俺は今―――
「オイ姉ちゃん!!この鞄に目一杯の金と愛情を詰めてくれ!」
中年男特有のざらついた声がそう言った。
「は、ハイ!!………はい?」
女性はその荒々しい男の言葉に焦り気味に返事を返す。が、聞き間違えのような言葉の混入に一瞬惚ける。
「詰め込むなら金か愛どっちかにした方がいいよ」
カウンターを挟んでやり取りをする男女から少し離れた場所。男の斜め後ろから♂の5歳児はそう言った。
「うん。マサの言う通り。金と愛情は一緒にしない方がいい。愛情が金に食い尽くされてしまうかもしれない」
♂の5歳児の横に並ぶそのまた♂の5歳児は、先のセリフの主(つまり♂の5歳児)と全く同じ声、顔、並び表情でこんな補足を入れる。
「まじか?!姉ちゃん、愛情だけでいい!溢れんばかりに詰め込んでくれ!!」
「は、はい………?」
愛情をとった!?
焦ったようにカウンターに拳を叩き付け、執拗に愛情の詰め込みを要求する男に、カウンターのお姉さんは困りながらも返事をする。疑問符付ではあるが。
「フっ…」
「ぷっ…」
お前ら鼻で笑うな!!絶対今『馬鹿じゃねーのコイツ』とか思ったろ!
強盗よ!お前は人として正しい選択をしたんだ!胸を張れ!!
だがそもそも、この状況で愛情という言葉を出したのは大きな間違いだ!!
俺は今―――
「なぁ、マツ、」
二重であるにも関わらず少し下ろし気味の瞼。物事に無関心そうとも生意気そうとも言える瞳が一点を見つめながら隣りの♂5歳児を呼んだ。
「ん?」
真津は真佐につつかれ振り返る。
「あの人、」
真佐は無表情で、死んだように床に伏せるおじさんを指差した。
強盗に遭遇したにしては大袈裟すぎる伏せ方だ。
手を床につけるだけでも、頭の上で手を組むだけでも良いはずなのに。このおじさんときたらベッタリと床に倒れ込んで必死に息を殺していた。
「………。」
「………。」
真津と真佐は黙り込んだ。
そして数秒後、つつかれたマツはマサに問う。
「死んだ振りのつもりかな」
「でしょ?人間相手に死んだ振りって利くのかな」
二人の半分伏せられ気味の目が、じっと床のオジサンに注がれた。
「………」
「………」
先ほどと同じように、また沈黙という音が流れた。
黙ったまま言葉を発しない二人だが、俺には解る。お前らが何を考えているのか。
そう。お前らはあざ笑っている。『人間相手に死んだ振り?良い大人が阿呆こいてんじゃねーよ』ってな。
その証拠にマツ、今お前の右の口端が小さく吊り上がったのを、俺は確かに見たぞ。
くそ。なんて憎たらしい表情なんだ。
大人気なくも、子供相手に心の底からイラついていた時だ。少し離れた場所から強盗の様子を眺めるように突っ立っていた俺へ、二人の5歳児の首がふと向けられた。
その顔には鮮やかな笑顔が彩られる。
「ね☆兄ちゃん」
「ね☆兄ちゃん」
俺に振るなぁぁ!!!
てかお前らの『ね☆』は、俺がお前らの考え(おじさんを嘲笑った事)を読んだのをわかっている上での発言か!?そこまでお見通しか!?
双子の弟達は、もう一度『ね☆』と首を傾いだ。くそぅ!なんて憎たらしい笑顔だ。お前らに『無邪気』という言葉がどれほど合わない事か。
このチビ等は無邪気どころかまるで邪気の塊だ。
わずか5歳で、なんだ、その世間を知り尽くした目は。全てお見通しか?くだらない大人どもは全て手の平で転がしてやろうという宣戦布告か?
「お前らごちゃごちゃうるさいぞ!!!」
愛情を詰め込むのに一生懸命な強盗がいきなりこちらを睨み付けた。
だが、その網タイツに包まれた顔で睨まれてもねぇ。…迫力もなにもさぁ。
てかおじさん脳みそも無いでしょ?網タイツ被って何する気だったの?そんな荒い目のタイツで顔が隠せるとでも思ったの?いっとくけど今のおじさんの頭タコ糸に縛られたハムみたいになってるからね。
ハム頭のおじさんはお喋りしてる俺達に怒鳴りつけるが、5歳児である双子さえも、その怒声にびびることはなかった。 てか双子、お前らのせいで怒られたんだぞ。俺は一言も発して無い。
「坊主!!お前もこっちきて手伝え!怪しい事考えんじゃねーぞ!」
あなたの頭の網タイツについては怪しい事に入りますか?
てか手伝う?愛情の詰め込み作業に?
(………)
これはおとなしく従うべきだろうか。それともあのハム頭をもろくそ殴り付けてツッコムべきであろうか。
(………)
相手は一応強盗だ。そう。少なくとも強盗なのだ。
仕方ない。ここはハム男の言葉に従おう。少々不満および作業への疑問もあるが。
「わかりました。ハムさん」
バカ俺ーーー!!!ついハムさんって言っちゃったよー!
「サム?誰だ」
ぶがっはーー!!丁度よく聞き間ち違い発生。この間違いを正すのはやめておこう。
「ちげーよハムだよ(真津)」
「そうだよ、ハムだよサム(真佐)」
黙れ双子!!余計な事言うな!!てかマサ、サムって誰だ。
俺は今―――銀行強盗の鞄に愛情を詰め込む手伝いをさせられていた。
一体なんだ。この状況。
頑張ってバイトで稼いだ給料をおろしに来て見れば…。
いつからついて来たか弟のマツとマサ。
ちなみにこの二人は双子だ。マツが兄でマサが弟。つっても双子じゃ兄も弟もないか。
見分け方はマツが赤い目、マサが青い目………って、信号か!!
前言撤回。見分け方はマツの右目の泣きボクロ。
それ以外は全く同じ。見た目も発言もそっくりそのままだ。
まぁ、多少のちがいもある事はあるが、クローンな面が多過ぎて兄である俺もたまに混乱させられる。
この時の俺の頭は案外落ち着いたもので、自分の身を考えながら、共に戯言を考える余裕もあった。
だから、強盗がどんなにハムだろうが、どんなに愛情を要求しようが、どんなに弱そうだろうが黙っていた。 それに、今のテンションからツッコミをいれたら興奮のあまりおっさんの頭を取り上げて箱に詰めて、去年お世話になったご近所の村井さんにお歳暮を送ってしまいそうだ。
やばい。それはやばい。
お歳暮の時期でもないのに村井さんに失礼だ。
てかおっさんの頭取り上げるような事したらこの駄文のジャンルがコメディーからホラーに変わってしまう。
それはとてつもなくやばい。
そんな重いジャンル俺の足腰では支え切れない。
てかぶっちゃけた所関わりたくない。
あんな変態に関わって、変ないざこざを起こしたくない。
(あーゆう変態怒らしたら絶対面倒臭い事になるんだよなぁ)
これは断言出来た。
内心では皆そう思ってる筈だ。
そんな中愛情の詰め込み作業に指名されてしまった俺は相当運が悪かったのだろう。
愛情を鞄に詰め込んだ事がない俺は、半ば茫然と立ち尽くす。
俺の横で、俺より先に愛情の詰め込みを強制されていたカウンターのお姉さんは、鞄の中に向けて仕切りに笑顔を投げ掛けて居た。
(お姉さん、それじゃあ愛情の詰め込みじゃなくてスマイルの詰め込みだよ)
こんな光景が俺には切なくて仕方ない。
こんな、お姉さんのお茶目な行動に何も言わないハムの様子を見ると、どうやらお姉さんのこの行動は間違えてはいないらしい。あくまでもハムの基準ではの話だ。
てかハム男事態、愛情の正しい詰め込み方なんて知らないのかもしれない。
(…。知らないんじゃないかなぁ…)
「………。」
あぁ、なんだろう。だんだんあのハムが切なくなって来た。
「おい、手ぇ止まってんぞ」
ぼんやりしていた俺へ向け、隣りから厳つくざらついた男性の声がかけられた。
「あぁ、はいごめんなさ…」
俺は慌てて鞄に手をかける、が。なんとなしに声の発信源に目をやると、そこに居たのはマサ。
彼は五歳児には高過ぎるであろうカウンターにぶら下がり、生意気な目をこちらに向けていた。
おい待て、まさか今の声お前か?
「………」
俺は静かにそのチビを見つめる。
「………」
チビは無表情にこちらを見つめ返し―――
「………ハッ」
口の片端を小さくあげる。
俺は今、鼻で笑った様なにくたらし表情を見た、気がした。
マサは興味を無くしたように俺から目を離すと、『ぴょんっ』とカウンターから放物線を描き落ちる。
タッタッタッタッタッタッ…
行くは双子の兄マツの元。
………。
「『ハッ』ってンだよ!!!」
ばんっ!
俺は無意識にも手元にある鞄を床に叩き付けていた。
「ぁああぁぁぁ!!!愛情ガァ!!」
「うっせぇよ!!!」 怒りのあまり強盗に向かい叫んぶ。
悪しからず。悪いなハムさん。これも無意識なんだ。てかノリでつい。
網タイツハム男は、愛情つめ途中の鞄に急いで駆け寄った。
どうやら本気で焦っているらしく、興奮により震える手で鞄の埃を軽く払うと、落ち尽きのない挙動普請な目でその中を確認した。
「お前ぇぇ!!半分以上ダメになったじゃないか!」
何が!?
愛情が!?
ハム男、教えてくれ。一体何がダメになったんだ。お前の脳みそか?
「おじさん。何が?」
大胆にもハム男の前に一歩歩み出たマツ。
てかおい。お前はなぜそこに食いついた。
「愛情に決まってんだろぉ!」
黙れハム!!!
お前の目はあれか。お茶目にも下界にノートを落としてしまった死に神と契約して、網タイツを頭にかぶる代わりに『愛情』という常人には目に見えないモノが見えるようになったという特殊なモノなのか?
俺は何ともいいようのない思いで、入っていた愛情が半分以上ダメになってしまったという鞄を抱き、嘆くハム男を見ていた。
ふと視線がその奥に行く。
ハム男の真後ろ。一歩引いた場所。
(………?)
何やら合図を出しているらしい双子の小さな手に、俺は目を細めた。
そしてピントがあうと、下らなすぎるその内容に俺は半眼したのだ。
双子は、『良くやった』と言わんばかりに親指を突き立てて俺に向けていた。
………、俺は馬鹿にされてるのか?
「ぉおぉぉぉお前ェ!責任はとって貰うぞ!!」
サム(強盗)は鞄を片手に抱き、足をがくがくさせながら俺にある物を向けてきた。
「キャァァァァ!!!」
俺の隣りで愛情を詰め込んで居た銀行のお姉さんが、尻餅を付いて喉が千切れんばかりに叫ぶ。
そう。このただの変態がこうして銀行で愛情を盗むという場違いな強盗に見事成り上がれたのには、ちゃんと訳がある。
彼の片手にはナイフ。腰には拳銃。背中にムチ。そしておもむろにポッケに詰め込まれたロウソク。
………そう、ムチとロウソク。
「・・・」
………ムチと、ロウソク。
「・・・」
………ムチと、ロウソ…
「マゾじゃねぇかこの野郎!!!!」
「マゾって言うなぁ!Mと言え!」
変わんねぇよ!!
おいおいおっさん。なんでムチとロウソク持ってきた。なにか?愛情を強盗するついでに自分好みのサドも盗みに来たのかい?
見れば双子が口に手を当てごにょごにょ話して居る。その目は明らかにサム(強盗)を軽蔑したものだった。
まぁ変態に向けるに正しい反応ではあるか。
そんなこんなで俺はサム(強盗)に銃を向けられたわけで、取りあえず向けられた銃口を見つめるしかないわけで。
どうなるんだろうなコレ。
まさか死んだりしないよな俺。
こういう場合、
「はい、実は水鉄砲でした〜」
みたいなオチだったりしないか?
するかもしれない。何しろ持ち主があのアホ(サム)(強盗)だ。アイツに入手できる代物なら日本はもっと荒れて居るだろう。
だが水鉄砲という確信が無い限り、無闇に動いては危険だろうし。
俺は溜め息をついて事の成り行きを待つ事にした。
「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!」
マツ、マサ…
まさか俺を心配して?
俺に駆け寄る5歳児二人に、銃を構える変態は少なくも心打たれた様子だった。
「お前ら、危ないだろ」
俺は溜め息混じりに二人の弟に言った。
二人は俺の両脇に位置すると、それぞれ、ぐっと俺のズボンをにぎりしめる。
俺はこの行動に、いつも憎たらしい弟達を見直さずには居られなかった。
「マツ、マサ…」
俺は呟くようにその名を口にした。
マツとマサはじっと下から俺を見つめる。
どれだけ時間が経っただろう。長く感じはしたが、実際では多分ほんの数秒の事だ。
俺は、双子の兄マツが自分のズボンを軽く引っ張っていた事に気付く。
しゃがめと言う意味か?
俺は黙ってそれに従う。
同じ頭の高さにあるマツの瞳は、まるで可哀相な小動物でも見る様なものだった。
なんとも複雑な思いに俺は言葉を失った。
その時、その反対側で、マサが俺の耳に手をあてた。
(ん?なんだマサ?)
俺は弟の声を逃すまいと耳に神経を集中させる。そして入って来た音、マサの言葉は―――
「サム(強盗)はMなんだってね。残念」
………………………………………………………………このクソガキ!!!
あれか。それは言外に俺をMといっているのか。
「僕達サムがMだって白状した瞬間、お兄ちゃんがいたたまれなくて、」
こう言ったのはマツだ。
俺は静かに記憶を巡らした。
サム(強盗)がMと自白した時、サム(強盗)を見る軽蔑したような目。
あれは、
「んだよMかよ。見たまんまじゃねぇか」みたいな感じだったのだろう。
そして俺の元に来た時の可哀相な小動物を見る様な目。
あれは、
「残念だね。アイツもMなんだってさ。MとMじゃとんだミスマッチだよ」といった所か。
(………)
………
「お前ら………いい加減にしろ!!!」
怒鳴った。
誰が?
そう、俺が。
辺りの空気が蒼然となる。
静かだった現場がさらに静まり、まるで空気が凍り付いたかのようだ。
被害者の皆さんは信じられないといった様子で俺を見つめていた。
俺は一身にたくさんの視線を受け止める。
今思えば俺一人がこんなたくさんのスポットライトを向けられるなんて、人生で初めての事かもしれない。
そんなに見ないでくれよ。ははは。照れるなぁ。
なんてふざけてる場合じゃねぇ!!
こんなスポットライトクソくらえだ。
凍り付いた空気の中、重い空気を掻き分けて、俺はハム(強盗)に視線を戻した。
ハム(強盗)は頭を垂れて足を震わせていた。
次第に銃を握る手も震えて来る。
俺は始め、それの震えが発作か何かに思えたが、その考えは全くの見当違いだった事がすぐ判明した。
俺は降れてしまったのだ。サム(強盗)の怒りに。
先ほどの
「いい加減にしろ!!!」と言う俺の怒声は、周りから見たら俺がサム(強盗)に放った様に見えたらしい。
俺は自分に呆れた。
「あ、はは、」
呆れて訂正の言葉も出ない。
ハム(強盗)の目はつり上がり、顔は真っ赤になっていた。
「あ、あ、あ、アンタァァァァ!!!もう容赦しないわよォォ!!!」
口調が変わった!?
ハム(強盗)の裏返った怒声が窓ガラスをびりびりと揺らした。
「はは、サムがSになった」
おいマツぅぅぅ!何お前ちょっと楽しそうなの!?
俺はこの危険な状態で、弟がSな事を再確認されられたのだった。
こうしてる間にもSモードのサムは大股にドスドスと俺へ近付いて来る。
俺にはどうしたらいいか分からなかった。いろんな意味で戸惑うしかないし。
周りに目をやるも、皆どうしようもなく身を縮めてるし。
サム(強盗)の網タイツに納められた真っ赤な頭は、怒りでぱんぱんになり破裂寸前だった。
いつの間にか鞄が下ろされており、その手にはムチが握られていた。
銃とムチを手に、ハム(強盗)はどんどん俺との距離を縮める。
銃口を向けられると、だれでも足が竦んでしまうものなのだろうか。
俺はサム(強盗)に出会って初めて、背中を伝う冷たい汗を感じた。
鼓膜の下で鼓動が早まるのを感じる。
回りの景色が見えなくなり、俺の瞳には、向けられた真っ黒い穴しかうつらなくなる。
あと少し。あとほんの少し、誰かがサム(強盗)の背中を一押ししてやれば、あの黒い穴が火か水、どちらかを吹くはずだ。
さて、吹くのは火か、はたまた水か…。
この際もうどちらでもいい。
この緊迫状態の方が今の俺には辛いんだ。
誰でもいいからこのぱんぱんに張り詰められた糸を断ち切ってくれ。
誰でもいいんだ。本当に、誰でも―――
ウィーン
自動ドアの開く音が、俺の金縛りを見事といてくれた。
それはサム(強盗)の丁度背後から。
僅かではあるが、自我を取り戻した俺には、サム(強盗)の肩越しに、閉まる自動ドアの様子が見えた。
サム(強盗)がその物音に気付いた様子はない。
俺からはサム(強盗)壁が壁になり入って来た人物が見えない。だが、シューズがタイルの床を踏む音は確かに聞こえた。 その音はどんどん大きくなり、それはつまりその人物がこちらに近付いて来ている事を意味する。
サム(強盗)が先か、その人物が先か。
俺はぐっと手を握った。
「すみませーん。金おろしたいんだけどー」
その人物は、もう一メートルも距離がないサム(強盗)と俺の横を通りすぎるなりそう言った。
「―――」
サム(強盗)は予想だにしない人物の登場に絶句した。
「・・・」
もちろん俺も絶句だ。
(何言ってんのこの人)
この状況見りゃわかんだろ。
いや、分からなかったとしても自分で理解しようという努力をしてくれ。
俺が心の中でぶつぶつ言っている間、あたりまえではあるが、サム(強盗)の歩みは自然と止まっていた。
そして、登場したばかりの新参者の歩みも止まった。
「てか何してんの?………ん、」
その人物はやっと俺とサム(強盗)に気付いた様子だった。
そいつはこちらを見るなり真っ直ぐ視線を俺に合わした。
「おー、シュンキじゃん、お前何して…」
「邪魔す―――がはっ!!!」
俺の名を呼ぶそいつは、怒り狂って迫り来るサム(強盗)をひと蹴りして地面に落とした。それだけでは済まず、サム(強盗)の体を遠慮無く、むしろ堂々と踏んづけて俺の元に歩いて来た。
その動作はまるでサム(強盗)の存在に気付いていない。
地面に潰れる強盗を見て、近くに伏せていたおじさんが
「うおーーー!!」とか無駄に叫びながらその上に飛び乗った。
それを見て次々と強盗を押さえ付けようと人が駆け寄る。
どうやら強盗騒ぎはこれでお開きらしい。
俺は改めて、サム(強盗)を蹴りつけた人物を見た。
しっかりした肩幅。どこか大人びた爽やかな笑顔。そして俺の頭よりも約半個分突き出たでかい身長。
それは友人の幸太だった。
「何?シュンキもバイト代おろしに来たの?
お、それ弟か?確か双子だっつってたもんな〜」
爽やかに笑うコウを前に、俺はほっとした反面どこか複雑な気分になった。
てかこいつ、まじでサム(強盗)の存在に気付いてないな。
「どうした?何か悪いもんでも食ったかぁ?」
呑気なコウの言葉に頭が痛くなってきた。
「帰るぞ、マツ、マサ、」
「えー」
「お金はー」
「疲れた。また今度にする」
銀行にいんだからおろして帰ればいいじゃん、とか言うコウの言葉を後に、俺はもう何も聞きたくないと思いながら銀行を出た。
マツとマサは俺の後ろで手を繋いで歩いている。
だが俺は決して振り向いてその様子を確かめようとはしない。
いつもいつも、自分はこの双子に振り回されてる気がする。疲れ果てた精神をこれ以上磨り減らしたくはない。
黙々と歩き続ける中、いつの間にか双子は俺の両脇に移動していて、俺は弟達に挟まれる形になっていた。
だがここは知らない振りだ。
「ねぇ、」
俺は視線だけ下に下ろした。歩調は緩めない。
(ホクロ)
俺を呼んだのはマツだ。
だがその反対側からズボンを引かれた。
どうやら様があるのはマツでなくマサらしい。
(ったく、なんだよ)
面倒臭いながらも俺はマサに目をやる。
「お疲れ、」
(・・・)
俺は大きく溜め息を吐いた。
「はいよ」
せっかくの労いの言葉だ。素直に受け取る事にしよう。
が―――
「プレゼント」
マサが片手に差し出して来たのは―――黒くて、良くしなって、光沢があって、良く使い込まれたグリップが特徴的な―――
(…まさか)
サム(強盗)の持っていた、ムチ―――?
いつの間に。
銀行では気付きもしなかった。だってこいつら、サム(強盗)に近付いた様子なかったし。
あまりの早業に、感嘆し呆れる俺の膝もと、マツの頭が小さく笑った。
「…プッ…いつでも一人プレイ……」
俺はきっ、とその言葉の主をにらみ付けた。
だがそこには何も居ない。
タッタッタッタッ…
前から聞こえて来たアスハァルとを叩く音に顔をあげると、いつの間にか駆け出していた双子が視界に入った。
(逃げた、のか?)
なんだろーな。このふつふつと沸き上がる怒りは。
「うおぉぉぉ!!」
気付けば、逃げる5歳児相手に叫び、駆け出す自分がいた。
自分では大人気ないと理解していながらも、その怒りに身を任せる。
もう我慢するにも疲れた。
こうなったら感情のままに動いてやる。
「お前らぁぁあぁあ!!!!!」
原田春樹。16歳。高校2年。
俺の日常はあの双子に振り回されてばかりだ。 |