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第59話 赤き魔人は災禍を呼ぶ

 魔獣人間というものに関してシーリン・カルナヴァートは、噂くらいは耳にしていた。ダルーハ・ケスナーが、戦力として使っていた怪物たちであるらしい。

 人ならざるものの力で母国ヴァスケリアを大いに蹂躙した元英雄と同じ事を、義父ジオノス2世王は行おうとしている。

 そう考えるしかない事態が今、目の前で展開されていた。

「さあさあ若奥様、お逃げ下されい! 楽しく愉しく追いかけ回して捕まえて差し上げまするゆえ!」

 ギガンテドレイクと名乗った魔獣人間が、そんな叫びを炎と一緒に吐き出している。

 その炎がゴォッ! と伸びて、メイフェム・グリムを襲う。

 竜退治の英雄一行の紅一点としてシーリンが憧れている聖女と同じ名前を持つ、この若き尼僧もまた、人間ではなくなっていた。

 左は羽毛、右は皮膜と、左右で形の異なる翼を生やした、黒い異形と化している。

 その皮膜の翼が激しく羽ばたき、ギガンテドレイクの炎を吹き飛ばした。

 さらなる炎を吐こうとする魔獣人間の口元がビシッ! と歪み、血飛沫を散らせる。筋肉太りした巨体が、揺らいだ。

 蛇のようなものが、宙を泳いでいる。

 それは人間ならざるものと化したメイフェムの、左手から生え伸びていた。

 手持ちの武器ではなく肉体の一部であるらしい、鞭。

 それを優雅にうねらせながらメイフェムは、ちらりと顔だけをシーリンの方に向けた。上半分で庇のようにクチバシを伸ばし、下半分で端麗な口元を微笑ませた、怪異極まる容貌を。

「まあ……見ての通りよ。私がどういう存在なのか、少しはわかってもらえたと思うけれど」

「貴女は……」

 泣き止まぬフェルディをしっかりと抱いたまま、シーリンは会話を試みた。人間の皮を脱ぎ捨てた尼僧を相手に。

「私とフェルディを、助けて下さったわ。今も、守ってくれようとしている……私にとっては、それが全て」

「あまり驚いていないようね?」

「メイフェム殿が人間離れしておられる事は、もう知っていますから」

 出会った時から、そうだった。

 人間ではないものに殺された夫の仇を、メイフェムは、あの場に現れると同時に討ってくれた。人間ではないものを、武器も使わずに蹴り殺してのけたのだ。

 夫を殺した怪物と同じような姿に成り果てた兵士たちが、メイフェムを迂回して、こちらに向かって来る。

 剥き出しの臓物が人型を成したような、おぞましい生命体の群れ。寄生虫のようなものを全身から生やして蠢かせながら、シーリンとマチュアを取り囲む。

「ひへへへへ、たっ隊長がブチのめされてる間によぉ、俺らは俺らで楽しませてもらうぜぇーえ」

「バケモノ女なんざぁ放っといてよォー、人間のひっ人妻とお嬢ちゃんをよぉおゲヘヘヘ」

 シーリンの腕の中で、フェルディがさらに悲痛な泣き声を張り上げる。

 しっかり抱き締めるしかないシーリンに、マチュアが小さな身体を寄せて来る。

「め、メイフェム様ぁ……」

 その声に応えての事なのかどうか、とにかくメイフェムは左手を振るった。

 彼女の手首と掌の間から生えた鞭が、見えなくなった。ヒュッ……と空気を切る音が聞こえただけだ。

 その時には、人間ではない兵士たちが、シーリンの周囲でことごとく破裂していた。

 肉か臓物か判然としない彼らの身体が、不可視の一撃によって片っ端から粉砕され、汚らしい有機物の飛沫となってビチャビチャと噴き上がる。

 噴き上がったものを蹴散らすように、鞭が宙を泳ぐ。

 鞭を左手で操りながら、メイフェムは右足を離陸させていた。猛禽の爪を生やした美脚が、前方に思いきり突き上げられる。

 その爪が、ギガンテドレイクの腹に深々と突き刺さり埋まった。

「が……っぐ……ッ!」

 分厚い脂肪と腹筋をもろともに穿たれた魔獣人間の巨体が、前屈みに折れながら悲鳴を漏らす。血と脂の混ざり合ったものが、滴り落ちる。

 右足で相手の腹部を抉り掴んだまま、メイフェムは左足で地を蹴った。

 むっちりと筋肉の詰まった左太股が、超高速で弧を描いて跳ね上がる。

 ギガンテドレイクの顎が、ぐしゃあっ! と歪んだ。メイフェムの左膝が、めり込んでいた。

 いささか不格好なほど筋肉で膨れ上がった魔獣人間の身体が、折れた牙を吐き散らしながら後方によろめく。

 その腹部をさらにザックリと切り裂きながら、メイフェムは右足を引き抜いた。鋭利な猛禽の爪が、血と脂の糸を引きずる。

 左右の足でそれぞれ一撃ずつ叩き込みながらもメイフェムは着地せず、皮膜と羽毛の翼を1度だけ羽ばたかせて空中にとどまりながら、両膝を抱える形に身を丸めた。

 丸まった肢体が、一気に伸びた。

 筋肉質ながらも優美な脚線を保った長い両脚が、槍の如く伸びて、よろめく魔獣人間に突き刺さる。

 猛禽の爪が左右揃って、ギガンテドレイクの顔面を直撃した。

 砕けかけていた魔獣人間の顎が、ちぎれた。頭蓋骨が凹んで眼球が押し出され、両の眼窩から脳髄が噴出する。

 ギガンテドレイクの頭部は、原形を失っていた。

 頭の潰れた巨体が地響きを立てて倒れ、裂けた腹部からドバァーッと臓物を垂れ流す。

 魔獣人間の血や脂や脳漿にまみれた両足で、空中に綺麗な弧を描きつつ、メイフェムは軽やかに着地していた。

 泣きじゃくる息子を抱いて立ち尽くしたまま、シーリンは思わず見入った。

(綺麗……)

 そんな思いが、心に浮かんでしまう。

 人間ではなくなった……恐らくは魔獣人間なのであろう、尼僧の肢体。人間もそうでないものも差別なく虐殺する力を秘めた、異形の裸身。

 そんな恐ろしいものが、しかし今まで自分が目にしてきたもの全てよりも美しい。シーリンは陶然とそんな事を感じ、腕の中で泣いている息子の事すら一瞬、忘れかけてしまった。

「た……隊長……」

 生き残った兵士たちが、臓物あるいは寄生虫の塊のような肉体を、じりじりと後退りさせている。表情など無いに等しい彼らだが、怯えている事は見て取れる。

「あわわ……き、聞いてねえぞ、こんなバケモノ女がいるなんてよォ……」

「だ、駄目だこりゃあ……レボルト将軍に何とかしてもらうしかねぇー!」

 逃げ散り始めた兵士たちにメイフェムが、まさに猛禽の如く襲いかかる。

「逃げるくらいなら、最初から出て来るんじゃないわよ……」

 蛇のような鞭が、目に見えぬ速度で宙を泳ぐ。猛禽の爪が、飛び蹴りや回し蹴りの形に一閃する。

 人間ではない兵士たちが次々と砕け、裂けちぎれ、もはや元が人間であったとは思えぬ有機物の残骸と化していった。

「て……てめえら、軍に断りもなく! こんなバケモノ女を飼いやがって!」

 自暴自棄になった兵士の1人が、逃げ惑う村人たちを攻撃しようとする。臓物あるいは寄生虫のような何本もの触手が、村人たちに向かって凶暴にうねる。

 おたおたと右往左往しているマチュアに、シーリンは息子を手渡した。

「ごめんなさい……ちょっと、お願い出来るかしら」

「えっ……あ、あのう」

 うろたえながらもマチュアは、泣き喚くフェルディを受け取ってしっかりと抱いてくれた。

 先程まで死体運びをしていた何人もの村人が、村長を中心にして怯え固まっている。

 そこへ人間ならざる兵士が迫り、触手を蠢かせて牙を剥く。

「てめえらよォ、駄目だろぉ−があ? バケモノ女なんか使って軍に逆らったりしちゃああ! 罰として全員殺す! 女だったらコイツでグチュグチュぬるぬる楽しみながら天国イかせてやるとこだが男ばっかじゃねーかァ、なら単にブチ殺す!」

「女なら、ここにいるわ」

 怯え固まる村の男たちの眼前に、シーリンは立って両腕を広げ、人間ではない兵士と向かい合った。

「おほっ若奥様、イイねえぇえ」

「軍、と言っていたわね。貴方たち」

 人間ではないものと化しつつ、人間そのものとも言える醜悪さを剥き出しにした兵士を相手に、シーリンは会話を試みた。

「バルムガルド王国軍は、いつからこんな……貴方たちのような、人間ではない方々を使うようになったのかしら」

「西国境の戦ン時からよおおお!」

 ミミズにもムカデにも見える触手の群れを狂ったように踊らせながら、兵士が喚く。

「わかるかい綺麗なおッ母さん! 殺されちまうんだよ皆どいつもコイツも、あの赤いバケモノによォー! 皆殺しにされちまうんだよぉおおおおおお!」

「赤い……化け物?」

「そーなる前によォ、人間やめて楽しんだ方が人生マシってもんだろおお?」

 やはり会話など不可能なのか、と思いつつもシーリンは、もう1つだけ訊いた。

「……貴方たちはこの村で、一体誰を捜しているの?」

「あーアレよ、何てったっけなァ名前? ヴァスケリアからお嫁に来た王女様。カイライセーケンとかに使うから捜して来いってレボルト将軍に言われてんだけどよぉ……何かもぉどーでもイイや楽しもうぜ若奥様よおぉーッ!」

 耳障りな絶叫に合わせ、一斉にシーリンを襲おうとする触手の群れ。

 それらが、ことごとく砕けちぎれた。

 もはや人体とは呼べぬものと成り果てた兵士の身体が、白い光に灼かれて爆散していた。ちぎれた触手が、白色光の中で灰と化す。

「……無茶をするわね、ずいぶんと」

 メイフェムが、人間ではない兵士の1体を左手で引きずりながら、歩み寄って来る。

 特に大柄な1体だった。様々なおぞましいものを生やして蠢かせる巨体が、メイフェムの鞭でがんじがらめに縛り上げられている。

 縛り上げた兵士を左手で引きずりながらメイフェムは、右手を軽く掲げていた。

「貴女に万一の事があったら、フェルディ王子はどうなるの? 私に押し付けられても困るわよ」

 その右手が、白い光を発した。甲殻質の鋭利な五指に囲まれた掌から、白色光の塊が発射されたのだ。

 唯一神の加護を、攻撃力として発現させる。修行を積んだ聖職者のみが持つ能力の1つ、であると言われている。

 2つ、3つと続けざまに撃ち出された白い光球が、逃げ去ろうとする兵士たちを容赦なく直撃した。人ならざる異形の肉体が、村の広場のあちこちで灼け砕け、消滅してゆく。

「ば……バケモノ女がよぉ……」

 鞭で幾重にも縛り上げられた巨体が、メイフェムに引きずられながらも触手を蠢かせる。

「ばばばバケモノのくせに結構いいカラダしてんじゃねえかぁーゲヒヒヒヒ」

 それら触手がメイフェムの、美しくたくましい太股や尻に、力強くくびれた胴に、嫌らしく絡み付いてゆく。

 絡み付くものを、メイフェムは無造作に引きちぎった。鞭で拘束した兵士の肉体そのものを、両手で思いきり引きちぎっていた。

 固く鋭い五指が、筋肉の締まった細腕が、醜悪なる巨体をズタズタに解剖してぶちまける。

 一向に泣き止まぬフェルディを抱いてあやしながら、マチュアがそんなメイフェムの方を向いた。

「ほ、ほらフェルディ王子、力持ちのお姉さんですよー。すごいですねぇ」

 ぎろり、とメイフェムが猛禽の目で睨みつける。

 マチュアが赤ん坊を抱いたまま怯え慌てて、シーリンの背後に隠れてしまう。

 魔獣人間ギガンテドレイクは死に、人ならざる兵士たちも今や村内には1体も生き残っていない。

 タジミ村は、救われた。

 そう思いかけて、シーリンは頭を横に振った。

 この魔獣人間と兵士たちは、自分を捕えるためにやって来たのだ。

 シーリン・カルナヴァートが村に滞在していたせいで、タジミの村人たちは、被らなくとも良い迷惑を被ったのだ。これを、助かったとは言わないだろう。

「自分のせいで、村に迷惑が……なぁんてシーリン殿下は考えていらっしゃる?」

 メイフェムが、シーリンの心を読んだ。

「このくらいの迷惑は承知の上で、王宮から逃げ出して来たのよね当然……それとも、ここで家出は終わりにする? 王宮へ帰って傀儡の女王になってみる? 息子さんのためには、その方がいいかもね」

「……ヴァスケリアの人民が迷惑を被る事になるわ、そうしたら」

 村人たちが、今度は人間ではない者たちの死体を片付け始めている。

 メイフェムが作り出した、その虐殺跡の光景をじっと見渡しながら、シーリンは言った。

「義父上は……ジオノス2世陛下は、きっとヴァスケリアでもこれと同じ事をなさるおつもりでしょうね。人間ではない兵士たちを使って、民を蹂躙するような事を」

「あるいは民を、魔獣人間の材料にしてしまう」

 メイフェムが、補足をしてくれた。

「ヴァスケリアの北部4地方を独立させて、シーリン殿下をそこの女王に立てる……ジオノス2世陛下は、そんな絵図を描いておられるようだけど。貴女がそれに従ったなら、まずその独立国の民衆が、そういう目に遭うでしょうね」

「だから私は、義父上のもとへ帰るわけにはいかないのよ」

 シーリンはメイフェムに、ではなく己に言い聞かせていた。

「たとえ、誰かに迷惑をかける事になっても……他国にあって自国の民を守る。それが、政略結婚をした王女の使命だから」

「……いいわ。その覚悟、押し通して見せなさい」

 人間の尼僧メイフェム・グリムの面影を辛うじてとどめた美しい口元が、にやりと微笑んだ。

「貴女の、少なくとも身の安全だけは私が守ってあげるわ。その覚悟が続く限り、ね」

「……何故そんな事をしてくれるの、メイフェム殿は」

 シーリンは訊いてみた。親切心や義侠心ではないだろう、とは思う。

「私、貴女に何も返せない……私を助けてくれる事で貴女が得られるものなど、何もないのよ?」

「私はただ、美しいものが見たいだけ……」

 謎めいた事を、メイフェムは言った。

「ケリスが命を捨てて守った、美しいもの……貴女が、もしかしたら見せてくれるかも知れない。見せてくれなければ殺すだけ。だから気にしないで」

(ケリス……?)

 竜退治の英雄の1人・聖騎士ケリス・ウェブナーは、赤き竜との戦いで命を落としたという。

 英雄たちの紅一点と同じ名を持つ女性が、死んだ聖騎士の名を口にしているのか。

 いや。同じなのは名前だけではなく、もしかして……

(……まさか、ね)

 シーリンは苦笑し、否定した。

 竜退治の聖女メイフェム・グリムは現在、40歳近くに達しているはずである。まだ少女と呼べなくもないほどに若く、しかも人間ではないこの尼僧と、同一人物であるはずがなかった。



 メイフェム・グリムで、果たして勝てるであろうか。ダルーハ・ケスナーの息子であるという、あの赤い魔人に。

 ゴルジ・バルカウスは少しだけ考え、そして判断を下した。

(……無理、であろうな。メイフェム殿には悪いが)

 ゴズム岩窟魔宮の、最奥部である。

 ゴルジ・バルカウスの本体とも呼ぶべきものが、ここには在る。

 分身体は、ほぼ殺し尽くされた。

 もはや歩く事も出来ぬ姿のまま、ゴルジは思考した。

 ゼノス・ブレギアスあるいはレボルト・ハイマンであればどうか。ダルーハの息子と戦って、果たして勝てるものか。

(良い勝負、くらいはしてくれるであろうが……)

 勝てはしない。ゴルジは、そう思わざるを得なかった。そして認めざるを得なかった。あの赤き魔人を倒せるほどの魔獣人間を造る技能が、自分にはないと。

(手を打たねばならぬ。あやつが人間という種族そのものに対し、本格的な敵性行動を取り始める前に……)

 打つべき手が何もない、わけではなかった。

(……目覚めさせねばならんのか……あやつらを……)

 赤き魔人に匹敵し得る災厄が、この岩窟魔宮には眠っている。メイフェムにもゼノスにも知らせていない、災厄そのものと呼ぶべき者たちが。

 彼らの眠りを覚ますような事態を、ゴルジとしては可能な限り避けたかった。

 あの者たちが、人間という種族を守るために戦ってくれるとは、とても思えないからだ。

 300年前も、そうだった。

 あの者たちは、レグナード魔法王国の高位魔導師たちによって生み出された身でありながら、魔法王国のためには戦わず、己の欲望を満たすためにのみ、その力を振るった。レグナードを攻めた魔物たちと戦いながらも、王国の臣民を大いに殺戮した。

 あの者たちを放っておいたら、魔物の軍勢を撃退する事は出来ただろうが、同時に魔法王国も滅びていただろう。

 だからレグナードの高位魔導師たちは、あの者どもが魔族の猛将デーモンロードと戦っている間に、不意打ちを敢行した。

 その不意打ちで、あの者たちは昏倒した。

 昏倒した彼らを、魔導師たちはそのまま岩窟魔宮に封印してしまった。

 その後、レグナード魔法王国は結局、魔物たちに滅ぼされた。

 魔族に滅ぼされるか、あの者どもに滅ぼされるか、レグナードにはその運命しか残されていなかったのだ。

(今の人間の国々とて同じだ。ダルーハ・ケスナーの息子に滅ぼされるか、あやつらに滅ぼされるか……いや、あやつらを制御する手段技術を、私が確立させる事が出来れば……)

「気の毒だが、それは無理だ。貴様に、我々を制御する事など出来はせん」

 岩窟魔宮内のどこかから、ゴルジに語りかけてくる者たちがいる。

(貴様ら……!)

「300年も眠ってたのよ? いい加減、目も覚めるって」

「レグナードは滅びちまったみてえだなあ……ったく、言わんこっちゃねえ」

「私たちに任せておけば良かったものを……結局、魔法王国の滅びを自ら招いてしまったようですねえ貴方たちは」

 目覚めてしまった。この世で最も禍々しい者たちが。

 いや。最も禍々しいのは、あの赤き魔人か。

 この者たちには、あれを討ち滅ぼすための必要悪になってもらわねばならないか。

「ゴルジ・バルカウス……貴様は我々を忌み嫌いながら、同時に我らの覚醒を強く望んだ。心の奥底でな」

「その思いが、私たちの封印を解く最後の一押しとなってしまったのですよ」

「で? 何でアタシたちのお目覚めを強く望んだりしちゃったのかなぁー、ゴルちんは」

 もはや止められない。この者たちは、目覚めてしまったのだ。再び眠りにつかせる力など、ゴルジにはない。

「我らの力が必要となる事態が……起こっているようだな?」

「何だってんだい。面白え事なんだろうなあ、おう?」

 目覚めてしまった者たちは、使うしかない。役立てるしかない。

「つまんねえ事だったらブチ殺すぞゴルジてめえ、俺ぁ面倒臭え事とつまんねえコトがでえッ嫌ぇーなんだよおおおおお!」

「何が起こったのであろうと私は一向に構いませんがね……私のこの美と叡智を、世の愚民どもに知らしめる事が出来るのであれば」

「アタシはねえ、いい男がいれば他はどうでもいいのよン。骨までしゃぶってあげたくなるようなイイ男が、いるんならねえ」

(骨まで、しゃぶるが良い……貴様たちに、それが出来るのであればな)

 挑発。この者たちを効果的に使いこなす手段としてゴルジは今のところ、それしか思いつかない。

(私は不安なのだよ。お前たちの力で……果たしてあれを、この世から消し去る事が出来るものなのか)

「言うじゃねえかテメエ……俺らの力ってのがどんなモンなのか、知らねーワケじゃねえよなあああ?」

「ゴルジ貴方……私たちを怒らせて、やる気を出させようとしているつもりですか? そういう小賢しいところ、300年経っても変わりませんねえ」

「ゴルちんのそーゆうとこ、アタシすっごいムカついてんだけどぉ」

「俺は何でも構わん……あのデーモンロードと決着をつける事が、出来るのであればな」

(やれやれ頼りないものよ。デーモンロードごときを相手に、対等な闘志を燃やしてしまうとは)

 ゴルジは挑発を続けた。

(今、人間の世を脅かしておるのはな、あんな小物は問題にならぬほど恐ろしい怪物よ……ううむ。私はもしかしたら、お前たちに気の毒な事をしてしまったのかも知れん)

「どういう意味です……」

(放っておけば平和に眠っていられたであろう者たちを、わざわざ怪物に殺させるような事を)

「てめコラ、言わせておきゃああああ!」

「落ち着け……いいだろうゴルジ・バルカウス。貴様の挑発に、あえて乗ってやる」

「ま、どのみちヒマだしねー」

「とりあえず貴方の頼み事を、聞くだけは聞いてあげましょう。私たちに、何をして欲しいのですか?」

 解き放たれてしまった、とゴルジは思った。

 もう後戻りは出来ない。自分はこの者たちを使ってダルーハの息子を倒し、人間という種族そのものを救わなければならない。

 レグナード魔法王国の高位魔導師たちが造り出した、試作品とも言うべき最初の魔獣人間4体が、こうして300年の眠りから覚めてしまったのである。

この作品を読んで下さっている方々、どうもありがとうございます。

さて遅くとも週一更新ペースを辛うじて保ってまいりました小湊拓也でございますが、私生活の方で急用が出来てしまいましたので、まことに勝手ながら本作品の更新をしばらくお休みさせていただきます。4月の頭には再開出来る見通しですが……

楽しみにしておられる読者の方……万が一いらっしゃいましたら、ごめんなさい。

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