100のお題:あけび
悪友の平井がキャンプの土産だ、といつもの店でカバンから出してきた。
「なんだこれ」
あざやかな紫色ののっぺりとした果物のような形。ナスではなかろうし、山の中で穫れるものでもないだろう。
「土産だよ土産。知らないか? ほら。あけび」
「ああ」
名前だけは知っている。見たこともなければ食べたこともないが。
「いやー、運がよくてさぁ、たわわに実ってる所見つけてさぁ。おまえ、食べたことないだろうと思って」
「ああ、ありがとう」
しかし、食べ方がわからない。そのまま食べるのだろうか。
「ナイフで割って、中のゼリー状の部分を食べるといいらしい」
外側は食べられないのか。一応あとで検索してみよう。
「へえ、珍しいねえ。こんな都会でそれを見られるとは」
店の大将がカウンター越しに声をかけてきた。興味を持ったらしい。
「田舎の方じゃこれ、果肉部分を漬物にしたり炒めたりするんだよね」
「えっ、これ、甘いよ?」
「ああ、もちろんゼリー状の部分はそのまま食べたほうが美味いですよ。でも果肉部分も十分食べられるんですよ。お客さん、よかったら何か作ってみましょうか。ちょうどひき肉もありますし」
「へー。なあ、作ってもらおうか」
構わない、と俺は応じる。
程なくして、肉味噌詰めになったあけびが供された。
「ゼリー部分は冷やしておきますから、後でデザートとしてお出ししますね」
あけびはまさに火を入れたナスのごとく色がかわっている。
「おー、今度芽衣子に作ってもらおう。芽衣子は料理がうまくてさぁ……」
と隣ではいつもの惚気話が始まっている。
いつもの平井だな、と思いながら、肉味噌詰めのあけびをいただくのであった。