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君は僕の太陽、月のように君次第な僕
作:茶山ぴよ



4◆新米教師2


翌日の初授業も同じようなものだった。というより、さらに乱れていた。

席についているのは全体の半数ほどで、あとは好きな場所へ行っている。

女子はおのおの好きな席に固まってだべっているか、一心不乱にメールを打っているか。

男子は後ろのほうの地面に円陣を組んでこれまたダベリ。コンポまで持ち込んでいる。

プレステ、DSに興じるものあり。席を3つ4つつなげて寝る者までいる。

「席についてください」

と聡が教卓の上から促しても、完全に無視。席につくのを待っていると、

「先生、アイツらにかまわないほうがいいですよ」

「授業を始めちゃってください」

とボソッとした声。前のほうの席の一部のマジメな生徒だった。たしかにこの様子では待っていても無駄だろう。

「じゃあ、始めます」

聡は仕方なく今日のページを指定した。そのページを開くリアクションがあったのはクラスの3分の1ぐらいだった。

英語のCDを流す。

−−それにしても試験は半分以上中学の復習といってたけど、授業は高校2年の標準的なものをやるのね。

と不思議に思った。

「では今のところを、それじゃ、32番の真田由紀子さん、読んで訳してください」

幸い真田由紀子はまじめそうな生徒だ。小柄で小太り、垂れ目が愛らしい。指されて、あわてて起立する。

「え、えーと……」沈黙が続く。

「1フレーズでもいいのよ」

「……わかりません」

本当にわからないらしい。俯いたニキビだらけの丸い顔が真っ赤になっている。目もせつなそうに伏せて泣き出しそうだ。

「じゃあ、分かる人」

聡は、あわてて手をあげて解答者を募ったが誰も名乗り出るものはいない。

「先生、先生」

と、小さな声。声は一番前の丸刈りの少年だ。野球少年だろうか。それにしては日に焼けていない。

「いつもは、先生のほうで読んで訳してくれるんです。僕らはそれを写す感じで」

「ああ、そう」

中学レベルが大半の生徒に高校2年の内容を予習して来いといっても無理なのかもしれない。聡は納得して

「じゃあ読んで訳しまーす」

その聡の英語朗読に、騒がしい教室が一瞬静かになった。前のほうのマジメな生徒もポッカーンと口を開けている。

−−え?何?

ヒュー、と口笛が鳴った。

「ガイジンみたいじゃん!」

「すっごーい!」

「カッケー!」

「もっとゆっくり読まないとわかりませーん!」

確かに聡は、子供時代を外国で暮らしたこともあるし、留学経験もある。英語はたしかに流暢だが……。

生徒たちは机に乗っけた足をバタバタさせたり、大騒ぎになってしまった。

そこへ。ガラリ。開いた廊下の窓から多美先生が。

とたんにシーンと静まり、生徒はサワサワと席へ戻った。

すべての生徒が席につくのを見届けて、多美先生は去っていった。




騒ぐ生徒、押さえられない聡。うるささに廊下から窓をあけるターミネーター。

2年2組だけでなく、1年生などもほぼ同じだった。

聡は他の教師はどうなんだろうと、空き時間に窓から授業をのぞいてみた。

しかし、聡の授業ほどひどくはなく、少なくとも生徒は自分の席についていたことに、聡はショックを受けた。

中には教科書の下で、漫画を読んだり、居眠りしたり、早弁したりしているものもいたが、静かにしていて授業妨害などはしない。

−−私、やっぱり舐められているんだ。

聡はショックを受けた。





そして、台風の今朝に戻る。

昨日から、予報されていた台風は、予報円の一番最悪のコースを通ったらしく、風雨はかなり強かった。

聡は頭痛さえ感じたが、それが低気圧によるものなのか、精神的なところなのかよくわからない。

−−今日はちゃんとしなくちゃ。

聡は自分にゲキを飛ばしながら、強い風雨の中、びしょぬれになりながら学校へやってきたのだ。

学校につけたのは教師のうち半数ぐらいらしく、職員室は閑散としていた。

「多美先生、お休みだそうです。土砂崩れで道路が埋まったんだとか」

多美先生以外にも、職員で有給休暇をとる人が多いのも、この天気なら仕方がないだろう。

隣の席の権藤先生によると、生徒のほうは、列車が止まるとか道が埋まるとか、

不可抗力がない限り、天気を理由の欠席はダメらしい。つまりポイントを引かれるということだ。

その言葉を裏付けるように、HR時に出欠確認すると、2年2組も欠席者数はほんの数名だけで、

台風が通過して小雨になった昼には、ほとんど出てきていた。

今日は、聡の英語は午後・4時間目だった。

ちゃんとしなくちゃ、という聡の意に反して、生徒らは昨日以上に騒がしかった。

教師の休みが多いせいで廊下の巡回が手薄なのを彼らは知っているのだ。

隣のクラスの教師が騒ぎに気づけば……と思ったが、体育で教室はカラッポのようだった。

教室は群れるハエの大群の中に頭をつっこんだような、ワンワンとした騒ぎになった。

聡の朗読も訳も何も聞こえたものじゃない。

ついに。

聡は意を決して後ろで円陣を組んでいる一番騒がしい男子のほうにつかつか歩いていった。

持ち込んだコンポからヒップホップ系の音楽がズンズンとリズムを刻んでいる。

聡はそれを止めた。

男子の群れは仁王立ちで立っている聡を見上げた。

「席についてください」

できるだけ静かな調子で言った。

聡の足元にいた男子がだるそうに立ち上がった。それはにょきっと生えるようだった。

いつのまにか聡を見下ろしていた。

身長165センチの聡より頭1つ分も背が高いように見えた。

顔面が、また高校生とは思えない。

細く整えた眉じりには輪っかのピアスがぶらさがっている。鼻にも金色の丸いピアス。

下唇の下に大きなニキビがある、と思ったら、それも丸いピアスだった。

髪は金髪のマカロニ。根元が汚らしく黒い。

細い目でも博史とは違う。腫れぼったい瞼の下で般若の目を押しつぶしたような目が非論理的な眼光を放っている。

盛り場にいるヤバイ兄さんそのものの姿に、聡はふるえを堪えた。

いつのまにかクラス中が、シーンとして、なりゆきを見守っている。

「犯すぞぉ」

間延びした口調だった。足元にいる仲間の男子が下品に笑う。

これでひるむわけにはいかない聡は怒鳴った。

「静かにしなさい!……これ以上、騒がしくしたら、授業妨害で100ポイントずつ引きますよ!」

フン、と鼻を鳴らして、顔面ピアス男はまた座り込んだ。

聡などそこにいないように、コンポのスイッチを入れ、またもとどおり、だべり始めた。

他の生徒は、少しだけ静かになったので、授業を再開した。

前のほうの生徒は心配そうに聡を見ていた。

−−−これ以上、のさばらせるわけにはいかない

聡は職員室へ戻ると、彼らのポイントを本当に100ポイントずつ減じた。

でもそれは、本当にマズイことだったのだ……。







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