始終
本当に見た夢をそのまま書き出しました。
「一人鬼ごっこ」と合わせてお読みください。
こんな夢を見た。
記憶に残るどの校舎とも違う建築物をそうと認識していた。白く塗装された壁、リノリウムの床。一歩毎に靴の滑り止めとの摩擦が空間に響くのを聞いていた。
階段の踊り場に差し掛かった時、見知った顔が二人現れた。AとBは談笑しながら降りてきたが、ふいに、目前に迫った一大事に話題を変えた。三人は言葉を交わすことはなく、ただすれ違った。二人の陰から、女が現れた。
その女には一目見た時から苦手意識を強く感じていた。何かにつけて関わる毎に、誰かの後をついて回っているのを見る毎にそれは増した。意識的に接触を避けるようになるまで、時間はあまりかからなかった。女も自分が避けられているという自覚はなきにしもあらず、別にもともと執着していたわけでもなかったから、気にした風でもなく、最低限の関わりしかしていなかった。だが、なぜかその時に限っては様子がちがっていた。
「今度は、あんたの番」と、そう言って女が肩を叩いた。ぽんと、叩くというより触れる程度の弱い接触であったのに、殴られるよりも強い衝撃が肩を襲った。どうしようもない悪寒が全身を総毛立たせた。
硬直している間に逃げ出した女を追う。厄介なものを押し付けられた。逃してはならない。こんなもの、うけとるわけにはいかない。走れども走れども距離は縮まらず、終わる兆しが見えない中で、またAとBにあった。
どちらでもいい。
AとBの腕を掴むと、逞しく鍛えられた筋肉独特の弾力のある感触がした。二人の様子は変わらなかった。しかし、理解していた。目の前で、二言三言会話が交わされた。二人は返すことはせず、その場から立ち去った。
今日は何も良いことがない。こんな日は早く帰るに限る。また巻き込まれる前に、返される前に、触れられる前に。いますぐに、帰ってしまおう。
校舎から出ると、むわりと湿気を多く孕んだ、湯気にも近い熱気が全身を襲った。じっとりと背中が汗ばんでいく。肌の露出したところが、強すぎる日差しを受けて、薄っすらと赤く色づいていた。もう夏か、と初めて思った時、また冷たいものが襲ってきた。
何も映し出さない空虚な瞳、歪んだ口元をさらに歪ませて作った弧、狂気に満ちた表情。
「許さない」
目の前が、真っ暗になった。