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奇術師の予言
作:七夕夜想曲



第四十七話 ICPO


「・・・・・・本計画に賛成の方は挙手を願います」
断固とした意志を感じさせる、低い声が響いた。
おずおずと、しかし全員が手を挙げる。
「賛成多数と見なします。よって原案は可決されました。これにて緊急作戦議会を終了いたします」
その場の緊張が一瞬にして解かれた。
ガヤガヤと部屋から出ていく他の議員を見ながら、議長はポツリと呟いた。
「・・・・・・ついに、実行に移される時が来たか・・・・・・」
そして、たばこの火を揉み消した。










「初のパリ公演はいかがでしたか、盗一様?」
「ああ、うまくいった・・・・・・もっとも改善の余地はあるがね・・・・・・」
疲れたのだろう。
盗一はそれだけ言うと椅子に腰掛けた。
「今日の演目は2453番ルーティーンだったからな・・・・・・」
「なるほど、盗一様が演じた回数が最も多いルーティーンにして、FISMで初出場、初優勝を飾った作品・・・・・・」
寺井がなるほどと頷いた。
ルーティーンとはマジック全体の運びの事で、FISMとは世界規模のマジック大会のことである。
ちなみに、盗一のレパートリーの数は軽く四千を越える。
それには、カード、コインを中心とするクロースアップマジックから人体切断といったステージマジックまで含まれており、その一つ一つにおいて、完成度が非常に高い。
その為、世界一を公式に認められるのは時間の問題だと言われている。
それ程までの噂にも関わらず、盗一はショーの反省点をノートに書き記した。
そして、寺井の炒れたコーヒーに口を付けた。








その一時間後、盗一は古びた空き倉庫の前にいた。
パリの裏通りにあるもので、数日前、ショーの準備の合間に見つけたものだ。
盗一はこの場所が気に入っていた。
そこは人目につかない為、人知れずマジックの練習をするにはうってつけであり、なにより静かなのがいい。
静寂は思考を冴えさせ、自分のマジックに新たなアイデアを与えてくれる。
それは技を磨いていく上で、何より大切な事だ。






だが、この日の静寂、そして、この日からの静寂は崩れた。






倉庫のドアに手を掛けたその時だった。
盗一は中から人の声がする事に気付いた。
(・・・・・・こんな時間にいったい誰が・・・・・・)
古い倉庫の為、スライドドアのドアとドアの間に隙間が出来ている。
念のため、盗一はその隙間から中の様子を窺う事にした。
後々考えるとその策略は成功でもあり失敗でもあった。


「上手く入手できましたよ、チーフ」
「そうか・・・・・・」
中には二人の男が居た。
その二人がまともな人間では無いことは一目瞭然だ。
真っ黒なコートに身を包み、帽子を目深にかぶっている。
これを不審者と言わずして何と言うだろう。
「それで、ブツは?」
「これです・・・・・・」
その一人が懐に手を入れ何かを取りだした。
(・・・・・・確かあれは・・・・・・)
「アジア最大にして最古のアメジスト『パープル・クラシック』です」
予想通りであった。
盗一は、宝石、時計などに関しても、かなり知識を持ち合わせている。
なぜなら、アクセサリー如何で、マジシャンの印象が変わってしまう場合も少なくないからである。
例えば、何もしていない両手を見せた場合と、銀色の時計を左手にはめ、両手を見せた場合では、確実に後者の方が見栄えが良くなる。
その辺のセンスを掛け備えたマジシャンが盗一であった。
しかし、その知識を頼りにするならば、その宝石は個人所有のもので、ヨーロッパの大富豪が所有しているはずだ。
(・・・・・・なぜこんな所に・・・・・・)
当然の疑問が頭を過ぎる。
こんな貴重な物を、持ち主が売りさばくとは到底思えない。
「・・・・・・なるほど・・・・・・」
宝石を受け取った方の男はそれをしばし眺めていたが、やがて体の向きを変え宝石を高く掲げた。
(・・・・・・いったい何をしているんだ?・・・・・・)
盗一の疑問をよそに、その男はしばらくその体制を保っていた。
「・・・・・・ハズレの様だな・・・・・・」
やがて、男は言った。
「ええ、そのようです・・・・・・どうします?」
「・・・・・・元の場所に戻しておけ。あくまで穏便にな。最近奴らがうるさくなってきている。本来ならそんな面倒なことはしないんだが、万一に備えるべきだろう・・・・・・」
(元の場所に戻すだと?)
盗一の頭に次々と疑問が増えていく。
せっかく盗んだのならば、なぜ、再度の不法侵入などという危険を冒さねばならないのだろう。
通常ならば、裏ルートで売りさばいてしまうのが普通だ。
それに、この連中はさっきから不審な行動が多すぎる。
特に、なぜ『宝石を掲げたまま固まる』などという間抜けな事をするのだろう。
(それに、奴らとは誰のことだ?)

ここまで考えた時だった。

盗一は、口を手で覆われ羽交い締めにされた。
そして、そのまま裏路地まで引きずり込まれていった。














「いったい、何を・・・・・・」
背後の暴君に向かって、盗一は抗議声明を上げようと試みたが、途中で再び口を塞がれた。
「・・・・・・・・・」
背後の男は一言も声を出さない。
ならば、盗一も黙っているより他ない。
すると、さっきの男達の声がした。
おそらく、倉庫から出たのだろう。
こっちには来ないようで、声がだんだんと遠ざかっていく。
その声が完全に聞こえなくなって、ようやく背後の男が口を開いた。
盗一にではなく、無線に向かってではあったが。
早口のフランス語だったので、何と言っているのかは良く分からない。
だが、最後に無線の向こう側から聞こえた『D'accord(了解)』という言葉だけは聞き取れた。
(何が『了解』なんだ・・・・・・)
そう思いながら数分間待っていると、背後から足音が聞こえてきた。
背後で、再びフランス語で会話が成された。やがて、後から来た方の男が盗一に話しかけた。
「黒羽盗一さんですね?」
流暢な日本語に盗一は面を上げた。
その男を見る。
外見は明らかに西洋人だ。
だが、あんな流暢な日本語の発音は根っからの欧米人には不可能だ。
「父が日本人でしてね。私自身も十才まで日本にいました」
困惑している盗一に、その男が説明した。
「申し遅れました。フランソワ・碇、ICPO特殊捜査官です」






彼との出会い。
これこそが、二世代に渡って繰り広げられる壮絶な戦いの始まりだった。









読者の皆様、お久しぶりです。
帰国後の膨大な宿題と格闘、それから再三の書き直し為、更新がすっかり遅れました。
すみませんでした。
お詫びの言葉もありません。

さて、その変更点ですが、次話を投稿しない事には説明できません。
なので、釈明は次回にさせていただきます。
ご迷惑をおかけしました。


では、この辺りで失礼します。











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