第三十六話 本拠地での終焉
「手を挙げなさい!」
一階の出入り口から出てきたベルモットにジョディは叫んだ。
「・・・・・・・・・」
ベルモットは一度後ろを振り返るような仕草を見せたが、頷き、黙って手を挙げた。
その従順さには、逆にFBIのメンツが面を食らった様だ。
彼女の腕に手錠が掛けられた。
その後ろから、厚史と志保がやってきた。
「志保チャン・・・・・・その人は?」
二人は一瞬、目くわばせをした。
しかし、次の瞬間には頷き、
「・・・・・・宮野厚史、この人が組織の統率者です・・・・・・」
はっきりとそう言った。
今度こそ皆が面を食らった。
『宮野』という名字を聞いた途端、すべてを理解したようだ。
「・・・・・・そう、じゃあ手錠を・・・・・・」
そう言いかけたジョディに向かって、厚史は手首から先のない腕を見せた。
ジョディは再び驚いたようだ。
「えー・・・・・じゃあ・・・・・・」
「私が付き添います」
志保がきっぱりと言った。
「・・・・・・OK、それでいいわ・・・・・・」
そして、二人はベルモットが乗せられた車に乗った。
「・・・・・・制圧完了か・・・・・・」
ジェイムズがポツリと言った。
目の前では組織の構成員が次々と車に乗せられている。
「ええ、後はヘイジがジンを連れてきて、シンイチが帰ってきたら作戦完了よ・・・・・・」
その時、ジェイムズを呼ぶ声がした。
「チーフ!」
「キャメル君か?」
キャメル捜査員が一人の男を抱えてきた。
「こいつなんですが・・・・・・」
「何か問題があったのかね?」
それを聞くと、キャメルはその男の袖口を捲った。
「・・・・・・盲管銃創か、日本警察の前に病院だな」
「それは、そうなんですが・・・・・・」
「・・・・・・何だ?」
「こいつは二十一階にいた奴なんです」
「・・・・・・そんなばかな、快斗君に実弾を持たせた覚えはないぞ」
二十一階は、快斗が担当した階である。
予めそこに配備されていた五人の構成員はトランプ銃で片付け、後から来た援軍は全員、自前の催眠ガスで眠らせたらしい。
もちろん実弾なんかは使っていない。
「いったい誰が撃ったというんだね?」
「・・・・・・分かりません・・・・・・」
―二十五階
FBIとCIAの合同作戦によって、今は静まりかえっている。
当然、人の気配は皆無である・・・・・・様に思ったが、階段を一人の男が上がってきた。
壁に縋りながら、一歩、また一歩と足を進める。
とある箇所で立ち止まった。
そこの壁を軽く押す。
・・・・・・隠し扉だ。
壁が内側に折れ、部屋への入り口が見えている。
男はその中に入っていった。
その部屋の中である機械の操作をしている。
突然、男の口元が緩んだ。
操作が完了したらしい。
機械とは反対側の壁際に寄り、そこに埋まっているボタンを押した。
・・・・・・またしても隠し扉だ。
だが、今度は部屋ではなく、大人一人は楽に入れる大きさのパイプ管があった。
それは滑り台のように―実際そのように使うのだろう―下に延びていた。
案の定、男はそこを滑り降りていった。
『先生か?』
「ヘイジ、そっちはどう?」
『それが、変なんや・・・・・・ホンマに二十一階で合うとるんか?』
「合ってるはずよ。どうかした?」
『・・・・・・ジンがおらん、いったい・・・・・・』
いったいどこに?
そう聞こうとしたが、その声は爆発音に飲み込まれた。
平次は窓から上の階を見た。
詳細は分からない。
分からないが、二十五階が炎上しているのが見えた。
『ヘイジ!急いで逃げて!』
無線から声が響いた。
「そんなことゆうても・・・・・・」
爆発の衝撃で階段に瓦礫の屑が落ち、階段が塞がっている。
退路を断たれた。
どうにもできず右往左往していた時、窓ガラスが割れる音がした。
「平次!掴まれ!」
快斗が怪盗キッドの格好をして飛び込んできて、手を差し出した。
平次は一瞬で理解したようだ。
頷き、快斗の手を掴む。
それを確認した快斗は、窓の外に飛び出した。
次の瞬間・・・・・・
バサッ!
ハンググライダーの開く音がした。
「平次!」
「快斗!」
平次と快斗が着陸した瞬間、和葉と青子の声がした。
二人とも爆発音を聞いて車の中から駆けつけていたのだ。
快斗はハンググライダーを畳み、建物の方を振り返った。
「・・・・・・いったい誰が・・・・・・」
今や建物の一部が焼け崩れている。
「・・・・・・ねぇ、新一は?」
「「えっ!?」」
皆が一斉に、その声がした方を見た。
蘭が心配そうな顔をして立っている。
「そういえば・・・・・・」
快斗が辺りを見回した。
どこにもいない・・・・・・
「まだ、建物の中!最上階よ!」
横から、慌てたように叫ぶ声がした。
その声の主を見る。
志保だった。
「くそっ、仕掛けてあったな!もう火が回って来やがった・・・・・・」
右側にも炎。
左側にも炎。
完全に、新一は退路を断たれていた。
そして、これも仕込んであったのだろうか?
尋常ではない速さで煙が充満してきた。
(・・・・・・このまま死ぬのか・・・・・・)
息が苦しくなってくる。
思わず蹲った。
(・・・・・・?・・・・・・)
最後の時が来たのだろうか。
どこから差し伸べられるのか、不思議な手の幻を見たような気がした。
「証拠集めの為に彼だけ残ったのよ!」
「くそっ・・・・・・」
快斗は再びハンググライダーを広げた。
「無駄だ、快斗君!既に最上階に火が達している!」
ジェイムズに言われた通りだった。
暗闇の中でも最上階が明るくなっているのが確認できる。
「蘭!」
志保が蘭の手を掴んだ。
蘭は今にも建物に向かって駆け出そうとしている。
「落ち着いて!」
「でも、新一が・・・・・・」
「貴方まで死ぬつもり!」
蘭も必死だったが、志保も必死だった。
「新一!」
蘭が叫んだ。
しかし、その叫びも虚しく建物の一部がさらに焼け落ちる。
ガラガラと言う音も同時にした。
「新一ーーーーーーーーー!」
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