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時雨とエヴィルシリーズ

悪魔のルポライター

作者:残田響一
そんなわけで。かくして三国一の召還術師「死刑法廷」との魔術バトルは、俺様エヴィルの圧倒的圧勝たる勝利で幕を閉じた。完璧な勝ちとはこういうことか……まさに敗北を知りたい。
召還術師の中年男は言う。
「くっ……殺せ……」
俺様「まぁ生き急ぐな。それよりお前に聞きたいことがある」1

召還術師「私が素直に吐くとでも思うか?」
「負けた奴が何を偉そうにトークするか」
「ぐぅっ……」
羞恥に顔を歪める「死刑法廷」。だが俺様が欲しいのはその顔じゃないのだ。なので言う。
「いやそれは話の本筋じゃないんだ。別にお前の所属ギルドや国家の秘密なんて暴くつもりはない」2

「では何を私に求める?黒魔術師よ」
「なあお前、負けた気分ってどんな感じ?」
「…………………………」
きゅう、と口をすぼめて、ワビサビを感じさせる味わいの骨董のような顔をする召還術師。そして、


「ば、ば、ば、馬鹿にしてんのかてめええええええーーーーーーっ!!!」3


ーーー「悪魔のルポライター」上篇
「ジャアナリスト恥を知れ」


「ねえ、負けた気分ってどんな感じ?」
「馬鹿にしてんのかてめえ!」
「うーん話題がループしとる」
「何のつもりだ黒魔!」
「いや、俺様、今ルポライター(この場合の定義は「旅先でいろんなものを見聞きして文章にするジャアナリスト」)やってるんだよね。だから、いろんな話を蒐集していて」4

「…私の負けになど何の意味がっ!」
「三国一の召還術師が負けた訳だろ。【グレートリッチ】【凍れるリヴァイアサン】の並行召還術式は見事……俺様には敵わなかったが。しかし十二分に見るべきところはあるから、お前さんのメソッドを後進の為にだな。そんで、負けた心情を込みでルポに纏めて……」5

「むぐっぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ………………」
「えーと、じゃあ、教えてくんね?負けた気分ってどんな感じ?」
「もう殺せ!殺してくれえええええええええええっ!!!」
いやんいやんな首振りをして叫ぶ中年。
「いや叫ぶのはいいから、負けた心情のリアルを10ページくらい綿密に書きた……」6

ぽかっ。
ふと気づくと、背後から俺様の銀髪な頭をこつんと叩く相棒ありけり。時雨君である。
「ちょっと痛いぞ」
「いーかげんにしなさい、武士の情けだよ。言い換えればオネストオブサムライだよ」
「あんまり言い換わってないな」
ちょっと言い回しが面白かったのでメモしておく。7

「ちょっとエヴィル君正座しなさい」
「なんで」
「正座」
「ハイ」
話が先に進まないことを危惧した俺様は従うの心。
「ええ、では今から説教します。第一エヴィル君はこの召還術師の人が、スラスラと負けた心情を告白するとでも思うの?」
「え!しないの!?」
「ルポライター失格だと思うよ私は」8


「だってさ負けたことは事実なわけじゃん!その理由を精査することによって明日の魔術学問的精進が…」
「人間そう切り替え出来たらもっと進歩してるんだろうけどね」
「ほら、時雨君だって切り替えの有用性は認めている。それくらい出来ない負け犬は……」
「もうイヤ……殺してくれ……」
最後は中年。9

中年、というか「死刑法廷」は独白する。
「……お前らのような天才にはわかるまいよ」
「何がだ」
「負ける、ということだよ」
「だからそれが知りたいんだよ俺様は。具体的にどういう心情で、個々人の触れ幅があって、追い詰めていくかを」
「はっ」
逆に笑われた俺様。
「なら黒魔、お前が負けろ」10

「逆に新鮮だぜ、その台詞は
」俺様はバトルよりもむしろ今の台詞に関心してしまった。
「黒魔、お前ルポライターになりたいんだったな。じゃあ、お前が負けろ。意味のあるルポを書くために、お前が、負けろ。そうでないルポ……ひとの心底にまで降りないルポ……文章になど、何の意味がある?」11


ーーー俺様はその指摘に、ちょっと答えられなかった。12



後篇「天才が文章を書くために必要なもの」



「どうしたもんだか」
「だから負けろ」
「お前壊れたオルゴールのように連発するなその台詞」
「クカッカカ、正論で天才をツブすのは心地いい」
俺様、時雨君、召還術師「死刑法廷」は、白詰草の敷き詰められた丘の上でぼーっと語らっていた。バトル今は遠く、しかし俺様の心は新たな戦いやもな。1

「時雨君は何か意見あるか?」
ぼーっとその辺を飛び回ってる黄色い鳥を眺めてる相棒。曰く、
「勝てばよかろうなのだぁ、ではやっぱり勝負はつまらないよ」
「しかしそれが勝負の本質だろう?」
「中級ではね」
「おっと挑んで参りました時雨選手」
「あんまりね、そういう勝負は心に残らないんだ」2

「心に残らない」
「うん、それこそ路傍の石かもしんない」
「そこまでいう。だって最大級の魔力なり剣術なり使って……」
「戦いは足し算じゃないよ」
「……要素還元法的に言ったら理解は……」
「バカか」
死刑法廷が言う。「剣聖の言ってるのは、戦いにおける【良い】の可否ではなく【流れ】の点だ」3

死刑法廷「わかりやすく言うとだな。お前が大技ブッぱしまくって、華麗に勝利を決めたとしよう。それこそ超上級魔法を5連発、みたいな」
「よくやるなあ俺様」
「でも、観客は”はいよかったね”で終わる」
「……む?」
「それは自然の暴威に、敗者が飲み込まれておしまい、と同じだ。粋がない」4

「粋がない、とはつまり、剣聖の言う【勝てばよかろうなのだぁ】式の戦いしかしていない。より高みに立つ戦いなんか目もくれてない貧しい人間なのだ。--黒魔、お前、もて囃されることが多かった人生だと思うが、もて囃されることがお前の成長に何か寄与したか?」
「……」
応えられん俺様。5

「戦いにおいて、大技ブッぱは、大小”すげー”と呼ばす。でも、より人を心から魅了する戦いは、【戦いの流れ】に沿った、人間の戦いさ。戦いにはどうしようもなく流れってもんがあってな。それで勢いづくのも、それに抗うのも、また戦いだ……そこの剣聖は知ってるだろうが」
「うん」6

「教えてやれよ」
「だって今までのエヴィル君、戦いを”手段”としてしか捉えてなかったんだもん。自分のゲットしたいものを入手するための」
「あー」
たしかにそれを聞いた過去の俺様だったら、何が悪いと言い返していた。が、今の俺様はルポライターなのだ。それではいけないのだ。7

「なあ黒魔よ、お前なんでルポライターしてんだ?」
唐突に俺様に振られる。
「……うーん。ちょい長くなるが」
「かまわん、言うてみろ」
「俺様、天才なわけじゃん」
「ハラたつが、事実は事実だ」
「いろんなことをスルりとインプットしてきて、【既存の】黒魔としては最強になったわけだ」「しかし?」8

「俺様、別に、この世になんも新しいもん、付け加えてないな、作れてないな、と思って」
「……ふむ」
「先人の作ったものを学ぶばっかりで。それじゃ学術的自慰だろう」
「そこまで言うか?」
「どうもぬぐい切れなくてな。魔術を学ぶ。学問を学ぶ。さて、その先、それで何をすべきか?」9

「この【新しいものをつくる】という意味合いにおいて、俺様は雑魚だって気づいたわけだ」
「……なるほど」
「じゃあ何をする?とりあえず今自分の中にある知見を纏める。そして、今まで研鑽の旅をしてきた道程を纏める。今進行形の旅を文章化する」
「文章にしてどうする?」10

「どうなるんだろうな、文章にして。ただ、どうしようもなく、文章にして書き残したい気持ちになったんだ。そこには、この【どうしようもない気持ち】すら文章にしたい、というのも含まれていて。だから自然魔術科学だけを書くつもりじゃなく、俺様をも含めた【人間】ってものを書きたくなった」11

「文章ってのは不思議なもので。それは誰かを打ち負かしたりするものじゃないけど、しかし自分を省察し、形作ることだと思う。今まで論文書くのをサボってきた……旅での発見のほうがオモロかったしな。でも、文章を書くことは、なんつうか、自分の中にある井戸の、水の響を聞くようなものなんだ」12

「詩的だな」
「”え、こんな響きが自分の中にあったのか?”っていう驚きだ。自分は、案外自分で知らなかったんだなぁ……っていう今更の驚き。それを、俺様は今にして思うわけで……それを時雨君に言ったら、【やっとわかってくれたんだね】だぜ。おいおい10年前に通り過ぎかよってなw」13

「ひょっとしたら、この響きは、他の人間にも、くまなくあるかもしれない。自然にも、世界にもあるかもしれない。だから、俺様はルポライターとして、響きを聞きにいってみたい、そう思ったんだ。そうすれば、自分も何かつくれるんじゃないか、って思ってな。長いな。うん」14

死刑法廷「響きを聞くんだったら、まず水瓶をぶっ壊す勢いで聞くのはもうやめにするこったな」
「いやそれは、ダイレクトに訊いたほうが素直な響きが返ってくると思って」
「そうじゃないから人間なんだよ。それに、響きってもんは、それでもまだ聞こえてこなくて……耳を澄まさなくてはならん」15

「具体的にはどうすればいい?」
ふと、この時、眼前の死刑法廷が、ずいぶん親切に俺様に「魔術物書き」としての見地を与えてくれていることに気づいた。だが話をさえぎるわけにはいかず……。
「意味のある勝負をさせてやるべきだな」
「意味のある」
「お前も、相手も、何かを汲み取れる勝負だ」16

「負けたほうもか?」
「もちろん。そして勝ったほうも【名誉欲、俺TUEEEE】だけでは留まらん知見を得るのだ」
「そんなんあるんかね」
「お前は相棒の剣聖の戦いを見てこなかったのか?」
「……?」
「なぜ彼女に数多の剣士が挑む?」
「強いからだろ?」
「違う。意味のある勝負をくれるからだ」17

「意味のある勝負……」
「そうさ、彼女は無闇に斬っているわけじゃない。お互いに意味をもたらす勝負というのをしている。人はそれを横綱相撲と呼ぶがな。【戦う】それ自体が、無限の智恵の源泉になっている、って寸法だ」
「……そう思うことはあったが……」
「ならそれを書けばいいんじゃないか」18

「この世は【意味】に満ち満ちている。だが、多くのひとはそれを当たり前と思いすぎている。ルポライターは、光を照らして世界に自然に人間に【意味】を見出し、文字が読める連中(注)の光となる……んじゃないか?ルポライターってのは」
「そうか……」
「今更納得すなよ、ルポ童貞」
「うるせぇ」19



(注)この世界には、人間だけでなく、妖精や亜人や魔物もいますが、人間に限らず識字ることが出来るひとは出来るので、こういう表現になります。20



ーーーそんなこんなを、白詰草の丘で語り合った。
しかし。これは俺様の頭の回転の遅さであるのだが、なぜこの「死刑法廷」はここまで話してくれたのだろうか?
前のナイスガイ師匠のときと同じだ。俺様が何を書こうがどうでもいいはずだったろうに……しかし、俺様は思いつく。愕然と。21

俺様は、俺様の天才を、彼らのために役立てなかったのだが、彼らは俺様の天才に期待してくれていたんだということを。
「きっとこいつは何かをしでかしてくれる」という期待でもって。そのことに気づいたとき、俺様は自分が阿呆だと思った。22

そうだ……俺様は自分の天才の価値を当たり前と思いすぎてて、それが人からどう見えるかなんて考えもしなかった。でも、彼らにとっては、それは「価値」なんだ。それくらいは、俺様もわかるようになった。

……どうすればいいのだろう、俺様は。時雨君に問う。23

「恩返し?」
「に近いもんなんだがな」
「ねえ、答えがわかってるものを訊く?」
「……」
「文章を書こうよ。その人達に届くような、良い文章を。それしかないよ。言葉が届くことへの祈りだよ」
「不確定じゃないか?」
「その理屈と、今の文章への熱、どっちが大事?」
「……そうだな」
頭が鈍い。24

ナイスガイにせよ、死刑法廷にせよ。あるいは、今まで通り過ぎてきた人達にせよ。俺様は、俺様として、何をしてきただろうか。俺様とは何なのであろうか。そして俺様を取り巻く世界、人間、自然。魔術の極み。少ない友人の顔。……そして傍らに居てくれる時雨君。25

なんで今まで書かなかったんだろう、と思い、いやこれから書きまくるぞ、と思い。
【意味】か……それは当たり前すぎるほど当たり前なんだろうが、でもそれを見過ごしてきた俺様が語れる資格はない。童貞、まさにそうだ。
だが、今20とそこらの歳だ。
……30過ぎまでの人生……俺様の寿命だろう。その半分を過ぎて、ようやくこれをすればいいのだと。26

「なんとなく、いい顔だよ」
時雨君は言う。
「いい風も、吹いているし」。
このときの感情をどう書けばいいのか、今の俺様の筆力ではまだ書けないのだが、しかし記憶して刻もうと確かに思ったのだった。27

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