不夜城と呼ばれるこの街も、さながらこの一時だけは静けさが漂う。夜明けを待てない輸送トラックが時折、行過ぎるばかり。
やがて東の空が明るみを増し、高層ビル群の合間から陽炎のごとく薄ぼんやりと光が差し始めると、幾何かの冷気と静けさがゆっくりと薄らいでゆく。
それを待ちわびていたかのように列車の警笛が微かに響き、静けさを切り裂いた。漁港に帰る夜漁の船や輸送トラックの数が増えるにつれ、レールの継ぎ目を通過する音も重なり合うようになった。
まるでそれは仮死状態にあった心臓に血液が送られ、みるみる息を吹き返すかのよう。息を吹き返した心臓は益々その動きを強め活性化してゆく。人々もそれに呼応するかのごとく動き始める頃には、光は東方だけのものに留まらず既に空一面を覆いつくしていた。
光の勢いが増すにつれ、動き出す物も増えてゆく。空には旅客機が、海には材木輸送船が、陸路には一般車両もが行き交うようになった。
もはやレールの継ぎ目を通過する音が途絶えることなどなく、人々の吐息や足音と相まって緩やかに喧騒へと化してゆく。
自動改札を何食わぬ顔で通り抜ける人々。プラットホームで何食わぬ顔で立ち並ぶ人々。満員車両で何食わぬ顔で揺れ動く人々。停車と同時に何食わぬ顔で押し出される人々。長い階段を何食わぬ顔で上り下りする人々。スクランブル交差点で何食わぬ顔で歩み行く人々。渋滞する街道で何食わぬ顔で待ち続ける人々。
その誰もが知らず知らずのうちに不夜城と呼ばれるこの街の活性化の一因となっている。この街を巨大生物に例えるなら、人はまさにヘモグロビンそのものだ。そんな人々の息吹に支えられ、この街は不夜城と呼ばれているのかもしれない。
時にモンスターとも形容される世界有数の不夜城の中央に位置する皇居の南側を守護する楯のごとく、桜田門の向かいに立ち尽くす警視庁本部庁舎もこの街の息吹のひとつであった。
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