風に運ばれてきた花びらにキスをされてゼフェルはぼんやりと目を開けた。
ルビーのような瞳には流れる雲を抱いた青い空が映っている。緑の木々は風に吹かれて枝をゆらし、遠くからは水が落ちる音が聞こえてくる。
ゼフェルはボーっとしながら起き上がり、銀色の髪をかきあげ周りを見渡す。
ふと、身体を支えていた左手のそばに金の綿菓子が見えた。
思わずそれに手を伸ばしてみる。
手にふれた感触、それは綿菓子などではなくて……
「ん……」
金の綿菓子が寝返りをうち、こちらに顔を向けた。
(げっ!)
アンジェリーク!!
はっきりと覚醒したゼフェルは現状を把握しようと必死だった。
オレ何でここにいるんだ?
……えっと……オレは、徹夜続きで疲れてっから静かな森の湖で昼寝でもしようと思って来て、そのまま寝てたんだよな。
ゼフェルは長い指先で眉間を押さえながら空とにらめっこをする。
……うん、間違いねー。
で、こいつだよ。
ちらりと横で幸せそうに眠っている少女に視線を移した。
なんでこいつがここで寝てるんだ?
アンジェリーク・リモージュ。
まぶしいぐれーの金色の髪とでっけーエメラルド色の瞳を持つ女王候補。
こいつときたらよく泣くわ、笑うわ、ぶつかるわ、すっころぶわ、ドンくさいにもほどがあるっていうほどドジなヤツだよな。天然だしよ。
オレの一番苦手なタイプだ。どう扱っていいのさっぱりかわからねぇ。
ゼフェルは大きく息を吐き出すと、立てた片膝に頬杖をついてアンジェリークについて考えてみた。
……でも、不思議とイヤじゃねー。
こいつが笑ってるとイヤな気はしねー。もっと笑顔を見ていたくなる。いつでも笑っているのを見ていたいと思う時もある。
でも、他のやつと一緒にいて楽しそうにしていると、なんかムカムカするからいじめたくなるんだけどな。
……幸せそうに寝てやがるな。
全然起きる様子のないアンジェリークにゼフェルはいたずら心が刺激され、一度は引っ込めた左手で金色の髪にふれ、指先でもてあそんでみる。
木漏れ日に照らされたそれは光り輝いていてとてもきれいで、そのやわらかい感触と、ほのかな甘い香りはゼフェルを酔わせた。
そっと手をすべらせてほんのりと赤みをおびた頬にふれると、操られるかのようにアンジェリークの頬に口づけた。
「ん……」
アンジェリークはかすかに身じろぎしたが、再び幸せそうに寝息をたてはじめた。
!!??
オレ、何をした!?
ゼフェルは我に返ると、自分のくちびるを腕でおさえながら呆然とアンジェリークを見つめた。
オレ、こいつに何をした!?
……オレって、欲求不満だったのか?
自分の考えに思わずひざを抱えてうなだれる。
………………。
チッ、まぁいいや。やっちまったもんは仕方ねー。
ゼフェルは開き直ると身体を起こし、楽しい夢をみているのか微笑みながら眠っているアンジェリークを見る。
……それにしてもこいつってほんっとうにニブイな。普通、気がつかねーか?
もっといじめてやろうか。
不意に物騒な事を考えたゼフェルは眠っているアンジェリークの顔をはさむように両腕をおき、じっと見下ろしていたが、桜色の唇に吸い寄せられるように顔を近づけた……。
――けれど、あまりに無防備なアンジェリークにそんな気も失せて、座りなおす。
ハッ、バカバカしい! こんな子供みたいなヤツに何やってんだよ、オレも。
こんなドジでどんくさい女。
毒づいてはいたが、熟睡しているアンジェリークを見るその瞳は、ゼフェルを知っているものが見れば驚くほど優しいものだった。
アンジェリーク、おめーが起きたら聞きてーことがあるんだよ。
どうしてココに来たんだ?
どうしてオレの横で寝てんだ?
風が花の香りを運び、木漏れ日がきらきらと輝く森の中で、ゼフェルはいたずらっぽい微笑を浮かべながらいつまでもアンジェリークを見つめていた。 |