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F l a t_フラット 作者:aza/あざ(筒示明日香)

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12/17

from 結樹翠様

「―Pain―」presented by 結樹翠様






「崎河雅彦、さん?」

差し出された身分証明書に記された名前を、確認する。
えぇ、と微笑む瞳に、多分もう心は奪われていた。


未婚者の『不老延命措置』のおかげで、私はずっと二十代前半の身体を保っている。
ずっとこのドラッグストアで働き続けて、もう何年になるだろう。
自分の実年齢さえ、忘れてしまって久しい。
外見年齢は自分と大差あるように見える友人が告げた言葉が、脳裏を離れない。

『いい加減さ、子供生めばいいのに。楽しいよ』

何を以ってして楽しいと言うのか。
肉体の衰えを、望んでいるとでも言いたかったのだろうか。
とんでもないこと。
身体の繋がりはいくらあってもいい。
心までは求めない。
万が一の失敗さえ、犯さない。

(だって、醜いもの)
(当たり前のように年を重ねるなんて、ありえない)
(本当の年齢を聞いたら、みんなびっくりするわね)

幸福なのだと微笑む友人の顔には皺が刻まれていて。
身体も満足に動いていないだろうに。
とても、とても輝いていた。

(でも私にはなにもないもの)

変わらない日々の中で。
何を求めているのかさえ、わからなくなっていた頃。
彼が、現れた。

「あ、しまった」

カウンターに積まれた商品と。
困惑した顔の青年と。
その手に握られた数枚の紙幣と。

「…どうなさいますか」

カウンターに積まれた商品は、明らかにその数枚の紙幣では足りない。
いつもならカードがあるのだ、と言い訳のように呟きながら、青年は更にポケット等を探していた。

「あぁ、一度戻んないとなぁ」

でも時間が…等と呟き続ける姿がおかしくて、つい、声を掛けてしまった。

「…何か証明になるものを預からせて頂けるのでしたら、商品はお持ち頂いて結構ですよ」

他の手段がなければ、そうするしか他はない。
いいんですか、と言いながら青年が差し出したのは、社員証だった。

「これしかなくて」
「かまいません。『クローン培養管理施設』…?」

書類に、記された通りに記載をする。
青年の姿は何度も見かけていたけれど、話をしたのはこれが初めてで。
恐らくこんなアクシデントが無ければ、この先もずっとそうだったはずで。

「では、商品はお持ちになって結構です。何時頃にお見えになられますか」
「一時間もしないで戻りますよ。ありがとう」

火傷の痕の奥から微笑む瞳が印象的だった。
その声が心地よかった。
そう感じたときにはもう、忘れられなくなっていた。
だから、約束した一時間後が楽しみになっていて。
だから、次に青年が現れたときに、傍らに綺麗な少女が居ることに、最初は気付かなかった。

「圭、ちょっと待ってて」
「早くして」

とても、綺麗な少女だった。
明らかに少女であるのだけれど。
けれどその瞳は、酷く老成していた。
その傍らで、大切な宝物を見つめるように、青年の瞳が。

(あぁ、そうか)

心が罅割れていく音が聞こえるようだった。
もちろん、そんなことは表情には出さないけれど。
私は、自分の想いが、行き場を失ったことを、痛烈に感じたのだ。

「あ…」

それから数年が経ち。
相変わらず私には『不老延命措置』が義務付けられ。
相変わらず同じ店で働き続けていた。
あの時の青年は、それからも度々少女と共に現れていたけれど。
会話らしい会話を交わすことは、なかった。
そんな時、青年が別の少女と共に歩く姿を見かけた。
微笑みは変わらず。
その代わり、ほんの少し淋しげな瞳で。
心をどこかへ置いてきてしまったという瞳で。

(別れて、しまったのかな)

だからと言って何かを望むわけではないけれど。
その青年の瞳の色を、いつまでも忘れることができなかった。


「――ママの初恋?」
「やぁね。いつの間にそんな言葉を覚えたの」

更にそれから数年が経ち、一人の青年と知り合い、結婚をした私は、子供を授かった。
それ以来、子供の成長と共に、年を重ねるようになった。
今だからこそ、わかる、友人の言葉。

(本当ね、こんなに楽しいことは、ないわ)

夫と子供と、同じように時を重ねること。
皺の数も、幸福の証で。

「さぁ、帰るわよ」
「うん、パパも待ってるもんね」

無邪気に誰かを慕うこの瞳を、心底愛しいと思う。
だからこそ余計に、心に掛かるのはあの時の青年の瞳。
彼は、今、幸せなのだろうか。
いつかのように、微笑みを浮かべているのだろうか。

(幸せで在ってほしい…)

誰かを想うということを教えてくれた人だから。
特別な、人だから。

今でも、あの心の痛みは、忘れられない。


【Fin.】



【結樹翠様からのメッセージ。】



邂逅の記念に、書いてみました!
azaさんの代表作、【Flat】の二次創作です。
雰囲気ぶち壊しですみません。。。
煮るなり焼くなり、お好きにしてください~(泣)


2008/05/29 Wrote



※返信
“ぎゃあああっっ”と悶えさせていただいた作品です。

よもや今頃になるとかあざお前チねな感じですね。

メッセージでわかる通りに5月にいただいたのです。載せる形式をひたすら考えて保留にしたりしながらようやくお披露目。

これ拝読させていただき本気で“翠さん本編書いてくんないかな”と思いました。……さらりと断られました(爆)

翠さんの雅彦はマジで格好良いのに本編あんな扱いで可哀相になって来ますね。んー、ぼちぼち本編も負けないようにやりたいなと思います。

こんな素晴らしい小説書きの結樹翠さんのサイトはこちらです→ http://shigukoi.web.fc2.com/

雅彦は断然翠さん勝ちです(笑)



2008.07.27
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