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真っ白オオカミと七匹の子ヤギ

作者: 大矢 章乃

「ジェーン、負けないでね!」

「私達のことは気にせず、自分の幸せを追求するのよ!」


 昔々、ある国のある街に、近隣の街で知らぬ者がいない程評判の、七人の娘が住んでいました。

彼女達は上から20、19、18、17、17、16、15歳と、真ん中の双子を除けば一つずつ年の違う七姉妹。

皆が皆それぞれに、末の少女を産みすぐ亡くなった、王都一番、いや、この国一番とも謳われた元貴族の母親の美貌を受け継いでいました。

揃って気立ても良く、平民ながらも村の若者を始めとし、貴族の若者に至るまでが、彼女達に求婚してくる始末でした。

 しかし、結婚適齢期をやや過ぎた長女を始め、誰一人と結婚した者はいません。

勿論、彼女達のお眼鏡に適う人間であることが一番大切なのですが。


 そもそも、彼らの誰もが彼女達に求婚を断られる理由が二つ、条件として存在したからです。

 一つ目は『彼女達の父親を倒す』という条件。

早くに最愛の妻を亡くし、よく似た娘達を溺愛する父親は国一番の傭兵でした。

勝てば「父様可哀想…」と、負ければ「貴様のような男に娘をやれるか!」と、どちらかに責められる辛さを、何人の男が味わってきたでしょうか。

 更に、上の六人に求婚する者にとってはどうにもならない条件が一つありました。

それは『末の少女ジェーンがしっかりした人と結婚するのを見届けるまでは、実家から出る気はない』というものです。


 初めてそれを聞いた時の長女の求婚者は、「どこの父親だ!」と思わず叫んだそうです。

その時の長女はたった15歳。

まさか、姉妹全員がその先何年もの間、独身で居続けることになるとは、まだ誰も思っていなかったのです。


 その一言によって姉達に振られた男は、手足の指の数を合わせても足りないくらいでした。無論、一人当たり。

 末の少女ジェーンが10歳の子供でなく成人し、15歳の女性と言っても良い年頃になってもそれは変わりませんでした。

 姉達は皆、妹大好き(シスコン)であったのです。


* * * * * * *


「ねぇジェーン、貴女に似合いそうな可愛い生地を見つけたの。ブラウスがいいかしら、それともスカート?いっそのことワンピースにしましょうか?」

「ありがとう、ベス姉様。ワンピースなんて素敵ね」

「ジェーン、貴女の好きなリンゴのマフィンを焼いたの。皆でお茶にしましょう」

「リンゴのマフィン、大好き。メグ姉様のお菓子だもの、楽しみだわ」

「ジェーンの絵が仕上がったわよ!今までで最高の出来よ。教会に飾れそうな位。いえ、教会なんかには勿体ないわね…」

「本当!?嬉しいわ。素晴らしい絵ね。でも私、こんなに綺麗に描いてもらって良いのかしら…」

「「勿論よ!ジェーンは誰よりも優しくて、賢くて、綺麗で可愛いんだもの」」

「エリ姉様にマリ姉様…」

「そうよ。ジェーン、貴女はもっと自分に自信を持ちなさい」

「リアの小説に出てくる女の子達だって、自信に満ち溢れていて素敵でしょう?」

「ありがとうシア。貴女の描いたジェーンの絵、まるで本物のようで素晴らしかったわ!」

「あら、リアこそありがとう。でも、やっぱり本物には遠く及ばないのよね…」


 その日も私は家で、六人の姉様達と仕事をしていた。

姉様方の上から順に、ベス姉様はお針子、メグ姉様はお菓子屋、マリ姉様、エリ姉様は双子で歌手、シア姉様は画家、リア姉様は小説家をしている。

皆、私よりずっと綺麗で才能があって優しくて、とても素敵な女性。

 私には最近まで教えてくれてなかったけれど、姉様達にはそれぞれ恋人がいる。

父様にもとっくに結婚の許しをもらった、素敵な恋人が。


「ジェーン?」


 そう、皆私には教えてくれなかった。私はこの前人伝に聞いて驚いたんだから。


「ジェーン、ジェーン?」


 姉様達が結婚しない理由に私の結婚があっただなんて。優しい姉様達は、私が一人になったら寂しいだろうと心配してくれているのね。

でも…好きな人もいたことないのよね…


「ジェーン、ねぇ、ジェーン?」

「えっ、あ、はい、どうしたの姉様!」

 肩を揺さぶって呼び掛けるなんて、姉様らしくもない。

 見ると、心配しているようで若干呆れの混じった表情が目の前にあった。

物語のヒロイン風に考え込んでみると現実を忘れそうになってしまうなんて、私も被る猫をものにしきれてないわね…

「どうしたもこうしたも、いくら話しかけても返事しないからこっちが言いたいわよ」

呆れたように言われてしまい、少し縮こまってしまう。

「ごめんなさい、少し考え事をしていたの…」

「あの馬鹿殿…ではなくて、アンリ殿下の事?」

「し、シア姉様!違うから!額に青筋は浮かべないで!」

 心配してくれるのは嬉しいのだけれど…正直怖いですオネエサマ。

シア姉様の恋人のギルバートの言う『怒れる聖女』は伊達じゃないのね…

「あぁ、アレなら今日も来てたみたいだから塩撒いといたわよ」

「またなのね、あの馬鹿殿…じゃないわ、ロリコン殿下なんかに渡してたまるものですか!」

「「そうよ、あんな粘着質小児性愛者(ロリコンストーカー)!」」

「あんな倒錯した性的嗜好を持つ奴が次期国王なんて…この国終わったわね」

「姉様方、ジェーン、もう回りの私服兵と馬鹿な男達を倒して隣国に逃げましょう」


 実は現在私達は、籠城(又は立てこもり)を始めて4日目になる。

家の回りに立っているのは私服の兵士2、3人と姉様方の恋人達。


この環境でもいつも通りに過ごせる図太…精神力の強い姉様方は正直すごいと思う。

そもそも、それぞれ高スペックな恋人より私達姉妹をとる事自体がすごいと思うのだが。

 私はもふもふがいなくて欲求不満だ。

王子なんかと結婚して苦労したり、城やらドレスやら上流階級の、自由のない生活なんかしたくない。

やっぱり牧場を買うか作るか、それか嫁入りするかする。

動物の為に苦労して、優しくて働き者の男性と結婚して可愛い子供と動物に囲まれたい。

 それが私の未来予想図!…と信じている。

疑わない、疑わない、どうにかしてそうするんだから!


 そもそもなんでこんな事になっているのか、5日前までの事が思い出された。


* * * * * * *


 ある日買い物から帰ると、普通の身なりなのにやたらきらきらしい男性が、わが家の前にいらっしゃった。

 見た事ないけれど、きっと姉様達に求婚なさっている殿方の一人よね。

姉様に取り次ぐのも嫌だったし、関わり合いになりたくないけれどしょうがない…

そう思いながら声をかけてみたのが運の尽き。

「あのー、家に入れないので避けて頂けませんか?」

 その瞬間の彼の反応には驚いた。

後から聞いた話によると『精巧に作られた仮面のような』とも言われるらしい、無表情の青年。

彼が、目元も口許も緩ませ頬を染めて、熱い眼差しを私に向けてきたのだ。

 私は人と関わることが苦手で、外出時はいつも帽子を被り顔を上げないくらいだ。当然人から見られることに慣れておらず、慌てて逃げるように家の中に入った。


 その日の夕方。

父様が帰って来るなり、怖い顔をして私に聞いてきた。

「ジェーン、今日、ヒョロッとした金髪の優男と会ったか?」

「金髪…あ、家の前にいらしたあの方のこと?会ったわ。」

そう答えた途端、ガクリと膝をつき悲痛そうな声を出す父様。

「……ジェーン、あいつ、ストーカーなんだよ…」

「どなたの?姉様に求婚している方なのよね?」

「お前を7年前から陰で見つめ続けていた、とほざいていたが…」


 絶句した。

7年前って私8歳だよ。

なんなんだよそれ。


「ついでに言うなら、あいつは今24のはずだ」


「……ろ、ロリコン?ないないない!あんなイケメンがロリコンの粘着質ストーカーとか信じたくない!」


「言いたい事、ジェーンが全部言ってくれたわ…」

「ジェーン、そんな言葉知ってたのね…」

 まずい、被ってた猫はがれた。

言われたことでそう気付き、顔が引きつっている私を尻目に、姉様は父様に聞いた。後から『般若のような形相だった。by父』と姉様宛の書き置きにあったのだが、それでキレていた姉様は正に般若のようだったから、事実そうだったのだろう。

「で、父様知り合いなの?そんな不届き者はどこのどいつかしら?」

「……あのクソg…あのお方は、この国の第一王子にして王太子、アンリ様だ」

「「はぁ?王子?」」

「そうなんだよあれでも王子なんだよストーカーの癖によー

稽古つけてやったら俺に勝ちやがるしなんなんだよアイツ。マジで助けて俺のジェーンをぐふっ」

マリ姉様とエリ姉様の驚愕の声に返事をした父様は…なんというか…墓穴を掘った。

「「何負けてんのよ脳筋親父が!」」

「それだけが唯一の取り柄のくせにどうしてくれんのよ!」

 パンチが父様のお腹にヒットし、罵声が浴びせかけられる。

「ジェーンをそんなストーカーにやってたまるものですか!」

「逃げるわよ、ジェーン!」

あれよあれよという間に、いつの間にか逃げる方向に話は決まっていた。


……あれ?私の意思は?



 気付いたら、家の回りを数人の知らない男性と姉様方の恋人達に囲まれていた。



 ……そうして、今に至る訳だけど。

「姉様、なんで姉様達の恋人までいるの?」

「あー、あれはいい加減結婚を受け入れろ、って事らしいわ」

「ジェーンと離れるくらいなら私達結婚なんてしないもんね!」


 だから私は困っている。

姉様達にとっては、

家族(主に私)の幸せ=自分の幸せであり、

私>恋人な訳だ。

そして私は夢(牧場)>>>結婚

つまり、牧場>>>結婚>姉様となってしまう。

本心としては優先順位は姉様の幸せ≒牧場>>>結婚だが、どうしようもない。


 そして、四日目にして王子(ストーカー)が動いた。

ドアをノックする音が聞こえる。

ビクリとする私達。

皆が皆現実逃避ではしゃいでいたのだから当然だ。


そして、後から側近に聞くと『聞いた事もないような』甘ったるい声で話し掛けられる。

「二日も来れなくてすみませんね。貴女の為に、条約を速攻で結んで来たんですよ」「間に合ってます!」

「ジェーン?もうそろそろ出てきませんか?」「嫌です!」

「ジェーン、それではいつまでも出られませんよ?」「結構です!」

「何も調達できませんよ?」「間に合ってます!」


 姉様から教わった、必殺押売り対処法。これをひたすら繰り返す。

多分あってる。これは将来と夫の押売りだ!


 ドア越しに暫く同じようなやり取りを繰り返していると、やっと彼は去った。

「また来ますからね、僕は諦めませんよ」

という捨て台詞を残して……

「二度と来ないで下さい(ニッコリ)」としなかった私を褒めて下さい。

不敬罪で引っ張られるのは流石に嫌だ。言動には気を付けているが、求婚を断る時点で不敬って言ったら不敬だと思うけど。気にしない方がいい。


翌日〜五日目〜

「ジェーン、今日も来ましたよ」「間に合ってます!」

 来ましたよ来ましたよ。

彼は不敵に笑って(推定)言った。

「お父上から聞いたのですが、もうそろそろ我慢できないのではありませんか?」

「な、なにが…」

「分かっているでしょう。貴女は毎日の様に撫でて、擦って、抱き締めている動物ですよ」

「くっ……」

「貴女が八歳の時から七年もの間、毎日それを眺めていた僕の気持ちが分かります?」

「分かりませんよ殿下(ロリコンのストーカー)!」

いやだ毎日だったのね気持ち悪い…

そんな気持ちを察しず、彼は続ける。察してやってるならもうどうしようもないけど。

「いくらあの動物達と代わりたいと思ったことか…」


ドン引いた。外でも明らかに皆引いてる気配がする。

「まぁいいですよ。今、貴女の為に城の庭に小さな物ですが牧場を作っているんです。動物も選りすぐって集めているので、また連れて来ますよ」


 ……何も言えなかった。悔しい。

「姉様、あの人ひどいわ!人の弱点突いてくるなんて、なんて人でなしなの!」

 そう言って慰めてもらおうとしたけれど、姉様達は姉様達で混乱しているようだった。

それぞれに恋人達から何か言われたらしい。

取り敢えず考えていても疲れるので、寝ることにした。あぁ、猫のにゃー達一号と二号が懐かしい…


翌々日〜六日目〜

「ジェーン、今日は蛇を」「頂きます」

 すかさずドアの隙間から蛇を奪い取る。

予告してからだったら無理矢理大きく開けられそうだしね。

返す気?ありませんが。

 この日は蛇を愛でて終わった。何言ってたかとか知りませんとも。はい次!


翌々日の翌日〜七日目〜

「今日は猫を」「頂きます。三号!」

今日はぶちのにゃー三号だった。

幸せ。


翌々日の翌々日〜八日目〜

「今日は子牛を」「頂きます。うっしー!」

 一月前に生まれた子牛のうっしーだった。

あぁ、このか弱さもいいのよねぇ…


 こうして王子が移動動物園となって一週間。籠城の始まりから十二日目。

油断していた…!

遂に扉から外に引っ張り出されてしまったのだ。

「こ、こんな不意打ちだなんて…油断させておいて、ずるいです!」

 抗議すると、彼は目まで笑っているのにも関わらず、背筋の凍るような笑みを浮かべて言った。

「ずるいのはどちらでしょうね。では遠慮なく、『いただきます』」

人生で最も背筋が凍り付くほどに怖い思いをしたのはこの時だっただろう。

(姉様、天国の母様、私は何か悪い事をしましたか!)

「こんな腹黒ロリコン変態ストーカー男、嫌ぁぁぁー!」

 辺りには鈴の鳴るような絶叫が響き渡った。


 この後、姉達も諦めてドナドナされ、『後は本人の意思次第』となっていた嫁入り支度もし、上から順に一週間おきに式を挙げられた……とはいかなかった。

姉様達の「ジェーンが結婚してから!」という意見と、私の苦し紛れの「姉様達が結婚してから!」という意見が採用され、『後は本人の意思次第』としてほぼ完璧に整えられた嫁入り支度を時間稼ぎ程度に整え、途中で時間稼ぎも許されなくなり、二週間後には大聖堂で七組の夫婦が誕生する運びとなった。


* * * * * * *


 こうしてこの騒動は終わり、姉妹達はそれぞれ夫婦仲睦まじく暮らし、沢山の子供達を産み、立派に育てました。

もちろん、皆平和に、幸せに暮らしましたとさ。


めでたしめでたし。


* * * * * * *


「ねぇ、あの人もあの人もこの人も、姉様達の相手よね」

「そうだよジェーン、それがどうかした?

私以外の男を気にするなんて……いけないなぁ」

「そういう事じゃないの!貴方は王太子で、あの人は公爵家の跡取り、あの人は伯爵家の次男で次期将軍の副将軍、この人に至っては侯爵家の跡取りで次期宰相の副宰相…ってことでいいのよね?」

「よく覚えていたね、流石だ。いいから、あんな奴等じゃなくて私を見て?」

「私は今うま子さんの手入れに忙しいの。お分かり?」

「しょうがない……後で構い倒してもらうからね」

「はいはい。で、私達が立てこもっていた間、あの人達に家の回り固めさせてたかしら?」

「させたって……自分から名乗りを挙げたんだよ、だから」

「その間、仕事は?」

「皆溜まった分は全部やって、後から来た仕事は補佐に丸投げだけど?」

(……この国終わったな…

しかも皆清廉潔白みたいなのにお腹は真っ黒らしいし…)


大遅刻ですすみません。


長かったらすみません&ややこしくてすみません。

キャラ名あまり意味ないです。

姉の恋人達も全員お腹真っ黒です。

ストーキング行為は国王夫妻公認です。女っ気なかったので心配されてました。

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[一言] ロリコン腹黒王子!(・´艸`・)・;゛.、ブッ 真っ白なのは外見だけで、真っ黒オオカミさんでしたね♪ 17歳で8歳のヒロインを見初めるなんて、真・性です。 ぷくく、と笑いながら最後まで楽しま…
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