二次元の美意識にはズレがありました。
その尊いお顔を拝見した瞬間、様々な衝撃で私は息をする事すら出来なくなりました。
全身に駆け巡る怖気。自分でも両腕に鳥肌ばかりか毛が逆立ちしているのがわかります。
金色に輝く緩やかにウエーブの掛かった髪。私のそれほど大きくない手でも掴めそうなほど細い腰。長ったらしい手足。まだ10歳なのに、その長さは反則だろうと思います。
2歳ほど年上とは言え、私が首が痛くなるほど見上げないといけないほどの長身。その癖に、顔は小さい。だが、それらの不自然さはまだ許容範囲です。
私が恐怖を感じるのは、何といっても顔のパーツです。
(目……目がでかい!!そして鼻が高すぎ!)
10歳と言う少年期であることを差し引いても、小さな顔の三分の一ほどの目の大きさは異常です。
鼻も天狗か木で作られた例の嘘つき人形かと思えるほどの天に向かって長く伸びています。
(恋に落ちるなんて無理!ぜったい、無理!!)
彼の顔を見て思い出したのは前世。
はっきりと覚えている訳ではありません。
ただ、この世界をブラウン管を通して見た事がある事。それは『耳を澄ませばはるか遠くで』と言う乙女系ゲームである事。目の前の目デカ王子(少年期)がメインヒーローである事。
そして……。
私がゲームの中で王子がヒロインに話すトラウマの『殺された婚約者』である事。
頭の中で、王子の口説き台詞が浮かびます。
『彼女の事を大切に思っていた。戦略的な婚約でお互いの意思を無視した婚約だったけど、彼女は一途に俺を思っていてくれた。俺ももちろん、大切に思っていたけど……。お前に会って気が付いた。彼女には悪いが俺は彼女に恋したわけではなかったと……。ただの義務から来るものだってな。彼女が誰とどう過ごそうが気にした事はない。だが、お前は違う。親友であるアイツですら、お前の傍にいれば退けたくなるんだ!』
その言葉にキュンと心を掴まされるヒロイン。
実際、ゲームをしていた私もキュンとしました。
だが、今考えると、殺された婚約者があまりにも哀れです。
なんせ、彼女が殺されるのは全部目の前の男のせい……と言うか100%男への当てつけの為なのです。
そもそも、このゲームの背景設計はこうです。
この豊かな王国。だが、それはある出来事を切っ掛けにして荒れる事となります。
名君とはいかないが、堅実な王が治めていた王国。
その王には二人の王子がいました。
一人は凡庸な王子。悪くはないがどちらかと言えば目が細くつり上がっており、容姿は恵まれていません。真面目ではあるが、それほど秀でた所はありません。
かといって愚凡でもなく、恐らく父王同様堅実な王となるだろうと言うのが一番ましな評価でした。
ですが、すぐ下の王子が全てにおいて遥かに優っていた事が彼にとって何よりも不幸の始まりなのです。
容姿は両親のいい箇所ばかりを集めた目がくらくらするほどの美貌。そして努力?なにそれ?とばかりに文武ともにチート能力を持って生まれた弟王子。
いくらメインヒーローの攻略相手とは言え反則やり過ぎだろうと思えるような贔屓されまくった神の寵児に、彼を悲劇のヒーローとさせるためとしか思えない細目の悪役顔王子がマイナスの感情を持っても仕方ないと思うのはダメでしょうか。
万能弟に危機感と妬みを感じた兄王子は、無実の罪でそのチート弟から継承権を奪い廃嫡して王宮から追放します。さらに念には念を入れ弟に向けて暗殺者を仕向ける始末。
そんな弟王子は腹心の美形部下2名(攻略キャラ2、3)と旅をしていましたが、ある日不思議な少女に出会います。
彼女は女子高生でした。荒れ狂う国を憂う美少年賢者(攻略キャラ4)が異世界から召喚したのです。
癒しの力だかなんだかを持った彼女を支えに王子&美形部下たち、そして絆された男前暗殺者(攻略キャラ5)の一行がコンプレックスの塊となった兄王子……いや、父王を殺害して王位についたので王を倒してハッピーエンドと言うゲームなのです。
我らが愛すべき主人公はもちろん、女子高校生。
そして私は、神にえこひいきされた王子への当てつけボロボロにされた上に殺されてしまうのです。犯人はもちろん、コンプレックスの塊となった悪役王子です。
ゲーム上でその説明は、先ほどの王子の過去の一文のみで、立ち絵も黒いシルエットのみ。完全な手抜きキャラなのです。
「お会いできて光栄です、小さな麗しき姫君」
色々な情報があふれてパニックに陥っていた私に、その元凶がにっこりと笑みを浮かべて声を掛けてきます。たった今、頭にあふれ出した膨大な記憶。
わずか8歳……。いや、先ほど思い出しましたばかりの記憶を入れると、おそらく25歳ぐらいだと思います。それでもジェットコースター並みに激変した意識の中、私は初めての社交界の場で淑女の卵としてはあり得ない失態を起こす事となってしまいました。
息すらしない石と化した私に王子はその麗しきお顔を近付けてきます。
そしてまるでレーダーでも出せそうなほどのキラキラに輝くエメラルドグリーンの大きすぎる瞳で、射抜かれるように見られた瞬間。
私の限界値が超えてしまいました。
「うええ~~~ん!!」
お母様の豊満な胸に抱き付き、大きな声で幼児のように泣き愚図ります。
礼儀作法など恐怖で吹き飛んでしまっています。まるでゾンビか宇宙人に出会ってしまったようなパニック状態です。
最終的に、母に宥められながら、私は目を硬く瞑って落ち着きます。そしてそのまま大きく頭を下げて、王子に無礼を詫びる事となりました。
いくら精神年齢が高かろうとやはり感情はしょせん8歳児並みなのです。一度恐怖を感じてしまえば、それを覆すことはできないのです。
結局、初めて第二王子との対面。私には教えてもらえませんでしたが、それは婚約者としての初顔合わせの場でした。
ですが、私の隠す事もできないほどの狼狽えのせいで、婚約は見直される方向になるのです。
ここで私は計らずに、ゲームの進行を大幅に歪ませることとなりました。
それを知らない私は……。
(二次元の美形、怖すぎ!目がデカ過ぎ!何?あのキラキラデカ目!どう言う作りなの!八頭身も同じ人間とは思えないよ!)
などと思いながら、ハッと我に返ります。
(まさか……)
記憶が舞い込んでから見ていない自分の姿……。
かなり嫌な予感がしますが、勇気を出して姿見に自分を映してみました!
(き、キモ!)
そこには飛び出しそうなほどキラキラデカデカ目を輝かせた少女漫画風少女。
目の中にまるで宇宙が入っているような青い瞳に長い睫。さらっさらの銀色の髪。
リ○ちゃん人形と言うより○ービー人形でした。
ちなみに私はシル〇ニ〇ファミリー派でした。
腰は王子の比にならないほど細いです。
「きゃぁ~~~~!」
そう叫んだ瞬間、私の魂のキャパシティが限界値になりました。
防衛機能が自動的に始動して、そのまま気を失う事となったのです。
これが転生してから最初の挫折でした。
こうして三次元の美意識を捨てきれない私はこの二次元の世界においては、極度の美形アレルギーを患うこととなりました。
(王子も私も平べったい液晶画面の中だからいいと思えるんだよ!これ、二次元から飛び出したらダメなレベル!どうせ転生するなら三次元のゲームが良かったよ!!)
どちらかと言えば天真爛漫……いえ、我儘で生意気で活発だった私。
だが前世の記憶を取り戻してからは、びくびくと怯える引っ込み思案な性格になってしまいました。
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天地がひっくり返るほどの衝撃の日から15日が経ちました。
高熱を出し、魘されること3日。
4日目には何とか気を取り戻しましたが、それでも二次元美形と出くわす恐怖で部屋の外に出る勇気はありません。
8歳にして立派に引き籠りニートになってしまいました。
それを心配そうに部屋へとやってくる両親に兄。
最初は彼らすら拒否反応を示していました。そう、お母様もお父様もお兄様も美形です。ですが、許容範囲でした。彼らの顔を見ても、アレルギーが出るほどではありません。少々痒くなる程度です。そのおかげで私は3日ほどで彼らの顔を見詰める事が出来るようになりました。何とか身内は克服できたのです。
ですが、どうしても克服できないものがありました。それは……一番克服しなければいけないものです。
そう、私自身なのです。
自分の顔がばっちりとアレルギー対象です。まず鏡が見れません。
鏡を見た瞬間、凄まじい速さで腕に湿疹が出てきます。
これは大問題です。
自分の顔を見る事ができません。
仮面を随時被ることにしましょうか?いっそ、包帯で目をぐるぐる巻きにしてしまいましょうか?
……どちらも現実的ではないので、とりあえず前髪を伸ばす事から始めましょう。目指せ鬼〇郎です。
「駄目……。このままではただの引きこもりニートになるだけだわ……。せっかく転生したのに……。こんな弊害があるなんて……」
俯きながら私は公爵家の美しい庭園で、一人草むしりをしています。
ここは私にとって秘密の花壇。そして唯一、引きこもりニートである私が自室以外で訪れる場所です。
なぜか庭いじりに強い興味を示した私が両親に頼み込みました。なぜそんなものを欲しがるのかと首を傾げながらも、甘い両親は7歳の私にわずかな一郭を譲って下さりました。
年老いた庭師に手伝ってもらいながら好きなものを私は植えています。
慣れてきた今では庭師の手を煩わせません。そこまでしなくてもいいと言われますが、私は草むしりまでしっかりと自分の手でします。……これは両親も知りませんが。
侍女にしっかり口止めしています。
この些細な趣味は誰にも邪魔されたくありません。
「おかしいと思っていたのよね。生まれながらにこんな屋敷に住んでいるのに、なぜ私はこんなに貧乏性で庭いじりが好きなのか……。それって、前世のせいだったのね」
「普通、貴族の令嬢なら花よね?植えるとしても。それなのに、ここに咲いているの、全部野菜の草花だもの……」
立派に育った赤い野菜を撫でます。我ながら良い出来です。惚れ惚れするような艶に湾曲。
侍女に持たせて調理場に差し入れしてもらいましょう。もちろん、私の名前は伏せて。
「はぁ……。いっその事、私が失踪して農家でもしようかな……。田舎なら二次元美形は少ないだろうし……」
思わずそう呟いてしまいますが、それが不可能なことぐらい分かっています。
公爵家の敷地から出た事のない箱入り娘(8歳)が、一人で遠出など出来るほど世間は甘くありません。
大きなため息を付きながら私は赤い野菜を収穫していきます。
パチンパチンとハサミの音が心地良く感じます。これぞ園芸の醍醐味でしょう。
前世の記憶は断片的ですが、どうやら昔は乙女ゲームが大好きなちょっとオタクよりだったようです。だから、何種類ものタイトルが浮かんできます。
その中でも飛び抜けて目がデカいイラストのこのゲームをセレクトしてきた運命の神に、一言モノを申したいです。
(なぜよりによってこのゲームなの!?)
「まだ『ボクカノ』とか『恋せか』とかなら、こんなに2次元に違和感覚えなかったのに。シナリオは良かったけどイラストは好みじゃないのよね……」
「私、こうなったら恋愛とか絶対無理だろうなぁ……」
私の小さな呟きが漏れます。それは誰に聞かれる事もなく消し去られるはずでした。
だが、思いがけない事態が発生しました。
「それはなぜ?」
「ひっ!」
低い男の声で問われて、私は思わずハサミを放り出してしまいます。
そして何も考えずに振り返った瞬間、私は息を飲み込みました。
(うっわぁ~。これぞ美形だよ。塩顔だよ!)
美形は美形でも二次元美形ではありません。三次元的な美形です。ソース顔でも醤油顔でもなく、塩顔です。私にとって理想の顔がそこにありました。
おそらく11~13歳ぐらいでしょうか?
かなり吊り上がっていますが、切れ長の目です。宇宙人の目ではありません。
「驚かせて悪かったね」
その少年は落としてしまったハサミを拾って、私に差し出してきます。それを彼の顔から視線を外さずに受け取ります。
「そんなに俺の顔が物珍しいかい?恐いモノ見たさで見ているのかも知れないが、不細工なのは自覚しているから勘弁してくれないか?」
ムッとした表情を浮かべてそう言いますが、彼自身も同じく私から視線を外しません。そればかりかまるで宝石を見るような目つきで私を見下ろしています。
チャームが掛かっているのがわかります。おそらく私もそんな目をしていることでしょう。
デカ宇宙人の目なので想像するだけでじんましんが出そうですが……。
(って、え?不細工?)
「どこが不細工なんですか?すごく美形だと思いますが……」
思わず反論して質問してしまう。
「おべっかはいいよ。君は第二王子の婚約者なんだから、そう言うの必要ないでしょ?」
「い、いえ。違います!婚約者ではないです!」
世にも恐ろしいことを口にされて、私は大きく頭を振って否定します。
「え?違うの?王子は乗り気だと聞いたけど?」
「むっ、無理!自分の顔すらダメなのにあのようなお方の婚約者になるなら死んじゃいますよ!」
「死ぬ?」
「はい!真正面からみたら全身じんましんが出ますので生死にも関わりますよ……ってあ……」
つい、本音を暴露してしまってから手で口を覆います。いくらなんでも初対面の方に話すことではありません。
ですが、目の前の少年はもっと追求してきます。
「じんましんってなに?」
「アレル……いえ、えっと、体中がブツブツが出る事です。湿疹ですね」
アレルギーと言おうとしてそれも前世の言い方なので途中でやめる事にしました。
「なぜそんなものが起こるんだい?」
「強い拒否反応です……」
興味津々に問われて何も考えずに素直に応えます。
「ぷはっ。ほんとかい?あんな顔を拒否反応って。全身湿疹って、ヤブクサレベルだよね」
ヤブクサとは少し触れるだけで荒れて湿疹が出てしまうと有名な草です。
楽しそうに笑うとより一層その整った顔の魅力が増します。
思わず見惚れてしまいました。
「婚約ならずの話を聞いてまさかと思って来てみたんだけど、本当だったんだね。君の反応見て理由がわかったよ」
(……もしかしなくても不味いよね?誰とも分からない相手にベラベラ話してしまうなんて……)
自分の迂闊さを呪ってしまいたくなります。
言い訳をさせてもらえば前世の記憶を戻してからまだその余韻が抜けないようで、本来の令嬢としての振る舞いを完璧にする事がなかなか難しいのです。前世がなんのしがらみもない、女子高生だったせいでしょか?
(いや、ここで口止めできれば……)
私はその場に崩れ落ちるように沈み大きく頭を下げます。
そうこれは日本で最大級の謝罪である、土下座です。
「申し訳ございません。できればここでの会話は内密にお願いします。王族に対してあまりにも不敬でございました」
しばらくの間、2人の間に沈黙が流れます。
沈着状態を破ったのは少年でした。
土下座している私に無言で近付くと、素早くしゃがみ込みます。
そして……。
「きゃ!!」
気が付いたら私は空に浮いていました。両腕で抱えられ、いわゆる姫様抱っこをされていたのです。
「あ……あのっ……」
身内以外の男性にそんな事されたことはありません。
「そんな事で咎めたりしないよ。でも、あんなカッコで謝ったりしないで。さすがに年下の小さな令嬢にそんな事させたら、ただでさえ悪い俺の評判が地に落ちるからね」
「えっと、お、降ろして下さい……」
狼狽えて手足をバタバタ動かしているとすぐにお姫様抱っこから解放されました。地面に足が付くってこんなに安心する事なのですね。
いくら外見8歳でも、中身25歳なのでこんな美形の少年にお姫様抱っこは恥ずかしすぎます。
「あっと……。ごめんね。思わず触ってしまって」
「い、いえ。私が考え足らずでした……」
落ち着くために私は息を深く吐きます。
「君が嫌でなければ少し話させて欲しいけど、どう?別に命令でないから断ってくれてもいいよ」
突然の申し入れに私は思わず、目を見開きます。驚きで即答出来ませんでした。
「あー、何を言っているんだ、俺は。忘れて。この出逢いはお互いに無かった事にしよう。いきなり現れてごめんね。では……」
髪の毛をくしゃりとかきあげながら、少年は私に背中を見せてきます。その背中を見て私は切羽つまった声を上げました。
この機会を無くすと二度と彼と会えないと、どこか確信していました。
「お、おまち下さい!」
逃がしてはなるものかと、思わず彼の袖を掴みます。
「わ、私もぜひ、お話しさせて頂きたいです」
「いいの?俺、こんな顔だから怖くない?自慢じゃないけど女の子や小さな子に怖がられなかった事ないんだけど」
どうやら少し三白眼の目は彼にとってかなりコンプレックスのようです。ですが、私は大きく頷いて否定します。
「私は怖がっているように見えますか?」
「……いや」
「ステキだと思いますよ。ずっと見ていたいぐらいです」
きっぱりと言い切る私を少年は信じられない物を見るような目つきで見下ろしてきます。
「……悪趣味だな。この世の至宝とまで言われる第二王子の顔を拒否反応してこの不細工な顔をいいと言うんだから、その美しい神秘的な眼は普通と見え方が違うのかもしれないね」
(鋭いかも。でも違うのは次元だわ)
「いいではありませんか。いくら貴方や他のものがその顔を否定しようとも私が好みだと言っているのです。それは否定させませんわ」
せっかく巡り会えた三次元美形です。ここでお別れはしたくありません。
だから、必死で微笑んでアピールをします。
そのかいがあってか、少し困った顔をしながらも彼はその場に立ち止って話をする事ができました。
この出会い。私にとって初恋と言う運命的なものでした。
ですが、実は彼にとっても運命的なものだったのです。
彼の正体は数回の秘密の逢瀬の後で判明しました。
なんと、彼は第一王子でした。
(え?この塩顔美形が容姿に恵まれないと言われる第一王子!?)
そう言われてマジマジと彼の顔を見ます。三次元の美意識から言えば、どの角度から見ても美しい顔立ちだと思います。
この容姿を不細工扱いするなど、信じられません。
やはりどこかおかしい世界です。でも私はこの出逢いにより舞い上がってしまいました。
初恋で浮かれる私に、これからの未来を予知する事はできませんでした。
秘密でやってくる彼と逢瀬を続けることで、第一王子が自信を取り戻し、才能あふれる王太子になる未来。
自信をぽっくり折られた第二王子でしたが、Mだったのか私に執着してくる未来。
それに腕を擦りながら逃げ纏い、助けてくれた第一王子に求婚される未来。
何よりも、第一王子のコンプレックスを解消しているために、ゲームの初期設定を覆しており、そのために第二王子が廃嫡せず、国が荒れることもなくなり、ヒロイン召喚条件すら整わなくなってしまった事を、私はその時はまだ分かっていませんでした。
8歳の私が分かっていることは一つ。
『二次元の美意識にはズレがありました』
おまけ
逢瀬の会話(第一王子と判明後)
「弟との婚約を断ったって聞いたからどんな令嬢かと思って来てみたけど……。こんな令嬢とはね」
「申し訳ございません。こんな変わり者で」
「いや。俺にはありがたいけどね。もし、君が嫌でなければ俺の婚約者になってくれない?」
「え……それって次期王妃ですよね……。私ごときが殿下と結婚など、恐れ多いですわ。もっと美しく愛らしい方にされたほうが……」
「……いろんな女性を見てきたけど、君より美しく将来性のある令嬢はいなかったんだけど?それは遠回しのお断り?」
(そうでした。私のアレルギー反応的に言えば、二次元美意識ではこのデカ目宇宙人は超絶美少女でした)
「まあそれは正解だろうね。アイツがいるから王妃にしてやれるかも分からないからね」
「王妃にならないならぜひともお受けしたいですわ。殿下がよろしければですけど……。でも、無理でしょうね。私は貴方様が王に相応しいと思いますので」
「……なぜ?アイツのほうが余程すべてにおいて優秀なのは知っているだろう?」
「個人的に優秀な人が王としての素質があるとは限りません。武術が優れているだけの方が将軍になれますか?聡明なだけの方が宰相になれますか?」
「だが有るに越した事はないだろう?」
「僭越ながら私の意見ですが最も必要だと思うのは、そう言う方々の能力を潰すことなく最大限に活かせる事ができる器だと思いますわ」
「それは……」
「貴方はそれをお持ちです。だから自嘲的な考えはお捨てください。それにですね。傍にあんなインチキチート……いえ、万能な方がいるからそう思うだけで、貴方様は十分有能ではありませんか」
「……ありがとう。やはりいつでも君の言葉は甘いね。ごめんね。いつも弱音ばかり吐いて」
「いえいえ。いくらでも聞きますわ」
「いや。もう言わないでおくよ。それにプロポーズも無かった事にしてほしい。今は……。でも、必ずいつか……」
「え?申し訳ございません。最後の方を聞き取れませんでした」
「いや、これからはアイツと張り合うのではなく、自分の為に鍛錬する事を君に誓うよ」
「ええ。その意気です。私も及ばずながら応援していますわ」
「うん。だから傍で見ていて。ずっと……」
とか、こんな会話があったり……。
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良くある乙女ゲーム転生の根本的な問題を突いてみました。
見て下さりありがとうございました。