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29◆教師と生徒の恋3

聡は将のローバーミニが遠ざかっていくのを見送ったあと、習慣的に見た郵便受けの中に、

ダイレクトメールに混じって、厚みがある郵便物を聡は見つけた。

取り出したそれは、水銀灯の光の中で『国際郵便』とあった。差出人は原田博史だった。

聡は地面が揺れるようなショックを感じた。

英語のスタンプが押された茶色の包装紙に包まれたそれは、郵便受けに入るぎりぎりの厚みで、

配達員が無理やり押し込んだらしく、すこし擦れていた。

急いで階段をかけあがり、部屋へあがるなり包みを開けてみる。

すると箱の中に、花束の写真のカードとさらに小さな箱が入っていた。



聡へ

誕生日おめでとう。

少し早いけど、僕の気持ちです。

本当は手渡したかったけれど、善は急げということで。

いちおう、給料3ヶ月分です(←古い?)

気に入ってくれるかなあ……。

僕は似合うと思うんだけど。


PS.
クリスマスには日本に帰れそうです。

そのときに重要な話があります。

聡にぜひ協力してほしいんだ。


博史


小さな箱をあけると、紺のびろうどに覆われたリングケースが入っていた。

それをあけると、シルクの中に埋め込まれたダイヤモンド。石はキラリと光って聡を見つめた。

小さな石は、蛍光灯の安っぽい光をも鋭く反射させ、聡の揺れる心を射抜いてカラッポにした。

聡はしばし、美しいダイヤのエンゲージリングを箱に入ったまま見入った。

あまりに豪華なので、指にはめていいか迷ったのだが、意を決して、取り上げる。

いつ測ったのか、プラチナのリングは聡の薬指のサイズにピッタリだった。

小さな石1つで、豪華に彩られた自分の指を眺めながら、聡はだんだん息が苦しくなってきた。

薬指に重みを感じて、そっとそれをはずした。

元通りにおさめて、ローテーブルの上に置く。

給料3ヶ月分のダイヤをあしらったエンゲージリング。それをもらって喜ばない婚約者はいないだろう。

ダイヤは、確かに聡の気持ちを無にするほど美しかった。

しかしそれ以上に、ダイヤに託された「エンゲージ=約束」の重みが聡にのしかかってきていた。

それに聡が協力しなくてはならない、重要な話とは何だろう。

最近、博史は仕事で忙しいのか、メールも疎遠になっている。

わざわざ婚約指輪に添えたカードに書いた重要なこと、とは結婚がらみのことだろうか。

聡はローテーブルの上に頬杖をついて、もう一度ダイヤを眺めた。

−−−どうしよう。

ダイヤは無垢な光をキラキラと聡の瞳に返した。

ダイヤよりきらめくものに惹かれている聡。引き返せる自信はなく、聡は途方にくれるしかなかった。


   ◇

「もう一度、やり直せない?」

すがりついた瑞樹に将は沈黙した。

「なんでもするから、ここに置いて。お願い」

瑞樹は将の胸に顔をうずめた。将はしばらくそのまま瑞樹を受け止めていた。

が、しばらくしてそっと瑞樹の肩に手を置くと、自分の胸から引き離した。

「ごめん。無理なんだ」

「どうして……?あたしたち、ずっとうまくやってたじゃない」

瑞樹は将の顔に両手を伸ばして包み込むと、自分の顔に近づけようとした。

将はその手を振り払うと、

「俺たちは、もう何もないよ」とそっぽを向いた。

何もない、と言われた瑞樹は、カッとなって

「さんざんヤッたくせに!」と叫んだ。

しかし、将は無言のままだ。

瑞樹は、横を向いたまま何もいわない将の正面にまわると、

「お願い。将が嫌なところはなおすから……。ここに置いて」

と、再びひざまづいて将にすがりついて泣いた。

将は石のように動かなかった。そのとき洗濯乾燥機の終了音が張り詰めた空気に穴をあけた。

「……ごめん。ダメなんだ」

「それって、あのキョーシのことが好きだから?」

瑞樹は涙をためた大きな瞳で将を見上げた。

うるんでいるものの、黒目をふちどる白目は恨みに燃えていて、将は少し怖くなった。

「関係ねえよ」

とだけ答えて、「制服、できたらしいよ」とバスルームを顎でしゃくった。

瑞樹は不服そうに、バスルームへ戻る。しばらくドライヤーの音が聞こえていたが、着替えて戻ってきた。

制服姿の瑞樹を見ると、「送っていくよ」と立ち上がった。

瑞樹はだまってうなだれた。

ローバーミニの中で二人は無言だった。

将は本当は、家に帰っても大丈夫なのか、訊きたかった。

しかし、あれほど将の家にいたがった瑞樹を見ればそれは一目瞭然だろう。

それを拒んだ自分。

だけど、将の胸の中には聡が住んでいる。

いくら可哀想といっても瑞樹を部屋に置くわけにはいかなかった。

「……誰か友達んちにでも送っていこうか」

将はそれだけ訊いた。が瑞樹は首をふった。

「最近、なんとかうまくやってるから……大丈夫」

そういったわりには、

「○○駅でいい」

と降りたのは瑞樹の家から、まだ5駅も離れた駅だった。

「ここでいいの?」

瑞樹はうなづいた。

「……ありがとう。じゃね」

それだけ言ってミニを降りるとドアを閉めた。

将は交通量の多い駅前だけに運転席を離れるわけにいかなかったが、

瑞樹の青白くなった頬に、まっすぐな黒髪がかかるのを見ると、急に罪悪感に捕われた。

「……ごめん」

将は窓の向こうにたたずむ瑞樹にせめての謝罪をする。

瑞樹は何もいわなかった。ただ、今日助けたときのような呆けた顔をしていた。

将は少し心にひっかかりを残して、車を発進させた。

瑞樹はしばらく歩道に立ち尽くしていた。

今夜から冷え込みが厳しくなるらしい。吹いてきた木枯らしにふるえが来た。

黒髪をなびかせて駅へあがると、瑞樹は家とは反対方向のきっぷを買った。

そして携帯をかける。


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