪の毛だった。

「え……!?」
 レラが髪を見て絶句するその横で、ヴァンが突然その場に蹲った。
「ヴァン!?」
「いやだ……ごめんなさい……ゆるして、おねがいだからゆるしてください……」
 レラの声も聞こえないのか、ヴァンは駄々を捏ねる子供のようにその場に蹲ったまま頭を抱えて泣き出してしまった。突然、子供に返ってしまったように泣きじゃくるヴァンに、レラの思考が追いつかない。
「ねぇ、ちょっと、ヴァン! しっかりして!」
「いやだ……どうして……どうして殺すの……おねがい……やめて……」
「ヴァン! ねぇ、お願いだから応えて!」
 正体不明の龍を前に、蹲ったまま自分の声に応えてくれないヴァンに、レラは焦りを覚えた。続けて、ヴァンの呼吸が荒々しくなっていく。
(まずい。こんなところで過呼吸なんて……)
 しかし、レラに考えている時間などなかった。
「レラさん! ヴァンくん!」
 響くヒューゴの怒号。目の前にいた龍が、劈くような咆哮を発したのだ。反射的に耳をふさいでも、その威力が振動となってレラの体を襲う。
「っあああああ!?」
 続けて響くのは、ヒューゴの叫びに近い声。次の瞬間、レラとヴァンの周りに隕石が降ってきた。
「きゃああああ! ヴァン! ヴァン! お願い! 目を覚まして!」
 もうなりふり構っていられなかった。レラは年甲斐もなく泣き叫びながら、ヴァンの方を揺らす。しかし、ヴァンは相変わらず蹲ったままだった。呼吸も酷い。
 そして、
「馬鹿野郎! 走れぇえ!!」
 アレンの怒号が聞こえた瞬間、レラの体に衝撃が走った。
「あっ……カハッ……」
 肺に溜まっていた空気が、一瞬で外に吐き出される。そこで、レラは自分が龍の尻尾によって吹き飛ばされたのだと理解した。『桜火竜』の素材でできた鎧ですら受け止めきれないほどの衝撃が、少女と少年の身体をいとも簡単に宙に放り出した。

 その先にあるのは、岩の壁を失った、断崖絶壁。
 標高二千メートル付近の場所から、一気に急降下ダイブしていくのを、肌で感じた。

「レラーッ!」
 アレンの叫び声が聞こえたのと同時に、レラの意識は途切れた。
最後に出てきたあ奴、何者なのでしょうかねぇ……。
あえてここでは公開しない旅がらすです。
読者様たちの想像にお任せします。そのうち公開しますのでw(そのうちかよ!

さて、今回出てきた『居合い』とハンマーでの尻尾切断大作戦(結局切れていませんが)はいかがでしたでしょうか?
ヒューゴのところで出てきた『核』の話は、旅がらすが高専時代にやっていた合気道を参考にしています。実際にやられてみると分かりますが、結構重要なんですよ、アレ。
『狩猟笛』の解説にも独自の設定が盛り込まれています。【自分強化】の旋律は、ただ単に【強化】の旋律に変更しました。攻撃がはじかれないくらいに筋肉を強化する。と言うイメージを持っていただければ良いかと思います。
さすがに、攻撃力を上げれても、防御力や耐性までは強化できるはずがないと思うので、その旋律は一切使わない予定です。
あり得ない技術である分、自分である程度説明できないものは省いていますので。双剣の【鬼人化】とかどうやって説明せいっちゅーねん。まぁ、おそらく太刀の【練気】のときのように『素質』と言う言い方で纏めるのでしょうけど……。ボウガンの『回復弾』とか『硬化弾』、それに『鬼人薬』は説明できても『硬化薬』は絶対に無茶だあぁあ。
……最近、モンハンの設定を一生懸命こじつけでやっている自分がいます(汗

そろそろいい加減長くなってきたので、今回はこの辺で。
では、三十六話でまた〜。

次回はちょっと時間巻き戻って、ガノス戦です。


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