慣れない車に揺られて連れてこられたのは、パパの田舎の……なんて所だったかな? 忘れちゃった。
ここは歩いて五分以内にコンビニなくて、携帯は圏外で、テレビのチャンネルは三つしかない田舎。でも都会と違い、騒めきはないから落ち着く。胸のあたりが痛くならない。
「美幸、しんどくない?」
「ちょっと車酔いした。頭痛いー」
パパはあたふたしている、どうしようどうしようって。心配しすぎだよ、その気持ちは分かるけど私は大丈夫なんだから。車が苦手で酔っただけ。
「都会っこは元気ないねー。ばあちゃんは今朝山登りしてきたんだよ」
緑色の飲み物が入ったコップを、おぼんに乗せてやってきたのはおばあちゃん。久しぶりに顔を見た、何だかシワが増えたような気がする。気のせいかな?
私は久しぶりだね、と言った。おばあちゃんは優しく笑って、私の頭をなでたりほっぺをさわったり手を握ったりした。私は珍しい生き物なの? 特別天然記念物なの?
「あぁ、ダリー。お茶でも飲んでさっさと寝よう」
「里香子まで車酔いかよ」
「違う違う、私は二日酔い。昨日盛り上がりすぎた」
パパとママは笑った。ママは、笑ったあと口元を押さえて苦しそう。パパは平気。おばあちゃんの頭の上には、?が出ている。昨日の出来事教えてあげなくちゃ!
「昨日ね、懸賞に応募してたスワロフスキーのペンダントがきたの! そんで超嬉しくなって、ママったらボトルを何本も空けてさ」
「座ろうスキー、スキーは立ってしないと危ないでしょう」
おばあちゃんは大きく口を開いて笑った。笑いたいのはこっちだよ、なんなの座ろうスキーって。超ウケる、面白い。だから私も大きく口を開いて笑う。
「美幸元気じゃないか、じゃあその特性ジュースは里香子が飲まないとな」
「えっ」
美味しい空気を吸ったから頭痛いのなおったのかな? パパは緑色の特性ジュースをママに渡す。ママはにおいを嗅ぎしかめっ面。こんなの飲めない、と言ってパパに返した。おばあちゃんは悲しそうな表情をしている。
「ママ、おばあちゃんがせっかく作ってくれたんだから、ちゃんと飲まないとダメじゃない」
私は言った、パパがいつも耳が痛くなる程言っている“勿体ないお化け”を思い出しながら。人間が食べ物を残したり捨てたりしたのを見た勿体ないお化けは、夜な夜な耳元で
「勿体な〜い、勿体な〜い」って囁くんだ。だから、残したら夜な夜な……。
「苦そうだし嫌」
「つべこべ言わずさっさと飲む!」
ママは口をぽかんと開けている。パパは、私の頭を優しくなでる。おばあちゃんは、おかわりなら沢山あるからね〜と言った。
「わかったわよ、飲めば良いんでしょ」
気付いたらミンミンとセミ達は合唱中、そーいえば今年初めて聞いたな。私は外に出たくなかったから、ずっと家にいたし。
あっ、ママおかわりしてる。美味しいのかな?
★彡
ここは……公園?
「美幸は嘘つきだよ。目撃者はいるんだよ、なのに何で盗んでないって言うの」
亜優の財布を盗んだのは私じゃない。
「田中君が見たんだよ、美幸が財布から千円取ってるところ」
違う、誤解だよ。私は亜優の親友なんだ、そんな事しない。
「絶交よ、泥棒と一緒にいたくない」
待って、まだ話は終わってない。
――――キャッ
「亜優よね、さっきの悲鳴って」
やめて、見に行かないで。お願いだから回れ右してよ、夢の中の私!
「道路のほうから聞こえたような」
もう見たくない、何百回も見た、何でこの夢こんなにも見るの。
「人だかりができてる、芸能人がいるのかな?」
亜優は怒ってるんだ、私を恨んでいるんだ。
「車が電信柱に……えっ、あの帽子」
私は泥棒じゃない、でも私が亜優を傷付けたんだ。
「亜優、血が――」
ゴメンなさい、私のせいで亜優が事故にあって。ゴメンなさい、あの時私が田中が犯人って言ったら良かったんだ。ゴメンなさい、ゴメンなさい。
★彡
私は目を覚ました。いつのまにか寝ていたらしい。外は真っ暗で、虫の声が聞こえてくる。癒される、あの夢を見たあとは不安になって自分をコントロールできなくなるから。
「起きたかな、うなされていたけど大丈夫?」
おばあちゃんは内輪をあおぎながら言った。私は寒くないのに寒くて、しわしわのおばあちゃんの手を握る。あたたかい、落ち着く。涼しげな風鈴の音がリンと鳴り、風が部屋に入ってきた。
「もう怖くないよ、ばあちゃんがそばにいるから」
鏡越しに見えた私の顔は、泣きっ面。涙を流していたんだ、鼻水も少し。ばあちゃんはティッシュで拭いてくれた、ちょっと痛い。
「生きていたらな、悲しい事や辛い事なんていくらでもある。泣きたかったら泣けばええ、恥じゃない」
そう言いながらおばあちゃんも泣いている。私はティッシュでふいてあげる、ちょっと力を入れて。
「ばあちゃんは、美幸がうまれた時の事を思い出して泣いた。オンギャーって、小さい美幸は、精一杯泣いていた」
自然と涙が出た。ポロ、ポロ、両目から。
「小さな手で、人差し指をギュッと掴んだ。あんなに小さかった美幸が、こんなに大きくなった」
人ってあたたかい、今分かったかもしれない。
あの事があってから私は人を避けている。パパとママは私を抱き締めてくれるけど、ウザくていつも拒否している。また私のせいで誰かが傷付いたらと思うと、人と接するのは怖い。家族でも怖い。一人で解決しなくちゃ、コレは私の問題、って縮こまっていた。だけど困った時は大人に頼って良いんだ、友達を頼って良いんだ。
「美幸は、こんなに大きくなりました!」
私を信じよう、親友を信じよう。私は一人じゃない、心で繋がっている。
「そろそろ流れ星が見えるんじゃないかな」
☆彡
キラキラ、夜空はお星様とお月様が輝いている。プラネタリウムより何百倍も綺麗、こんなに素晴らしいものが見れるなんて私は幸せ者だよ。
「どうだい美幸ちゃん? 田舎の空は綺麗だろう」
「うん、凄く綺麗。地球って凄いな」
私はいつも、布団に包まっていた。体は悪くない、心に傷が付いてたんだ。
「元気な表情になったな、パパは嬉しいぞ」
「今なら抱き締めてやっても良いよ」
パパ満面の笑み、ママもおばあちゃんも。
「ばあちゃんは願っておこう、じいさんが天国でもモテますようにと」
「……死んでないですよ、釣りに行ってるからここにいないだけですよ」
パパを抱き締めながら花壇のほうを見たら、ソコにはお尻をピカピカって光らせている蛍がいた。
「ほたるはテレビでしか見た事ないよ〜」
「私はテレビでもない」
「僕は見飽きた、子供の時いっぱい見たしね」
おばあちゃんは息子のアルバムを広げた。しかし、今日のメインイベントは流れ星だからアルバムは明日のメインイベントにする事に。おばあちゃんはほっぺたを膨らませた。
「美幸、空を見てみな」
お星様とお月様で十分綺麗だったけど、夜空を流れる流れ星はもっと綺麗。
キラキラ、キラキラ、流れては消える。一つの流れ星ではほんの少ししか見れないけど、沢山の流れ星が途切れないで流れているからずーっと見れる。
目に焼き付けよう、心のフィルムに焼き付けよう。デジタルカメラで撮ったら感動が減っちゃう。録画より、生の方が心に残る。
「夢みたい」
お願い事なんてしなくて大丈夫。仲直りして、今度は亜優ちゃんとこの流れ星を見よう。
☆彡☆彡☆彡☆彡
「パパ、いっぱいの流れ星が空を流れてる。コレってなんて言うんだっけ?」
「流星群だよ」
「りゅうせいぐん――」
とってもキレイ。
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