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ども。現在、三月中旬までに免許を取ろうと四苦八苦している旅がらすです。路上怖い教習生の車怖い……。ん。頑張ろう! 負けるな自分!

はい。今回からまた舞台が変わります。
ヴァンとヒューゴには、もっともっと強くなってもらわねばね!

そんな感じで、第二十五話、スタートです。
第二十五話 試練の幕開け
 交易都市・ドンドルマ

 シュレイド地方からヒンメルン山脈を越えた、険しい山間に切り開かれた土地。
 大陸の中央に位置するものの、立地条件から発展は難しいといわれていた場所だが、大長老と呼ばれる指導者の下、周辺に生息するモンスターとの共存を掲げ、今ではハンターたちが最も集う場所として発展した町だ。
 ドンドルマにはハンターが数多く集うための様々な施設が揃い、彼らが必要とする薬品や道具などが売られ、逆にハンターたちが手に入れてきたモンスターの素材や各地域の特産物が商人に買われ、交易の拠点としても大きな成長を遂げている。
 今では、西シュレイド地方のミナガルデと並ぶ『ハンターの街』なのだ。

「でっけぇ……。これが中央ベースギルドか……」

 草食獣モンスター、ケルビの皮やマカライト鉱石などを用いて作られた防具、『バトルシリーズ』を着たヴァンは、目の前に建つ建物に目を丸くしていた。
 ハンターズギルドの総本山・中央ギルドだ。ドーム状に造られたそれは、規模だけでもミミルの街にあるギルドの倍以上、いや、十倍近いかもしれない。お抱えのハンターも軽く三桁は超えているとフラディオから聞いてはいたが、それは田舎育ちのヴァンの想像を遥かに超えていた。

「はあぁ〜。世界にはこんなでっけぇ建物があるんだな〜……」
「大きさなら学術院も負けてないけどね」

 いつの間にいたのか、ヴァンの横で緑と銀で彩られた甲冑を着込んだ男がそう口にした。がっちりとヘルムを被っているため、顔は見えない。緑色の甲殻や鱗によって造られたその鎧は、『陸の女王』リオレイアの素材を使った『レイアシリーズ』だ。男は背中に回転式連発拳銃リボルバーを模したハンマー『工房試作品ガンハンマ』を背負っている。
 ヴァンは、レイアシリーズを着込んだ男を見て、ニカッと楽しそうに笑った。

「なかなか似合ってんじゃん。ヒューゴ」
「そうかなぁ……。僕は何か着てるって言うより着せられてる感じがめちゃくちゃするんだけど……」

 ヴァンが笑いかけた男――ヒューゴは、兜の脱ぐと少しだけ怯えた表情をヴァンに見せた。それに対し、ヴァンは笑顔でヒューゴの背中を叩く。

「大丈夫だって! チョー似合ってる! やっぱ、がたいが良いと鎧がかっこよく見えるな!」
「いや、僕まだFクラスだよ? そんなハンターがレイアシリーズ着ることがまず異例なのに…」
「俺だって『クイーンブラスターI』を背負ってるぜ? ほら」
「むぅ……」

 ヴァンが背負っていた緑色の弓を展開すると、ヒューゴは少しだけ不服そうにしたものの何も言い返せずに黙ってしまった。
 ヒューゴが着ている『レイアシリーズ』は、二人がはじめて出会ったその日に遭遇したリオレイアの素材を使用して、ヴァンが一週間かけて拵えたものだ。先のババコンガ討伐でランポスシリーズの胴鎧を壊してしまったヒューゴにと、ヴァンはレラに了解を得て造ったのである。
 もちろん、リオレイアの討伐に参加していなかったヒューゴは、最初は受け取りを拒否した。しかし、ヴァンが既にヒューゴのサイズで防具を作ってしまったこと、また、ヴァンも余った素材で『クイーンブラスターI』を造っていたことを受け、しぶしぶ防具を受け取ったのである。

「最近、やたらとアイツを討伐してこいだのあの鉱石を掘ってきてくれだの言ってたのは、このためだったんだね……」
「ぜーんぶオレが調達したら、ヒューゴは絶対に受け取らねぇしな。自分で持ってきた素材が入ってるなら、問題ないだろ?」
「まったく、文句を言いたくてもこれじゃあ言えないよ」

 小さくため息を溢すヒューゴの背中を、もう一度ヴァンが叩いた。

「ハッハッハ! やったもん勝ちだな!」
「いいさ。絶対早く昇格して、この鎧着てても可笑しくない実力になってやる」

 しかし、もうヒューゴの顔に不満の色は無く、固い決心を抱いた強い瞳でギルドを見上げていた。
 それを見て、それまでふざけていたヴァンも一気に心を引き締める。

「おぅ。じゃあ、気張っていこうぜ、昇格試験!」
「うん!」

 二人は互いに強く頷き合うと、ギルドの大きな扉を開いた。



   ◆



 ハンターランク昇格試験

 年に四回行われる、ハンターランクの昇格を目的とした名前通りのイベントだ。ハンターランクはハンターとしての実力を見る大体の目安となっており、これによって依頼の上限が決められている。
 ヴァンたちの現在のハンターランクは最下位のFクラス。クエストの上限は『ドスランポスおよびその派生モンスター、同レベルの中型モンスターの討伐』だ。当たり前のことだが、このランクで留まるハンターは普通いない。皆、ハンターになってすぐの昇格試験でランクアップを目指すのだ。
 ロビンがミミルを去ってから一ヶ月が過ぎ、レラやアレンたちと共に護衛依頼をいくつか経験した二人に昇格試験の通知が届いたのは、八月の終わり、ちょうど一週間ほど前のことだ。

「昇格試験って、内容どうやって決めるんだろうな?」
「アレンくんたちの話だと、ギルド側がランク昇格に適した依頼をハンターに課して、その結果で審議するらしいよ」

 昇格試験の内容は、もちろん『狩り』だ。更に、その相手はそれまで経験したものとは明らかにレベルが上のモンスターである。
 昇格したいなら、このくらいのモンスターを狩って己の実力を示せ。ということらしい。
 ちなみに、Eクラス昇格に必要な実力の目安は『大型鳥竜種の討伐を単体狩猟ソロハントでこなす実力』だそうだ。狩猟対象も大概は一貫している。

 『怪鳥』イヤンクックだ。

「クックかぁ。あんときは嫌な目に会ったよなぁ……」
「あのときの先生の怒った顔。本当に怖かったよねぇ……」

 試験参加の受付を済ませ、酒場を兼ねたホールの端の席に腰掛けた二人が思い出すのは、まだ互いに訓練生だった頃の記憶だ。
 あの夜、『青怪鳥』イヤンクック亜種の襲撃を受け、アレンの言うことを聞かなかった二人は怪我を負い、フラディオの怒りを買ってしまった。今思えば、あれが二人の絆を強めたのではあるが、やはり亜種とはいえイヤンクックに白旗を振った記憶は、あまり良い思い出ではない。

「ちょっといいかい? そこの若造どもよ」

 クックの苦い思い出とこれからの試験について物思いに耽っていた二人は、自分たちに声をかけてきた老人に全く気づかなかった。
 おおよそ子供と大差ない小柄な竜人族の老人は、リスのように顔を膨らませると、ヴァンが座っている椅子によじ登り、彼の髪を持ち上げて耳元で大きく叫んだ。

「これ! 立場弱きジジィが話しかけとるのに、無視するんじゃない!」
「どわぁっ!」

 老人としては、自分の言葉を無視されて悔しいのだろう。気持ちは分からないでもないが、耳元で叫ばれた方は洒落にならない。
 案の定、突然耳元で響いた大声に思わず声を上げたヴァンは、すぐに叫ばれた方の耳に手を当てた。その声に、ヒューゴも現実に意識を引き戻す。

「え、どうしたの? ヴァンくん」
「おぉお……。鼓膜破れたかと思ったぞ……」
「うぬ? お主、耳が変な形じゃのぉ。なんじゃ、ハーフかえ?」
「って、謝らねぇのかよ、爺さん! あと人の耳いじくんじゃねぇ!」

 一方、二人の会話など完全に無視し、ヴァンの耳の形に興味を示した超マイペースな老人は、ほんの少しだけ尖った彼の耳を引っ張ったり摘まんだりして遊び始めた。
 ヴァンは何とか老人を引き剥がすと、まるで不良のような目つきで老人を睨む。

「おいジジィ。人の体で勝手に遊びやがって、一体何様のつも」
「そこの少年、何をしている!」

 しかし、悪態をつこうとしたヴァンを、更に別の声が止めた。刹那、ヴァンと老人の間に片手剣の一種、細剣レイピアが挟まれる。
 ヴァンに向けられたそれは、『陸の女王』リオレイアの上質な素材から作られる『クイーンレイピア』だ。それを手にしているのは、『空の王』リオレウスの上質素材から作られた防具『レウスSシリーズ』に身を包んだ、ヒューゴよりもやや年上の妙齢の女性だった。

「貴様、その方が誰かを知っての愚弄か!?」
「…………」
「え、ちょっと! あなた一体誰ですか!?」
「質問に質問で返すな!」
「ひぃっ!」

 思わず抗議の声を上げたヒューゴに、女性はそれまでヴァンに向けていたレイピアの切っ先を向けた。ヒューゴはその鋭さと女性から放たれる威圧感に思わず萎縮してしまう。
 しかし、ヴァンは一切何も言わなかった。ただ、黙ってジィッと女性のレイピアを見ている。
 女性は何も言わないヴァンに痺れを切らしたのか、再びヴァンにレイピアを向けた。

「おい少年! なぜ貴様先刻から何も言わないのだ!」
「…………」
「少年! 答えぬのならってきゃぁ!」

 突然、老人を離して女性の手ごとレイピアを引っ張ったヴァンに、それまで威勢の良かった女性は小さく可愛らしい悲鳴を上げた。ヴァンはそんなことなど一切に気にせずに、女性の手に掴まれたままのレイピアをジッと観察し始める。

「あんなに分厚いレイアの堅殻をこんなに細く、しかも鋭く加工してる……これ、霞竜の爪と紅玉を使って研磨されてるんだ……」
「は……!?」

 突然武具の観察を始めたヴァンに、女性は目を丸くした。しかし、一端そういった目で武具を見始めるとヴァンは決して思考を止めない。
 もう既にそのことに慣れてしまっているヒューゴは悪い癖が出たなぁと言いたげな、半ば呆れた表情で、見慣れていない老人と女性は不可思議な目でヴァンを見つめていた。

「それにこの防具。甲殻に傷がほとんど見られねぇ。レイピアの『斬る』のではなく『突く』動作が成せる技なんだな……」
「しょ、少年……あ、あの、そのだな……」

 真剣にまじまじと防具まで観察し始めたヴァンに、女性がたじろぐ。そんな女性のことなど全く考慮せず、ヴァンはキラキラとした目で女性を見上げた。

「なぁなぁ。籠手だけで良いから外してくんねぇかな? 初対面で申し訳ないのは分かってっけど、リオレウスの素材なんて滅多にお目に掛かれないんだ! 頼むよ!」
「っ! あ、あぅ……」

 レイピアを向けられたことや老人に耳をいじくられたことなど既に蚊帳の外のようだ。ヴァンの目は女性の身につける武具にのみ向けられていた。あまり向けられたことのない類の視線に、女性は思わず顔を赤らめていた。
 その横で、疾うにヴァンに忘れ去られた老人が、小さな声でヒューゴに訊ねる。

「青年よ。あの少年、いつもああなのか?」
「貴重な素材で作られた防具を見ると、完全に外界はシャットアウトしちゃいますね。彼にとって、未知の素材との遭遇は人生で最も素晴らしい時間なんだと思います」
「ふむ。そうかそうか。そいつはまた、興味深い……」

 ヒューゴの言葉に老人が満足そうに頷くその横で、ヴァンは更に女性ににじり寄っていた。

「なぁ、頼むよ! ホントに防具見るだけ! ホントそれだけだからさ!」
「!! ……はぅう……」

 尚も目をキラキラと宝石のように輝かせるヴァンを見て、女性は突然ガノトトスの水ブレスにやられ撃沈した船のようにその場にしゃがみ込んだ。顔も下を俯いてプルプルと震えている。
 しばらくして、女性から搾り出すような小さな声が聞こえてきた。

「……るな」
「へ?」
「そんなキラキラした目で私を見るなぁああ! べ、別に可愛いとかハグしたいとかなんて思っていないから!」
「…………はぃ?」

 突然そう叫んだ女性は、目にも留まらぬ速さでヴァンの手から自分の左腕と『クイーンレイピア』を引き抜くと、バッと立ち上がって傍らにいた老人を抱き上げた。有無を言わさずに抱き上げられた老人は、首を傾げながら女性を見上げる。

「うぬ? もう行くのかえ?」
「はい、行きます! 文句は言わせませんよ! 行きますからね! 少年。貴様、次はないぞ。覚えておけ!」

 何を覚えておくのかよく分からない発言をした女性は、顔を赤らめたまま、結局名前すら名乗らずに老人とその場を立ち去っていった。その後姿を、ヴァンはまるで一番大切な玩具を盗られた子供のような目で追いかける。

「あっ、レウスの上質素材が……!」
「……ヴァンくん、何気に天然だよね……」

 そして、結局こちらも女性ではなく素材しか見ていなかったヴァンに、ヒューゴは半分感心、半分呆れた念を抱きながら、小さく呟いた。

「ん。何か言ったか?」
「何も。あ、料理来たみたい」

 ヒューゴが肩をすくめるのとほぼ同時に、二人の前に先程注文した料理が運ばれてきた。ポポ肉の煮込みを使ったシチューの香ばしい香りが、二人の鼻腔をくすぐる。
 二人は先程の謎めいた二人組のことはとりあえず頭の隅に追いやりながら、目の前の料理に集中することにした。



   ◆



「ん? 今、オレら名前呼ばれたか?」
「え? そう?」

 昼食を終え、食後のお茶を飲んでいた二人は、カウンターから聞こえてきた声に耳を澄ませた。すると、人々の喧噪の合間から自分たちの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

「あ、ホントだ。ヴァンくん、耳良いね」
「竜人は結構人間よりも発達した器官が多いからな。っと、それよか行こうぜ」

 ヴァンはそう言って立ち上がると、弓を背負い直してカウンターへと歩き出した。遅れて、ハンマーを背負ったヒューゴがその後を追う。
 カウンターに行くと、栗毛の妙齢の受付嬢がヴァンたちを見て手元の書類を確認した。

「ハンターズギルド・ミミル出張所付きFクラスハンター、ヴァン・ドラグニル様ならびにヒューゴ・レペンス様でよろしいですか?」
「おぅ。合ってるぜ」
「はい。その通りです」
「では、本人確認のため、ギルドカードをご提示下さい」

 受付嬢の言葉に、二人は自分たちのギルドカードを示した。受付嬢はそれを確認すると、コクリと頷く。

「確かに承りました。それでは、昇格試験のご説明をさせていただきます。まず、ドラグニル様はこれよりクルプティオス湿地帯へ、レペンス様はジォ・テラード湿地帯に向かっていただきます。試験内容となるクエストはこちらで既に受け付けてありますので、詳細は向こうに着き次第確認してください」
「え。別々の場所で試験を行うのですか?」

 ヒューゴが首を傾げながらそう訊ねると、受付嬢はコクリと頷いた。

「はい。今回は単体狩猟ソロハントの技能を見ることも兼ねていますので。質問が以上ならば、一時間後にお二人とも西側の門に集合願います。試験官のアイルーがそこで待っている手筈になっています」
「アイルーが試験官!?」

 今度はヴァンが奇声を上げた。しかし、受付嬢は「何か問題でも?」と言いたげな目でヴァンを見つめるだけだ。ヴァンは信じられないとでも言うように頭に右手を添えた。

「試験官って、人じゃねぇのかよ……」
「我がギルドの試験官アイルーは、すべてDランク指定のクエストを単体狩猟でこなせる猛者たちです。あなた方の足を引っ張るようなマネは一切致しませんよ。……まぁ、あなた方が彼らの足を引っ張ることはあると思われますが……」
「んだとぉっ!?」
「ヴァ、ヴァンくん! ダメだよ!」

 軽い嘲笑を浮かべる受付嬢の最後の言葉に苛だちを覚えたヴァンはカウンターから身を乗り出そうとしたが、済んでのところでヒューゴがそれを止めた。ヴァンは威嚇する猫のようにフーッっと荒い息を吐いていたが、すぐにカウンターから身を引く。
 それを確認して、受付嬢は笑顔を二人に向けた。絶対に営業スマイルである。

「では、そのようにお願いいたします。ギルドを出て裏側に入ったところに、ハンター御用達の雑貨店がございますので、荷物はそちらで纏めてください。ホテルはギルド指定のものですよね?」
「あ、はい。そうです」

 まだ受付嬢に掴みかかりそうな勢いのヴァンを押さえたまま、ヒューゴはブンブンと首を縦に振った。
「では、そちらの延泊料金はこちらが負担いたします。荷物もそのまま預けられて構いませんので」
「分かりました。丁寧にありがとうございます」
「いえ、ギルドの務めですので」

 受付嬢はそれだけ言うと、一礼してカウンターから去っていった。ヴァンはそれを見てようやく力むのを止めたので、ヒューゴがヴァンの拘束を解いた。
 しかし、ヴァンはすぐにダッシュで外へと一人飛び出していく。

 数秒後、

「デュアアアァァァアア!」

という謎の奇声とともに、誰かが思いっきり何かを蹴る音がギルドに響いた。ヒューゴは小さくため息をつくと、周りにペコペコと謝りながらギルドの外に出る。
 今ほどにロビンの奇行に慣れていたことに有り難みを感じた瞬間はなかった。まったく恥ずかしいとすら思わない自分も自分ではあるのだが。

 外に出ると、案の定、ヴァンが近くに立っていた大木に鬱憤を晴らしていた。周りの好奇な視線など全く気にせずに、ヴァンは大木に跳び蹴りを何発か入れた後に、頭突きと正拳突きまでかましていた。それは、ヒューゴが外に出てからも、大体一分ほど続いた。
 最後の頭突きを終えて、大木をミシミシと音が鳴るほどに握りしめるヴァンに、呆れ顔で近づく。

「……気が済んだ? ヴァンくん」
「ぬおぉぉおおおお。ぜってぇに試験チョーブッチの余裕綽綽モードでクリアして、あの受付嬢に目にもの見せてくれるぞ!」
「……勝手にしてくれ」

 呆れて肩を竦めるヒューゴの横で、ヴァンは決意の雄叫びを上げていた。



   ◆



 一方、ギルドの裏手では、先ほどの受付嬢が小さくため息をつきながら『本来の正装』に着替え直していた。
 ギルドの制服から深紅の鎧に着替えなおした女性は、腰に深緑の小振りな武器――片手剣を納め、右手に対となる新緑の荊を模した楯を装着する。それは、先ほどヴァンに向けた『クイーンレイピア』だった。

「相変わらず、変装が上手いのぉ」
「っ!?」

 着替え終わった女性が一息ついた瞬間、背後に突然、先ほどヴァンたちにちょっかいをかけていた竜人族の老人がひょっこりと現れた。
 不意を突かれて身構えていた女性は、相手が老人であることを確認すると安堵のため息をつく。

「貴方様も、その気配を消して人の後ろに立つ癖を何とかしてください。驚くではありませんか」
「ほっほっほ。まだまだ現役のハンターには負けんぞえ」

 脱力する女性と対象に、老人は楽しそうに微笑んでいる。しかし、老人はすぐに真剣な眼差しで女性を見つめた。

「舞台の準備は?」
「万全です。すべて貴方様の指示通りに取り計らいました。しかし、腑に落ちないことがあるのですが」

 そう言って老人の顔色を伺う女性に、老人は優しい笑みを向けた。

「進言を許そう」
「はい。まず、彼らはまだFクラスです。クエスト達成状況を見ても、あのような試験内容にするのはどうかと」

 女性が神妙な面持ちでそう言うと、老人は顎に手を当てつつ、懐から煙管キセルを取り出して口にくわえた。女性はすぐにしゃがみ込んでそこに火を点けてやる。
 老人はしばらく煙草を燻らせると、にんまりと笑った。

「あの者らが、『疾風迅雷』の息子であり、Sクラスハンターの『赤王』の弟子であるとしたら?」
「存じています。しかし、それでも」
「お主が気に入ったであろうミカン色の髪の少年」

 女性の言葉を遮って、老人は言葉を続けた。女性は先ほどのことを思い出したのか、顔を赤らめてその言葉に抗議を唱える。

「気に入ってなどいません。あれは、その……気の迷いです」
「そうなのか? まぁよい。とりあえず話を聞け。……あの少年は武具職人『神の手』ジン・ドラグニルの玄孫であり、『弓の賢者サジタリウス』レビィ・エルフィードの息子じゃ。そして、もう一人の黒髪の青年は『炎槌』ユージーン・グレンジャーおよび『至高の探検家』ロビン・グレンジャーの弟子。ならば、その実力はFクラスながらも未知数であると言える」

 若き力は叩いて伸ばせじゃ。と老人は楽しそうに言葉を終えた。しかし、女性はまだ納得がいかないらしい。難しい顔で老人を見つめていた。

「それでも、今回のクエスト内容。どちらにもレベルが高すぎるかと。普通はDランク認定試験、それもチーム戦の内容と相違ないものですよ? それをまだハンターになって半年の青年たちに単体狩猟として課すのはどうかと……」
「できぬのなら、それまでよのぉ」

 老人はそれまでの楽しそうな笑顔から一変、厳しい目で虚空を見つめていた。ハンターの仕事は常に死と隣り合わせ。それは試験と言えど変わらない。
 女性は老人の目の奥にある真意を悟ったのか、それ以上何も言うことはないと口を閉ざした。元より、この老人は一度決めるとなかなか考えを変えようとしない。何も言ってももう無駄なのだ。
 女性が半ば諦めの表情を浮かべていたことに気づき、老人は険しい顔を元に戻した。

「今ならまだ、彼らを止めることはできるぞ?」

 老人は珍しく女性にそう進言したが、女性は間髪入れずに首を横に振った。

「……いえ。私は貴方様の剣であり楯。手であり足。主たる貴方様に逆らう気は毛頭ありません」
「うむ。そうか。その忠誠心、感謝するぞ、サーシャ」
「感謝など……。我が体は貴方様のためだけにあります。どうぞ、骨の髄までお使い下さい。会長」

 女性――サーシャはそう言うと、腰に差していた剣を胸の前に構えて老人――ハンター協会会長、ゴルドバ・レッドフォックスに頭を垂れた。

 ゴルドバとサーシャのすぐ脇に、先ほど彼女が受付所に扮していた際に見ていた書類が落ちていた。そこには、ヴァンとヒューゴの顔写真の他に、今回彼らに宛われたクエストの書類が一緒に纏められていた。

『クエスト名:電撃祭 2nd
 場所:クルプティオス湿地帯
 受注者:ヴァン・ドラグニル
 狩猟対象:『帯電飛竜』フルフル』

『クエスト名:疲労知らずの石泥棒
 場所:ジォ・テラード湿地帯
 受注者:ヒューゴ・レペンス
 狩猟対象:『毒怪鳥』ゲリョス亜種』
えー。早速登竜門のクックをすっ飛ばした『たまじゅけ』です。
だって、訓練編で出しちゃいましたし。二度も出したらつまらないし。

それにヒューゴには早く彼女を迎えに行って欲しいし(ぇ)

さぁて、いきなり大型飛竜と対峙したり、ハンマーとは相性最悪な奴との勝負を突きつけられていることなど知らずにいる二人。
どうなることやら、ホントに……。

また次回お会いしましょう(・o・)ノ


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