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奇術師の予言
作:七夕夜想曲



第十四話 やっぱり敵わない


「・・・快斗君?」
二階の客間の快斗の部屋を開け、蘭が室内に向かって言った。
「ああ、蘭ちゃん・・・」
快斗は練習の手を止めた。
「・・・いつかはありがとうね、快斗君・・・ううん、怪盗キッドさん。」
「・・・それはどういたしまして、お嬢さん。」
快斗は途端にキッドの気配を醸しだした。
しかし、その気配はすぐに消した。
「私、あの言葉を聞いて、すごく元気が出たよ。新一が頑張ってるんだから私も頑張らないと、って思い直せたし・・・」
確かに蘭の声には、落ち込みの色はない。
元気を出そうと頑張っているようだ。
「・・・あの時はああ言ったけど、どうしても我慢できなくなったら、それを新一にぶつけてもいいと思うぜ・・・」
快斗は珍しく真剣な顔をしてしゃべっている。
普段考えない事を考えているからだろう。
「今までは、どこほっつき歩いてるか分からなかったから、会いたくてもどうしようもなくて、
我慢してたんだろうけどさ・・・今は当の本人は目の前にいるだろ?だから寂しかったなら、
それを本人と面と向かって言ってみなよ・・・そりゃ、あいつは困るだろうよ。
でもな、それがあいつにとってはいい薬になるんだよ」
蘭は黙って聞いている。
「・・・俺もそうだったからな・・・」
「・・・え?」
蘭は快斗の顔を見た。
「だいぶ前に、木から落ちて、意識不明の重体になって青子を泣かせちまってよ。
意識が戻ったら、あいつが『快斗のバカ、バカ、バカ』って泣きついてきたんだよ・・・」
快斗は思い出しながらゆっくりと語った。
「まあ、俺もそれに懲りて、それからはできるだけあいつを泣かせないようにしてきたけどさ。
・・・俺が言うのもなんだけど、好きな女の涙は男にとっていい薬になるんだよ。」
そう言うと、あの夜と同じように薔薇を一輪、右手の中に出現させた。
「おっと、左手からはこんな物が・・・」
左手からはシルク取り出した。
「そして、このシルクをこうしてやると・・・」
シルクで右手を覆い、それを除けると純白の鳩が現れた。
「・・・すごーい・・・」
蘭は満面の笑みを浮かべている。
「・・・そうそう、そんな風に心から笑いなよ・・・」
快斗も笑顔になっている。
「無理して笑わずにさ。新一はそう思ってるよ。」
「・・・ありがとう、快斗君・・・快斗君も、青子ちゃんを心から笑わせないとだめだよ。」
蘭はそう言い残すと部屋を出ていった。


(・・・こりゃ、一本取られたかな・・・・・・)
ハトや道具と共に部屋に残った快斗はそう思った。











「・・・そんなところにいると、カゼひくよ・・・」
「・・・工藤君?」
二階のベランダで風に当たっていた和葉に新一が話しかけた。
「大阪より東京の夜は寒いから、早めに部屋に入った方がいいよ。」
捜査の雲行きを示唆するかのように空は雲に覆われている。
「ありがと・・・優しいんやね、工藤君。」
十七才の少女と七歳の少年が対等に話している。
しかも、年下が年上を気に掛けている。
妙なである。
「最初はな、蘭ちゃん放ってまで事件追うなんて、どんな神経しとるんやろ?薄情な人間やなぁて思ってたんよ。
でも、違ったんやね。
工藤君はいつも蘭ちゃんの傍で優しく見守っとった。薄情なんかやなかったんやね・・・」
「・・・・・・」
「せやけどな、工藤君。危険に巻き込まんように嘘を吐くんが『優しさ』とは限らんのんよ。
今回やって蘭ちゃん泣かせてしもたやろ?工藤君の考えも分からんこともないんやけどな、
蘭ちゃんは工藤君のこと一番に考えとるんやから、絶対に隠し事なんかしたらあかんのよ。」
「・・・ああ、分かってるよ、もう蘭を泣かせないし、あいつだけは絶対に俺が守る!」
蘭にすべてをうち明けたときにも誓った事をあらためて誓った。
それを聞いて和葉はフッと微笑んだ。
「よううた。その宣言絶対に守ってもらうからな・・・そや、それから・・・」
和葉は屋内に戻ろうとしたが、途中で振り返った。
「京都の時はありがとな。」
それだけ言うと階段を下りて行った。


(服部にも彼女を守るって誓わせないとな・・・)
新一はそう思った。
そして、それができるのは平次だけだとも。









「ねぇ、服部君?」
「ん?」
他の四人は二階にいるため、リビングには、平次と青子だけが居る。
平次はコーヒーを飲みながら新聞に目を通していたが、青子に呼ばれ顔を上げた。
「服部君は和葉ちゃんの事どう思ってるの?」
青子はその性格らしい、ストレートな質問をした。
「ああ、和葉かいな・・・あいつは俺の子分みたいなもんやな・・・」
「は?」
青子は目が点という感じだ。
「前に、和葉が他の男とちゃらちゃらしとるの見て、えらいイライラしてもてな。
なんでやろって思って考えとったら、『子分取られそうになってイラついとった』ちゅう結論になったんや。」
相も変わらずの鈍感ぶりである。
「・・・服部君ってほんとに探偵?」
「あん?」
青子はやれやれという顔をしている。
「『子分を取られそうになってイライラした』って?そんな訳ないじゃない!
服部君、絶対その男の人に嫉妬してたんだから。探偵ならそのぐらい気付きなさいよ。」
「せやかて、中森のねーちゃん。なんで俺がそいつに嫉妬せなあかんねん?」
果たして、青子の真っ直ぐな意見が勝つのか、それとも平次の鈍感さがまさるのか?
なかなか見物である。
「まだ分からないの?服部君は和葉ちゃんが好きなのよ・・・」






(俺があの和葉をなぁ・・・・・・・・・・・・)
青子がキッチンに戻った後、平次はずっとそのことを考えていた。
言われてみればその通りである。
こんな事を真正面から指摘されたのは初めてだった。
快斗曰く、青子は少し子供っぽい。
だがそれは悪いことではないかもしれない。
その性格のおかげでストレートな質問ができ、純粋であるがゆえに、
今回のように人の本質を見抜く事ができるのだろう。
(・・・工藤も回りくどい言い方しよったなぁ・・・)
平次の脳裏にあの言葉がよみがえる。


『服部、お前・・・・・・ガキだな・・・』


その言葉の意味が今やっと分かった。


(和葉・・・愛してるで・・・けど、まだしばらく『子分』やからな・・・)
『子分』が『恋人』になるのはいつだろうか?
それは神様にしか分からない。













「青子ちゃんの勝ちね・・・やっぱり、みんな女の子には敵わないのね・・・」
それぞれの様子をこっそり見ていた有希子は、やさしく微笑んだのであった。






今回は新一と和葉の会話が書きたかったのですが、
書き終わってみればその部分が一番短い始末(情けない・・・)
それに加え、更新が遅れて誠に申し訳ありません。
小説に対する、ご意見・ご感想などありましたら、下の感想欄からどんどんお願いします。
こんな私の小説『奇術師の予言』ですが、今後も、どうかよろしくお願いします。











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