第75話 バルムガルド滅亡
大勢の人間を犠牲にして、今まで生き延びてきた。
何千人もの兵士を戦場に置き去りにして、逃げた事もある。自分の楯となって暗殺者の凶刃毒矢に倒れた者も、1人2人ではない。毒味役の侍女など、何人死なせたかわからない。
無数の屍で道を造り、聖人君子の顔をしてその上を歩む。国王とはそういうものであると、ジオノス2世は今でも思っている。
間違っていた、とは思わない。
武装した白骨死体の群れが城壁を越えてきた時、しかしジオノス2世は不覚にも思ってしまった。自分がこれまで犠牲にしてきた者たちが、復讐のために現れたのかと。
無論そんな事はなく、王都に攻め込んで来たのはスケルトン、ゾンビの他、オークやギルマン、トロル、オーガーその他の怪物どもから成る、魔物の軍勢であった。
バルムガルド王国正規軍は、為す術もなく敗れ蹂躙された。
王都の民が今頃、どのような目に遭っているのか。それをジオノス2世は考えない事にした。
とにかく、逃げた。
陛下が御健在であらせられる限り、バルムガルド王国は滅びませぬ。
側近も近衛兵たちも、判で押したようにそれだけを言い、病身のジオノス2世を馬車に押し込んだ。
騎士たちがその馬車を護衛し、滅びゆく王都から国王を連れ出した。魔物に殺されなくとも、そう遠くないうちに病で果てるであろう国王をだ。
「陛下、お具合はいかがですか?」
侍女のリエル・ファームが、声をかけてくる。
つい最近、王宮で働き始めたばかりで、本来ならばこうして国王の馬車に同乗するなど有り得ない身分の娘である。王都脱出の混乱の最中、いつの間にか一緒になっていたのだ。
「良い……とは言えぬな」
安静が必要な身体を容赦なく馬車に揺らされながら、ジオノス2世は無理矢理に笑って見せた。
「そなたも私など放っておいて、1人で逃げておれば良かったものを」
「……魔物が攻めて来たんです。安全な逃げ場なんて、ありません」
思い詰めたように、リエルが答える。
17歳になったばかり、と言っていた。美しい娘である。自分がこんな身体でなければ間違いなく手を付けていたところだ、とジオノス2世は思う。
「まさか、このような事になろうとはな……」
権謀術数に長けた王と呼ばれながら、なりふり構わず富ませ拡げてきた王国が今、突然の終焉を迎えようとしている。
人間がもたらす腐敗によって遠からず滅びるかも知れない、と思われていたバルムガルド王国が、人間ではないものたちの暴力によって滅ぼされつつあるのだ。
「このジオノス2世……魔物どもに国を奪われた王として、名を残す事となったか」
「そのような事おっしゃらないで下さい、陛下」
布でジオノス2世の口元を拭いながら、リエルが言う。その布が、べっとりと赤く汚れた。いつの間にか血を吐いていたようだ。
「陛下には、お元気になっていただいて……この国を救っていただかなくてはいけません。魔物が支配する王国なんて、あたしは嫌です」
「ふっ……はははは、魔物どもに滅ぼされつつある王国を、この死にかけの老いぼれに救えと言うのか」
笑うしかないままジオノス2世は、寝台と一体化した馬車の上で、少しだけ身を起こした。
大仰な天蓋の付いた馬車である。部隊規模の騎士団に護衛され、今は岩だらけの山道を走っていた。すぐ近くでは、切り立った断崖が道沿いに続いている。
そろそろ、ヴォルケット州に入る頃であろうか。
ヴォルケット州タジミ村。このバルムガルド王国を託すべき者たちは、そこにいる。
「ご病気でも死にかけでも、この国にはジオノス2世陛下しかおられません。王様にふさわしい人なんて……他の王族の方々は、はっきり言って駄目です」
リエルが、何やら憤慨している。ジオノス2世は訊いてみた。
「私の息子たちに……何か、不愉快な思いをさせられたのかな?」
「こんな事、申し上げたら本当はいけないんでしょうけど……この間、ナレス殿下が酔っ払って、あたしに迫って来たんです。まあ何とか逃げましたけど」
一応は王太子に定めておいた長男ナレス・バルムガーディ第1王子は、真っ先に王都から逃げ出そうとして魔物たちに捕まり、切り刻まれてギルマンの餌にされた。
結局は自分もこうして逃げ出しているわけだから息子を悪くは言えない、とジオノス2世は思う。
「女の子にあんな迫り方しか出来ないような人は、駄目です……無礼なの承知で言いますけど、王家の方々には本当、ろくな人がいませんでした」
「まあ、そうであろうな……私は、愚か者でも王位を継げる、盤石の王国を作るつもりでいたのだ。だから後継者の育成を怠ってしまった」
有能な後継者など、いようがいまいが、魔物どもに攻められたのでは人間の王国など、こうして滅びるしかないのだ。
レボルト・ハイマンが王都にいれば、もう少しは持ちこたえたかも知れない。だが彼は行方をくらませたままである。
今頃レボルトは、王国のどこかで魔物たちと戦っている。バルムガルド再興のため、戦い続けてくれる。それを期待するしかない。
レボルト将軍だけではない。もっと大量の、物量と呼べる規模の魔獣人間を生産し、戦力として保持していれば、魔物どもを退けて王国を守る事も出来たのであろうか。ゴルジ・バルカウスが再三、言っていたように。
リエルが小さく溜め息をつき、言った。
「王族の方々で、立派な人たち……ボセロス殿下とシーリン様、だけでしたね」
「ボセロスか……あれは大勢の人間に好かれる、くらいしか取り柄のない息子であったからな」
ボセロス王子の死体は、タジミ村近くの山道で発見された。野盗・山賊の類に、殺されたらしい。共に失踪した妻シーリンと息子フェルディウスは、どうやら今もまだ、そのタジミ村で保護されているようである。
このまま自分が死んでも、先に逝った息子ボセロスに合わせる顔がない、とジオノス2世は思う。政略結婚で迎え入れた嫁を、さらに薄汚い政略に使おうとしたのだから。
もはやシーリン・カルナヴァートを傀儡の女王としてヴァスケリアを併呑、などと言っていられる状況ではなかった。バルムガルド王国の行く末は、彼女の息子……ジオノス2世にとっては1度も抱いた事のない孫であるフェルディウス・バルムガーディ王子に託すしかなくなってしまったのだ。
突然、馬車が止まった。馬が、悲鳴に近いいななきを発している。
騎士団が、馬車を守る形に円陣を組んでいた。
「陛下をお守りせよ!」
などと叫んでいる者もいる。国王を守らなければならない事態が発生した、という事だ。
軍勢が、騎士団と馬車を取り囲んでいる。
人間の軍勢ではなかった。岩陰、あるいは高台の上……周囲あちこちで姿を現し、殺意剥き出しで槍や鎚矛を構えているのは、武装したオークの群れである。大木のような棍棒を持った、食人鬼もいる。
「20年前のヴァスケリア国王よりは骨のある御方であられたが……やはり最後はお逃げになりましたなあ」
高台の上からこちらを見下ろし、尊大な声を発しているのは、隊長格と思われる1体のデーモンだった。
「が、それもここまで。大勢の民を死なせたる人間の国王よ、潔く地獄へ落ちなされ。守ってやれなかった王都の民どもに、せいぜい詫びるがよろしかろう」
王都に攻め入り民衆を大いに殺戮した、魔物たちの軍勢。その一部が、追手として現れたのだ。
「お、おのれ怪物ども……!」
「それ以上、陛下には近付けさせぬ!」
騎士団が勇ましく声を張り上げ、馬を駆り、周囲の怪物どもに挑みかかってゆく。
群がるオーク兵の攻撃を騎士たちが防いでいる間に、オーガーが棍棒を振るう。ブンッ! と唸りが起こり、騎士が1人、2人、脳漿をぶちまけながら落馬してゆく。
馬車の周囲で、そんな一方的な戦いが繰り広げられていた。
「うっふふははははは人間ども、せいぜい健気に抗って見せよ! 頑張った者はゾンビとして使ってやるゆえなあ!」
デーモンが高台の上で、三又槍を振りかざして叫ぶ。
小さな太陽の如き火の玉が3つ、空中に生じ、降り注いだ。
5、6名の騎士が、馬もろとも吹っ飛び、砕け散りながら灰に変わり、サラサラと舞った。
「陛下……!」
リエルが、かすれた声を漏らす。絶望そのものの悲鳴だった。
今のジオノス2世は、侍女の1人を守ってやる事すら出来ない。
(これまで、か……全てをなげうって国を富ませてきたところで……)
富ませてきた国も、ここで終わる。国王に落ち度があったわけではない。バルムガルドは、人間ではないものどもによる突然の襲撃で滅びるのだ。明君であろうと暗君であろうと、こんなものを防げはしない。
(こんなものか……王国の最期など……)
熱い、それでいて寒気を伴う、おぞましい感触が、身体の奥から込み上げて来て口から迸る。
リエルの悲鳴が聞こえた。
ジオノス2世は、大量の血を吐いていた。
オークやオーガーに殺されるよりも早く、病で死ねそうだ。
そんな事をジオノス2世が思った時、轟音が響いた。
ひときわ巨大な火の玉が、降って来ていた。
騎士たち、ではなくオーク兵士が10匹近く、燃え上がりながら吹っ飛んで焦げ砕けた。
デーモンが放った火の玉、ではなかったのだ。
「何事……!」
高台の上で、デーモンが驚愕している。
オーク兵たちを焼き砕きながら着地し、うずくまっているもの。それがバサッと翼を開いた。
一対の、黒い皮膜の翼。
その中にすっぽりと包み隠されていた、小柄だが筋骨たくましい身体が、ゆらりと立ち上がる。
赤い体毛が、禍々しく揺らめいた。それらは燃え盛る炎だった。
「……勘違いするなよ人間ども。別に、貴様たちを助けに来たわけではないのだからな」
言葉を発する口は、普通に人食いが出来そうなほど鋭い牙を生やしている。顔は肉食の猿に似て凶猛で、頭からは、炎の頭髪を掻き分けて左右2本、角が伸びて渦を巻いていた。
そんな炎の怪物が、さらに言う。
「俺はな、この魔物どもに訊きたい事があって来たのだ……叩きのめして聞き出す手間を省きたい。素直に答えろよ貴様ら」
燃え盛る火の玉そのものの両眼球が、高台の上のデーモンに向けられる。
「デーモンロードは、どこにいる?」
「貴様……魔獣人間だな」
デーモンが答えず、言った。
「そうか、デーモンロード様に己を売り込もうと言うのだな。しかし残念ながら我々は、出来損ないの怪物に過ぎぬ貴様ら魔獣人間を認めておらぬ」
「別に認めてもらおうとは思わんよ。いいからデーモンロードの居場所を教えろ」
デーモンロードというのが、魔物たちの元締めとも言うべき者の名であるようだ。
「奴は、俺が始末する。貴様ら下っ端どもは、いちいち駆除するのが面倒臭いゆえ見逃してやっても良い。だからほれ、俺の問いに答えんか」
「痴れ者が……!」
デーモンが、軽く三又槍を動かす。
それを合図として、怪物たちが一斉に動いた。オークの兵団が、オーガーの群れが、あらゆる方向から炎の怪物を襲う。
小柄で力強い肉体が、紅蓮の体毛を激しく揺らめかせて躍動した。
死にかけたジオノス2世の目に、それは赤く禍々しい悪鬼の躍動としか映らなかった。
オーク兵士が、オーガーが、ことごとく砕け散り、あるいは横に斜めに両断され、臓物をぶちまける。ぶちまけられたものが、炎の体毛に焼き払われて灰と化す。
それはもはや戦いではなく、一方的な虐殺であった。
(こやつ……もしや死神か……?)
自分を、迎えに来たのか。
混濁しつつある意識の中、ジオノス2世はそんな事を思った。
デーモンが、翼をはためかせながら、ゴブリートの眼前に着地した。
「中途半端に我らの力を受け継いだだけの、出来損ないどもが……!」
三又槍をブンッと振るい構え、そんな事を言っている。魔物という者どもは魔獣人間に対し、基本的にはこれしか言わない。
「我ら真なる魔族の力を見よ!」
「……それはもう、充分に見せつけられた」
三又の穂先をこちらに向け、デーモンが突っ込んで来る。
それに合わせて、ゴブリートの方からも踏み込んだ。
「300年も前、デーモンロードによって……な」
小柄だが強靭極まる身体が、炎の体毛をなびかせて姿勢低く駆け、三又槍をかいくぐる。
そうしながらゴブリートは、思いきり右手を突き上げた。
拳、ではなく掌が、デーモンの分厚い腹筋をズドッ! と凹ませる。
衝撃と高熱量を、ゴブリートは同時に叩き込んでいた。
デーモンの体内で臓物が、炎を発する事なく焼け砕ける。その手応えを感じながら、ゴブリートは右手を引いた。
腹部にくっきりと手形を刻印されたデーモンが、口から大量の灰を吐き出した。
倒れゆくその屍を睨みつつ、ゴブリートは舌打ちをする。
「くそっ……結局、何も聞き出せなかったではないか」
怪物たちを皆殺しにして、人間どもをまたしても何人か助ける結果となってしまった。
その助かった人間たちが、こちらを見ている。辛うじて全滅を免れた数名の騎士と、馬車に乗せられている、病身とおぼしき初老の貴人。侍女と思われる若い娘。
「そなた……ゴルジ・バルカウスの、手の者か……?」
病身の貴人が、侍女に支えられながら弱々しい声を発している。
死にゆく者の声だ、と思いながらゴブリートは答えた。
「魔獣人間ならば全てあやつの配下、というわけではないぞ」
「そうか……まあ何であれ助かった。褒美を与えたいところであるが……今の私には、もはや与えられるものなど」
言葉が切れた。貴人が、咳をしていた。そして血を吐いた。
「陛下……!」
若い侍女が、悲痛な声を漏らしながら、貴人の口元を拭う。
騎士たちも口々に、陛下! などと叫んでいる。
陛下と呼ばれる身分。この死にかけた貴人は、国王なのか。
どうやらそうであるらしい病人が、懐から取り出したものを、震える手で掲げている。
大型の印章である。材質は、玉石であろうか。ペガサスにまたがる騎士、の形に彫られている。
「バルムガルド国王の……証たる、玉印……これを、そなたらに託さねばならぬ……」
病身の国王が、騎士たちに対し、弱々しい声を振り絞る。
そなたら、の中に自分が組み込まれてはいまいか。ゴブリートは、それが少しだけ心配だった。
「ヴォルケット州……タジミ村へ、行け……そこに、これを託すべき者がおる……」
「陛下……よもやシーリン・カルナヴァート殿下に……?」
騎士の1人が平伏しながら、恐る恐る異を唱えた。
「バルムガルド王家を、お捨てになった御方でございますが……」
「戻って来てもらう、しかあるまい……シーリン・カルナヴァートの息子、フェルディウス・バルムガーディを……バルムガルド次代国王に指名する。現王ジオノス2世の名においてだ……」
「陛下、そんな……死んじゃっては駄目です……」
若い侍女が、声を震わせている。
「陛下がお亡くなりになったら、あたしどこに勤めればいいんですか……魔物に支配されちゃった国で、仕事を探せと……」
「フェルディウスは赤ん坊だ……そなたが面倒を見よ」
死にゆく国王が、微笑んだ。
「上手くすれば……赤ん坊の国王をいいように操って権力を得られる……かも、知れぬぞ……」
「シーリン様がおられるのに、そんな事出来るわけ……陛下? ちょっと陛下!」
侍女の叫びに、ジオノス2世という名であったらしい国王は、もはや応えない。
「へ、陛下……」
「陛下ぁー!」
騎士たちが、跪いたまま号泣を始める。そこそこは人望のある国王であったようだ。
まあ自分には関係のない事だ、と思いながらゴブリートが彼らに背を向けようとした、その時。
先程までデーモンが立っていた高台の上に、とてつもない気配が生じた。
小柄な魔獣人間を押し潰すかのような、圧倒的な気。初めて感じるものではない、とゴブリートは思った。
「……やはり、貴様も目覚めておったか」
高台に立つ何者かが、声をかけてくる。
青黒く、凶悪なほどに力強い巨体。
猛獣のようでもあり、猛禽あるいは怪魚のようでもある顔面には、300年前にはなかった一筋の傷跡が走っている。それが、禍々しく輝く両眼の片方を潰してしまっていた。
「デーモンロード……!」
ゴブリートは呻き、牙を剥いた。剥き出しになった白い牙が、ギリ……ッと激しく噛み合う。
「まさかとは思うが、俺を……わざわざ殺しに来た、わけではあるまいな?」
「うぬぼれるな。単なる通りすがりよ……殺さねばならぬ、かも知れぬ相手は別におる。今から、そやつに会いに行くところでな」
この怪物が、自ら命を狙いに行くほどの相手。一体どこの何者であるのか興味は尽きぬが、訊いたところでデーモンロードが親切に教えてくれるとも思えない。
なので、ゴブリートは別の事を訊いてみた。
「……その面は何とした? 貴様にそんな傷を負わせるほどの者が、この300年の間に現れたと言うのか」
「……人間だ。下手をすると貴様ら魔獣人間よりも厄介な存在と成り得る人間どもが、私にこの傷を負わせた」
デーモンロードもまた、上下の牙で屈辱を噛み殺しているようだった。
「そやつらに対抗し得る力を、我ら魔族は持たねばならん……私に力を貸せ。レグナード最強の戦士にして叛逆者、アゼル・ガフナーよ」
「知らんな、そのような者」
アゼル・ガフナーは、300年前に死んだのだ。その死体が、魔獣人間に作り変えられ、今もこうして死に損なっている。
「我が名は魔獣人間ゴブリート。ただ戦うだけの者よ」
「ならばデーモンロード様の配下として戦いなさい」
デーモンロードの、取り巻きの1人が言った。1匹、1体と言うべきか。
秀麗な顔の左半分だけを仮面で覆った、青い長身の魔獣人間……サーペントエルフである。
マイコフレイヤーもいた。
「そうそう、長いものには巻かれろってねぇ……ほら来なさいよう、アタシの後輩としてコキ使ってあげるからん」
特に仲間というわけでもない、ただ一緒に封印されていて同時に目覚めたというだけの者どもを、ゴブリートは無視した。
もう1体、デーモンロードは魔獣人間を引き連れている。ジャック・オー・ランタンの頭部を有する、黒い竜の戦士。
「ジャックドラゴン……」
高台の上に、ゴブリートは語りかけた。
「失望した、というわけではないが……いささか意外ではある。貴様が、魔族の配下に収まるとはな」
「……失望でも絶望でもするが良い。貴様は、ここで死ぬのだからな」
ジャックドラゴンが言った。
「デーモンロード殿、あやつはここで始末しておいた方が良い……見よ、あれは刺し違えてでも貴殿を殺すつもりだ」
「よくわかっているではないか」
ゴブリートは、それだけを言った。
ジャックドラゴンが、いかなる事情でデーモンロードに臣従しているのか。
それを聞き出したところで、意味はない。戦う者たちには、各々の事情がある。
自分が戦わなければならない相手が、増えた。ただそれだけの事だと、ゴブリートは思い定めた。