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光の泡に囲まれて

作者: 駄々

仕事場へのお気に入りの道みち。いろんなことが想いに浮かびます…

白い光の一日のはじまり、自由詩に託して…

 大学へは何通りかの道順がある。通勤に馴れないうちは一番人通りの多い道を学生達に混じって歩いていたのだが、ゴチャゴチャとして歩きづらいし、何より交通整理のシルバーさん達の無愛想さに出会うのが憂鬱過ぎて、ついに別の道を見つけた。このあたりの地域は道が複雑で、東西南北の感覚がなかなか役に立ってくれないので、新しい行き方を開発するのは勇気がいるのだ。実を言えば、新しい道は自分で見つけたのではなく、見つけた同僚から教えてもらっただけのことだ。

 駅前の小さなロータリーを越えて住宅街の中に入り込み、左へ右へと曲がりまくる。電信柱には「あいさつで 友達の輪にとびこもう」と、標語が貼ってある。違うのだ。内気な引っ込み思案の子にとって、得体の知れない馴染みの薄い集団の中に飛び込むことは、5メートルの高さからプールに飛び込むことに等しい。挨拶をすれば、なんて、簡単にはいかないのだ。むしろ、「あいさつで 友達の輪に誘おうよ」。こんな標語は無理ですか?

 何回か曲がった後、左側に急な下り坂が開ける。坂の下には何棟かの団地がある。ここからの道は本当に好きだ。急な下り坂を歩きながら左に右に目をやる。左側の、白い外壁に赤い外階段のある二階建ての家は入口からは荒れた狭い庭しか見えないが、奥に行くにしたがって深い緑が繁っているに違いない。この季節はバラが香っているだろう。庭はその先急な坂となり、ひっそりと木立に抱かれる湖へと続いているだろう。それはあり得ない景色だろうか。いや、そう思い続けるならそれは本当にそうなるに違いない。

 この道を通るとき、すれ違う人達はいつも同じ、子供を乗せた自転車を押している女性と、手すりに掴まりながら上って来る年配の女性だ。年配の女性とは、目と目で挨拶をする仲になった。

 私は軽やかに坂を下り、右に曲がる。団地の中の道を歩く。古い団地の前には庭のスペースがあって、季節の花が咲き誇る。建物と釣り合いの取れた日本的な飾り気のない花に、気持ちが和んでくる。犬の散歩に出会うこともあり、市内を巡るバスにはいつも同じ角で出会う。そこからは左側に大学のグランドがある。銀杏並木が続く。大学の掃除のおじさんと気持ちよく挨拶をかわす。そして、守衛さんのいない南門から入る。



坂を下るときは足元は見ない

あごを上げ 空を見上げながら

息を吸い込んで はずみ下る

光の泡たちが 顔を包み

首を振ると

いい香りが立ち昇る

このまま下りきったら

きっと海

ボードをかかえたまま

戻って来なかった人は

きょうなら戻って来てくれるのだろうか

あの日も光の泡は

群れる蛍のように立ち昇っていたが

きょうなら

消えてしまわずに

彼を囲んで

立ち昇り続けるのだろうか

つながる日々は 白く

音も聞こえず

静かな平安は

これ以上ないほどに


ひとつ前を曲がっていたら。あの一言をいわずにいたら。あのとき私が微笑んだなら。

そんなこともみんな、白い光のなかです。

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