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Cubさん。  作者: 牧村尋也
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06 外で食べよう

 カブさんはのんびり走るのが好き。

 相棒はホンダ・スーパーカブ90カスタム。

 田んぼ道が好きで、田舎が好き。

 コーヒーが好き。

 独りが好き。

 でも、話しをするのも好き。

 大勢の中にいると少し疲れる。

 人混みは苦手。

 忙しいのも苦手。

 いつでもノンビリと、あっちへフラフラ、こっちへフラフラしてる。

 40歳ちょっとで、現在は独り者。

 サラリーマンではなく、自営業とも違う、あえて言うなら自由業。

 ちょっと変な大人で、変なヒト。

 それが、カブさん。



 06 外で食べよう


 屋外でする食事は、なぜか美味しく感じる。

不恰好(ぶかっこう)なオニギリでも、インスタントのカップ(めん)でも、外で食べるとなんか違うんだよなぁ」

 いつものようにスーパーカブ90にケトルや水筒、コーヒーやドリッパーを積みながら、首を(かし)げる。

 エンジンをかけ、よいしょっとシートを(また)いで走り出した。

 柔らかな陽射しが背中に暖かく、ヘルメットの向こう側を舞う風もどこか優しく感じる。

 スーパーカブのスピードに合わせて交通量の少ないルートを選び、トコトコと進んだ。

 石造りの古い橋を渡り、菜の花で黄色く染まった用水路の土手を(なが)め、未舗装の田んぼ道を抜け、公園に入ってバイクを停める。

 誰もいないベンチで荷物を広げた。

 ケトルに水を入れ、固形燃料をセットして、火を着ける。

 お湯が()くまでは5分くらい。

 『CUPNOODLE』と書かれたパッケージを取り出し、ビニールを()がす。

 フタを半分まで開いて(はし)にシールをつけ、お湯が()くのを待った。

 ケトルの先からユラユラと白い湯気が上がる。

「お、()いた、()いた」

 火からケトルを下ろし、カップの内側の線までお湯を(そそ)ぐ。

 湯気の中で小さな具材がクルクルと(おど)った。

 フタをしてシールで(はし)()める。

 時計の針は12時27分。

「12時半には昼飯が食べられるな」

 のんびりと待つ。

 何をするでもない。

 公園の花を(なが)め、この花はなんて名前だったっけかなぁなどと記憶をたどっているうちに時計の長針が真下を向いた。

 フタを(はが)がす。

 フワリと湯気と共に食欲を刺激する香りが立ち昇った。

 折りたたみ式のフォークを突っ込んでかき混ぜる。

 ついさっきまで小さかったエビや、鮮やかな黄色の玉子がふんわりと膨らみ、四角いサイコロ状のチャーシューと一緒に、しょうゆ味のスープの中でユラユラと揺れる。

 フォークを持ち上げるとウェーブのかかった(めん)が湯気と共に持ち上がった。

 頬張(ほおば)って(すす)る。

 しょうゆの香るスープを飲む。

 温かく、どこか懐かしい。

 ずっと昔から食べてきた味だ。

 特別なモノは何もない。

 でも、部屋の中で食べるのとはどこかが違う。

 春の穏やかな日差しと、暖かな風、花の香りと鳥の声。

 そして、ここまで私を連れて来てくれたバイク。

 きっとこれらが全て合わさって、この外で食べるカップヌードルを特別なモノに変えるのだろう。

 (めん)(すす)る。

 スープを飲む。

 ほおぅと息を吐く。

 体が内側から温かくなる。

 静かな昼のひととき。

 名前も知らない花が風に揺れる。空も青い。

 そう、空の下で食べる食事はなぜか、美味い。



『カップヌードル Cup Noodle(日清食品)』

 1971年から発売されている日清食品のカップ(めん)で、世界初のカップ(めん)とされるロングセラー商品。

 世界80カ国以上で販売され、様々な味やカップ(めん)以外のカップヌードルごはん、詰め替え用のリフィルパックなど派生商品も多く存在する。

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