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5◆絶対絶命!
雨は5時間目の始まりには止んだ。やがて雲の隙間から陽がひとすじ差し込んだ。

雨に濡れた木々は、9月だとはいえ夏の香りを強く放ちだした。

5時間目と6時間目の間の休み時間。2年2組は解放されたように生徒が動き始めていた。

「あーあ今日も6時間かー。だりーの」つっぷすさっきの顔面ピアス男。

「ちょっと、井口」

携帯をチェックしていた黒髪の少女が手をのばして、隣の席の顔面ピアス男・井口春樹いぐちはるきの頭をつついた。

黒い髪は不自然なまでに黒く、ナチュラルではなく染めたもの、というのが一目瞭然だ。

また不自然なまでにまっすぐ背中まで伸びている髪は絶対にストパーだし、

丹念に塗ったマスカラは彼女の目の周りを銀河鉄道へいざなう女のように見せている。

白と黒と青で出来ているようなそんな冷たい印象の少女だった。

「あアん?なんだよ瑞樹」

「ちょ、見てよ」と黒髪の少女・葉山瑞樹はやま・みずきが携帯を井口に差し出す。

荒江高校の携帯版HPで、各生徒がポイントをチェックできるページが表示されていた。

「ウソ!?」

井口は般若の目をひんむいて、ガバと起き、瑞樹の携帯を奪いとった。

そこには井口春樹の持ちポイントからきっちり100ポイントが減点されていた。

まわりにいた不良どもも井口のまわりに集まってきた。

皆、一様に100ポイントずつ失っていた。

「クソッ!マジでやりやがったな」

「どうするよ」井口をにらむ瑞樹の白目の面積が広くなり、キツイ顔立ちになった。

「幸い今日はうるせー奴らもすくねーし」

「やるか?」

「一度教えてやらねーとな」

不良一同うなづいたとき6時限を知らせるチャイムがなった。


    



6時限めが終わった。聡は1年2組の授業を終わらせていた。

1年も巡回教師がいないせいか、遠慮のないうるささで、昨日よりさらに疲れてしまった。

「お疲れ様」

席につくなり、紙コップに入ったお茶が聡に差し出された。隣の席の権藤先生だ。

「あ、権藤先生。すいません。私のほうこそ淹れますのに」

聡は恐縮して立ち上がった。

同じ英語で3年生を担当している権藤は、自衛官のような角刈りの血色のよい顔をほころばせた。

「いやいいんですよ。お疲れのようですから」

「すみません。いただきます」

聡は紙コップのお茶をいただいた。鼻のあたりをくすぐる湯気にまじる茶の香りには憩いがあった。

職員室は冷房が効いているので、こんな熱い茶も悪くない。

「多美先生たちが休みだと、大変ですよね」と権藤。

「…え、ええ。あの、女の先生はほかにいらっしゃらないんですか?」

「いますよ。家庭科の持田先生に、保健体育の女子担当の三田先生」

どちらも年配の教師だ。

「音楽は……?」

「ああ。多美先生は音楽担当なんですよ」

「ええっ!」

「ふふ、信じられないって顔してますね。巧いんですよ。彼のピアノ。歌もすごい。見事なテノールでね」

あのターミネーターそのものの多美先生が音楽!

背が高い彼がピアノの前にこごんで弾く姿を思い浮かべると笑いが浮かんできた。

強面の教師ばかりか、と思ったけど、みんな中身は案外優しいのかも。聡は少しなごんだ。

そんなようすを職員室の窓から、瑞樹と井口がのぞいていた。

「だめだ、権藤といっしょじゃん。あたしマークされてるからダメだよ」と瑞樹。

「なんとかしろよ」

「そんなこといったって」

そのとき権藤と聡の二人は立ち上がって、職員室を出て行ってしまった。

他の教師も出たところを見るときっと放課後の職員会議だろう。

不良の企みは失敗したかにみえた。

    




職員会議は、報告などが主で1時間ほどで終わった。

もう夕方5時すぎている。

聡が会議室から職員室に戻ると、聡が出てくるのを待ってたように、女子生徒が二人待っていた。

茶髪にドロップのようなヘアピンをつけた背の低い女子と、日に焼けたサーファー風の二人だ。

権藤が目を柔らかくしたところを見るとまじめな部類の生徒なのだろう。

「おう、村上麻美に豊川香莉菜。どうしたんだ」

「あのぉ……。あたしたちぃ、英語&英語音楽部の顧問をぉ……。古城先生にやってもらいたくてぇ……」

背の低いほうが話し始めたが、言葉は尻切れとんぼになって、二人とも下を向いてしまった。

「ああ、いままで今井先生が顧問だったもんな、いいじゃないですか?」と権藤。

「……」二人とも、下を向いたままだ。

<いいなよカリナ> <ヤダあたし>

香莉菜も麻美もコソコソと下をむいて、つっつきあっている。

「なんだ、お前たち?」さすがに権藤が不審に思ったようだ。

「ああああの、そっそれで今から視聴覚教室に……」麻美のほうが意を決したように口を開いた。

「ああ、まだ活動してんのか……行っても大丈夫ですよ。古城先生。英語部は比較的マジメで可愛い奴らばかりですよ」

権藤先生のお墨付きがあるなら大丈夫だろう。聡は

「あ、はい。じゃあ。行きましょう」と席を立った。

職員室を出ると、なぜか香莉菜が泣きそうな顔をして顔をブルブルと横にふるわせた。

麻美がそんな香莉菜に『バカ』とこれまた必死な顔。

「……どうしたの?」

「い、いいえ」二人思わず声が揃ってしまった。

汚れた廊下の壁が、ガラス窓を通して落ちる直前の太陽により茜色に染まっている。

狭い校庭は、水はけが悪いらしく、一面の水溜りになっていた。

その静かな鏡のような水面に金色に染まる雲が映り、

校庭はそこが泥水でなすすべもない地面であることを忘れさせる美しさになっている。

「あの……。ここが視聴覚教室です……」

「私たちはここで……」視聴覚教室の扉のまえで麻美&香莉菜はあとずさりする。

「え、何?」二人は一気に逃げていった。

「英語部のチャミにカリナ、サンキューよ」

かわりに視聴覚教室のドアから現れたのは、あの顔面ピアスの不良生徒・井口らだった。

「何?あなたたち」聡はあとずさる。

彼女の後ろにはいつのまにか仲間の不良がガムをくっちゃくっちゃ噛みながら立っていて、あとじさる聡を受け止めた。

「先生の教育指導にお返しせんと、と思ってサァ」と井口。

「ね?」後ろにいた唇の分厚い茶髪が聡の耳元でいやに優しく囁いた。

息が耳たぶに吹きかかる。むせるような若者の体臭。気持ち悪さで背筋がぞくっとした。

次の瞬間、聡は両腕を不良につかまれ、視聴覚室の中に連れ込まれた。


    



「ホラホラっと」

聡は視聴覚教室の奥の準備室まで連れ込まれた。

西日が目に突き刺さる。と、突き飛ばされた。

聡が床に倒れこむと、すかさず金髪と茶髪の男子生徒が聡の両腕両足を一人一本ずつ床に押し付ける。

聡は大の字の姿で、標本に止められた蝶のように動けなくなってしまった。

いや、まだ生きているから必死で体をよじろうとする。

男子が「なんだよ」「無駄なんだよ」といいながらそれでも押し付ける力を強くする。

「やめなさいっ!何するの!」大の字のまま聡は叫ぶ。

「何するって……先生トロイんじゃない」と女子の声。

デジタルカメラを持った黒髪の女子生徒・瑞樹が準備室に入ってきた。

平然とした顔の女子生徒、それから動画で稼動しているらしいカメラ。

聡は、戦慄というものを味わう恐ろしさを初めて知った。

「何でこんなこと。……いつもこんなことをやってるの!?」

「そうだったらどうする、アキラちゃん」

井口が噛んでいたガムを聡の顔にむけて吐き捨てた。

聡は顔を反射的にそむけた。唾液にまみれたガムはサナギのように聡の右頬にへばりついた。

そしてドロリと落ちていった。

それでも聡は井口らに顔だけでも向き直った。

「あなたたち、こんなことして、どうなるかわかってるの!」

すると瑞樹が「うるさいなあ。早くむいちゃえばァ」。

その声を合図に腕をつかんでいた男子が聡の上着を引っ張った。

「あっ!ダメ!何する……」

聡の抵抗も空しく、もともといっぱいいっぱいで止まっていた上着のボタンが次々に飛びちり、

聡の上半身を守るのは頼りない水色のレースのランジェリーだけになってしまった。

ヤバイ。どうしよう。

「ヤバイよ。これ。」

聡の心の中と奇しくも同じ台詞を見守る男子生徒がひゃっひゃっひゃと笑った。

もちろんこの場合は、ピンチである、というほうの意味ではない。

下着のみとなった聡の白い上半身の豊かさが欲情するほどだ、という意味である。

それでも聡は大声で叫ぶ。

「誰かァ!誰か!来てください!誰かー!!」

「うるせえよ。誰もこねえんだよ。ばーか」

この視聴覚室は校舎のはずれにあるのだ。

井口はバタフライナイフを取り出して、その刃を聡の顔の前で音をたててかざした。

頬ぎりぎりの……産毛まで近づける。

「!」

―――切られる!

聡はおもわず目を閉じた。

しかし、刃をあてられたのは、ブラジャーの前の一番細い部分だった。

刃先で引っ張られて、あっけなくそれはちぎれてしまった。

聡の胸の先端を守るものはなくなった。真ん中に拘束されていた白い柔らかい塊が左右に流れた。

体を水平にしているのにそれは一定のボリュームが残っていた。

不良がいっせいに色めき立った。

裸の上半身をこんな悪童の前でさらしてしまったことに対する、激しい憤りと悔しさで聡は歯を食いしばった。

ガキどもは、聡の裸の上半身を見て、口々に卑猥なことを浴びせ掛けた。

「ちゃんと映ってるのか?瑞樹」

同じように卑猥なことを言っていた井口が、カメラを操る瑞樹に向き直った。

「う…ん。なんかぁ、逆光が激しくて。いまいち」

聡の体の真後ろの窓から、落ちる間際の夕陽の日差しがかなり強く窓から差し込んでいた。

それは、ファインダーの中の不良たちや聡の半裸を金色と黒のコントラストだけにしていた。

「なんだよ」井口は、瑞樹からデジカメを奪ってのぞきこむ。

そのすきにも

「まだまだこれから」

と斜に構えて聡の姿を見下ろして楽しんでいた男子の一人が、かがんで聡に近寄ってきた。

さっき視聴覚室の前で聡のわきにたって耳元に吐息をふきかけた茶髪。ラテン系のバタ臭い顔の奴だ。

奴は聡のほうへ黒い毛がその半分にも生えた手をにゅっと伸ばしてきた。

そのまま裸の肌に手のひらを這わした。胸の柔らかい塊にいきなりふれる。

聡は歯を食いしばった。

手は素肌をなぞりながら臍へ。聡を押さえる男子生徒が待ちわびている。

聡は本当にふるえがきた。

「ふるえてるの?まさか処女じゃないよね」

ラテンはそのまま聡の黒のズボンに手をかけた。

「イヤっ!」

聡は本当の恐怖を感じた。絶対絶命。腰を床に押し付けて、必死で抵抗した。

しかし細い腰は軽々と持ち上げられてしまい、ラテンのひざの上に移動させられた。

ばたつかせた足からローヒールの靴が脱げて、床の遥か彼方へ滑っていった。

遠慮のない毛深い手で、黒のズボンがその下の下着ごとぐいぐいと掴み降ろされていく。
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