第九話 ある研究所
「博士、じゃまするぜ。」
博士の家に上がりながら、新一が言った。
「おぉ、新一君に平次君、それから快斗君じゃな?」
「どうもはじめまして、阿笠博士。」
手からハトを出しながら快斗が言った。
「パソコンを使うかね、新一君?」
新一から、話を聞いて立ち上げていたパソコンを指差して、博士が言った。
「いや、こっちで用意してるから、いいぜ。」
そう言うが早いか、持ってきていたノートパソコンを立ち上げ始めた。
「博士、俺達に何か隠してないか?」
マウスを動かしながら、新一が聞いた。
「・・・何の事じゃ、新一。」
しかし、新一はその問いに答えなかった。
「・・・あった、1970年度の資料。」
パソコンの画面には、構成員のものと思われる、名前が並んでいた。
「このことだよ・・・」
1970年度名誉会員 阿笠 博士
「・・・・・・・・・・・」
「どういうことだよ、博士。なんで博士が組織の一員だったんだよ。」
沈黙が訪れた。
「・・・分かった。わしの知っている全てを話そう、新一、それからみんな。」
─三十年前
「・・・ちょっと、阿笠博士、話しがあるんだが・・・」
研究所にある人が、訪ねてきた。
「どうしたんだ、宮野博士。」
訪ねてきたのは、宮野厚史博士。
薬学分野の天才で、昔の友人だ。
「私が今、所属している研究所に来ないか?」
「ああ、ある薬の研究をしている所なんだが、君に一役買って欲しくてな。」
ところが、阿笠は笑って言った。
「おいおい、私は工学分野だぞ。そんなところに行っても、足を引っ張るだけだよ。」
しかし、宮野の方は話を続けた。
「まあ聞け、その研究所だが、今データの処理に困っていてな。
それらを処理できるコンピューターを造って欲しいんだ。どうだ、君に適任だろ?」
阿笠は少し考えて言った。
「だが、ずっとそこには居れないぞ。こっちも今研究中の課題があるからな。」
宮野は少しの間考えていたが
「よし、分かった。一年だけでいいから来てくれないか。」
─その一年後
「・・・すごいぞ、阿笠博士、たった一年でこれだけのものを造るとは。」
二人の目の前には、完成した巨大なコンピューターがあった。
阿笠も改めてそれを見て、とても満足そうだった。
「いや、ここのみんなの協力がなければ、ここまではできなかった。
こちらこそ、ありがとう。お礼を言うよ。」
二人は握手を交わした。
「君の名前はおそらく、名誉会員に名を連ねるぞ。私の方からも、上に言っておくよ。」
「・・・あの大きなコンピューターを、博士が造ったのか・・・」
実際にそれを目の当たりにした、快斗が言った。
しかしそれを遮るように、新一が言った。
「そのときに怪しいと思わなかったのかよ。それだけの大金がどこから出るのか不思議に思わなかったのか?」
しかし、博士は首を振った。
「怪しもうなんて、これっぽちも思わんかったよ新一。確かにそのころから真っ黒な服装じゃったが、
研究員に悪い雰囲気は全くなかった。それにそのころは、犯罪なんかとは無縁の純粋な研究所じゃったし、
金の出資者も、創立者も宮野博士が教えてくれた。」
「出資者と創立者やて?」
平次が聞いた。
「創立者は大黒蓮太郎、スポンサーは烏丸蓮耶じゃよ。」
「なんやて!昔の日本のお偉いさんとあの大富豪か。」
他の二人も驚いている。
「そうじゃ、その後大黒蓮太郎は初代の研究所所長に、大黒の死後は
烏丸蓮耶がトップに立った。そして大黒は烏丸の名にちなんで研究所に名前を付けた
『ブラック・バード』と。宮野博士が話してくれたのはここまでじゃ。」
しばらく皆が、それぞれの想いに耽っていた。
「その研究所が犯罪組織になったと知ったのは、新一が小さくなった時じゃよ。」
博士が続けた。
「あの時新一が言っていた、真っ黒の服装と薬という言葉で、
そのことが分かった。これがわしの知っているすべてじゃよ。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
三人は言葉を失った。
「わしが発明した機械が犯罪に使われていると思うと、とても話すことができんかった。すまなかった新一。」
博士が頭を下げた。
「・・・分かったよ。博士も組織の解体に手を貸してくれればいい。それが償いになるだろ?」
「もちろんじゃよ。全力を尽くすよ。」
「そんで、小っこい姉ちゃんはどこなんや?」
平次が博士に聞いた。
「はて、ついさっき散歩に行ったが・・・」
博士は首を傾げた。
「変じゃのぅ、もう二時間も経つぞ。」
三人の脳裏を嫌な予感がかすめる。
「博士!灰原はバッジを持ってたか?」
「あぁ、確か持っていたと思うが・・・」
博士はまだ状況が読めないらしい。
「新一!追跡眼鏡だ!」
「・・・シェリーは捕まえたわよ。じゃあ待ち合わせ場所でね。」
「・・・OK、ベルモット。」
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