第39章:蘭と晶子
「どうぞ」
玄関のドアを開けると、蘭は、晶子を居間に招きいれた。
ジュースを入れたコップを晶子の前に置くと、蘭は、向かいに座った。
晶子は、改めて見た蘭の顔を綺麗だと思った。
優しく見つめてくる瞳の色は、青く深い。
「それで、私に話って、何?」
蘭は、穏やかな笑みを浮かべ、晶子を見た。
「この前、パーティーの後、私、ここで蘭さんがコナン君と灰原さんと話しているの、ちょっとだけ、聞いちゃったんです」
「え!?」
蘭の顔に驚きの色が浮かぶ。その表情の変化の大きさに、晶子も驚いた。
「全部、聞いたの?」
「いえ・・・」
晶子は、そこで口籠ってしまった。
俯いて、手を膝の上に置いている。
蘭は、少しホッとして、晶子の次の言葉を待った。
「私、知りたいんです・・・」
しばらくの後、晶子は、少し顔を上げて言った。
「何を知りたいの?」
蘭は、表情を緩め、優しく訊いた。
「私、コナン君のこと、すごく気になるんです・・・自分でも不思議なんですけど・・・たぶん、前に誘拐されたとき、助けてくれたからだとは思うんですけど・・・」
少し戸惑った表情が見える晶子は、やっと、蘭の顔を見た。
「中学生の私が、小学生のコナン君のことが気になるなんて、ヘンだと自分でも思います・・・でも、コナン君、大人びているし・・・」
蘭は、自分の言葉を待ち、顔を見つめてくる晶子に微笑んだ。
その顔に見惚れた晶子だが、決心したように蘭を見つめ直し、言葉を続けた。
「失踪した工藤新一さん、蘭さんの幼馴染だそうですね」
「え?・・・ええ・・・でも、どうして、急に新一のことなんか・・・」
「似てるんです・・・工藤さんとコナン君・・・インターネットで工藤さんの写真のある記事を見ました。一目見て、コナン君と似てると思いました」
蘭の表情が少し硬くなった。
晶子は、そう思った。
「コナン君と新一は、親戚だもの・・・似ていても不思議はないよ」
蘭は、努めて冷静に言った。
「でも、昨日、蘭さん、新一って、言ってましたよね。あれって、誰かに呼びかける感じだった・・・でも、ここに工藤さんは居なかった・・・もしかして、蘭さんが新一と呼んでいたのは、コナン君のことじゃないですか?」
蘭は、フッと笑った。その笑顔は、硬い。
「そんなバカな・・・コナン君はコナン君だよ・・・だって、歳も違うでしょ・・・確かに、コナン君は、新一に似てるけど、コナン君が新一なわけ、ないでしょ」
「じゃ、なぜ、蘭さんは、新一と呼んでたんですか?それに、コナン君が蘭さんを呼びすてにしてたのも、ヘンです」
「別に、呼んでなんかないよ。ただ、新一の話が出ただけで、コナン君が私を呼び捨てにしたのも、新一の言った言葉を真似ただけ・・・」
蘭は、きつい表情になった。そして、晶子の目をまっすぐに見つめる。
その鋭い目に晶子は、たじろいだ。
しばらく、そのまま晶子を見つめていた蘭だが、フッと優しい笑みを浮かべる。
「ね、晶子ちゃん。他人の話を立ち聞きなんて、よくないよ・・・人には、それぞれ、他人には、聞かれたくないこと、知られたくないことがあるわ・・・晶子ちゃんにもあるでしょ?」
蘭の顔は笑っているが、瞳には、強い光があった。
「コナン君も、哀ちゃんも、確かに大人びてるし、頭もいい。でもね、あの2人は、辛い想い、苦しい想いもたくさんしてきたの・・・普通の大人よりも、ね」
晶子には、笑っている蘭の表情が寂しそうに映る。
「だから、あの2人は、小学生でも私なんかより、大人びてるのかもしれない・・・」
晶子には、もう何も言えなくなった。
*****
「そうか・・・ごめんな、蘭」
『新一・・・これからも、こんなこと、あると思う。何年かすれば、新一に瓜二つなあなたを、工藤新一を知る人が見かけたら、どう思うか・・・』
「ああ、そだな・・・」
『でも、哀ちゃんのためにも、あなたは、隠し通すのね・・・工藤新一という本当の顔を・・・』
「ああ・・・おめえにも、悪いと思ってる・・・一緒に嘘つかせて・・・」
『いいの・・・そのことは、気にしないで・・・じゃ、博士と哀ちゃんによろしく』
「ああ」
コナンは、晶子が自分達のことを不審に思い、訪ねて来たことを蘭から電話で聞いた。
(蘭、ホント、すまねえ・・・)
阿笠邸。
コナンは、フッと息を吐くと、ソファに腰掛けた。
「どうしたの?」
声のする方にコナンが顔を向けると、地下室からの階段を上がったところに、哀が立っている。
「いや、別に・・・」
コナンは、立ち上がった。その傍に、哀が歩いてくる。
「そう・・・なら、いいけど・・・」
哀の頭をポンと軽く叩くと、コナンは、笑顔を見せた。
「な、晩飯作るんだろ?手伝おうか?」
「あら、珍しいわね・・・明日は、雨かしら?」
半目で言う哀を睨むコナン。
その顔に哀は、クスっと笑った。
「じゃ、お願い」
そう言ってキッチンの方へ足を向けた哀の背中に、コナンは呟いた。
(守ってやっから・・・そして、幸せになろう)
「え?」
コナンの視線に何かを感じ、哀が振り返った。
コナンは、少し慌てた。
「あ・・・いや、なんでもねえよ・・・」
そう言って、コナンは、哀の背中に手を当て、一緒にキッチンへ入っていった。
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