第56話 暗雲は北へ
自分が元凶なのか、とラウデン・ゼビル侯爵は思う。
サン・ローデル地方領主リムレオン・エルベットと、ロッド地方領主ライアン・ベルギとの間で、ちょっとした争い事が起こったらしい。つまらぬ諍いが、地方領主同士の戦に発展してしまう事はある。
だが今回の場合、戦が起こる前にライアン・ベルギ侯爵は死亡した。
死因は不明である。リムレオン・エルベット侯爵が刺客を放って暗殺した、などという噂も当然、囁かれている。
ラウデン・ゼビルが調べたところ、戦の準備をしていたのはライアン侯の方であった。エル・ザナード1世女王の失踪に乗じてエルベット家を攻め滅ぼし、サン・ローデル及びメルクトを併呑せんとしていたようだ。
リムレオン侯が防衛のため何らかの先手を打った、というのが真相に近いのではないかとラウデンは思う。
戦になったり領主が暗殺されたりといった段階までは至らずとも、似たような事はヴァスケリア王国全土で起こりつつある。
何人もの地方領主たちが、密かに戦の準備を整え、軍事力で他領を奪おうとしている。
(奪った者の勝ち……という風潮を、私は作ってしまったのか)
ラウデンは自問した。
今やレネリア、ガルネア、バスク、エヴァリア、レドンという計5つの地方を領有する身である。あの愚かな領主たちを叛乱者として誅殺し、そのまま彼らの領地を私有化してしまった。
外から見れば、殺して奪った、という事にしかならない。言い訳のしようはない。
「どいつもこいつも、私の真似をしているつもりか……!」
ラウデンは舌打ちをした。
唯一神教会ガルネア地方大聖堂の、賓客室である。5分ほど、ラウデンは待たされていた。
今回、話をしなければならない相手は、地方領主を待たせる程度には大人物である。この北部4地方における、実質的な支配者と言っていい。ラウデンが斬り殺した領主たちなど、飾り物でしかなかったのだ。
待たされている間ラウデンは、悪夢にも等しい、とある光景を思い出していた。忘れようとして忘れられるものではなかった。
東国境ガロッグ城塞における、バルムガルド王国軍との戦。
その戦場に突然舞い降り、結果としてヴァスケリア軍を助けてくれた、赤色の魔人。
自分たちは運が良かっただけだ、とラウデンは思っている。あの魔人が、正義感や救国の志でヴァスケリア軍を助けてくれたのだとは、どうしても思えない。たまたま通りがかった怪物が、ほんの気まぐれでバルムガルド軍を虐殺してみただけではないのか。
あの時の魔人の気分次第では、ヴァスケリア軍の方が、ガロッグ城塞もろとも叩き潰されていたかも知れないのだ。
「どうすれば良い……あれが、再び現れたら……」
来賓用の椅子に腰掛けたまま、ラウデンは自問した。今や自分の領民となった5つの地方の民衆が、あの魔人によって脅かされる事はないと何故、断言出来るのか。
あの魔人がヴァスケリア王国に対して敵対的な行動を取り始めたら、地方領主としてはどう対処するべきなのか。
もはや殺して奪ったと非難されても構わない。自分ラウデン・ゼビルが5つもの地方を統べる大領主であるのは、隠れなき事実なのだ。
この広大な領地に住まう民を、守る。するべき事は、それだけだ。
そのための手段など、いくら考えても1つしかないのは当然であった。
すなわち、軍備の増強。
相手が敵国の大軍であろうと、ただ1体の強大なる魔人であろうと、対処する手段など、それ以外には有り得ないのである。
武装の強化、それに兵の増員と訓練。それらが、何の妨げもなく行われなければならないのである。
その事に関して話し合うべき相手が、ようやく賓客室に入って来た。
ラウデンは椅子から立ち上がり、出迎えた。
「ああ、どうかお掛けになったままで」
クラバー・ルマン大司教は言った。慇懃無礼、と感じられなくもない口調だ。
「いやはや、御無礼をいたしました。大領主たる御方を、お待たせするなどという」
「いえ、こちらこそ御無礼を……突然の訪問、さぞ御迷惑でありましょう」
ラウデンは口元で微笑みかけ、目で睨みつけた。
「御迷惑であろうとも、大司教猊下にはぜひ聞いていただかねばならぬ話でございます」
「うかがいましょう、ぜひとも」
クラバー大司教は、卓を挟んでラウデンと向かい合い、椅子に座った。
その傍らに、大司教が伴って来た1人の尼僧が、しとやかに腰を下ろす。
20歳前後と思われる、若く美しい女性聖職者。聖なる被り物から溢れ出す蜂蜜のような金髪と、霞のかかったような眠たげな瞳が印象的である。
ラウデンも、名は知っている。アマリア・カストゥール。王都にいる事の多いクラバー・ルマン大司教の、ここ北部4地方における代理人とも言うべき仕事をしているらしい。
ヴァスケリア王国北部における教会権力の行使を、クラバー大司教は、こんな小娘にほぼ全て委ねてしまっている。
アマリア・カストゥールが美貌と肉体で大司教をいいように操っているらしい、などという噂になってしまうのは、まあ当然と言えた。
それに関してもクラバー大司教を問い詰めてみたいラウデンではあるが、まず話さなければならないのは別の事だ。
「単刀直入に参りましょう、大司教猊下……貴方が勝手に定めてしまったローエン派信徒の兵役免除制度を、領主の権限で廃止させていただく」
「何と言われる……」
大司教の声と表情が、引きつった。
「唯一神を信じ、平和を愛する者たちに……戦争をさせるおつもりか」
「徴兵逃れのためローエン派に入信してしまう者たちが、続出しておるのですよ」
辛うじて、ラウデンは敬語を保った。
本当は、思いきり罵倒してやりたいところである。この売国の偽平和主義者たちを。
「私とて徴兵など、したくはありませんよ。生産力に回せる人員を、戦争などという非生産的な事に割かねばならないのですからね。ですが、ただ戦を忌み嫌うだけでは平和は守れません。軍事力というものは、嫌でも持っていなければならないのです」
「力には力……そのような考えこそが戦を、流血を招くものであると何故、おわかりにならないのですか」
「実際に敵が攻めて来ても同じ事を言えますか、大司教猊下」
クラバーを見据える己の両眼に、憎悪に近いものが宿ってしまうのを、ラウデンは止められなかった。
「実際に何か起こってからでは遅いのですよ。それすらわかっていない者が、この北部4地方には多過ぎます。皆、ローエン派の方々によってすっかり骨抜きの腑抜けにされてしまった。まさにバルムガルド王国の思惑通り、でありましょうかな」
「な、何を言っておられる……何故ここでバルムガルドが出て来るのです」
「バルムガルドによる侵略の下地作りを……貴様らがしておるのだろうがッ!」
ついに敬語を保てなくなりながらラウデンは、眼前の卓を思いきり殴りつけた。
クラバー大司教がビクッと怯え、傍らに座るアマリアにすがりつこうとする。
それを素っ気なく振り払いながら、アマリアは言葉を発した。
「お怒りは当然、ですわね……私どもの後ろ楯としてバルムガルドのジオノス2世王がおられる事は、今や隠れなき事実。かの王国によるヴァスケリア侵略をローエン派が手引きしている、と思われるのは当たり前」
「……後ろ楯を得るのが悪いと言っているわけではない。北部4地方がここまでの復興を成し得たのは、バルムガルドによる援助があってこそ」
言いつつ、ラウデンは確信した。
やはり噂通りだ。大司教クラバー・ルマンは、秘書アマリア・カストゥールに、ほぼ隷従している。
すなわちヴァスケリア国内の教会勢力を実質的に支配しているのは、この美しい金髪の尼僧であるという事だ。
もはやクラバー大司教など存在しないかの如く彼女を見据え、ラウデンはさらに言った。
「……それに私とて、バルムガルド国王を後ろ楯に持つ身だ。知っての通り、北部4地方の領有などという大それた事が出来たのは、ジオノス2世王の後押しによるものだからな。私も、それに貴女がた唯一神教ローエン派の方々も、バルムガルドによって大いに利用されているという事だ」
「そうなのでしょうね。ジオノス2世陛下はきっとラウデン侯を、傀儡の王にでも仕立て上げるおつもりなのでしょう」
眠たげな目をしていながらもアマリア・カストゥールは、ジオノス2世の意図を的確に読み取っている。
傀儡の王としては、ジオノス2世は本来、バルムガルドに嫁いだシーリン・カルナヴァート元王女を使うつもりであったのだろう。
一介の地方領主に過ぎぬラウデン・ゼビルではなく、ヴァスケリア王家の血縁者を女王に戴く強力な傀儡国家を、エル・ザナード1世の失踪直後にでも作り上げる事が出来たはずなのだ。
ジオノス2世がそれを実行しなかった理由は、不明である。
「要は、バルムガルドによる後ろ楯など必要としないほど、我らは力を持たねばならぬという事だ」
ローエン派の聖職者に言うべきではない事を、ラウデンはあえて口にしていた。
「残念ながらヴァスケリア王家はあてにならぬ。何しろ新国王が、無能で名高いあの元副王ではな」
エル・ザナード1世陛下が御健在ならば、という言葉をラウデンは呑み込んだ。
彼女の生死に関しては無論、調べさせてはいる。生きている、という確証が掴めるまでは、うかつな希望を持つべきではなかった。
「王家の力を必要とせず、バルムガルドによる援助……という名の干渉も跳ね返すだけの、自前の軍事力を我らは持たねばならぬ。ゆえに徴兵を実行する。ローエン派の信徒であろうとなかろうと関係ない。我が領土たる5つの地方に住まう民のうち、15歳以上の男子全員に交代制で兵役義務を課す事にする」
「おっ横暴な! そのような事が許されるか! 唯一神が許したもうと思うのか!」
クラバー大司教が、喚き始める。
ラウデンが怒鳴りつける前に、アマリアが言葉を発した。冷たく、鋭く。
「お静かに、大司教猊下……お見苦しいですわよ?」
大司教の身体が痙攣し、硬直した。
アマリアが、なおも冷ややかに言葉を浴びせる。
「あんまり私にこんな事言わせないで下さいね猊下。私、今はっきり言って貴方と口ききたくないんですから……私、怒ってますのよ? どうしてかは、おわかりですよね」
「そ、それは……」
クラバーが震え、青ざめた。アマリアは続けた。
「私、申し上げましたよね。エル・ザナード1世陛下とはお友達になりたいと……なのに女王陛下が、あんな事になってしまわれて」
「わ、私は何もしていないのだよ聖女アマリア。あの愚かな領主どもが勝手に」
たらたらと汗を流しながら、大司教が弁明に励んでいる。
北部4地方の領主たちが、叛乱へと走った。結果、女王エル・ザナード1世が行方不明となった。
あの事件の黒幕とも言うべき人物が、いるとすれば何者なのか。それに関しては、様々な噂がある。
筆頭はバルムガルド国王ジオノス2世だが、クラバー・ルマン大司教であるとも言われている。
まだ何か言い続けている大司教をそれきり無視しながらアマリアは、
「ラウデン侯爵閣下、私も徴兵の強行には反対いたします。ただひたすら兵士の数を増やすだけでは勝てない戦というものも、確かにありますから……閣下はご存じのはず」
ローエン派の尼僧とも思えぬ事を、口にした。
ラウデンは息を呑んだ。
確かに、ただ多人数の兵士を揃えただけでは絶対に勝てない相手がいる。
バルムガルド軍兵士4000人近くを単身で虐殺してのけた、赤色の魔人。
あれの事を、アマリア・カストゥールは言っているのか。あれを、彼女は知っているのか。
確かにあれは、人間の戦における戦術戦略が一切通用しない相手と言えるかも知れない。
そんなものへの対抗策として、しかし兵員を増強し軍備を整える、以外の手段があると言うのか。
「自前の戦力を持たなければならない……それはとても素晴らしいお考えですわ。私どもも同じ事を考えております。もちろん唯一神教会ローエン派としては公に出来ませんが……すでに手を打ち始めてもおります。バルムガルド王国による援助及び干渉を排し、自力で人々を守るための手を」
言葉と共に、金髪の尼僧の優美なる肢体が、ゆらりと椅子から立ち上がった。
「御一緒に来ていただけますか? ラウデン・ゼビル侯爵閣下にも、お見せしておかなければいけません……私どもが、ただ綺麗事の平和主義を唱えているだけではないという証拠を」
5人とも、肉体は回復した。レイニー・ウェイル司教とエミリィ・レアが、懸命に癒しの力を使った結果である。
だが5人のうち4人は、まだ意識が戻らない。聖堂の一室で、一晩経った今でもまだ気を失ったままだ。
唯一神教会サン・ローデル地方聖堂。重傷を負った5人のおまけのような形で、イリーナ・ジェンキムはここで世話になっていた。
特にする事があるわけでもなく教会の敷地内をぶらぶらと歩きながらイリーナは、一緒に歩いている1人の少女に、とりあえず言っておくべき事をぽつりと告げた。
「ありがとう……お世話に、なってしまったわね」
「いえ、そんな」
エミリィ・レアである。
レイニー司教の要請を受けて急遽、ゼピト村から駆け付けてくれたのだ。教会に人は多かれど、癒しの力を使える人材は不足しているようである。
「実際に魔物と戦ってくれる方々に対して……あたしたちが出来る事なんて、このくらいですから」
「私は戦っていないけどね」
イリーナは苦笑した。
デーモンロードやゴルジ・バルカウスとの戦いにおいて、自分は全く、笑えるほど何の役にも立たなかった。
「貴女にも、ずいぶんと嫌な思いをさせてしまったわね。エミリィさん」
自分が1度は殺しかけた少女に、イリーナは控え目に微笑みかけた。
「認めなければいけないわね……偉大なるゾルカ・ジェンキムの名を世に知らしめる、そんな力も資格も私にはないと」
「あたし……偉そうな事言えるほど、ゾルカさんの事知ってるわけじゃありません。お亡くなりになる直前に、ほんの少しお話しさせていただいただけですけど」
同じく控え目な口調で、エミリィは言った。
「あの方は、御自分のお名前を世に知らしめたいとか、そんな事は全然考えておられなかったと思います」
「そんな事、私だって本当はわかっていたわ……」
父のためではない。イリーナが自分のために、しようとしていた事だ。
父の名が、ダルーハ・ケスナーの陰に埋もれてしまっている。それが気に入らなかっただけなのだ。
父ゾルカ・ジェンキムは、本当に偉大な魔術師だった。それは間違いない。娘がこのように、いささか出来損なってはいてもだ。
その偉大なる父の力をもってしても、しかしあの赤い魔人に勝つ事など出来はしないだろう。
「エミリィさん、1つ訊いてもいいかしら……私たちをここに運び込んだ、あの怪物の事だけど」
「……あの方は、あたしたちにとっての恩人でもあります」
重い口調で、エミリィは答えた。
彼女も、それにレイニー・ウェイル司教も、あの魔人とは顔見知りである様子だった。いや、レイニー司教にとっては顔見知りと言うよりも。
「……ひどく恐がっておられたわね、司教様は」
「まあ、確かに……恐ろしい御方ですから」
エミリィが、俯き加減のまま語る。
「貴女たちを助けたように、あの方はあたしたちの事も助けてくれました。そのために大勢の人が死にました……頭では、わかってるんです。助けてもらったあたしたちに、それを咎める資格はないって事。あの方は、人助けのためなら平気で人殺しをします。そういう御方こそが今の世の中、もしかしたら1番必要なのかも知れないって事も……頭では、わかってるんです」
「ローエン派の尼さんとしては、認め難いことでしょうね」
1つ、イリーナは安心した。自分は決しておかしな夢を見ていたわけではない、という事だ。
全てを殺し尽くす、赤い怪物。
そんな薬物幻覚のような光景を、自分だけでなく、このエミリィ・レアという少女も、どこかで見ているらしい。
(無理よね、お父様……)
この世にいない、この教会に眠っているわけでもないゾルカ・ジェンキムに、イリーナは心の中から語りかけた。
(いくらお父様でも、あんなものに……勝てるわけ、ないわよね……)
イリーナとエミリィは、立ち止まった。歩いているうちに、いつの間にか墓地に入り込んでいた。
男が1人、墓参をしている。
身なりは粗末だが体格は立派な、30歳くらいの男である。1つの墓石の前で長身を屈め、死者に向かって何やら無言で語りかけている様子だ。頬骨の目立つ鋭い顔が、じっと墓石を見つめている。
その目がちらりと上げられ、こちらを向いた。エミリィが、少し慌てた。
「あ……ご、ごめんなさいギルベルトさん。お墓参りの邪魔を」
「いや、あんた方には世話になった」
鋭利な顔立ちに微笑を浮かべ、ギルベルト・レインは立ち上がった。
「あんたにも、な。イリーナ・ジェンキム……初対面の時は叩き殺してやろうかと思ったが、まあ生かしておいて良かったよ。あんたのおかげで、あのデーモンロードを追い払う事が出来た」
「私が……? 何をしたと言うの」
「シェファ・ランティの鎧を強化してくれたろう? 彼女の一撃が、最後の決め手になったんだ」
「……結果として、そうなっただけよ」
シェファの魔法の鎧に、いくらか改良の余地があった。だから少しだけ、手を加えただけだ。
実際に身体を張って戦ったシェファ・ランティに比べれば、自分など何もしていないに等しいとイリーナは思う。
そんな事を褒められても嬉しくはないので、イリーナは無理矢理、話題を変えた。
「そのお墓……貴方の親族か誰かが眠っているの?」
魔獣人間に親族がいるのか、という嫌味を込めてみたつもりである。
それが通じたのかどうか、ギルベルトはただ微笑し、答えた。
「俺の部下たちさ。人を守るための戦がしたい……それだけを思って生き長らえ、そして死んでいった」
「……貴方はその遺志を継いででもいるつもり? それで魔獣人間が、人間の味方をして戦っているの?」
「真似事くらいは、したいと思っている。人を守るための戦、というやつのな」
自分にはその真似事すら出来ないだろう、とイリーナは思った。
「……何しろ、死に損なってしまったからな」
「あの……あれは」
1つ思い出しながら、イリーナは訊いてみた。
あの赤い魔人とギルベルトは、何やら会話をしていたようである。
「あれは、もしかして貴方を……殺すために来たの? 何か、そんな事を言っていたようだけど」
「俺はそう思ってたが、結局は殺されずに済んだ……領主様のおかげ、かもな」
ギルベルトはそう言って、聖堂の建物を見つめた。まだ意識の戻らぬ領主リムレオン・エルベットの方を見つめているようだ。
「呆れた事にな、俺を殺させはしない、などと言っていたんだぞ? 領主様は、あの化け物に」
「言われて思いとどまるような心を……持っているのかしら、あの怪物が」
「もちろん持っているわけはない。が、俺は領主様に救ってもらった命だと思ってる。勝手にな」
リムレオン侯爵ら、魔法の鎧の装着者4人が収容されている聖堂の建物を、ギルベルトはじっと見つめている。
4人が意識を取り戻す前に自分は立ち去るべきだろう、とイリーナは思った。
(貴方を解放してあげるわ、役立たずのマディック・ラザン……魔法の鎧は、餞別よ)